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「日本苗字アトラス」で苗字分布を眺める


2025年10月にリリースされた「日本苗字アトラスは、地図上に苗字の分布を視覚的に表示することで、苗字の分布を簡単に確認できるサービスです。
今回は、日本苗字アトラスの機能を確認しながら、各地の苗字の分布について見ていきます。

日本苗字アトラス

日本には数多くの苗字(名字、姓)が存在し、その分布は地域ごとに偏って分布しています。
Webサービス「日本苗字アトラス」を使うことで、苗字の分布を地図上で簡単に確認できます。
日本苗字アトラスでは、2007年の電子電話帳データをベースに作成され、都道府県別、市町村別、大字町丁目別の3段階で苗字の分布を確認できます。
市町村別では、平成の大合併により現在では残っていない旧町単位で確認できる点が便利です。
検索機能もあるため、ある苗字がどのように分布しているかも確認できます。
注意点としては、電話帳データをベースに作成しているため、全世帯をカバーしているわけではないという点です。

今回は、日本苗字アトラスを使って日本各地の苗字の分布をみていきます。

都道府県別の苗字分布

都道府県別の最多性一覧。表示外の沖縄県の最多性は「比嘉」である。黄土色ほど苗字の集中度が高い(=特定の苗字が多い)一方、青色ほど苗字の集中度が低い。おおむね東日本(特に北海道・東北)ほど全国で人数が多い苗字のシェアが高いのに対し、西日本では苗字が分散して全国ではそこまで人数が多くない姓が最多性となる場合がある(香川の大西姓や宮崎の黒木姓)。出典:日本苗字アトラス 2025/10/25閲覧 

日本でよく見かける苗字としては「佐藤」「鈴木」といった苗字が代表的ですが、必ずしも日本各地で最多であるわけではありません。

東日本(特に北海道・東北)では苗字の集中度が高く、全国1位の佐藤姓(180万人)が最多性となる県が多いです。
関東・東海では全国2位の鈴木姓(174万人)が目立ちます。
東日本で異色なのは青森県であり、全国75位の工藤姓(20万人)が最多性です。

一方、西日本は全国1位の佐藤姓が最多性となる県は少なく、全国4位の田中姓(129万人)、全国7位の山本姓(101万人)が目立ちます。
また、佐賀県と長崎県の2県で全国14位の山口姓(62万人)が最多性となっているのが特徴的です。
珍しい苗字が最多性となる県も見られ、香川県では全国104位の大西姓(16万人)、宮崎県では全国332位の黒木姓(62,000人)、沖縄県では全国351位の比嘉姓(57,000人)が最多性となっています。
歴史的背景が異なる沖縄県は別としても、西日本は九州を中心に特徴的な苗字分布が目立ちます。

市町村別の苗字分布

ここからは、市町村単位で苗字分布を細かく見ていきます。
都道府県単位では人口規模が大きく苗字分布の偏りがある程度集約されるため、全国順位が最も低い最多性でも351位の比嘉姓でした。
市町村別に細分化してみることで、より特徴的な苗字分布を探していきます。

東北:佐藤姓が多いが北東北は違う姓も目立つ

北東北の市町村別の最多性。東北地方では、南東北を中心に全国1位の佐藤姓が多い。一方で、青森県では工藤姓、秋田・岩手では高橋姓と佐々木姓も目立つ。出典:日本苗字アトラス 2025/10/25閲覧

東北地方では全国1位の佐藤姓が多い傾向ですが、市町村別に見ると違う傾向も見えてきます。

南東北では市町村単位でも佐藤姓が多いですが、北東北では違います。
秋田と岩手では全国3位の高橋姓(136万人)と全国13位の佐々木姓(64万人)が目立ち、青森県では県全体で最多性である工藤姓が目立ちます。
北海道・東北に多い全国25位の阿部姓(42万人)が目立ち、岩手県に多い全国114位の菊池姓(15万人)や青森県に集中する全国302位の三上姓(70,000人)も特徴的です。

青森県では東部を中心に珍しい苗字が最多性となる市町村もあり、平内町では全国1,227位の船橋姓(13,800人)、旧上北町では全国2,338位の蛯名姓(6,100人)が多いです。
小規模自治体では比較的マイナーな姓が最多姓である例も見られ、東通村では全国4,036位の伊勢田姓(2,900人)、旧天間林村では全国5,534位の天間姓(1,800人)が最多性です。
これらはいずれも青森県に集中分布する苗字です。

東北地方では、全体的に苗字の集中度が高い傾向です(南部地方~下北半島は集中度が低い)。

ちなみに、北海道は東北以上に苗字の集中度が高く、大半の市町村で全国1位の佐藤姓が最多性です。
これは、佐藤姓が多い東北地方からの移住者から構成された上に、移民した少数の人々の苗字が広まったため、他地方よりも苗字のバリエーション少ないためです。

九州:全国順位と異なる傾向

九州南部の市町村別の最多性。宮崎市の苗字ランキング選択している。宮崎市では最多性が「日高」であり、「長友」「黒木」と続く。宮崎県では上位を占める苗字も日本全体とは大きく異なる。出典:日本苗字アトラス 2025/10/26閲覧

西日本では全体的に苗字の集中度が低く、最多性も東日本とは異なる傾向が見られます。

特に九州地方(特に宮崎)では、全国順位がそこまで高くない苗字が最多性となる市町村も多いです。
中でも宮崎県周辺は最多性が他とは異なるものが多く、都市であっても特徴的な苗字分布になっています。
県全体では全国332位の黒木姓(62,000人)、県庁所在地の宮崎市では全国363位の日高姓(54,000人)、北部の延岡市では全国324位の甲斐姓(63,000人)です。

宮崎市の上位を見ると、2位は全国1,086位の長友姓(16,000人)、3位は県全体の最多性である黒木姓です。
他にも珍しい苗字としては、5位の川越姓(全国903位、20,000人)、7位の岩切姓(全国1,377位、12,000人)などが上位に来ています。
県庁所在地という都市部でも上位に1,000位台の苗字が多数来るのは珍しいです。

また、鹿児島県周辺では「本」の代わりに「元」を使った苗字が多く、宮崎県南部の三股町では山元姓(全国800位、23,000人)が最多性であり、鹿児島県北部の溝辺町では岩元姓(全国1,339位、12,000人)が最多性です。

町丁目別の苗字分布

ここからは、市区町村別をさらに細分化した町丁目別のスケールで苗字の分布を見ていきます。
町丁目別ではランキングは存在せず、最多性と苗字の集中度(総世帯数と苗字の種類)を確認できます。
同じ市町村内でも地域によって分布に違いがあるため、隣接地域との比較もしやすく、地域ごとの特徴をつかみやすいです。

山梨県望月町:上位2つの苗字で過半数

赤石山脈(南アルプス)周辺の町丁目別の最多性分布。山梨県早川町奈良田を選択している。右側のランキングでは早川町全体の苗字ランキング(世帯数ベース)である。早川町(734世帯)では最多性が「望月」が314世帯(42%)であり、2位の「深沢」の83世帯(11%)と合わせて過半数を占め、3位の「佐野」で16世帯まで減り、特定の苗字が高い割合を占める。出典:日本苗字アトラス 2025/10/26閲覧

特に人口が少ない地域では、同じ苗字が集中する地域もあります。
山梨県南西部の早川町(734世帯)では、全国163位の望月姓が最多性であり、全体の42%を占めます。2位の深沢姓も83世帯(11%)を占め、上位2つだけで過半数を占めます。
このように特定の苗字に偏った分布をしているため、町最北部の奈良田では、18世帯で苗字が2種類しか存在しない極端な状態になっています。

奄美大島:特徴的な1文字姓

奄美大島中部の町丁目別の最多性分布。画面表示中央北部を占める旧名瀬市のランキングを右側に表示している。出典:日本苗字アトラス 2025/10/26閲覧

奄美大島では、他では見られない漢字1文字の特徴的な苗字が多いです。
上図では右側に奄美大島の中心である旧名瀬市の苗字ランキングを表示していますが、2位の姓、7位の姓、16位の姓など特徴的な漢字1文字姓が上位に出現しています。

町丁目別の最多性でも、全国6,583位の姓(めぐみ、1,400人)や全国7,814位の姓(はじめ、1,100人)など漢字1文字の姓が数多く見られます。
このように、町丁目別の最多性を見ると、地域後の特徴をつかみやすいです。

検索機能

「石破」姓の検索結果。2024-2025年に内閣総理大臣を務めた石破茂氏は鳥取県出身であり、出生地は世帯数最多の旧郡家町(現八頭町)である。石破姓は鳥取県旧郡家町と北隣の鳥取市以外は多い市町村でも2世帯以下であり、分布が非常に偏っている。出典:日本苗字アトラス 2025/10/26閲覧

日本苗字アトラスでは、最多性やランキングだけではなく、検索機能を使って特定の苗字の分布を調べることもできます。
上図は例として石破姓の分布を表示したものです。
地図は都道府県別で表示しており、拡大すると市区町村別の人数が分かります(グレーアウトは世帯数ゼロ)。
石破姓は鳥取県東部(旧郡家町と鳥取市)に集中分布していることが分かります。

「園」で終わる苗字の検索結果(世帯数比)。鹿児島県周辺では中園や松園のように園で終わる苗字が多く見られる(世帯数比:2.99%)。このことは、検索結果で「で終わる」を選択することで確認できる。出典:日本苗字アトラス 2025/10/26閲覧

一致検索だけではなく、特定の文字列で終わる/始まる/含むという条件で検索できます。
この場合、条件を満たす全ての苗字の合計シェア・世帯数を表示します。

上図は、「園」で終わる苗字を検索した結果です。
鹿児島県周辺に「園」で終わる苗字が多いことがわかります。

以上のように、日本苗字アトラスを使うことで苗字の分布を簡単に「眺める」ことができます。

参考文献

日本苗字アトラス 2025/10/25閲覧
日本全国に散らばる苗字の分布を地図で確認できる「日本苗字アトラス」が面白い 窓の杜 2025/10/25閲覧
全国名字ランキング 名字由来net 2025/10/25閲覧

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