ゲーム理論におけるゲームの一例として、企業間の販売競争があります。
企業が自社の利益を最大化するために商品を生産して市場で販売します。
このページでは、企業間の販売競争をゲームとして数式でモデル化生産量競争モデル(クールノー競争とシュタッケルベルグ競争)について紹介します。
詳細な数式の証明等については以下のサイトが参考になります。
参考文献:ゲーム理論|経済学|ワイズ ワイズ(WIIS) 2023/8/24閲覧
目次
複占市場における販売競争モデル
企業間の販売競争のしくみを理解するためにはまずは簡略化したモデルを考える必要があります。
ここでは、1つの商品(同質材)が2つの企業のみから販売される複占(ふくせん)市場を考えます。
両企業はカルテル(協定)を行うことなく商品の生産競争をするとします。
さらに単純化のために、両企業がもっている情報に差がないとします。
以上のような状況をゲーム理論にあてはめると、非協力ゲーム(両企業間に拘束条件なし)かつ完備情報ゲーム(両企業がもっている情報に差がない)であるといえます。
このような状況で両企業の販売競争について考えます。
販売競争には大きく分けてここでは生産量競争(生産量を調整して利益を最大化)と価格競争(価格を調整して利益を最大化)の2つがあります。
ここでは、価格競争を行わず、両企業がそれぞれ商品の生産量を決めて生産することで利益を最大化する生産量競争について考えます。
商品の生産量と販売価格の関係性
はじめに、商品の生産量と販売価格の関係性についてモデル化します。
まず市場全体で販売価格 p と生産量 q との関係について見ていきます。
販売価格は同質材であるため企業間で価格差がなく、需給バランスによって決まる市場価格であると考えます。
生産量競争では価格競争を行わないため、生産量を増やすほど価格が低下し、逆に生産量を減らすほど価格が上昇します。
このような関係をグラフで次のように表しました。
生産量競争では、生産量を増やすほど販売価格が低下するという関係が成り立ちます。
上のグラフでは販売価格 p を生産量 q の1次方程式で表しています。
このような関数 p(q) を逆需要関数といいます。
切片 a は生産量 q がゼロのときの販売価格 p に相当します。
この方程式を使うことで、任意の販売価格のときの生産量を求めることができます。
この商品を1社が独占して供給している場合は、独占企業が生産量の調整を通して価格を操作することができます。
このため、純粋に生産コストに対して利益が最大化されるように生産量が決まります。
一方、完全自由競争が成り立つ場合は、各社が競争して商品の生産量が増えて価格は低下していきます。
しかし、ある時点で価格が低下しすぎて商品の生産コストをまかなうことができなくなります。
このとき、生産量を1増やしたときに追加でかかる生産コストを限界費用といいます。
限界費用が存在するため、販売価格が限界費用以下になると企業は売れば売るほど赤字が広がる慈善事業になっていまします。
このため、完全自由競争では最初こそ生産量が増加して販売価格が低下していきますが、販売価格が限界費用まで下がるとそれ以上価格が下がらなくなります。
それでは、商品を生産するのが2社だけである複占(ふくせん)市場ではどうなるでしょうか。
次の項目では、複占市場における生産量競争モデルを通して生産量と価格の関係性について見ていきます。
生産量競争モデル
生産量と価格の関係を見るためには市場を単純化したモデルを使用します。
複占市場における生産量競争の代表的なモデルとして、クールノー競争とシュタッケルベルグ競争があります。
クールノー競争(Cournot competition)は両企業が同時に生産量を決定した場合の単純なモデルであり、両企業が同時に意思決定する静学ゲームです。
一方、シュタッケルベルグ競争(Stackelberg competition)は両企業のうち優位な立ち位置にある企業が先に生産量を決定し、その後でもう片方の企業が生産量を決定するモデルです。
現実世界の企業間競争では、業界首位の企業(リーダー)が事実上価格決定権をもつ場合が多いため、このような状況を想定した若干複雑なモデルです。
両企業が順番に意思決定を行うため、シュタッケルベルグ競争は動学ゲームです。
クールノー競争とシュタッケルベルグ競争では両企業が利益を最大化できる(現状変更するメリットがない)生産量が存在し、これをナッシュ均衡(Nash equilibrium)といいます。
ナッシュ均衡が存在するということは、これらの競争条件において企業が行うべき意思決定に最適解が存在することを意味します。
このため、ナッシュ均衡を求める最適化問題を解くことができれば、利益を最大化する行動を見つけることができます。
次の項目では、生産量競争における生産量と価格の関係性について定式化し、ナッシュ均衡を求める最適化問題を数式として表現します(クールノー競争とシュタッケルベルグ競争に共通の内容)。
生産量と価格の関係性
ここでは、複占市場における生産量と価格の関係性について、単純化したモデルとして数式化していきます。
複占市場においてプレイヤーである2企業(企業1,企業2)が同時に生産量を決定します。
そのため、それぞれの企業の生産量をq1, q2とすると、市場価格 p と全体の生産量 q = q1+q2 には次の関係が成り立ちます。
p = a - b(q1+q2) ・・・(1)
ここでa, bは正の定数です。
この関係式を使って企業が得る利益と生産量の関係をモデル化します。
まず、限界費用(生産量を1増やしたときに追加でかかる生産コスト)を c とおきます。
限界費用は商品の生産量に比例してかかるため、企業1の変動費は cq1 となります。
次に両企業の売上について考えます。
価格は市場価格 p のため両社で共通しますが、生産量は各社が意思決定をしています。
そのため、企業1の売上は市場価格と自社の生産量の積 pq1 で表されます。
同様に企業2の売上は pq2 です。
ここでは単純化のために生産した商品をすべて売り切ることにします。
企業1の売上 pq1 と変動費 cq1 の関係は、(1)式を変形して導出できます。
(1)式の両辺に q1 をかけて両辺から変動費 cq1 を引くと次のようになります。
pq1 - cq1 = (a - b(q1+q2)) q1 - cq1 ・・・(2)
(2)式の左辺は売上から変動費を引いているため利益(固定費控除前)を表しています。
一方で右辺は両社の生産量と限界費用から成り立ちます。
つまり、(2)式を使うことで2社の生産量と限界費用から利益を求めることができます。
(2)式の右辺を整理すると次のようになります。
pq1 - cq1 = (a - b(q1+q2) - c) q1 ・・・(3)
企業が商品生産をする目的は自社の利益を最大化することです。
そのため、企業1にとっての合理的な意思決定は、生産量 q1 を変化させることで次の値(=利益)を最大化させる最大化問題に落とし込めます。
max [ (a - b(q1+q2) - c) q1 ]
ただし、a, b, q1, q2 は正の値
同様に、企業2にとっての合理的な意思決定は、次のような最大化問題に落とし込めます。
max [ (a - b(q1+q2) - c) q2 ]
このような状況において企業1と2が自社の利益を最大化させようと競争することで市場価格が決まります。
ここまでは、クールノー競争とシュタッケルベルグ競争で共通する部分です。
しかし、クールノー競争では2企業が同時に生産量を決めるのに対し、シュタッケルベルグ競争では順番に生産量を決めるという違いがあります。
制約条件に違いがあるため、最適解であるナッシュ均衡は両モデルでそれぞれ異なります。
以下の項目では、クールノー競争とシュタッケルベルグ競争について順番に見ていきます。
クールノー競争とクールノー均衡
クールノー競争(Cournot competition)は、複占市場において企業が同時に生産量を決定する条件で利益を最大化させる生産量競争のモデルです。
名前の由来はフランスの経済学者クールノー(Antoine Augustin Cournot, 1801-1877)です。
クルーノーは1838年にミネラルウォーターの複占市場の競争を分析し、競争をする2社の両方が現状変更するメリットがない「均衡」となる生産量が存在することを示しました。
この「均衡」はのちに発展してナッシュ均衡として定義されるようになります。
このため、クールノー競争における「均衡」はナッシュ均衡であり、クールノー均衡とよびます。
2社が同時に生産量を決定するクールノー競争に対し、2社が順番に生産量を決定する場合はシュタッケルベルグ競争というモデルになります。
ゲームとしてのクールノー競争
クールノー競争をゲームとして考えると完備情報の静学ゲームであるといえます。
完備情報の静学ゲームでは、次のような条件が成立します。
・両企業間に拘束条件なし(非協力ゲーム)
・両企業がもっている情報に差がない(完備情報ゲーム)
・両企業が同時に生産量を意思決定(静学ゲーム)
一番最後の条件がシュタッケルベルグ競争との違いになります(シュタッケルベルグ競争では動学ゲーム)。
クールノー競争におけるナッシュ均衡(クールノー均衡)
クールノー競争では、両企業が利益を最大化できる(現状変更するメリットがない)生産量であるナッシュ均衡が存在します。
企業 i の利益を q1, q2 を変数とした利得関数 ui (q1, q2) で表現します。
u1(q1, q2) = (a - b(q1+q2) - c) q1
u2(q1, q2) = (a - b(q1+q2) - c) q2 ・・・(4)
クールノー競争におけるナッシュ均衡はこの方程式の解になります。
クールノー競争は静学ゲームであるため、企業1と2がそれぞれ利益の最大化を試みると、両企業の生産量は最終的に同じ値 (a - c)/3b に収束します。
この値がクールノー競争におけるナッシュ均衡解であり、クールノー均衡とよびます。
クールノー均衡における企業1,2の生産量 (s1*, s2*) = ( (a - c)/3b, (a - c)/3b )
シュタッケルベルグ競争とシュタッケルベルグ均衡
シュタッケルベルグ競争(Stackelberg competition)は、複占市場において企業が順番に生産量を決定する条件で利益を最大化させる生産量競争のモデルです。
名前の由来はドイツの経済学者シュタッケルベルグ(Heinrich Freiherr von Stackelberg, 1905-1946)です。
クールノー競争のクールノーから見て約100年後の時代の人です。
クールノー競争ではプレイヤーの2社が相手の動向がわからないまま同時に生産量を決定するのに対し、シュタッケルベルグ競争では2社が順番に生産量を決定します。
生産量を先に決定するプレイヤーはリーダー(先導者)といい、通常業界1位の企業です。
リーダーの生産量を見てから自分の意思決定をするプレイヤーをフォロワー(追随者)とよびます。
シュタッケルベルグ競争においても、競争をする2社の両方が現状変更するメリットがない「ナッシュ均衡」が存在します。
シュタッケルベルグ競争におけるナッシュ均衡をシュタッケルベルグ均衡とよびます。
シュタッケルベルグ均衡では、フォロワーが優位な立場にいるリーダーの生産量を見て(クールノー競争よりも)自社の生産量を少なく調整します。
そのため、リーダーの方が生産量が多く、フォロワーの生産量は少なくなります。
フォロワーが生産量を調整するため、クールノー均衡と比べるとシュタッケルベルグ均衡の価格は高くなります。
ゲームとしてのシュタッケルベルグ競争
シュタッケルベルグ競争をゲームとして考えると完備情報の動学ゲームであるといえます。
完備情報の動学ゲームでは、次のような条件が成立します。
・両企業間に拘束条件なし(非協力ゲーム)
・両企業がもっている情報に差がない(完備情報ゲーム)
・両企業が順番に生産量を意思決定(動学ゲーム)
プレイヤーが同時に意思決定するクールノー競争が完備情報の「静学」ゲームであるのに対し、プレイヤーが順番に意思決定するシュタッケルベルグ競争は完備情報の「動学」ゲームです。
シュタッケルベルグ競争におけるナッシュ均衡(シュタッケルベルグ均衡)
シュタッケルベルグ競争においても、両企業が利益を最大化できる(現状変更するメリットがない)生産量であるナッシュ均衡が存在します。
クールノー競争同様、企業 i の利益を q1, q2 を変数とした利得関数 ui (q1, q2) で表現します。
u1(q1, q2) = (a - b(q1+q2) - c) q1
u2(q1, q2) = (a - b(q1+q2) - c) q2 ・・・(4)
シュタッケルベルグ競争におけるナッシュ均衡もこの方程式の解になります。
静学ゲームであるクールノー競争では2企業がそれぞれ利益の最大化を試みると両企業の生産量は最終的に同じ値 (a - c)/3b に収束します(クールノー均衡)。
一方、動学ゲームであるシュタッケルベルグ競争では、優位な立場にいるリーダーが先に生産量を決定し、フォロワーはリーダーの生産量を見て生産量を調整するというプロセスになります。
そのため、クールノー均衡と比べて、リーダーの方が生産量が多くフォロワーの生産量が少なくなります。
シュタッケルベルグにおけるリーダーとフォロワーの生産量 (s1*, s2*) = ( (a - c)/2b, (a - c)/4b )
この値がシュタッケルベルグ競争におけるナッシュ均衡解であり、シュタッケルベルグ均衡とよびます。
参考文献
ゲーム理論|経済学|ワイズ ワイズ(WIIS) 2023/9/5閲覧
クールノー競争 ウィキペディア 2023/8/27閲覧
【クールノー・モデル】数量競争・均衡・反応曲線や求め方を分かりやすく どさんこ北国の経済教室 2023/8/27閲覧
シュタッケルベルグ競争 ウィキペディア 2023/9/1閲覧