2025年の共通テストでは、新課程の「地理総合、地理探究」と過年度生(浪人生)向けの「旧地理B」の2本立てでした(実際には地理総合と旧地理Aもあるが)。
高校地理の過去問解説では上記2科目分の解説(過去問解説はこちら)を作成したので、このページでは今年の共通テストを解いてみた個人的な雑感について書きます(共通テストの解説を2科目分作っていたら投稿が2月になりました)。
暗記ではなく読解力と分析
今年に限らないですが、以前のセンター試験と比べて近年の共通テストは本当に暗記中心では太刀打ちできないように作られていると感じます。
もちろん、単純な知識問題もあるのですが、その一方で問題文から新しい知識を得て自分が持っている知識と組み合わせて使うような問題が増えているように感じます。
今年の問題で象徴的なのは、「地理総合、地理探究」の第6問の問5です。
モーリシャスとモルディブに関する4つの文章から誤りを含む文を1つ選ぶ問題です。
この問題の特徴は、表でモーリシャスとモルディブに関する基礎知識が与えられ、両国に関する知識がゼロでも良いように設計されている点です。
詳しくはこちらのページで解説していますが、端的に言うと、モーリシャスの宗教は「フランス統治期に導入された移民労働者の宗教が反映されている」ことを誤りだと見抜く問題です。
これは決してモーリシャスに関する知識問題ではありません。
必要な知識は、ヒンドゥー教がインドの宗教であることと、インドの元宗主国がイギリスであることです。
問題の表より、モーリシャスの宗教はヒンドゥー教であることがわかり、そこからインドからの移民労働者の宗教がモーリシャスの宗教に影響していることがわかります。
そして、モーリシャスの旧宗主国の中にイギリスがあること(フランスもある)から、イギリスの統治期に同じイギリス植民地のインドから移民労働者が導入された結果、現在のモーリシャスの宗教がヒンドゥー教になっていることが推測できます。
このように、インドの宗教と旧宗主国に関する知識と問題で与えられたモーリシャスに関する知識を組み合わせて推測することで正解にたどり着けるという問題になっています。
従来の知識詰め込み型教育に対する批判をふまえ、難しい知識問題ではなく、基本的な知識と与えられた知識を組み合わせて使う形式に変わってきていることの現れです。
一方で組み合わせを答える問題が多く、1問の中で実質2問正答しないと点数がもらえないなど、考える力というよりも情報処理の速度を競う側面も否めません。
特に英語などの他教科で分量が多過ぎるなどの批判を聞きます。
世界地図を見ているか
知識がなくても、世界地図を眺めていれば答えを出せる問題もあります。
「地理総合、地理探究」の第6問の問1です。
インド洋沿岸の4地点の中から熱帯低気圧(サイクロン)の上陸頻度が最も低いものを選ぶ問題です。
答えはソマリア南部です。
これは赤道直下では熱帯低気圧が発生しないことをふまえて答えるのが本筋なのかもしれません。
しかし、ソマリアに砂漠が広がることを知っていれば、ソマリアに熱帯低気圧が襲来しないことは推測できます。
なぜなら、熱帯低気圧が襲来する=まとまった雨が降る=砂漠にはならない(雨季乾季があるサバナ気候になるはず)ということから、ソマリアに熱帯低気圧が来ないことが推察できます。
世界地図を眺めてソマリアに砂漠が広がっていることが頭に入っていれば、このような解き方もできます。
ニセコが出題
ニセコはコロナ前から良質なパウダースノーのスキー場を求めてインバウンド観光客が殺到しました。
今回、旧地理B 第5問の地域調査でニセコが取り上げられ、問題の中でも「ラーメン1杯3,000円」や「ホテルが1泊10万円でも満室」などニセコの現状が垣間見える問題となっています。
さらに、問4ではニセコの土地バブルが問題となっていて、ニセコの現状から「土地価格の上昇」を答える問題となっています。
ニセコが取り上げられたのも驚きでしたが、ニセコの土地価格の上昇を受験生に答えさせる問題が出たのはもっと驚きでした。
もちろんニセコに関するローカルな知識がなくても解ける問題にはなっていますが、教科書に書かれている内容だけではなく、今日本で何が起きているのかについて知っておくことも重要です。
同じ第5問の問5では、2012年から2022年までのニセコ地区の町別の宿泊客数の推移のグラフが2つ与えられ、どちらが日本人でどちらが外国人かを選ばせる問題が出題されました。
この問題は、コロナ禍の入国制限でで2021年に外国人のみ宿泊客数がゼロに落ち込んでいることから見分ける問題です。
コロナ禍に入国制限があったことは、ニュースを見ていれば誰でも覚えていることですが、その一方で教科書には書いていません。
これも、教科書だけを読むのではなく社会で何が起きているかについて最低限のアンテナを張っていないと解けない問題として象徴的です。
【参考】ニセコの土地バブルについて(吉川祐介さん動画)
ちなみに、ニセコに関しては、テスト前の1月3日に吉川祐介さんがYoutubeでニセコの乱開発・土地バブルについて取り上げた動画を公開されていました。
吉川さんはYoutubeで放棄分譲地などの不動産関連の情報発信をされている方です。
普段は千葉県を中心に活動されているので北海道を取り上げるのは珍しいのですが、ちょうどタイムリーに取り上げた直後の共通テスト出題でした。
参考文献
資産価値ZERO -限界ニュータウン探訪記-(吉川祐介さんYoutubeチャンネル) Youtube 2025/2/1閲覧
URBANSPRAWL -限界ニュータウン探訪記-(吉川祐介さんブログ) 2025/2/1閲覧