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公共交通機関における3種類の運賃収受方法(整理券方式・車掌乗務・改札と信用乗車方式)

鉄道やバスなどの公共交通機関では、全ての乗客から適正な運賃を確実に受け取ることが大きな課題となっています。
電車やバスは1か所にとどまらずに移動し続けるため、全ての乗客から「運賃を確実に徴収すること」と乗車区間に応じた「適正な金額を徴収すること」の2つを達成する難易度が高いです。

このページでは、公共交通機関の3種類の運賃収受方法について紹介します。

3種類の運賃収受方法

ひとえに公共交通機関といっても、マイクロバスから長大編成の通勤列車まで様々な乗り物があるため、運賃の支払い方法も様々です。
以下では、運賃の支払い方法として、Pay-On-Entry (POE)、車掌による徴収、Proof-Of-Payment (POP) 方式の3つを順に紹介します。

Pay-On-Entry (POE) 方式

運転手席横に設置された運賃箱と整理券発券機。神奈川中央交通のバスに設置されたものである。日本の路線バスでは、乗車時に整理券を受け取り、降車時に整理券とともに乗車区間に応じた運賃を支払う整理券方式が広く採用されている。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/9/19閲覧

路線バスや路面電車のような比較的小さな乗り物では、車内で乗務員(主に運転手)に支払う Pay-On-Entry (POE) 方式を採用しています。
POE方式では、運賃は車内で乗務員に支払うか、事前に購入したチケットを提示します。

日本で広く行われている整理券方式もPOE方式の一種です。
整理券方式では、乗客がどこから乗車したかを証明するために乗車時に乗車整理券を受け取り、降車口で乗務員に整理券とともに運賃を支払うことで運賃を確実に徴収しています。

しかし、POE方式は乗客の乗降に時間がかかるため、大型の乗り物では実現困難な方法です。

車掌による徴収

POE方式では車内で運賃の支払いを行うため、乗客が多いと運転手一人だけでは対応できません(遅延につながります)。
この解決方法の1つは、車掌を乗務させて運賃を徴収することです。
車掌を乗務させる利点は、路面電車やLRTのように停留所にきっぷ売り場を設置することがコスト的に難しい公共交通機関でも対応できることです。
発展途上国では人件費が安いため、現在でもこの方式が広く見られます。
一方で先進国では車掌の人件費が高いため、コスト的に難しい徴収方法です。

Proof-Of-Payment (POP) 方式

スカイトレインのニューウエストミンスター駅に設置された自動改札機(カナダ西部・ブリティッシュコロンビア州メトロバンクーバー)。各駅に自動改札機を設置して事前にきっぷを購入しないと列車に乗車できないようにしている。自動改札機を設置することでコストがかかる代わりに不正乗車を大きく減らすことができる。乗客数が多く自動改札機を設置しても採算がとれる路線に適した方式である。出典:Wikimedia Commons, ©Northwest, CC BY-SA 4.0, 2023/9/18閲覧

乗客数が多いが車掌を多数乗務させるのがコスト的に難しい先進国の鉄道では、事前にきっぷを購入する Proof-Of-Payment (POP) 方式が採用されています。
乗客は事前に駅のきっぷ売り場を運賃を支払い、きっぷを購入することが求められます。

日本の鉄道も都市部を中心にこの方式が普及しています。
日本の多くの鉄道では、駅に改札口を設置しているため、適正なきっぷを持っていないと通れないようになっています。
改札口を設置するには駅員を配置したり、自動改札機を設置する必要があるため、非常にコストがかかる方法です。
そのため、近年では乗降客数が少ない郊外や地方を中心に改札口を設置しない場合が増えています。

一方、欧米の多くの都市の公共交通機関(LRTなど)では、改札口を設置しない方式が採用されています。
改札を設置しない代わりに不定期に駅構内や車内で検札(特別改札)を実施し、その際に適正なきっぷを所持していない場合は問答無用で高額の懲罰的な運賃が請求されるという制度です。
この際に請求される金額は事業者にとって違いますが、元の運賃の数倍~10倍または日本円で数千円から数万円程度です。
不正乗車がバレた際にペナルティを課すことで不正乗車を抑制するとともに、不正乗車による損害を取り返します。
このような方式を信用乗車方式と呼びます。

欧米の都市部の公共交通機関は公的機関により運営され、税金により運営費用の助成が行われているため、不正乗車による収入減少は税金の支出増大につながります。
そのため、特別改札は不正乗車による減収防止策として重要ですが、一方で検札担当者の追加は人件費増大につながるため、効率的な特別改札の実施が求められます。
限られた人員と労働時間の制約をふまえた上で、どのような時間・場所で特別改札を行うかが課題になっています。

日本でも郊外や地方の鉄道駅では、改札を設置するとかえって赤字になってしまうため、改札が無い無人駅が多数あります。
1両編成程度の列車では乗降口を限定して路線バス同様に運転士が運賃徴収を行っている例があります。
しかし、乗降客が多い路線では、乗降口を限定すると乗降に時間がかかり過ぎてダイヤ通りに列車を走らせることができません。
そのため、車内でも駅でも改札を行えず、事実上の信用乗車方式になってしまっている場合があります。
コロナ禍以降は鉄道会社の経営効率化が喫緊の課題となり、無人駅化が一層進んでいるため、日本でも特別改札の重要性は高まっています。

ヘルシンキ地下鉄のNiittykumpu駅構内(フィンランド南部・エスポー)。ヘルシンキ地下鉄では信用乗車方式を採用しているため駅で改札を行わず、有料ゾーンの境界を示す目的でゲートが設置されている。出典:Wikimedia Commons, ©Markus Säynevirta, CC BY-SA 4.0, 2023/9/18閲覧

 

参考文献

乗車整理券 ウィキペディア 2023/9/18閲覧
整理券方式 奈良交通 2023/9/18閲覧
Off-vehicle fare payment, TransitWiki 2023/9/18閲覧
L. Dauby and Z. Kovacs, Fare Evasion in Light Rail Systems, Transp. Res. Circ. p230-247 (2007)(全文
Proof-of-payment, Wikipedia 2023/9/20閲覧
Helsinki Metro, Wikipedia 2023/9/18閲覧

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