地理情報

GISにおけるベクタデータとラスタデータの使い分け

2022年8月7日

実世界の建物や道路を地図上に表現する方法として、ベクタ形式(ベクタデータ)とラスタ形式(ラスタデータ)があります。
この2つの形式は用途が異なるため、どのような情報を地図上に表現するかに応じて両者を使い分けます。
ここでは、ベクタデータとラスタデータについて紹介した上で、両者の使い分けについて解説します。

ポイント

ベクタデータ
・ポイント(点)、ライン(線)、ポリゴン(面)を組み合わせて地物を表現
・信号や鉄道路線、建物などの境界が明確な地物の表現が得意
・点の座標を組み合わせて地物の位置や形状を記号的に表現するため、地物が増えてもファイル容量の増大はゆるやか

ラスタデータ
・正方形のマス目を色分けして情報を表現
・人口分布などの連続的に変化するものを表現することが得意
・マス目を細かくすると解像度は上がるがファイル容量が飛躍的に増大

ベクタデータ

簡単なベクターデータの地図。ポイント(点)が井戸、ライン(線分)が川、ポリゴン(面)が湖を表す。出典:Wikimedia Commons, ©M. W. Toews, CC BY-SA 4.0, 2022/7/31閲覧

ベクタデータは地物(ちぶつ、建物や道路など)をポイント(点)、ライン(線)、ポリゴン(面)の3つの要素を組み合わせて表現したデータです。
ベクタデータは拡大・縮小しても図形の形が変わらず画質が劣化しないのが特徴です。
Adobe Illustratorなどのドローソフトで編集され、拡張子の種類としてはsvgなどがあります。

ベクタデータの例。左から順にポイント(点)、ライン(線)、ポリゴン(面)である。ベクタデータはこれらの3要素で構成される。

ポイントは長さや幅がない座標と属性情報(座標に付属する情報)をもつデータです。
属性情報は、そのポイントが信号であることなど地物の付属情報のことです。
地図上では幅や大きさがなく一つの点とみなせるような小さな地物を表現するのに使われます。
例として、信号や山頂(三角点)などがあります。

ラインとポリゴンは複数の点を結んだ線分や面として表現されます。
それぞれの点は座標と属性情報(座標に付属する情報)をもちます。

ラインは長さと方向があるが幅をもたないデータで、複数の点を結んだ線分として表現される地物です。
ラインは線状に伸びる地物を表現するのに使われます。
例として、鉄道路線、水道管、市町村境界などがあります。

ポリゴンは、3個以上の点とそれらを結ぶ線分で囲まれた多角形の面状の領域として表現される地物です。
ポリゴンは建物など面積をもつ地物を表現するのに使われます。
例として、建物や運動場などがあります。

ベクタデータは情報を記号的に簡略化して表現するため、境界が明確なものを表現することが得意です。

ラスタデータ

ラスタデータの例。格子状(グリッド)に並んだマス目に情報をもたせ、色や濃淡によって情報を表現する。出典:Wikimedia Commons, © Andreas -horn- Hornig, de:Benutzer:Sjr, CC BY-SA 2.5, 2022/7/30閲覧

ラスタデータ平面を格子状(グリッド)に区切り、正方形のマス目(セル、ピクセル、画素)に情報をもたせて色で表現したデータです。
ラスタデータは写真などの画像データをコンピュータ上で表現する方法です。
写真のように一見滑らかな曲線に見えても、画像を拡大するとマス目のギザギザが見えてきます。
航空写真などの画像データの解像度が高い(=1マスが小さい)ほどマス目が細かくなり、細かい形状を表現できてギザギザも目立たないようになります。
Adobe Photoshopなどのペイントソフトで編集され、拡張子の種類としてはpng, jpg, gifなどがあります。

ラスタ画像の拡大。ラスタデータは一見滑らかな線に見えても、拡大していくと格子状に区切られたデータ構造が視認できるようになり境界がギザギザしているのがわかる。出典:Wikimedia Commons, CC0, 2022/7/30閲覧

GISの背景地図にはラスタデータが使われます。
ラスタデータは各マス目に情報を持たせることができるため、気温や降水量、人口、植物の分布などの連続的な変化をグリッドで色分けして表現することができます。

GISにおけるベクタデータとラスタデータの使い分け

ベクタデータとラスタデータはどちらも同じ地物・情報を表現することができますが、それぞれ特徴があります。
ベクタデータは地図上の地物の位置や形状を表現することは得意ですが、明確な境界をもたない連続的な変化・分布を捉えることが苦手です。

次の図は、埼玉県大宮付近の市区町村を人口で色分けしたコロプレス図です。
この図ではベクタデータを使って人口分布を表現しています。

市区町村別人口(2015年)と鉄道路線(埼玉県さいたま市付近)。市区町村ごとに人口で色分けしているが、市区町村の面積や領域を無視して一律に色分けしているため、必ずしも視覚的な印象と実態が合致しない。出典:政府統計の総合窓口(e-Stat) 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査(【総計】市区町村別人口、人口動態及び世帯数、2015年)を加工して作成。

上図では、赤やオレンジの町の人口が多く、紫の町は人口が少ないです。
東京に近い南東部の人口が多く、北西部は人口が少ないという大まかな傾向を捉えることができます。

しかし、この図には主に2つの問題点があります。
①面積の影響を無視しているため、面積が小さい町があるエリアの人口が少なく、面積の大きい町のあるエリアの人口が多く見える
②1つの町の中にも人口が集中する地区と人口が少ない地区がある実態を表せていない

①の例として、上の図の下側中央に位置する志木市は面積9 km2と小さいため人口7.5万人と少なく紫色に塗られていますが、人口密度は8,000人を超えます(2022年7月1日時点)。
一方、左下の所沢市は面積72 km2と大きいため人口34万人となり緑色に塗られていますが、人口密度は5,000人を下回ります(2022年7月1日時点)。
この問題に対しては、人口を面積で割った人口密度を使うなどして面積の違いを無くすことで回避できます。

②については、各町の鉄道駅周辺は人口が集中しているのに対し、同じ町でも川沿いや郊外では人口が少ないはずですが、全て同じ色で塗られています。
この問題に対しては、市区町村単位ではなく、街区単位などより細かい区分でコロプレス図を作成することが考えられます。
しかし、適切なデータが存在しない可能性があり、人口が極端に少ない地区についてはプライバシー保護の観点で非公開にされる場合もあります。

以上のように、ベクタデータを使うと町の境界や鉄道路線や駅の位置関係を簡潔にわかりやすく表現することができる一方で、人口の分布を誤解を招かないように表現するためには工夫が必要です。

ラスタデータでは、このような連続的な「分布」を表すことが得意です。
次の図は、ほぼ同じエリアについて500mメッシュで人口の分布を表現したものです。

500mメッシュ人口(2015年)と鉄道路線(埼玉県さいたま市付近)。東京へ向かう鉄道路線沿線に人口が集中する。川越と大宮の間の線状の空白地帯は荒川とその河川敷であり、人口のメッシュデータは欠損している。出典:国土数値情報(500mメッシュ別将来推計人口データ(H30国政局推計)鉄道データ(平成30年))(国土交通省)を加工して作成。

掲載している情報の種類としては、先程のベクタデータの図と同様ですが、細かいメッシュで人口分布を表現しているため、地図から考察できる内容が増えます。
例えば、東京から郊外へ向かう鉄道路線沿線に人口が集中していることがわかります(先程のベクタデータの地図では判別が難しい)。
朝霞~志木~川越(東武東上線)、川口~浦和~大宮~上尾(高崎線)、草加~越谷~春日部(東武スカイツリーライン)沿線がそれに当たります。

このようにラスタデータは「分布」などの連続的な変化をわかりやすく捉えることができます。

ラスタデータの欠点としては、メッシュのマス目の細かくする(=解像度を高める)とファイル容量・処理時間が増大することです。
鉄道路線や駅などの記号的な情報を無理にラスタデータで表現すると、メッシュが粗くその形状がわかりづらくなるか、メッシュを細かくしてファイル容量・処理時間が増大するかの選択になります。
ベクタデータではポイント座標を組み合わせた情報で表現できるため、地物の形状を複雑に表現する必要がない場合はベクタデータで表現する方が適切になります。

参考文献

地理情報と GIS データモデル ESRIジャパン株式会社 2022/7/29閲覧
ベクタデータの3要素とは?(ポイント・ライン・ポリゴン) 株式会社パスコ 2022/7/29閲覧
初心者でもわかる!デザインでよく使われるファイル形式 株式会社SPC 2022/7/29閲覧
ベクター データ ESRIジャパン株式会社 2022/7/29閲覧
ベクター画像 ウィキペディア 2022/7/29閲覧
ラスター データ ESRIジャパン株式会社 2022/7/30閲覧
ラスタデータとは? 株式会社パスコ 2022/7/30閲覧
グリッドとは|GISのグリッド解析・活用例 空間情報クラブ 株式会社インフォマティクス 2022/7/30閲覧
ビットマップ画像 ウィキペディア 2022/7/30閲覧
志木市 ウィキペディア 2022/7/30閲覧
所沢市 ウィキペディア 2022/7/30閲覧

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