地形 系統地理

氷河地形(氷河による侵食と堆積)

地球が寒冷だった氷期には高緯度地域は氷河におおわれていたため、氷河の作用によって地形が形成されました。
ここでは、氷河と氷河地形について解説します。

氷河とは

ブリックスダール氷河(ノルウェー西部)。出典:Wikimedia Commons, ©norito satoh, CC BY-SA 3.0, 2021/1/17閲覧

氷河とは、積雪が何年も溶けずに圧縮されてできたものです。
降雪が一年中解けずに万年雪となる限界の場所を雪線(せっせん)といいます。
氷河は氷期に雪線をこえた寒冷な場所で形成されます。
標高が高いため万年雪となり形成された氷河を山岳氷河といい、雪線の高度が低いため大陸の広範囲に形成される氷河を大陸氷河氷床)といいます。

氷河による侵食、侵食した土砂の運搬、堆積作用によってつくられた地形を氷河地形といいます。
過去の氷期には高緯度地域に氷河が広がっていたため、北米やヨーロッパの高緯度地域に氷河地形がみられます。

山岳氷河は、アルプス山脈(ヨーロッパ)などの高緯度地域の山岳地帯に点在しています。
日本では、日高山脈(北海道)や日本アルプス(飛騨山脈・木曽山脈・赤石山脈)でみられます。
大陸氷河(氷床)が現在も存在しているのはグリーンランド南極大陸です。

氷河の形成

降ったばかりの雪(新雪)は、積もった雪の間に空気が入っています。
しかし、雪が降り積もると上からの重さで空気が抜けてかたくなります。
雪線を越えた寒冷な地域では、降雪は溶けることなく積み上がり、上に降り積もった雪の圧力により下の方は圧縮されて氷河氷になります。

このため、氷河の最上部は常に新雪が積もり、下に行くほど(地表に近いほど)圧縮されてかたい氷河氷になります。
氷河はこのような雪と氷の塊になっています。

氷河による地形の形成

現在より寒冷だった氷期(最終氷期は7~1万年前)には、高緯度地域には広く氷河が発達していました。
氷河は河川同様に、土砂を侵食運搬堆積するはたらきがあるため、氷河が広がっていた高緯度地域には氷河地形が残っています。

氷河は固体ですが、地表では氷河自体の重さがかかるため、地表付近が高圧になって部分的に氷河が融解します。
氷が融解すると地面との摩擦力が下がり、氷河自体が地表を滑るように移動します。
このとき、氷河は地表から土砂を削り(侵食し)、土砂が氷河の中に取りこまれながら傾斜地を流れていきます(運搬)。
氷河による侵食を氷食といいます。

山岳氷河は傾斜地に発達するため、傾斜により侵食する営力が強くなりますが、大陸氷河氷床)でも地表付近の融解水が地表を侵食したり氷河の移動を促します。
何らかの理由で氷河による運搬作用が失われると、運ばれてきた土砂が堆積します。

山岳氷河の場合は傾斜がない場所まで到達した場合に土砂が堆積します。
大陸氷河の場合は温暖化で氷河が後退したり、氷河の末端まで土砂が運ばれた場合に堆積します。

一般に山岳氷河は、小規模な地形をつくり、大陸氷河は大規模な地形をつくります。

固体の氷河は、液体の水が流れる河川による侵食とは少し違う地形がつくられます。
ここからは、侵食と堆積に分けて氷河がつくった地形を見ていきます。
そして、最後に侵食と堆積のどちらでも形成されることがある氷河湖を解説します。

氷河による侵食と地形

氷河による侵食でできた地形には、カール圏谷)、U字谷ホルンホーン尖峰)があります。

カール(圏谷)

木曽山脈(中央アルプス)の宝剣岳の千畳敷カール(長野・南信地方)。出典:Wikimedia Commons, ©Ans, CC BY-SA 3.0, 2021/1/17閲覧

カール圏谷)は、山の斜面をスプーンでえぐったように半球状(馬蹄状)にへこんだ谷の地形です。

山の上の方で形成された山岳氷河は、谷を下るように移動します(谷氷河)。
谷の両側と山頂側は急斜面(カール壁圏谷壁)となっていて、急斜面に囲まれた場所には比較的平坦な凹地(カール底、圏谷底)ができます。
カールの凹地には土砂が堆積するモレーン(氷堆石、堆石)ができることが多く、モレーンが水をせき止めて湖沼ができることがあります。

カールは山岳氷河に特徴的な地形です。
日本では、日本アルプス(飛騨山脈・木曽山脈・赤石山脈)や日高山脈(北海道)に見られます。

U字谷

ヴェンゲン登山鉄道の車窓よりのぞむU字谷(スイス)。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/1/17閲覧

山岳氷河の侵食によって谷がU字状に削られた地形をU字谷といいます。

似たような名前の地形として、河川による侵食でできたV字谷があります。
U字谷はV字谷よりも谷底の幅が広くなっています。

固体である氷河は液体の水よりも流動性が低いため、大きな氷河の塊のまま移動します。
そのため、液体の水のように少しでも低い所を集中的に侵食するのではなく、谷を面的に削るため谷底がUの字のような形になります。

ちなみに氷河による侵食であっても、場所によってはVの字に近い形になることもあります。

U字谷の形成過程については、以下のリンク先のアニメーションで詳しく説明しています。

参考【アニメーション】U字谷の形成過程

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U字谷の谷底が海に沈んだ地形をフィヨルドといいます。
フィヨルドは沈水海岸の一種です。

U字谷やフィヨルドは、ノルウェーグリーンランドなどの高緯度地域でよくみられます。

ホルン(ホーン、氷食尖峰)

マッターホルン(スイス・イタリア)は、ホルン(尖峰)とよばれる壮年期に特徴的な急峻な地形である。出典:Wikimedia Commons, ©Andrew Bossi, CC BY-SA 2.5, 2021/1/11閲覧

山岳氷河の侵食により、山がピラミッドのようにとがった形の地形をホルンホーン尖峰)といいます。

山が氷河により削られて山頂付近に複数方向にカール圏谷)ができたため、鋭くとがった地形になっています。

ホルンとして有名な山はアルプス山脈のマッターホルン(スイス・イタリア)です。
日本では飛騨山脈の槍ヶ岳がホルンとして有名です。

氷河による堆積と地形

氷河によって運搬された土砂が堆積してできた地形には、モレーン(氷堆石)、エスカードラムリン(氷堆丘)があります。

モレーン(氷堆石)

ツェルマット(スイス南部)のモレーン。写真の左側には堤防状のモレーンが伸びている。氷河の作用により侵食・運搬された土砂が堆積してできた堤防状の地形である。温暖化により氷河が溶けると、モレーンの堤防状の構造がはっきりと見えるようになる。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/1/17閲覧

モレーン(氷堆石、堆石)は氷河が運んだ土砂が堆積して堤防状に盛り上がった地形です。
堆積物自体もモレーンということがあります。

漢字表記は堆「石」であって堆「積」ではないことに注意してください。
川では砂礫は他の砂礫にぶつかりながら流れるため、大きな石もを削られたり割れたりして小さくなりながら転がっていくため、下流では堆積物の粒子は小さくなります。
一方、氷河は砂礫を氷河の中に取り込んで氷河自体が動きながら砂礫を運搬するため、氷河が運んだ粒子は削られずに大きい「石」(礫)のまま堆積します。

モレーンは、氷河が流れる際に氷河の横側に土砂が積み上げられたり、温暖化で氷河が後退する際に氷河の先端に土砂が残されることで形成されます。

エスカー

スウェーデンのエスカー地形。出典:Wikimedia Commons, ©Hanna Lokrantz, CC BY 2.0, 2021/1/18閲覧

氷河の地表付近では、積み上がった氷の重さで高圧のため、氷河の一部が溶けて融解水が地表を流れます。
融解水は地表を氷河で覆われたトンネルをつくりながら流れますが、融解水には氷河が削った土砂が含まれているため、トンネルは土砂で埋まります。

温暖化で氷河が後退した後には、氷河のトンネルは溶けて氷河が堆積した堤防上の土砂だけが残ります。
このようにしてできた地形をエスカーといいます。

エスカーは、大陸氷河氷床)に見られる地形で、高さは5-50 m、長さは最大で100 km以上になるものもあります。
エスカーは堤防状の高台という形を生かして、道路などに使われることがあります。

ドラムリン(氷堆丘)

横から見たドラムリン(氷堆丘)(アイルランド)。出典:Wikimedia Commons, by Brendanconway, Public domain, 2021/1/18閲覧

ドラムリン(氷堆丘)に立ち並ぶ住宅(ドイツ)。ドラムリンの高台が住宅地、周辺の低地が農地として利用されている。出典:Wikimedia Commons, ©Martin Groll, CC BY 3.0, 2021/18閲覧

ドラムリン(氷堆丘)は、大陸氷河に運ばれた砂礫が氷河の底に堆積して形成された丘状の地形です。

ドラムリンは片方の斜面がゆるやかで、反対側は急斜面になっています。
ドラムリンの形は氷河が流れる方向を知る手がかりとなります。
ドラムリン形成時の氷河は、急斜面側からゆるやかな斜面へ向かって流れていました。

ドラムリンが形成される過程には諸説あり、氷河の地表付近を流れる融解水がつくるという説や、氷河湖の決壊による侵食と堆積の結果という説もあります。

ドラムリンの模式図。ドラムリンは急斜面とゆるやかな斜面に分かれていて、氷河はゆるやかな斜面の方向へ進んでいた。出典:Wikimedia Commons, ©Patrol110, CC BY 3.0, 2021/18閲覧

氷河湖

ブルガリア西部・リラ山脈北西部に位置する氷河湖群「リラの七つの湖」(Seven Rila Lakes)。出典:Wikimedia Commons, ©Anthony Ganev, CC BY 3.0, 2021/1/18閲覧

氷河湖は、氷河の侵食や堆積によってできた凹地に水がたまってできた地形です。
侵食だけでできる場合も堆積作用が関与する場合もあります。

典型的な氷河湖は、U字谷の一部がモレーンの堆積物でせき止められるなどで凹地ができて、そこに水がたまってできた湖沼です。

氷河湖の例として、北米の五大湖(西から順にスペリオル湖,ミシガン湖,ヒューロン湖,エリー湖,オンタリオ湖)、レマン湖(フランス・スイス)、ボーデン湖(ドイツ・スイス・オーストリア)があります。

参考文献

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堆石とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/17閲覧
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氷河湖とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、百科事典マイペディアの解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/18閲覧
五大湖とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、百科事典マイペディアの解説、世界大百科事典 第2版の解説 2021/1/18閲覧

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