コラム

タワマンの行政効率が悪すぎる問題(神戸市のタワマン規制)

2020年に神戸市中心部でタワーマンションの新築の規制が行われ、その直前に着工した「最後のタワマン」が間もなく完成します。
このページでは、神戸のタワマン規制に絡めて、タワマンが存在することによる行政効率の悪さやタワマンのリスクについて説明します。

神戸市のタワマン規制

神戸市中心部に立地するタワーマンション(タワマン)であるアーバンライフ神戸三宮ザ・タワー(神戸市中央区)。神戸市中心部(三ノ宮駅周辺)では、2020年7月の条例により、タワマンの新規建築が事実上不可能になり、供給が限られることが確定している。タワマンは、同じようなライフステージの数百世帯が新築後に短期間で入居するため、様々なインフラの需要が突然必要になり行政効率が非常に悪くなるという問題がある。出典:Wikimedia Commons, ©Oilstreet, CC BY 2.5, 2024/9/21閲覧

神戸市中心部に建設中のタワーマンション「ベイシティタワーズ神戸 EAST」(2025年2月完成予定)は最後のタワマンとよばれています。
これは、2020年7月の神戸市の条例で神戸市中心部(三ノ宮駅周辺)で住宅等の建築物の容積率が400%以下に制限され、事実上タワーマンションの建築許可が下りなくなったためです。
「ベイシティタワーズ神戸 EAST」はこの条例施行の直前に着工したため、このマンションを最後に神戸市中心部で新築タワマンの住居を購入することはできなくなります。

都心機能誘導地区の概要(神戸市中央区)。神戸市中心部の三ノ宮駅周辺では、住宅用建築物の容積率が400%以下に制限されるため、2020年7月の条例施行後はいわゆるタワーマンション(タワマン)の新規建設は不可能となった。出典:特別用途地区「都心機能誘導地区」 神戸市 2024/9/21閲覧

上の地図は、神戸市の条例でのタワマン新築規制エリア(オレンジ+水色)です。
東は新神戸駅から西は神戸駅まで、中心部の広いエリアでタワマンの新築が規制されています。

タワマンは行政効率が悪い

神戸市がこの規制を行う検討過程では、タワマンの行政効率の悪さが指摘されています。
神戸以外のタワマンの例を見ても、タワマンの新築には様々な問題点が存在します。

まず、タワマンが建設されると同じようなライフステージの数百世帯が新築後に短期間で入居します。
このため、水道などの生活インフラ、鉄道などの交通インフラ(輸送力)の需要が短期間に急増し、行政は対応に追われて多くの手間とコストがかかり、住民はニーズが満たされない点に不満を感じます。
たとえば、周辺に多数のタワーマンションが建設されたエリアでは、通勤ラッシュ時に駅が混雑して入場制限がかかることもあります。
タワマンが密集する武蔵小杉(川崎市中原区)や勝どき(東京都中央区)などで問題となっています。

さらに、入居世帯は若年夫婦が多いため、同時期に子ども産みます。
そのため、子どもが成長すると数年で小学校の児童が急増してしまい、既存の学校施設では対応できなくなります。
そこで、敷地内や近隣にプレハブ校舎を建設して授業を行ったり、既存の小学校から見えるような近距離に小学校を新設するような例もあります。
たとえば、タワマンが林立する豊洲(東京都江東区)では、児童の急増に対応するために既存の豊洲小学校からわずか400m西(徒歩6分)の場所に豊洲西小学校(2015年開校)が設置されました。

タワマン新築に伴うインフラ需要増加は急すぎるため、行政の対応は必然的に後手に回ります。
そのため、住民は不便を甘受せざるを得ず、行政は急なインフラ増強(小学校新設など)への対応の手間とコストがかかり、タワマンと無関係の地域住民からも集めた税金がタワマン対応に使われます。
さらにたちが悪いことに、タワマン世帯のライフステージが類似しているため、急激に児童が増加した小学校も、タワマン入居者の子ども(ボリュームゾーン)が卒業すると一気に児童数が減少して過剰設備になってしまいます。
このように、ごく短期間しか使われないインフラを突然要求され、すぐに使わなくなるという問題が発生するため、行政側も安易にインフラを増強することが難しいという課題があります。

タワマンとニュータウン

鶴牧東公園のはげ山から望む多摩ニュータウン鶴牧・落合地区(東京都多摩市)。多摩ニュータウンは戸建住宅と集合住宅がバランスよく配置されたニュータウンであり、歩車分離や緑地の確保など様々な工夫がなされている。一方で、造成当初は不要であった駐車場の確保など社会の変化による新しい課題が発生したり、同じライフステージの世帯が一斉入居したことによる極端な高齢化などの課題も発生している。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/9/21閲覧

高度経済成長期に造成された多摩ニュータウンも現代のタワマンと同様にライフステージが近い世帯ばかりであることに起因する問題を抱えています。
住宅難の1960年代に造成された多摩ニュータウンは先進的な設備で人気を博しましたが、人気が故にライフステージが似た世帯が一斉に入居したため、現在では極端な高齢化が問題となっています。
一方で、少し遅れて造成された千葉ニュータウンは不人気で計画通りに入居が進まず開発は失敗扱いされていますが、造成当初に一斉に入居せずに長い時間をかけて徐々に入居していたため、世帯構成が多様になって多摩ニュータウンのような極端な高齢化やインフラ不足が問題になりにくいという皮肉な状況になっています。
都市部のタワマンもおおむね人気で多摩ニュータウン造成初期と同じような入居状況なので、将来的に高齢化問題が発生すると考えられます。

一方でニュータウンとタワマンの違いとして、土地の広さと他人との共有か否かというものがあります。
まず土地の広さですが、郊外型のニュータウンは比較的広い土地を確保できるため、避難所の設置などの防災面では比較的対応に余裕があります。
しかし、神戸市三宮のような都心部では土地の確保も困難であるため、タワマンのような大規模な住宅用建築物は災害対応面でも課題があります。

次に他人との共有か否かという点です。
多摩ニュータウンには戸建住宅も多数あり、これらは個人が所有する物件なので全て独断で修繕・解体することができます。
多摩ニュータウンにもマンションがあり、マンションの修繕や解体には所有者間の同意が必要です。
これのことはタワマン含む集合住宅に共通しますが、ニュータウンのマンションは一般マンションと同じような規模であるため、一般マンションと同じ問題しか発生しません。
しかし、タワマンには特有の問題が発生します。

所有権の分割という問題

タワマン特有の問題として、一棟の建物を数百世帯で共有するため、所有権が分割された不動産であるということがあります。
タワマンは階数や部屋の広さなどによって同じ建物内でも価格帯に幅があり、ニュータウンよりも購入者層に多様性があります。
日本人だけではなく外国人も購入し、背伸びしてタワマンを買った世帯もいれば富裕層が節税目的で購入する場合もあります。
所有者の中でもタワマンへの考え方の差が大きく、修繕積立金の増額や大規模改修への姿勢が異なります。
そもそも所有者の人数が数百世帯と多い中で考え方もばらばらであると、何か問題が発生したときに適切な改善を行えずに問題が悪化してしまうリスクがあります。
実際、神戸市の久元市長(任2013-)は、将来的な人口減少社会が確定している中で高層タワーマンションは維持困難になり、数十年後に荒廃するリスクを指摘しています。

このように1つの建築物の所有者が多数いるために適切な意思決定ができずに廃墟化してしまう問題は前例があります。
新潟県湯沢町はスキーリゾートとして1990年代にブームになった町であり、高度経済成長期から1990年代にかけて多数のリゾートマンションが建設・分譲されました。
しかし、バブル崩壊後の土地価格暴落によって価値が低下し、管理費の滞納が相次ぎました。
湯沢町が東京に開設している湯沢町役場東京事務所は、リゾートマンションの固定資産税滞納者への取り立てを主な業務としていると揶揄されています。
このように所有者間で考え方の差が大きく、毎月の管理費はおろか固定資産税すら払わない所有者もいるため、管理組合の合意形成と追加費用が必要な大規模修繕も困難になっています。
中には、廃墟化してしまった例もあります。

リゾートマンションはたとえ必要がなくなっても所有している限り管理費を支払う必要があります。
もはや売却が困難な物件も多いですが、立て壊しには所有者間の合意形成が必要であり、所有者数が多い大規模なマンションほど合意形成が困難です。
タワマンはリゾートマンション以上に所有者数が多い上、外国人など日本非居住者も所有しているため、リゾートマンションと同様もしくはそれ以上に合意形成が困難になる可能性があります。
さらに悪いことに、タワマンは極端に大規模な建築物であるため、一般マンションとは異なり修繕・解体方法に確立されていない部分があり、一般マンションよりも工事費が割高になると想定されています。

このように、タワマンは行政効率の悪さや数百世帯による合意形成が必要な共同住宅であるという問題点があるため、神戸市によるタワマン規制は数十年後のまちづくりを考えた長期的な視野に基づいた大局的な対応であると言えます。

参考文献

小川 聡仁「神戸中心部に「最後のタワマン」完成へ 市長はタワマン規制継続意向」(2024/8/10)朝日新聞 2024/9/21閲覧
神戸市都心部のタワマン規制、条例改正から3年 久元市長「まちの荒廃防ぐ」 人口減招くとの指摘も(2023/11/21)神戸新聞 2024/9/21閲覧
満山 堅太郎「「廃墟化」発言で話題の神戸市「タワマン規制」、背景にあった明石市との微妙な関係」(2024/9/13)楽待不動産新聞 2024/9/21閲覧
鈴木 貴博「「タワマンが廃墟になる」神戸市長の主張は的ハズレ!むしろ資産価値が上昇するワケ」(2024/8/23)ダイヤモンドオンライン 2024/9/21閲覧
江東区立豊洲西小学校 ウィキペディア 2024/9/21閲覧
吉川 祐介「バブル時代に数千万円した“ゴージャスマンション”が10万円まで大暴落…新潟・湯沢の「負動産」が抱える事情」(2024/2/2)文春オンライン 2024/9/21閲覧

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