分析・考察

首都圏「車なし生活圏」と「車社会」の境界はどこだ

2022年11月19日

東京ではマイカーは不要と言われ、確かに都心ではマイカーの所有者は少数派です。
それでは、マイカーなしで生活できるのはどこまでしょうか。

今回は、マイカー不要の「車なし生活圏」とみんながマイカーを持つ「車社会」の境界の町はどこなのかを調べてみました。

「車なし生活圏」と「車社会」の境界

丸の内のオフィスビル群と東京駅(東京都千代田区)。東京は都市機能が高度に集積し、公共交通機関が発達しているため走っている車は商用車が多い。出典:Wikimedia Commons, ©663highland, CC BY 2.5, 2022/11/13閲覧

東京では公共交通機関が発達しているため、車を運転しなくても生活でき、実際にマイカーを持っている人は少数派です。
では、車なしで生活できる限界はどこまででしょうか。

できるかできないかで言えば、車社会とよばれる地方でもマイカーなしで生活している人はいます。
そこで客観的なデータを使用して、首都圏の「車なし生活圏」と「車社会」の境界を調べました。
対象は南関東の1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)です。

具体的には、市区町村別に自家用車の世帯平均保有台数を集計し、平均して1家に1台以上車を持っている町を「車社会」、1台未満の町を「車なし生活圏」としました。

結果に飛びたい方は、以下から見たい県のリンクをクリックして下さい。
【各県の結果を見る:埼玉県東京都千葉県神奈川県

使用データ

使用したデータは以下のとおりです。

1.自家用車(軽自動車を除く)の市区町村別保有台数
出典:市区町村別自動車保有車両数 国土交通省 地方運輸局(統計日付:2022.03.31)

2.軽自動車の市区町村別保有台数
出典:市区町村別軽自動車車両数(令和4年3月末現在 No.44) 一般社団法人 全国軽自動車協会連合会(統計日付:2022.03.31)
※リンク先は冊子紹介ページです。残念ながらネット上では公開されていません。

ここまでが自動車の登録台数に関する統計情報で、軽自動車とそれ以外に分かれています。

軽自動車に関してはウェブ上で公開されていないため、紙媒体から数値を取得しました。
軽自動車以外についてもPDFをCSVに変換し、うまくいかない箇所は手動修正してデータを取得しました。

3.市区町村別世帯数
出典:【総計】市区町村別人口、人口動態及び世帯数 政府統計の総合窓口(e-Stat)(統計日付:2022.01.01)

以下は可視化用に使用したシェープファイルです。
少し古いですが、数年間での変化はわずかであり、可視化用には問題ありません。

4.市区町村別行政区域境界
出典:行政区域データ 国土数値情報ダウンロード(統計日付:2018.01.01)

5.鉄道路線位置データ
出典:鉄道路線(ライン) 国土数値情報ダウンロード(統計日付:20218.12.31)

集計・可視化方法

集計としては、軽自動車とそれ以外の自動車について、「自家用」の「乗用車」の市区町村別登録台数を合算し、これを市区町村別の世帯数で割って世帯別平均保有台数を算出しました。
東京都特別区だけではなく政令指定都市も区ごとに統計情報があるので、せっかくなので分けて集計しました。

可視化については、市区町村別に世帯別平均保有台数で色分けしたコロプレス図を作成しました。

データ加工はPythonのgeopandasパッケージを使い、可視化にはmatplotlibを使用しました。
geopandasを使うことことでシェープファイルにテーブルを結合したり(pandas.merge)、シェープファイル同士を結合する(geopandas.sjoin)ことができます。

集計結果

結果は都道府県別にまとめました。見たい県のリンクをクリックして下さい。
【各県の結果を見る:埼玉県東京都千葉県神奈川県

東京都心から直線距離でおおよそ30 km 程度の町がギリギリ「車なし生活圏」となる傾向になりました。
埼玉では川越や上尾、春日部、千葉では千葉市中央区、東京では青梅や八王子、神奈川では相模原や海老名、平塚がこれに該当します。

これらの町が「車なし生活圏」の限界になります。

考察

4都県の集計結果からわかった傾向についてまとめます。

1.東京都心から離れるほど「車社会」の傾向
2.鉄道路線がある町は周辺よりもマイカー保有台数が少ない傾向
3.同じ鉄道路線でも東京都心直結の鉄道路線がある町はよりマイカー保有台数が少ない傾向
4.「車なし生活圏」の分布がイトーヨーカドーの店舗分布とほぼ一致

順番に見えていきます。

1.東京都心から離れるほど「車社会」の傾向

市区町村別世帯平均自家用車保有台数(埼玉県、2022年)。赤色が濃いほど保有台数が少なく、青色が濃いほど保有台数が多い。

これは当たり前ですね。
埼玉県では、東京都心に隣接する南東部ほどマイカー保有台数が少なく、北東部に向かって増えていきます。

東京都心から直線距離でおおよそ30 km 程度の町がギリギリ「車なし生活圏」となる傾向でした。
埼玉では川越や上尾、春日部、千葉では千葉市中央区、東京では青梅や八王子、神奈川では相模原や海老名がこれに該当します。

例外は神奈川県です。
特にJR東海道線沿線の平塚は直線距離で品川から50km弱あり、鉄道だと遠回りなので60 km以上離れています。
これは、途中に横浜という大都市があるため、横浜の求心力で「車なし生活圏」の範囲が都心から若干離れた地域まで広がっていると考えられます。
政令指定都市の中心部が「車なし生活圏」と「車社会」の境界になる千葉市とは対象的です。

2.鉄道路線がある町は周辺よりもマイカー保有台数が少ない傾向

市区町村別世帯平均自家用車保有台数(埼玉県南東部拡大、2022年)。

基本的に東京から距離が離れるほどマイカー保有台数が上がっていきますが、鉄道が通っていない三芳町(上図左下)や松伏町(上図右端)は、東京からの距離の割にマイカー保有台数が多くなります。
周辺の町と比較して人口も少なく、公共交通機関の利便性が落ちるためマイカー保有台数が増えると考えられます。

埼玉県は特に明確に傾向が出ていますが、他県でも同様の傾向が見られます。

3.同じ鉄道路線でも東京都心直結の鉄道路線がある町はよりマイカー保有台数が少ない傾向

鉄道がある町ならどこでも同じではありません。
鉄道路線が通っていても、新座市(上図下端)や吉川市(上図右端)、さいたま市岩槻区(上図中央)は、周囲の町と比較してマイカー保有台数が高めです。
吉川よりも東京から遠い春日部の方が世帯平均マイカー保有台数が少なく、これは東京からの単純な直線距離や所要時間では説明できません。

これら町の共通点は、町を通る鉄道路線が東京都心を中心に環状に伸びる路線であり、都心に行くためには放射状に伸びる都心直結路線に乗り換える必要があることです。
吉川と新座はJR武蔵野線、岩槻は東武野田線沿線であり、都心に向かうためには乗り換えが必要です。

たとえ、鉄道路線が通っていても都心に行くために乗り換えが必要な場所では、マイカー保有台数が多くなります。

4.「車なし生活圏」の分布がイトーヨーカドーの店舗分布とほぼ一致

イトーヨーカドー春日部店(埼玉)の外観。春日部駅方面から撮影している。春日部市は世帯別自家用車保有台数が0.94であり、自家用車を持たない生活圏と持つ生活圏の境界に位置する。イトーヨーカドーは中心部の駅前に立地しつつ駐車場も完備し、両方の客層のアクセスに対応している。出典:Wikimedia Commons, ©Suikotei, CC BY-SA 4.0, 2022/11/13閲覧

「車なし生活圏」の分布とよく一致する店舗展開をしているお店として、イトーヨーカドーがあります。

次の地図では、Google Mapで南関東のイトーヨーカドー店舗にピンを立てています。
出典:店舗を探す イトーヨーカドー 2022/11/12閲覧
※出典に記載の店舗について作成

上の地図上のイトーヨーカドーの店舗分布は、「車なし生活圏」の分布にほぼ一致します。
伊勢原や四街道などギリギリ「車社会」のエリアにも店舗がありますが、いずれも駅前に立地しており、市町村単位で集計すると車社会だが、駅前周辺は「車なし生活圏」であると考えられます。
今回使用した統計データが市区町村別単位の集計であるため、分析の解像度としてこれが限界になります。

深谷や小田原といった「車社会」の町にも少数店舗展開しています。
これらは駅から2km圏内の立地ですが大型駐車場完備のロードサイド型店舗であり、2店舗のみの例外と見なした方が良さそうです。

参考文献

市区町村別自動車保有車両数 国土交通省地方運輸局 2022/10/28閲覧
市区町村別軽自動車車両数(令和4年3月末現在 No.44) 一般社団法人 全国軽自動車協会連合会 2022/11/11閲覧
【総計】市区町村別人口、人口動態及び世帯数 政府統計の総合窓口(e-Stat) 2022/10/22閲覧
行政区域データ 国土数値情報ダウンロード 2022/07/30閲覧
鉄道路線(ライン) 国土数値情報ダウンロード 2022/07/24閲覧

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