地理情報

住居表示における街区方式と道路方式

2023年3月25日

ここでは、地番に代わる住所の書き方である「住居表示」における2つの方式(街区方式と道路方式)について紹介します。
日本では街区方式が一般的ですが、ごく少数見られる道路方式についても掘り下げます。

住居表示自体や地番との関係については、次の記事でまとめています。

参考住居表示とは何か(地番との違い・住居表示に伴う区画整理)

ここでは、日本の住所の表記のルールである住居表示についてまとめます。 日本では明治以降、不動産登記用の「地番」を使って住所を表記されていました。 しかし、長い年月を経て道路の位置や建物の並びと一致しな ...

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住居表示の方法

日本の住所の表記方法の一つとして「住居表示」があります。
住所表示や地番との関係については前回の記事でまとめているので、ここでは住所表示の方法について説明します。

住居表示に関して定めた「住居表示に関する法律(昭和37年法律第119号)」の第二条では、住居表示の方法として「街区方式」と「道路方式」の2つが定められています。

街区方式は、道路や鉄道、河川などを境界として区画を区切る方式です。
道路方式は、道路に「〇〇通り」といった名前をつけて、通りに面している場所の住所に使う方式です。

日本ではこのどちらかの方式で住居表示を実施することになっていますが、実際には街区方式が圧倒的で、道路方式はごく少数に限られます。

以下では、街区方式と道路方式についてそれぞれまとめます。

住居表示における街区方式(左)と道路方式(右)の模式図。街区方式では、道路や鉄道、河川などで囲われたブロックを単位として区画を作る。一方、道路方式では道路を挟んで細長い区画が作られ、通りの名前が町名として使われる。

街区方式

街区方式は、道路や鉄道、河川など(GISにおけるラインオブジェクト)を境界として区画を区切る方式です。
日本では住居表示実施地区の大部分は街区方式で行われています。

街区方式では町名には「〇〇何丁目」や「〇〇町」などが使われます。
それぞの町は道路や鉄道、河川といったものに囲まれた領域になります。
町はさらに道路などで囲まれた区域に分割され、それぞれに街区番号(1番、2番・・・)を振られます。
各建物には住居番号(1号、2号・・・)が振られ、住所を構成します。

次の地図は、街区方式で住居表示がなされている千葉県浦安市舞浜2丁目のものです。

舞浜2丁目自体が旧江戸川や見明川(みあけがわ)、首都高湾岸線、幹線道路に四方を囲われた区域になっています。
上の地図をさらに拡大すると、1番から39番までの街区に分かれています。
各街区は周囲を道路に囲われた領域になっています。

このように、街区方式では道路などに囲われた領域を単位として町名や街区番号を命名し、住所を構成します。

道路方式

道路方式は、道路に「〇〇通り」といった名前をつけて道路に沿った場所の住所に使う住居表示の方式です。

住所に道路名を使う使う方式は欧米で一般的で、たとえばハリーポッターがダーズリー家と一緒に住んでいた場所は「プリベット通り4番地」です。

日本においては非常に少数派の方式で、山形県東根市や北海道浦河町の一部地域で道路方式が採用されています。
道路方式の例として挙げられるのはこの二つの町がほとんどで、他に存在しないと言われることもあります。
他にも道路方式が採用されている地域が存在するかについては、こちらのページで考察しています。

以下では、東根市と浦河町の道路方式の事例について見ていきます。

山形県東根市

東根市では、JR奥羽本線(山形線)の神町駅の東側に道路方式の町名が存在します。

次の地図は、道路方式で住居表示がなされている山形県東根市板垣中通りのものです。

上の地図を見ると、1本の道路の両側の土地が同じ町名になっています。
住所は次のように表記されます。
・山形県東根市板垣中通り35号

上の地図の縮尺を縮小してみると、近隣にも「若木通り4丁目」のように道路方式で住居表示された地名が集まります。
道路名を使って住所が表記され、かつ住居表示がなされているという珍しい場所です。

この地域は明治初頭や戦後に計画的に入植したため、建物は道路に沿った場所に立ち並び、細長い農地が各家に計画的に割り当てられています。
このように道路に沿って民家が立ち並ぶ列状の集落形態を路村(ろそん)といいます。

路村は道路沿いに建物が集まり、その間は農地になっていることから、道路方式が向いていると思われます。
一方、路村自体が一般的に市街化しておらず人口密度が低い場所なので住居表示がなされているのは珍しいかと思います。
路村という珍しい集落形態をとり、かつ人口密度が低い路村にもかかわらず住居表示がなされているという点で東根市は希少です。

同じ路村でも、三富新田(埼玉県三芳町~所沢市)のように住居表示がなされていない場所は、地番で住所が表記されるので道路方式にはなりません。
例:埼玉県入間郡三芳町上富1279番地3(旧島田家住宅)

北海道浦河町

東根市と並んで道路方式が採用されている町として取り上げられる事があるのが浦河町です。
浦河町では、以下の町名が道路方式と考えられます(カッコ内は住所内の代表的な施設)。
・大通(浦河神社)
・昌平町東通(日本基督教団浦河教会)
・昌平町駅通り(妙龍寺)
・栄丘東通(北海道日高振興局)
・栄丘西通(立正佼成会 浦河道場)

上記の中で最も町域が細長いのは「大通」です。
大通を拡大したのが次の地図です。

上の地図で確認できるように、大通(国道235号線~336号線)に反って1丁目から5丁目まで区域が定められています。
国道の番号が変わるのは、通りの途中で国道の起終点があるためで、道路としては一本道です。

住所の書き方としても「浦河町大通2丁目29(浦河神社)」となり、東根市と同様の書き方です。

一方で浦河町では道路方式が採用されている町名は全て中心市街地に位置し、路村が広がる地域である東根市の場合とは趣が異なります。

また、中心市街地全体が道路方式で住居表示されているわけではありません。
市街地の中に街区方式と道路方式の町名が混在しています。
たとえば、浦河町役場の住所は「浦河町築地1丁目3番1号」であり、区域も道路で区切られる街区方式の住所です。
この点も、その地域全体に道路方式の町名が広がる東根市とは異なります。

浦河町の場合は、海と丘の間の細長い場所に市街地が成立し、その市街地を横切る国道に沿って建物が並ぶため道路方式が採用されたと考えられます。
埋め立てによって面積が増加したり、開けた場所で面的に建物が広がる場所では街区方式で命名し、一本道の場所は道路方式で命名されています。

その他の事例

住居表示における道路方式の事例は、東根市と浦河町が取り上げられることがほとんどです。
しかし、通りの名前が住所に使われている事例は他にもあります。
次のページでは、北海道と京都の事例について紹介し、本当に道路方式と言えるのかについて考察します。

参考この街は道路方式?(札幌白石・京都・北海道の条丁目制)

住居表示の方法の一つに道路方式(土地が面している通りの名前を住所に使う)があります。 道路方式が採用されている事例は非常に少ないです。 前回(街区方式と道路方式について紹介)は、道路方式として取り上げ ...

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参考文献

住居表示 ウィキペディア 2023/3/18閲覧
住居表示に関する法律(昭和三十七年法律第百十九号) e-Gov法令検索 2023/3/18閲覧
「通り名で道案内」のねらい 国土交通省 2023/3/18閲覧
街区方式による住居表示の実施基準(改正昭和60年7月 3日自治省告示第125号) 鈴鹿市役所 2023/3/18閲覧
丁目 ウィキペディア 2023/3/19閲覧
路村(ろそん)とは 日本大百科全書(ニッポニカ)  コトバンク 2023/3/19閲覧
東根市編「東根市史 通史篇 下巻」 東根市 (2002)

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