地理情報

住居表示とは何か(地番との違い・住居表示に伴う区画整理)

2023年3月20日

ここでは、日本の住所の表記のルールである住居表示についてまとめます。

日本では明治以降、不動産登記用の「地番」を使って住所を表記されていました。
しかし、長い年月を経て道路の位置や建物の並びと一致しない複雑な割り振りになり、住所を見てその場所にたどり着くことが困難な場所が出てました。
そこで、実用上わかりやすい住所として、新たに整理した住所を導入する「住居表示」が行われました。

以下では、住居表示とは何かと地番を住所として使う場合の問題点についてまとめます。
住居表示における方式である街区方式と道路方式については、こちらの記事で取り上げています。

住居表示とは

住居表示とは、住所を見ればその場所の特定が簡単になるように、機械的・合理的に番号を割り振った住所に直す制度です。
住居表示に関する法律(昭和37年法律第119号)」という法律によって定められています。
法律の施行に伴って全国で一律に実施したわけではなく、市区町村ごとに住居表示を新たに実施する地区を決めて順次実施しています。
住居表示は必要に応じて行われるため、法律の施行から60年以上経った今でも住居表示未実施の地区は多数あります。
都市部で住居表示が実施される傾向にあり、人口が希薄な地区では住居表示は進んでいません。

住居表示の目的は、地番による住所から場所を特定することの難しさを解消するためです。
そのため、地番によるでも不便が少ない山間部・農村では実施されない傾向にある他、京都市のように都市部でも住居表示が行われていない場所もあります。

住所の書き方

街区表示板の例(兵庫県神戸市兵庫区新開地五丁目1番)。住居表示実施地区では、住居表示の義務があり、その場所の住所が示された街区表示板が設置される。出典:Wikimedia Commons, ©Katsuo2009 at Japanese Wikipedia, CC BY-SA 3.0, 2023/3/18閲覧

ここでは住居表示地区の住所とと地番での住所の違いについて見ていきます。

まず、地番を住所として使っている住所の例です(住居表示未実施)。
・東京都港区麻布狸穴町63番地

一方、次の住所は住居表示実施済みの例です。
・兵庫県神戸市兵庫区新開地五丁目1番

住居表示実施地区では、○○五丁目1番7号(○○5-1-7)といった形式で住所が表記されます。
〇〇の部分には町名(上記の例では新開地)が入ります。
「○番」の部分は街区符号、「○号」の部分は住居番号といいます。

地番で住所を表記する場合は「〇〇1番地7」というように「番地」を使って住所を表記するのに対し、住所表記実施地区では「番」を使います。
これは住所が地番で書かれているのか否かを区別するためです。
住所表記実施地区であっても、不動産登記には従来からの「地番」を使うため、同じ土地を表す表記が複数存在します。

住所を書く際には、住所表記実施地区では住所表記に従い、住所表記未実施地区では地番を使用します。
例外として、京都市の中心市街地は住所表記未実施であり地番が存在しますが、慣例的に通り名を使って住所を書きます。
例:京都タワーの住所
(地番)京都府京都市下京区東塩小路町721-1
(慣例表記)京都市下京区烏丸通七条下る 東塩小路町 721-1

地番による住所の問題点と住居表示の実施

ここでは、地番を住所として使うことの問題点についてまとめます。
はじめに地番とは何かについてまとめ、地番を住所として使う場合の問題点について解説します。
加えて、住居表示と同時に行われることが多い区画整理についてもふれます。

地番とは

地番とは、土地の権利関係を把握するために土地ごとに割り振られた番号です。
不動産登記で使われていますが、住居表示未実施地区では住所としても使われます。

分筆(左)と合筆(右)の例。分筆では、元の地番に枝番をつけて新しい地番とする。合筆では、一つにまとめる地番のうち最も若い地番を残し、他の地番の登記簿は閉鎖される。

地番は土地に対応する番号なので、土地を分割して売り渡す場合などは番号を分ける必要があります。
例えば、1つの地番で登記される土地を兄弟で相続してそれぞれが家を建てる場合や、原野を開発してニュータウンとして分譲販売する場合などは分割が必要です。
地番を分けることを分筆(ぶんぴつ)といい、元の土地の地番に枝番をつけて新しい地番とします。
たとえば、元の土地が2号であれば、分筆後の新しい地番は2-1号と2-2号になります。
すでに枝番がある土地4-4号をさらに分筆する場合は、4-4号と4-18号のように枝番の数を変更して対応します。

反対に複数の土地を1つの地番にまとめることを合筆(ごうひつ)といいます。
合筆では、合筆する複数の地番のうち一番若い番号を合筆後の地番とします。
たとえば、元の土地が1番地7-2号と8号の土地を合筆する場合、7-2号のほうが番号が若いので、合筆後の地番は7-2号になり、8号の土地の登記簿は閉鎖されて永久欠番となり、再使用されません。

このような分筆・合筆のルールは厳密に土地を特定するためには有効です。
しかし、長い年月を経て合筆や分筆を繰り返すと、地番は飛び飛びになり、枝番が入り組んで複雑になるため、地番から場所を特定することが難しくなります。

地番による住所とその問題点

地番は分筆や合筆を繰り返したり、土地の区画整理が行われると実際の街並みと地番の数字の並びが大きく乖離してしまいます。
さらに、区画整理や宅地開発を実施した際に不動産登記を適切に行わなかったために、同一地番に複数の住宅が立ち並ぶといった場合もあります。
特に人口密集地では地番が複雑なため郵便の誤配が発生したり、宅配便や救急車が目的地にたどり着けないというように生活に大きな支障をきたす場合もあります。

一例として、「岐阜県岐阜市鷺山1769番地2」という住所(地番)には、250世帯が住んでいます。
ここは1棟のマンションではなく、一戸建ての並ぶ住宅地です。
戦後の住宅不足の時代に市営住宅として開発された際に不動産登記が適切に行われなかったため、1つの地番のまま何軒もの家が並ぶ場所になりました。

同じ地番に同じ苗字の人が複数存在するため、住所と苗字の両方を確認しても場所を特定できません。
そのため、岐阜市消防本部では緊急通報(119番)対応のために検索システムを改修したり、通報時には両隣の家の苗字まで確認して場所を特定するといったケースもありました。

この地区で住所表記が導入されたのは2019年2月4日です。
現在では住居表示実施により鷺山南1番~27番に分かれ、住所のみで場所の特定が容易になりました。

同一地番に250世帯が住む岐阜市鷺山1769番地2(赤枠で囲われた範囲全体)。この地番は2019年2月4日に住居表示が実施され、鷺山南1番~27番となった。出典を加工して作成。出典:ⓒOpenStreetMap licenced 2023/3/18閲覧

このように人口密度が高い都市部では地番から場所の特定が難しくなるだけではなく、法律で定められたルールを全員が守るわけではないということも地番を住所として使うことの難しさの原因となります。住居表示はこのような問題を解消するために有効です。

反対に人口が希薄な地域では、建物の密度が低いため地番のままでも問題がないこともあり、住居表示が進んでいません。
住居表示を行う場合でも、建物が密集している住宅地の区画のみ住居表示を実施し、周辺を囲む原野は地番の住所のままにする場合もあります。

住居表示に伴う区画整理

麻布地区の住居表示実施に伴う区画変更(1962年9月30日、東京都港区)。旧来の住所は複雑な境界と多数の町名に分かれて住所から場所がわかりづらいため、機械的・合理的な町名・区画に振り直している。北の麻布永坂町と麻布狸穴町は住民の反対により住居表示未実施。出典:Wikimedia Commons, ©Beagle, CC BY-SA 3.0, 2023/3/18閲覧

住所表記実施の際には、同時に区画整理を行うこともよくあります。
上の地図は、東京都港区麻布地区(現在の麻布十番駅周辺)の住居表示実施に伴う区画変更の説明です。

明治時代から続く地番を住所として使う場合の問題点は、単に合筆や分筆による問題だけではありません。
そもそも町名が細かく区切られて境界も入り組んでいるため、地元民以外はどこに何があるのかわかりづらいという問題もあります。
麻布網代町や麻布一本松町と聞いても、麻布地区のどのあたりにあるのか地理に不案内な人は検討もつきません。

麻布地区の住居表示実施の際には区画整理が行われ、従来の麻布〇〇町から麻布十番○丁目、東麻布○丁目といった機械的でわかりやすい地名に振り直され、境界を見直されました。
一方、麻布永坂町と麻布狸穴町は住民の反対により現在も住居表示未実施です。
この2町では、当時住民だった世界経済調査会理事長の木内信胤や脚本家の松山善三などの著名人住民が、「歴史ある地名を残すべき」という理由で反対運動を行いました。
その結果、現在でも港区で2つしか無い住居表示未実施地域として残っています。

住居表示の方式

住居表示を実施する際の住所の割り振り方は街区方式道路方式の2つがあります。
街区方式は土地を道路などで囲われたブロック(街区)に分けて住所を割り振る方式で、日本では一般です。
一方、道路方式は土地画面する通りの名前を住所に使う方式で、日本では少数派です。
詳細については、次の記事で取り上げています。

参考住居表示における街区方式と道路方式

ここでは、地番に代わる住所の書き方である「住居表示」における2つの方式(街区方式と道路方式)について紹介します。 日本では街区方式が一般的ですが、ごく少数見られる道路方式についても掘り下げます。 住居 ...

続きを見る

参考文献

住居表示 ウィキペディア 2023/3/18閲覧
住居表示(じゅうきょひょうじ)とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/3/18閲覧
住居表示に関する法律(昭和三十七年法律第百十九号) e-Gov法令検索 2023/3/18閲覧
地番 ウィキペディア 2023/3/18閲覧
分筆の場合の地番の付け方 あなたの街の登記測量相談センター 2023/3/18閲覧
合筆の場合の地番の付け方 あなたの街の登記測量相談センター 2023/3/18閲覧
街区方式による住居表示の実施基準(改正昭和60年7月 3日自治省告示第125号) 鈴鹿市役所 2023/3/18閲覧
地図混乱地域 ウィキペディア 2023/3/18閲覧
70年間、250世帯が同じ住所 救急車、ピザーラ問題…やっと解消 withnews 朝日新聞社 2023/3/18閲覧
平成31年2月4日実施 鷺山南地区住居表示 岐阜市 2023/3/18閲覧
住居表示(新築建物の届出・旧町名の相談) 東京都港区 2023/3/18閲覧
麻布永坂町 ウィキペディア 2023/3/18閲覧

-地理情報
-, , , ,