林業 系統地理

亜寒帯林(冷帯林、タイガ)と林業

寒冷な亜寒帯に広がる亜寒帯林(冷帯林)では、タイガとよばれる広大な針葉樹の原生林(天然林)が現存し、林業の中心となっています。
このページでは、亜寒帯林の種類(落葉広葉樹と針葉樹の混交林、タイガ)、分布、木材についてまとめます。

亜寒帯林(冷帯林)とは

シベリアのタイガ林(ロシア東部)。亜寒帯の中でも特に寒冷な針葉樹林気候の地域では、寒冷なため広葉樹が生育できないため、広大な針葉樹林が広がる。この針葉樹林はタイガとよばれ、1種類の針葉樹が広がる純林となることも多い。寒冷な地域なので、人間の手がほとんど加わっていない広大な原生林(天然林)が残っており、純林であることも相まって林業の効率が良い。出典:Wikimedia Commons, ©Elkwiki, CC BY-SA 3.0, 2025/3/11閲覧

亜寒帯(冷帯)に広がる森林を総称して亜寒帯林(冷帯林)とよびます。
温帯林よりも寒冷な場所に位置する亜寒帯林は人間に開発された歴史が浅く、今でも原生林が残る場所が多いです。
亜寒帯の森林は「落葉広葉樹と針葉樹の混交林」と「タイガ」の大きく2つに分けられます。
温帯との境界付近では大陸性混合林気候となり、落葉広葉樹と針葉樹が入り交じる混交林(混合林)が広がります。
落葉広葉樹と針葉樹の混交林冷温帯温帯のうち寒冷な地域)でも見られますが、寒冷な地域ほど針葉樹の割合が増えていきます。
亜寒帯の中でも高緯度側の寒冷な針葉樹林気候の地域では、針葉樹のみが生育するタイガとよばれる広大な森林が広がります。
タイガは1種類の針葉樹で構成される純林とよばれる単純な構造の森林です(数種類の樹木が生育する場合でも針葉樹のみから構成される場合はタイガとよびます)。

落葉広葉樹と針葉樹の混交林

秋に紅葉した落葉広葉樹と緑のままの常緑針葉樹の混交林(青森県中央部・青森市内陸部・八甲田山(1585m))。冷温帯や亜寒帯(冷帯)では、落葉広葉樹と針葉樹が入り混じった混交林(混合林)を形成する。混交林では、寒冷な場所ほど針葉樹の割合が高くなる傾向がある。八甲田山は緯度と標高が高いため高山気候を呈しており、亜寒帯に分類される。出典:Wikimedia Commons, ©あおもりくま,(Aomorikuma), CC BY-SA 4.0, 2025/3/8閲覧

亜寒帯(冷帯)のうち、温暖な低緯度側の地域(大陸性混合林気候)では、落葉広葉樹と常緑針葉樹の混交林(混合林)が広がります。
冷温帯(温帯のうち寒冷な地域)から亜寒帯にかけての地域では、温暖な低緯度側では広葉樹林の割合が高く、寒冷な高緯度側ほど針葉樹林の割合が高いです。
さらに高緯度側の寒冷な地域(針葉樹林気候)では、針葉樹のみの森林(タイガ)が広がります。

落葉広葉樹と針葉樹が生育する点は冷温帯と同じですが、より寒冷であるため生育する樹木の種類が異なります。
たとえば、本州の冷温帯に分布するブナ(橅)スギ(スギ)は、北海道の亜寒帯林には分布しません(温暖な道南地方を除く)。
逆に北海道の亜寒帯林でよく見られるエゾマツトドマツなども、本州以南の温帯林には分布しません。

天然林は混交林ですが、実際に林業の対象となるのは針葉樹が中心です。
このため、北海道では林業用に植林されたエゾマツやトドマツ、カラマツなどの人工林が見られます。

タイガ

アルハンゲリスク近郊のタイガ(ロシア北西部・アルハンゲリスク州)。亜寒帯(冷帯)の中でも高緯度側の寒冷な地域では広葉樹が生育できないため、針葉樹のみからなる森林であるタイガが広がる。アルハンゲリスクは北極海につながる内海である白海に面した港町であり、古くから木材の輸出などの交易が盛んな町である。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2025/3/9閲覧

タイガは、亜寒帯の寒冷な高緯度地域(針葉樹林気候)に見られる針葉樹林です。
タイガでは、寒冷で広葉樹が生育できないため、1種類の針葉樹からなる単純な構造の森林(純林)が広がっています(複数種類の樹木が混じる場合でも、針葉樹のみからなる場合はタイガと呼びます)。
タイガがある地域は非常に寒冷な気候であるため、人間の開発を受けた歴史が浅く、現在でも広大な天然林が残っています。

タイガは、北半球の高緯度地域に広く見られ、面積的にはロシアとカナダが大半を占めます。
ほかには、アラスカ(米国)やスカンディナビア半島(スカンジナビア半島)などでも見られます。

タイガに生える樹木の種類は地域ごとに異なりますが、トウヒ(唐檜)モミ(樅)カラマツ(唐松)などが見られます。

ちなみに、タイガを亜寒帯林という意味で解釈して、落葉広葉樹と針葉樹の混交林(混合林)を白タイガと呼ぶことがあります。
白タイガでは、針葉樹に混じってシラカバ(白樺)などの寒さに強い落葉広葉樹が生育します。
白タイガに対して、針葉樹のみからなる本来のタイガは黒タイガと呼ばれます。

亜寒帯林の分布

タイガの分布。タイガは亜寒帯の中でも特に寒冷な針葉樹林気候の地域で見られる森林であり、針葉樹のみで構成される森林である。温暖な地域では針葉樹は広葉樹との競争に負けてしまい広葉樹林になるが、寒冷な高緯度地域では広葉樹林が生育できず、針葉樹林が形成される。出典:Wikimedia Commons, ©Mark Baldwin-Smith, CC BY-SA 3.0, 2025/2/24閲覧

亜寒帯林のは、針葉樹林のタイガと落葉広葉樹と針葉樹の混交林に分けられます。
このうち、タイガは亜寒帯(冷帯)の中でも特に寒冷な針葉樹林気候の地域で見られます。
上図はタイガの分布を示しており、ロシアやカナダ、アラスカの高緯度地域に広く分布しています。

一方、タイガの南側に隣接する亜寒帯の中でも比較的温暖な地域(大陸性混合林気候)では、落葉広葉樹と常緑針葉樹の混交林(混合林)が広がります。
寒冷な高緯度側ほど針葉樹の割合が高くなり、反対に温暖な低緯度側ほど落葉広葉樹の割合が高くなります。
混交林は冷温帯の地域と連続的に分布し、どちらでも混交林が見られますが、亜寒帯の方がより針葉樹の割合が高くなります。

亜寒帯林の林業

森林の中のブルドーザー道の脇に積み上げられた丸太(フィンランド南部)。寒冷なフィンランドは針葉樹のみからなるタイガが広がり、林業が盛んな国である。フィンランドで伐採された木材は、国内にある工場で紙パルプや段ボールの原料として使われたり、家具材として利用される。出典:Wikimedia Commons, ©Urjanhai, CC BY-SA 3.0, 2025/3/12閲覧

亜寒帯林(冷帯林)の林業の中心はタイガであり、広大なタイガの原生林(天然林)を伐採しています。
歴史的に開発が進んでいる温帯林では人工林が中心ですが、人間の開発の歴史が浅い亜寒帯林では、人の手がほとんど加わっていない広大な原生林が存在します。
さらに、タイガでは同じ種類の針葉樹が広がるため、端から順番に伐採するだけで木材(丸太)を得られます。
このため、人工林が主体の温帯林や複数の樹種が入り交じる熱帯林と比較して林業の効率が良いです。

北欧のスウェーデンやフィンランドでは林業が盛んであり、タイガで伐採した木材を原料として紙パルプや段ボールなどを製造し、国外へ輸出しています。
スウェーデン発祥の家具量販店であるイケア(IKEA)でも、スウェーデンをはじめとする北欧や東ヨーロッパの亜寒帯林のマツ材を使って家具を製造しています。

また、広大なタイガが広がるシベリア(ロシア東部)やカナダでも林業が盛んであり、日本を含む外国へ木材が輸出されています。
林業は丸太などの重量物を輸出するため、港から比較的近い場所で盛んです。
このため、ロシアではシベリア東部~沿海州、カナダでは西海岸のブリティッシュコロンビア州で林業が盛んであり、太平洋に面した港から日本に輸出されています。

海の上に木材を浮かべて保管する水中貯木場(カナダ西部・ブリティッシュコロンビア州沿岸部・バンクーバー)。木材は巨大な重量物であるため、歴史的には水に浮かせて浮力を利用して輸送されてきた。保管する際も、乾燥や虫害を防ぐために、水に浮かべて保管することがある。バンクーバーはカナダ内陸部で伐採された木材(丸太)を輸出する港町であり、輸出用の丸太が海上に浮かべて保管されている。出典:Wikimedia Commons, ©Tony Hisgett from Birmingham, UK, CC BY 2.0, 2025/3/11閲覧

亜寒帯林の木材

トウヒ(唐檜)林の中を走るカナダ太平洋鉄道の貨物列車(カナダ西部・ブリティッシュコロンビア州)。カナダの亜寒帯の地域では、タイガと呼ばれる広大な針葉樹林が広がる。未開拓のタイガの原生林は、同じ樹木が大量に生えているた順番に伐採するだけで丸太を得ることができる。このため、カナダでは西部のブリティッシュコロンビア州を中心にタイガの原生林を利用した林業が盛んである。日本にも木材が盛んに輸出されている。出典:Wikimedia Commons, ©Eikenhein, CC BY 2.5, 2025/3/11閲覧

亜寒帯の林業の中心はタイガであり、主に針葉樹の天然林を伐採しています。
タイガに生える樹木の種類は地域ごとに異なりますが、トウヒ(唐檜)モミ(樅)カラマツ(唐松)などが見られます。
個別の樹木(木材)については、以下のページで解説しています。

参考針葉樹林と林業(スギ・ヒノキ・エゾマツなど)

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参考文献

地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
タイガ(たいが)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/2/28閲覧
針葉樹林(シンヨウジュリン)とは? コトバンク デジタル大辞泉、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/2/22閲覧
針葉樹(シンヨウジュ)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/2/22閲覧
帝国書院編集部「新詳地理資料 COMPLETE 2023」帝国書院(2023)
Taiga, Wikipedia 2025/3/9閲覧
Forest industry in Finland, Wikipedia 2025/3/12閲覧
合法伐採木材等に関する情報:フィンランド 林野庁 2025/3/12閲覧
合法伐採木材等に関する情報:スウェーデン 林野庁 2025/3/12閲覧
The wood we use IKEA 2025/3/12閲覧
ロシアの森林 フェアウッド・パートナーズ 2025/3/11閲覧
2カナダ BC 州の⽊材⽣産・流通の特徴 林野庁 2025/2/26閲覧
貯木場(ちょぼくじょう)とは?  コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/3/11閲覧

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