台風などの熱帯低気圧は、強風や大雨で大きな災害をもたらすこともある気象現象です。
このページでは、熱帯低気圧について解説し、台風やサイクロンなどの地域ごとの名称、熱帯低気圧がもたらす災害についても説明します。
熱帯低気圧とは

熱帯低気圧とは、熱帯から亜熱帯(熱帯隣接地域)の低緯度地域の海洋上で発生する低気圧です。
海洋上の湿った空気から水蒸気が液体の水に変化(凝結、凝縮)する際に、化学反応により凝縮熱が放出され、周りの空気が暖められます。
このため、気温が高く空気中の飽和水蒸気量が増える夏から秋にかけて、水温が高い緯度10°-15°付近の海洋上で熱帯低気圧が発生します。
発達した熱帯低気圧は大雨や強風などで周辺に災害を引き起こすため、地域ごとに名前がつけられて監視対象となっています(太平洋北西部:台風、太平洋北東部や大西洋:ハリケーン、インド洋:サイクロン)。
温帯や亜寒帯(冷帯)で発生する温帯低気圧(単に低気圧と呼ぶことも多い)と比較すると、熱帯低気圧には以下のような特徴があります。
・等圧線が同心円状(円形)で中心の気圧が低く風が強い
・温帯低気圧でよく見られる前線を伴わない(熱帯低気圧は寒気を伴わず暖気だけで構成)
・主に熱帯~亜熱帯の海洋上で発達し、温帯や陸上では勢力が減衰
・直径は数百km程度で温帯低気圧より小さい
・中心に目(熱帯低気圧の目、台風の目)が存在し、局所的に雨風が弱い

赤道付近で熱帯低気圧が発生しない理由

熱帯低気圧は気温が高く空気中の飽和水蒸気量が増える夏に緯度10°-15°付近の海水温が高い海上で発生し、赤道付近(北緯5°~南緯5°)ではほとんど発生しません。
赤道付近で熱帯低気圧が発生しない理由は、熱帯低気圧の形成に必要な転向力(コリオリの力)が赤道付近ではほとんど働かないためです。
転向力(コリオリの力)は、緯度により地球一周の距離が異なるため、緯度ごとに自転速度(西から東への回転速度)に差があることに起因して発生する力です。
地球一周の距離が長い低緯度側ほど大気の自転速度が速く、地球一周の距離が短い高緯度側ほど大気の自転速度が遅くなります。
赤道から離れた場所では、ある地点の南北で地球の自転速度に差があります(低緯度側ほど速く高緯度側ほど遅い)。
このため、北半球で南側(低緯度側)から吹き込む風は、真北に向かっているにもかかわらず、自転が早すぎて東に流されながら吹きこみます。
反対に北側(高緯度側)から吹き込む風は、真南に向かっているにもかかわらず、自転が遅れて西に流されながら吹きこみます。
このように、地球の自転の力の影響で風が曲がって吹きこむことで熱帯低気圧が形成されます。
しかし、赤道付近では南北の自転速度の差が小さいため、風が曲がって吹きこむ力が働かず、熱帯低気圧は発生しません。
熱帯低気圧の発生地域と名称

発達した熱帯低気圧は暴風・大雨・高潮などで大きな被害をもたらすため、その動きは各国の気象庁によって監視され、海域ごとに名前がつけられています。
北太平洋西部では台風、北大西洋東部やカリブ海~大西洋ではハリケーン、インド洋や南太平洋西部ではサイクロンと呼ばれます。
これらは風速の定義など若干の定義の差はあるものの、海域以外は同じものです。
そのため、たとえば北太平洋を経度180°線を超えて西から東に動く熱帯低気圧は、ハリケーンから台風に変わります。
表 熱帯低気圧の発生海域と進路
| 熱帯低気圧 | 海域 | 主な進路 |
| 台風 | 経度180°以西の北太平洋,南シナ海 | フィリピン諸島付近の太平洋や南シナ海で発生し、日本や中国大陸沿岸部へ襲来。 |
| ハリケーン | 経度180°以東の北太平洋、北大西洋、カリブ海 | 米国の太平洋沿岸、カリブ海、メキシコ湾などで発生し、カリブ海・中米諸国や米国南部を襲来。 |
| サイクロン | インド洋、南太平洋 | 北半球ではアラビア海やベンガル湾で発生し、南アジア沿岸部を襲来。南半球ではインド洋南部で発生してマダガスカルを襲来したり、太平洋南西部で発生しオーストラリア北東部を襲来。 |
熱帯低気圧と災害
表 熱帯低気圧による大規模災害の例
| 熱帯低気圧 | 主な被害地域 | 災害 | 詳細 |
| 洞爺丸台風(1954) | 北海道 | 暴風 | 青函連絡船5隻が沈没。暴風による大規模な火災延焼(岩内大火)。 |
| 伊勢湾台風(1959) | 愛知・三重 | 大雨・高潮による洪水 | 高潮による伊勢湾沿岸の低地の大規模な浸水。紀伊半島での豪雨。 |
| ボーラ・サイクロン(1970) | ベンガル湾周辺(インド・バングラデシュ) | 高潮による洪水 | 東パキスタン(現バングラデシュ)で20-50万人の死者 |
| ハリケーン・カトリーナ(2005) | 米国南部 | 高潮による洪水 | ニューオリンズ(ルイジアナ州)を中心に浸水被害(死者1,836人) |
発達した熱帯低気圧は猛烈な暴風雨を伴い、暴風や大雨、高潮(たかしお)など多くの災害をもたらします。
以下では、台風によって引き起こされる災害について種類別に解説します。
暴風

発達した熱帯低気圧の中心付近は気圧が非常に低く、暴風が吹き荒れます。
このため、転倒や事故で人が負傷したり、建物が損壊したり農作物へ被害を与えるなど社会的な影響が大きくなります。
風速15-20m/sの風が吹くと、歩行者が風にあおられて転倒したり、高速道路での車の運転が困難になります。
さらに、風で飛ばされてきたもので電線が切れて停電したり、最大風速が40m/sを超えると電柱が倒壊することもあります。

台風の中でも雨による被害が少なく暴風による被害が大きい台風を風台風(かぜ-)とよびます。
風台風の例としては、1953年の洞爺丸台風や1991年の台風19号(通称:リンゴ台風)があります。
洞爺丸台風では、暴風・高波により洞爺丸をはじめとする青函連絡船5隻が函館港の沖合でコントロールを失って転覆・沈没し、1,430名が死亡する大惨事となりました。
さらに、北海道後志地方・岩内町では発生した火災が台風による暴風で鎮火できずに延焼し、市街地の8割を焼き尽くす火災が発生しました(岩内大火)。
また、1991年の台風19号は、九州上陸時の中心気圧940hPaという中心気圧が非常に低い台風であり、暴風による被害が大きい台風でした。
特に9月16日というリンゴの収穫前の時期に暴風が吹き荒れたため、青森県では収穫前のリンゴの大部分が落ちてしまい、リンゴの木の倒木・枝折れの被害も多数発生しました。
このため、1991年台風19号は通称としてリンゴ台風と呼ばれています(注:気象庁命名台風ではない)。
大雨

熱帯低気圧は中心付近で上昇気流を発生させるため、暴風だけではなく大雨ももたらします。
大雨により河川が増水して堤防が決壊すると、低地を中心に洪水などの被害が発生します。
台風の中でも風による被害が少なく大雨による被害が大きい台風を雨台風(あめ-)とよびます。
雨台風の例としては、1947年のカスリーン台風、1958年の狩野川台風、2019年の令和元年東日本台風があります。
令和元年東日本台風では、静岡県や関東甲信越・東北地方で記録的な大雨になりました。
長野市(長野県北東部)では、千曲川(ちくま-、信濃川の長野県内呼称)の堤防が決壊し、広範囲で浸水被害が発生しました。
特に、北陸新幹線の車両基地(JR東日本長野新幹線車両センター)が浸水し、10編成もの新幹線車両が廃車となったため北陸新幹線の運行に支障が出るなど広域にわたる影響が発生しました。
高潮

高潮(たかしお)とは、気圧が低い低気圧の接近により、大気が海面を押す圧力(気圧)が弱くなり、海面が上昇して沿岸部が浸水する現象です。
発達した低気圧は気圧が非常に低いため、気圧低下により潮位(海面の高さ)が高くなり、さらに強風により海水が沿岸に引き寄せられて陸地が浸水することで高潮の被害が発生します。
津波は地震による海面変動に起因する短時間(数分~1時間未満)の海面変動であり、海面の上昇と加工が繰り返されます。
一方で高潮は、強い低気圧の影響で海水面が上昇して沿岸部が浸水する現象であり、海水面面が上昇して浸水する時間が長時間(1時間以上)継続し、その後は海水面が低下して収束します。
日本でも東京や名古屋、大阪など沿岸部の低地に都市が広がる場所では、台風による高潮の被害に悩まされてきました。
高潮による被害が顕著な例としては、1959年の伊勢湾台風があります。
伊勢湾台風では、名古屋港で5mの高潮を記録し、伊勢湾沿岸では防潮堤が破損して浸水する被害が多発しました。
また、大阪市も高潮被害に繰り返し悩まされてきました。
大阪市では1934年室戸台風、1950年ジェーン台風、1961年第二室戸台風で沿岸部を中心に大規模な高潮被害にあってきました。
このため、大都市を中心に沿岸部の低地では高潮を防ぐために防潮堤や水門の整備が進められています。

参考
サイクロンが独立のきっかけに
ガンジス川の三角州(ベンガルデルタ)に広がるバングラデシュでは、国土の大部分が人口密度の高い低地であり、サイクロンによりたびたび大きな被害を受けています。
1970年に襲来したボーラ・サイクロンでは、ベンガルデルタの低地を高潮が襲い、東パキスタン(現バングラデシュ)で推定死者20-50万人におよぶ大惨事となりました。
当時のバングラデシュはパキスタンの巨大な飛び地(東パキスタン)でしたが、中央政府のサイクロン被害対応への不満が契機となり、1971年にバングラデシュ独立戦争が勃発し、バングラデシュの独立につながりました。
参考文献
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
熱帯低気圧(ネッタイテイキアツ)とは? コトバンク デジタル大辞泉、日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、最新 地学事典 2026/2/7閲覧
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暴風による災害 気象庁 2026/2/7閲覧
気圧配置 台風に関する用語 気象庁 2026/2/7閲覧
洞爺丸事故 ウィキペディア 2026/2/8閲覧
青函連絡船 ウィキペディア 2026/2/8閲覧
風台風(カゼタイフウ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2026/2/7閲覧
洞爺丸台風 気象庁 2026/2/7閲覧
岩内大火 ウィキペディア 2026/2/7閲覧
平成3年台風第19号 ウィキペディア 2026/2/8閲覧
りんごと気象「りんごと台風」 りんご大学 2026/2/8閲覧
1-3 令和元年東日本台風による災害 内閣府防災情報 2026/2/8閲覧
福地 章「風台風と雨台風」 公益社団法人 日本海難防止協会 2026/2/8閲覧
高潮(コウチョウ)とは? コトバンク 共同通信ニュース用語解説、日本大百科全書(ニッポニカ)、改訂新版 世界大百科事典、百科事典マイペディア 2026/2/7閲覧
伊勢湾台風 昭和34年(1959)9月26日 中部災害アーカイブス 2026/2/8閲覧
太平洋南岸の湾奥にある大都市ゼロメートル地帯で高潮の危険が最も大きい -1934年室戸台風・1950年ジェーン台風・1961年第二室戸台風による大阪の高潮 防災科学技術研究所 自然災害情報室 2026/2/8閲覧
Bangladesh Liberation War, Wikipedia 2026/2/7閲覧