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建ぺい率と容積率(タワマンが容積率規制をクリアする方法)

このページでは、都市計画において建築物の規模を制限する指標として建ぺい率(建蔽率)と容積率について解説し、一見規制をオーバーしているように見えるタワーマンションがどのようにして規制をクリアしているのかを説明します。
建ぺい率と容積率の制限を行うことで災害時の安全確保や社会インフラのキャパシティオーバーを予防することができます。

用途地域による建築物の大きさの制限

はじめに、建ぺい率と容積率を解説する前提となる用途地域という概念について解説します。
用途地域とは、都市や市街地周辺においてその土地の使い方を制限する分類です。

建物が密集している場所で土地の使い方を制限しないと、住環境が破壊されたり、無秩序に乱開発が行われて都市が機能不全を起こすといったリスクがあります。
たとえば、閑静な住宅街にパチンコ店が開店して深夜の騒音の原因になったり、住宅街のど真ん中に工場があるせいでダンプカーや大型トラックが頻繁に通るといった事態を回避するために、第1種低層住居専用地域は低層の戸建て住宅のみ、パチンコ店は商業地域・近隣商業地域のみといったように用途によって土地利用の方法を制限しています。

用途地域では土地利用の用途だけではなく、建物の大きさも制限しています。
たとえば、閑静な住宅街に巨大なマンションが建設されて周辺の低層の戸建て住宅に日が当たらなくなってしまうなどの問題を避けたり、タワーマンションが建設されて突然人口が増えて行政のインフラ整備が追いつかず災害が発生しても人が多すぎて対応できないといった事態を避けるためです。
この建物の大きさを制限する指標として建ぺい率と容積率があります。

建ぺい率(建蔽率)とは

建ぺい率の模式図。建ぺい率(建蔽率)とは土地の敷地面積に対して建物が占める割合である。この図では敷地面積100に対して建築物(住宅)の面積は50なので、建蔽率は50%である。建物の面積の基準は建物外壁の柱の中心が基準となるため、建ぺい率が100%になることはない。

建ぺい率(建蔽率)とは、土地の敷地面積に対して建物が占める割合です。
「蔽」は横に広く覆うという意味の漢字であり、遮蔽(しゃへい)の「へい」の字です。
そのため、建ぺい率は建物が土地を覆う割合という意味になります。

建ぺい率は次のように計算されます。

建ぺい率 = 建築面積 ÷ 敷地面積

たとえば、100m2の土地に50m2の建物を建設すると、その土地の建ぺい率は50%です。
建物の面積の基準は建物の外壁の柱の中心が基準となるため、建ぺい率が100%になることはありません(外壁の半分が敷地外に出てしまう)。

建ぺい率は住宅街では低めに設定され、商業地域や準工業地域で高めに設定されています。
用途地域ごとに一意に決まるのではなく幅があり、自治体が都市計画によって定めます。
たとえば、第一種低層住居専用地域では30-60%、準工業地域では50-80%、商業地域では80%です。
13の用途地域の建ぺい率は30~80%の範囲になります。

建ぺい率が制限される理由は防災・防火対策です。
建物が敷地いっぱいに密集していると、家事が発生する際に消防・避難活動に支障がでたり、地震発生時に建物が崩れて避難や救助活動ができなくなるためです。

容積率とは

容積率の模式図。容積率とは土地の敷地面積に対して建物の延床面積の割合である。この図では敷地面積100に対して建築物(住宅)は2階建てであり、各階の床面積は50なので、容積率は100%である。容積率はフロアごとの延床面積が合計されるため、2階建て以上の建物では容積率が100%を超えることもある。

容積率とは、土地の敷地面積に対して建物の延床面積の割合です。
容積率は次のように計算されます。

容積率 = 延べ面積 ÷ 敷地面積

たとえば、100m2の土地に2階建てで各階の床面積が50m2の建物を建設すると、容積率は100%になります。
先程の建ぺい率は建物が何階建てであっても変わらないですが、容積率はフロアごとの延床面積が合計されるため、高層ビルでは非常に大きな値になります。

容積率は住宅街では低めに設定され、商業地域や工業地域で高めに設定されています。
建ぺい率と同様に用途地域ごとに一意に決まるのではなく幅があり、自治体が都市計画によって定めます。
たとえば、第一種低層住居専用地域では50-200%、準工業地域では100-500%、商業地域では200-1300%です。
13の用途地域の容積率は50~1300%の範囲になります。

容積率が制限される理由は社会インフラのキャパシティオーバーを防ぐためです。
狭い土地に住居やお店、オフィス等が増えすぎると道路や駅が極端に混雑したり、水道や小学校等のインフラが不足したり、災害対応に支障が出るため容積率の制限が存在します。

高層ビルの容積率

13の用途地域の中で最も容積率の制限がゆるい商業地域でも容積率の上限は1300%です。
このため、通常の用途地域では数十階にもおよぶ高層ビルを建築できないように見えます。
このからくりとしては、周辺の空地(公園など)が敷地面積に含まれる場合と特例措置によりエリアを指定して高層ビルを建設できるように容積率を緩和されている場合などがあります。

周辺の空地を敷地面積に参入

六本木ヒルズの全景(東京都港区)。六本木ヒルズは2003年に開業した複数の高層ビルからなる複合施設である。再開発事業として一帯が高度利用地区と指定され、高層ビルとともに広場や公園、道路などが一体となって整備された。そのため、森タワー(238m)のような高層ビルが含まれているにも関わらず、六本木ヒルズの容積率は660%であり、用途地域の容積率上限である1,300%を大きく下回る。出典:Wikimedia Commons, ©A16504601 at Japanese Wikipedia, CC BY-SA 3.0, 2024/10/13閲覧

周辺の空地が敷地面積に含まれる例としては、六本木ヒルズ(東京都港区)があります。
六本木ヒルズは森タワー(238m)をはじめとする多数の高層ビルが林立するにも関わらず、容積率は660%です。
これは、六本木ヒルズの敷地面積がビルだけではなく周辺の空地・公園が含まれるためです。
容積率計算の分母が大きいため、高層ビルにもかかわらず直感に反する容積率になっています。
六本木ヒルズは高度利用地区に指定されて再開発された経緯があり、建設の際に広場や公園、道路などが一体で整備されたため、それらが敷地面積に参入されているという事情があります。

六本木ヒルズ以外のタワーマンションにおいても、マンションの敷地内に公開空地(私有地だが誰でも入れる緑地・緑道)を設けて容積率の分母を大きくしている例があります。

高度利用地区とは
高度利用地区とは、建築物の容積率・建ぺい率・建築面積・壁面の位置などの制限を追加するものです。
低層住宅が集まる古くからの密集市街地の再開発を行うために指定します。
高度利用地区に指定されると小規模な建物を立てられなくなるため、細分化された土地を一体的に利用して大規模な高層ビルを建てるように誘導されます。
再開発により高層ビルを建設できるように容積率の上限は緩和されます。

容積率自体の緩和

タワーマンションであるプラウドタワー東雲キャナルコート(東京都江東区)。東雲キャナルコートは、三菱製鋼工場跡地を再開発した大規模複合施設であり、商業施設や分譲マンションなどが建設された(2003年竣工)。キャナルコートの用途地域(第2種住居地域や近隣商業地域)に基づく容積率は400%であるが、高度住宅誘導地区の指定を受けて容積率が600%に緩和されている。出典:Wikimedia Commons, CC0, 2024/10/13閲覧

一方で容積率自体が緩和される例として、高層住居誘導地区特定容積率適用地区あります。

高層住宅誘導地区とは、都心地域で住宅を供給するために、タワーマンションなどの高層住宅の建築を誘導する目的で設定される容積率が緩和される地区のことです。

この制度を活用した例として、東雲キャナルコート(東京都江東区)があります。
キャナルコートは三菱製鋼の工場跡地を再開発した大規模再開発事業であり、タワーマンションも建設されています。
キャナルコートは第2種住居地域や近隣商業地域(ともに容積率400%)ですが、高度住宅誘導地区の指定を受けて容積率が600%に緩和されています。

丸の内パークビルディング(東京都千代田区)。丸の内パークビルは容積率1,565%であり、商業地域の容積率の上限である1,300%を超過している。この超過分は容積率の緩和措置の獲得により達成しており、都市再生特別地区に基づく三菱一号館美術館の文化施設としての100%、地域冷暖房プラントの設置による35%、JR東京駅丸の内駅舎の空中権130%を利用して条件をクリアしている。出典:Wikimedia Commons, ©Kakidai, CC BY-SA 4.0, 2024/10/15閲覧

特定容積率適用地区とは、近隣で容積率が余っている(容積率の上限に達していない)建物の容積率を利用して、本来の容積率を超えた延床面積の高層ビルを建築することが認められている地区です。
高層ビルが林立する都心エリアで土地を有効活用することを目的として設定されています。

この制度を活用した例として、JR東京駅の丸の内駅舎の空中権(容積率の余りを利用する権利)を利用して、近隣の丸の内パークビルを建設した例があります。
丸の内パークビルは容積率1,565%であり、このうち130%が東京駅の空中権利用分です(残りは、商業地域の1,300%、都市再生特別地区に基づく三菱一号館美術館の文化施設としての100%、地域冷暖房プラントの設置による35%)。

タワーマンションの建設には行政から容積率の緩和を引き出す必要があるため、タワーマンションの建設に積極的な地域とそうではない地域があります。
たとえば、東京23区でも港区や江東区は沿岸部を中心に多数のタワーマンションが分布するのに対し、文京区や世田谷区、杉並区では少ないといった違いがあります。

タワーマンションの建設に積極的でない自治体があるのは、タワーマンションには特有の問題があるためです。
タワーマンションは一棟で多数の住戸を抱える上に新築時にライフステージが似た世帯が一斉に入居するため、社会インフラのニーズの急増に行政が対応しきれないという問題があります。
たとえば、同じような年齢の子どもをもつ家庭が多いため、保育園や小学校のニーズが短期間で急激に増加したり、朝の通勤時間帯の駅の混雑が激しくなります。
このため、今まで許容していたタワーマンションの建設を規制する自治体も現れており、2020年には神戸市で市中心部のタワーマンションの新規建設を規制する条例が可決されました(参考)。

参考文献

用途地域 ウィキペディア 2024/10/12閲覧
用途地域とは? 用途地域の調べ方や13種類の特徴、建築制限の詳細を一覧で解説! SUMMO 2024/10/12閲覧
建築基準法① 建ぺい率・容積率 東建コーポレーション株式会社 2024/10/12閲覧
「蔽」とは? goo辞書 2024/10/15閲覧
第一種低層住居専用地域 ウィキペディア 2024/10/12閲覧
六本木ヒルズ ウィキペディア 2024/10/13閲覧
青山 佾「容積率と都市景観」 ガバナンス研究 1 p33-57 (2005)
高度利用地区とはどのような地区なのか イクラ不動産 2024/10/12閲覧
高層ビルは容積率オーバーしている!? 埼玉開発株式会社 2024/10/12閲覧
超高層オフィスビルの容積率ってどうなっているの? 全国の賃貸オフィス検索の「officil」 2024/10/12閲覧
高層住居誘導地区 SUMMO 2024/10/13閲覧
東雲キャナルコート ウィキペディア 2024/10/13閲覧
東雲キャナルコート地区 独立行政法人 都市再生機構 2024/10/13閲覧
特例容積率適用地区 ウィキペディア 2024/10/13閲覧
丸の内パークビルディング ウィキペディア 2024/10/13閲覧
榊 淳司「高級タワマン、住んでいる人は知らない「意外すぎるリスク」があった…!」(2020/11/07)現代ビジネス 株式会社講談社 2024/10/13閲覧
小川 聡仁「神戸中心部に「最後のタワマン」完成へ 市長はタワマン規制継続意向」(2024/8/10)朝日新聞 2024/9/21閲覧

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