二群間に差があるかを調べるためにｔ検定を行って有意差が認められなかった場合、「差があるとは言えない」という結論になり、「差がない」とは言えません。
二群間に差がないことを統計的に示したい場合には、同等性検定（同等性の検定）を行います。
ここでは、同等性検定について紹介します。
二群比較の検定における「差があるとは言えない」の解釈
ｔ検定などの二群比較の検定では、二群間に差が無いことを帰無仮説として設定し、帰無仮説を棄却して差があることを示します。
もし帰無仮説を棄却できなかった場合、二群間に「差があるとは言えない」という表現がなされます。
これは、二群の分布が一致するという意味ではなく、「差があるとも言えないし、差が無いとも言えない」という意味です。
そのため、帰無仮説を棄却できなかった場合は二群間の関係について何も言えないことになります。
これは、伝統的な統計学の手法が「差があること」の証明に重きが置かれてきたためです。
ｔ検定の両側検定では差があること、片側検定では大きい/小さいことを証明します。
二群間に差がないことを示したい場合は、同等性検定を行う必要があります。
同等性検定については次の項目で解説します。
同等性検定
同等性検定とは、二群間に差がないことを示すために使われる検定手法です。
厳密には、一致することを示すのではなく、二群間の代表値の差（または信頼区間）が一定範囲内に収まることを証明するものです。
同等性検定には検定法と信頼区間法の二つがあります。
検定法(二重片側検定、TOST)
同等性を示す検定手法の一つとして、二重片側検定（TOST, two one-sided test）があります。
このくらいの誤差なら無視できるという範囲（マージン）を設定し、片側検定を二回行って差が設定したマージンの範囲内に収まることを証明する方法です。
ポイントとしては、事前に同等性マージンを設定する必要があります。
同等性マージンとは、二群間の代表値の差がこの範囲内の差であれば二群に差はないと見なせる範囲です。
臨床研究では、同等性の許容範囲は研究を始める前に決め、研究計画書に記載しておくことが義務づけられています。
それ以外の分野であっても、事前に先行研究や業務上の許容範囲を調べておき、検定を実施する前に設定するべきでしょう（恣意的な結果を出さないためにも）。
マージンを決めた後は、二群間の代表値の差の片側検定を２回実施して差がないことを統計的に示します。
概略を図で示します。
二重片側検定(TOST)による同等性検定の概略図。マージンを設定して二群の代表値の差がその範囲内であれば差がないとみなす。①差が上側マージン以下であることを検定、②差が下側マージン以上であることを検定、③①と②両方で有意であれば、差がマージン以下であるため二群に差はないとみなせる。
二重片側検定のやり方は上図のとおりです。
Mをマージンとおいて、二群間の代表値の差が+M以下であることを示す片側検定と-M以上であることを示す片側検定を行っています。
この２回の検定両方で有意な結果が得られた場合、二群間の差が同等性マージンの範囲内に収まります。
このことをもって二群に差がないと見なしています。
信頼区間法
信頼区間法は、二群の代表値について信頼区間の重なりを比較して差がないことを示すアプローチです。
検定法（二重片側検定）は代表値そのものが一定範囲内に収まるかを検定する手法でしたが、信頼区間法では信頼区間が一定範囲内に収まるかを確認します。
信頼区間法でも事前にこのくらいの誤差なら無視できるという範囲（同等性マージン）を設定するのは検定法と同じです。
代表値の差の信頼区間を算出し、その信頼区間が事前設定した同等性マージンの範囲内に収まることをもって二群間に差がないことを示します。
以下に、概略図を示します。
信頼区間法による同等性検定による概略図。信頼区間法では、代表値の差の信頼区間を算出する。信頼区間が事前に設定したマージンの範囲内であれば差がないとみなす。①は信頼区間がマージンの範囲内に収まるため二群間に差がないとみなせる。一方②では信頼区間がマージンの範囲外に出ているため、二群間に差が無いとは言えない。
参考文献
Equivalence test, Wikipedia 2023/4/2閲覧
差がないことを示す検定（同等性検定） フマニタス 解析サービス 2023/4/2閲覧
なぜ同等性検定を使うのか Minitab 2023/4/2閲覧
張方紅、安藤英一「生物学的同等性試験における例数設計：正確，近似と漸近」医療、政府・自治体、大学によるエコシステムの実証 SASユーザー総会2014
福井義高「会計実証分析のための検定手法」青山学院大学大学院国際マネジメント研究科（2012）
同等性検定 (TOST) XLSTAT | Excel統計解析ソフトウェア 2023/4/2閲覧
同等性試験とは 統計分析研究所 株式会社アイスタット 2023/4/2閲覧