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価格受容性調査(PSM分析とCVM分析)

商品価格を決めるために、消費者が価格に対してどのように反応するかを見る市場調査を価格受容性調査といいます。
このページでは商品価格を決めるために役立つ調査分析手法として、PSM分析とCVM分析、コンジョイント分析について紹介します。

価格受容性調査とは

価格受容性調査(プライシング調査)は、商品価格を決めるために行うアンケート調査の手法であり、顧客がどの程度の価格なら受け入れてもらえるかを調べる定量分析の一種です。
商品価格を原価や製造コストから決めるプロダクトアウトに対し、顧客が受け入れる価格から逆算して決めるマーケットインのアプローチです。
調達・製造コストから逆算して価格を決めても、それが消費者に受け入れられるとは限りません。
そこで、既存商品の価格を変更する際にコストだけではなく、消費者の希望も考慮して決めるために行う手法が価格受容性調査です。

特に、ホテルや航空会社、鉄道会社のように固定費が高く変動費が小さいビジネスでは、個々の取引で赤字を出さないようにするよりも、季節や曜日に合わせて(顧客が受け入れられる範囲で)価格を変動させた方が全体の利益を最大化できます。
このような価格決定方針においては、顧客がどの程度の価格なら受け入れられるのかを知ることが重要になります。
そこで、アンケート調査を通して顧客の価格受容性を調査することで、価格決定につながる情報を得ることができます。

価格受容性調査の手法

価格受容性調査の手法にはいくつか種類があり、それぞれにメリット・デメリットが存在します。
ここでは、価格受容性調査の手法として、PSM分析、CVM分析、コンジョイント分析について順に紹介します。

PSM分析

PSM (Price Sensitivity Measurement) 分析(価格感度測定法)は、調査対象者に対して商品を提示し、どれくらいの価格であれば購入するかを尋ねる手法です。
主に新商品が受け入れられる価格帯を把握するために使われる調査手法です。
既存商品や類似商品がある場合は、消費者がすでに「この商品はこのくらいの価格である」という価格認識が固まっているため、あまり適さない方法です。
ただし、既存分野の製品であっても、回答者の価格認識を知るために使うことはできます。

PSM分析では、1つの商品の価格について次のような質問をします。
1.商品が高いと感じ始める価格
2.商品が安いと感じ始める価格
3.商品が高すぎて買わないと感じる価格
4.商品が安すぎて品質に不安を感じ始める価格

アンケートの回答結果を元に、価格帯別回答者数を表にまとめます。

価格帯高いと感じる価格安いと感じる価格高すぎて買わない価格安すぎて買わない価格
2,000085070
3,0002234107
4,000754320
5,00010001000

たとえば、安いと感じる価格として2,000円以上を回答した人が85人おり、高いと感じる価格として3,000円以下を回答した人が22人いることがわかります。

この表の結果について、人数を割合に直した上でグラフで可視化すると次のようになります。

PSM
PSM分析における回答結果の可視化例。ある商品について安いと感じる価格(茶色)、安すぎて買わない価格(紫色)、高いと感じる価格(緑色)、高すぎて買わないと感じる価格(水色)の4種類の価格を尋ね、回答者割合と価格をプロットしたものである。各線の交点となる価格を参考に、実際に発売する価格を決める。出典:最適な価格設定 なるほど統計学園 総務省統計局 2025/1/18閲覧

安いと感じる価格(茶色)、安すぎて買わない価格(紫色)、高いと感じる価格(緑色)、高すぎて買わないと感じる価格(水色)の4種類の価格について、回答者割合をプロットしています。
各プロットが交差する4か所の交点が指標となる価格です。
指標となる4つの価格と1つの価格帯幅を表にまとめます。

名前交点意味
最適価格安すぎて買わない価格
高すぎて買わない価格
最も拒否感がない価格
妥協価格安いと感じる価格
高いと感じる価格
価格に対する評価が分かれる価格
上限価格安いと感じる価格
高すぎて買わない価格
これ以上高いと買われなくなる価格
下限価格安すぎて買わない価格
高いと感じる価格
これ以上安いと品質を疑われる価格
受容価格帯上限価格と下限価格の間

PSM分析を行うことで、顧客が求める価格を一定の価格帯幅で知ることができます。
シンプルで設問数を減らすことができるほか、調査対象者に自由に価格を記入させるため、顧客視点での価格決定を行うことができます。
一方で、顧客に自由に価格を回答させるため、受容価格帯が実現不可能な範囲になったり、解釈が難しい結果が出ることもあります。
また、ある価格での購入率がどうなるかといった情報は得られないため、そのような場合はCVM分析を行います。

PSM分析のサンプル数は300-500程度が目安になります。
設問のシンプルで回答結果すべてが有効サンプルとなるため、比較的サンプル数が少なくて済みます。

CVM分析

CVM (Contingent Valuation Method, CVM) 分析(仮想評価法)は、調査対象者に対して複数の価格帯で商品の購入意思を尋ねる手法です。
CVM分析を行うことで、価格帯ごとの消費者の購入意向率を算出することができます。

CVM分析では、はじめに基準価格を設定し、その基準価格について購入意向を尋ねます。

質問文例:商品Aが5,000円だったら購入したいと思いますか?

購入意向を示した回答者に対しては、価格を上げて再度同様の質問を繰り返していき、購入意向が無くなる価格を調べます。
一方、基準価格で購入意向を示さない回答者に対しては、価格を下げて同様の質問を繰り返していき、購入意向が生まれる価格を調べます。

この結果から、価格ごとに「その価格で購入意向がある人の割合」を算出できます。
縦軸に購入意向率、横軸に価格をプロットした次のようなグラフを作成します。

CVM分析による干潟再生事業への世帯負担額の評価。愛知県東部を流れる豊川の河口付近の干潟とヨシ原の再生事業の事業評価を行うにあたって、地域住民(豊橋市・豊川市)が事業に対して1世帯あたりいくらまで負担してもらえるかをCVM分析により調べた結果をプロットしたものである。WTPは支払意思額であり、この結果は1世帯あたり平均で263円を負担する意思があることを表している。出典:総合水系環境整備事業の費用対効果分析方法(CVM)について 国土交通省 中部地方整備局 豊橋河川事務所(令和5年7月10日) 2024/1/18閲覧

上のグラフは、干潟・ヨシ原の再生事業の事業評価として、地域住民に対して事業に対する世帯負担額についてCVM分析を行った結果です。
負担額が0円付近では9割以上が負担の意向を示しますが、金額が上がると割合が急激に減少し500円では1割程度まで下がります。
これは非営利事業に対するCVM分析ですが、同様の分析を通して価格ごとの顧客の購入意向率から適正な価格設定を行うために参考となる情報が得られます。

CVM分析は、価格ごとの購入率をシミュレーションできるというメリットがある一方、基準価格を事前に決めた上で提示する必要があるため、純粋に消費者の視点というよりも、こちらが決めた価格に対する反応を見る形になります。

CVM分析を実施する際は基準価格を複数パターン用意し、調査対象者をランダムに割り付けます。
サンプル数は質問項目数×100サンプル程度が目安です。
たとえば、5つの価格を基準価格としてランダムに割り付ける場合は、500サンプルが必要になります。
CVM分析はPSM分析よりも複雑で設問数も多くなるため、必要サンプル数が多くなります。

コンジョイント分析

コンジョイント分析の例:アイスクリームの特徴に関する市場調査。コンジョイント分析では価格や機能などの複数の属性について、数パターンの水準を組み合わせたコンジョイントカードを提示する。被験者(アンケート回答者)は購買したいものを選んだり、購買したい順に順位づけを行うことを繰り返す。このような調査の結果を利用して、商品価格と機能のようなトレードオフの関係にある要素の組み合わせやバランスを検討し、商品設計に活用する。出典:Wikimedia Commons, ©ハッピーバニー95, CC BY-SA 4.0, 2024/4/3閲覧

コンジョイント分析とは、商品の機能や価格等の組み合わせの一覧から購入するものを選ぶ実験を繰り返し行うことで、どのような組み合わせの商品が求められているかを調べる調査手法です。
商品の「価格」と「機能」のようにトレードオフの関係になる属性についてコンジョイント分析を行い、商品設計に活用するといった使われ方がなされます。

コンジョイント分析については、次のページで解説しています。

参考コンジョイント分析とは(属性と水準の決定)

コンジョイント分析は、「価格」と「機能」のようにトレードオフ関係にある要素の最適な組み合わせを決めるための分析手法です。このページでは、コンジョイント分析について、どのような対象に適用すべきかや水準の ...

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参考文献

価格受容性調査とは? PSM分析とCVM分析を理解して価格戦略策定につなげる方法 株式会社 Quest Research 2024/1/18閲覧
価格受容性調査(pricing survey) 株式会社マーケティング・リサーチ・サービス 2024/1/18閲覧
最適な価格設定 総務省統計局 2024/1/18閲覧
価格調査のやり方|PSM分析やCVM分析で価格受容性を調べよう Fastask -ファストアスク- 株式会社ジャストシステム 2024/1/18閲覧
総合水系環境整備事業の費用対効果分析方法(CVM)について 国土交通省 中部地方整備局 豊橋河川事務所(令和5年7月10日) 2024/1/18閲覧


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