分析・考察

「車なし生活圏」と「車社会」の境界はどこだ(埼玉県編)

2022年11月13日

このページでは、マイカー不要の「車なし生活圏」とみんながマイカーを持つ「車社会」の境界がどこにあるかの結果をまとめています。
今回は埼玉県の市区町村についてみていきます。

【他県の結果を見る:全体・埼玉県・東京都千葉県神奈川県

「車なし生活圏」と「車社会」の境界

マイカーなしで生活できる限界を調べるために、市区町村別に自家用車の世帯平均保有台数を集計しました。
平均して1家に1台以上車を持っている町を「車社会」、1台未満の町を「車なし生活圏」としました。

市区町村別世帯平均保有台数

次の図は、マイカーの市区町村別世帯平均保有台数です。
赤系の色はマイカー保有台数が1台未満の「車なし生活圏」、青系の色は「車社会」です。
赤色が濃いほどみんなが車を持っていない町で、逆に青色が濃いほど車を持っているのが当たり前の町です。

市区町村別世帯平均自家用車保有台数(埼玉県、2022年)。赤色が濃いほど保有台数が少なく、青色が濃いほど保有台数が多い。

南東部ほどマイカー保有台数が少なく、北西部ほど多い傾向がはっきり出ました。

埼玉県は南東部が東京23区に接しているため、南東部(さいたま市や川口市など)では東京に通勤している人が多くいます。
一方、北西部(熊谷市や本庄市など)は農業や工業が盛んで東京に通勤している人は少なくなります。

鉄道路線追加

鉄道路線とマイカー保有台数の関係を見るために、鉄道路線を白線で追加しました。
マイカーを持たない人は通勤や外出に電車を使うため、鉄道路線がある場所に集まっていると予測できます。

市区町村別世帯平均自家用車保有台数(埼玉県、2022年)。白線は鉄道路線である。

鉄道路線合わせてみると、やはり鉄道沿線ではマイカー保有台数が少なく、鉄道路線から外れた場所はマイカー保有台数が高くなります。

南東部拡大

「車なし生活圏」と「車社会」の境界を細かく見るために、南東部を拡大して市町村名を追加しました。

市区町村別世帯平均自家用車保有台数(埼玉県南東部拡大、2022年)。

マイカーの世帯平均保有台数が1を下回る「車なし生活圏」の北限は、西から順に所沢市、川越市、上尾市、春日部市という結果になりました。

基本的に東京から距離が離れるほどマイカー保有台数が上がっていきますが、鉄道が通っていない三芳町(上図左下)や松伏町(上図右端)は、東京からの距離の割にマイカー保有台数がおおくなります。
これは、鉄道が利用しにくい場所で人口も少ないため、公共交通機関の利便性が落ちるためと考えられます。

一方、同様に鉄道路線が通っていても、新座市(上図下端)や吉川市(上図右端)、さいたま市岩槻区(上図中央)は、周囲の町と比較してマイカー保有台数が高めです。
特に吉川は東京に比較的近いにも関わらず世帯平均保有台数が1.0を上回る車社会です。
北にある春日部の方が、直線距離、移動時間のどちらから見ても東京から離れているにも関わらず、春日部は「車なし生活圏」で吉川は「車社会」という結果になりました。

これら町の共通点は、町を通る鉄道路線が東京都心を中心に環状に伸びる路線であり、都心に行くためには放射状に伸びる都心直結路線に乗り換える必要があることです。
たとえ、鉄道路線が通っていても都心に行くために乗り換えが必要な場所では、マイカー保有台数が多くなります。

次に放射状に伸びる鉄道路線に着目して、「車なし生活圏」の北限の町の特徴を探っていきます。

改めて北限の町を列挙すると、西武池袋線では所沢市、東武東上線はだと川越市、JR高崎線は上尾市、東武伊勢崎線なら春日部市となります。
これらの町は都心から直線距離で30 km程度であり、上尾を除いて車両基地があり(川越は移転済)、都心を出発した列車の一部がこの町の駅を終点として折り返します。
西武池袋線では小手指駅(所沢)、東武東上線だと川越市駅(川越)、東武伊勢崎線なら北春日部駅(春日部)が郊外にあり、ここから先は列車本数が減少します。

上尾は例外です。
JRは大宮以北で列車の本数が大きく減り、実際に宇都宮線ではさいたま市が「車なし生活圏」の北限です。
しかし、高崎線では1つ北の上尾市までが「車なし生活圏」に入ります。

原因としては、JRの中距離電車は各駅停車と線路自体が分離されているため普通列車でも速達性が高く、物理的な距離の割に所要時間が短いことが影響しているかもしれません。

車なし生活圏とイトーヨーカドーの店舗分布

ちなみに、この「車なし生活圏」はおおむねイトーヨーカドーの店舗分布に合致します。

次の地図では、Google Mapで南関東のイトーヨーカドー店舗にピンを立てています。
出典:店舗を探す イトーヨーカドー 2022/11/12閲覧
※出典に記載の店舗について作成

埼玉県の場合は川越や上尾、春日部が店舗網の北限になり、一部例外を除いておおよそ合致しています。
これは、イトーヨーカドーが首都圏では「車なし生活圏」をメインターゲットにしてビジネスを行っていることの現れかもしれません。

次に「車社会」の深谷や久喜にある店舗について考えてみます。
久喜に関しては、イトーヨーカドーの物流センター(IDC)が近くにあり、店舗はいずれも駅から2km圏内に立地しているので、駅近辺に限れば「車なし生活圏」に入る可能性があります。
今回は統計データの関係で市区町村単位の集計なので、駅近辺だけにしぼれば「車なし生活圏」はもう少し郊外に広がります。

深谷に関しては完全に車社会のエリアで例外として捉えたほうが良さそうです。
駅から2km圏内という立地であり、マイカー以外の利用もあるものの、駐車場も広い郊外型の店舗です。

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