人間が社会生活をおくるにあたって、時刻という概念は重要です。
現在の時刻は地球上のどこにいるかによって変化します。
ここでは時刻に関わる概念である標準時とタイムゾーン、サマータイムについてまとめ、最後に時差の計算方法を解説します。
標準時
昔は太陽の動きを利用して時刻を決めていたため、町を移動すると時刻が変わってしまいました。
そのため、旅人は町を移動するごとに時計の針を合わせる必要がありました。
19世紀になると、鉄道ができたことで短時間で長距離の移動が可能になり、それまで以上に頻繁に時計を調整することが必要になり、鉄道の運行にも支障が生じました。
そこで、1840年代にイギリスで全ての鉄道が同じ時刻を使う鉄道時間という取り決めが生まれました。
鉄道時間はイギリス全土に広まり、イギリス全体で単一の時刻を利用するようになりました。
鉄道時間のように、広い地域で共通して使う時刻のことを標準時といいます。
一つの国の中で時刻が異なると不便なので、国土の小さな国は一つの標準時を使います。
東西に国土が広い国が同じ標準時を使うと、同じ時刻でも地域によって実際の日の出や日の入りの時刻の差が大きくなりすぎるため、地域ごとに経度に合わせた時刻を使用することが多いです。
タイムゾーン(標準時間帯)
同じ時刻を使う地域をまとめてタイムゾーン(等時帯、標準時間帯、時間帯)といいます。
タイムゾーンはおおむね経線にそって南北に広がります。
次の図は世界の国と地域をタイムゾーンごとに色分けした地図です。
時刻を決める基準となっているのが、ロンドンのグリニッジ天文台です。
グリニッジ天文台を通る経線を経度0°と決め、その位置の時刻(=ロンドンの時刻)をグリニッジ標準時(GMT, Greenwich Mean Time )といいます。
現在では、GMTを元に原子時計を使ってより厳密に時刻を定義した協定世界時(UTC, Coordinated Universal Time)が標準時として使われています。
地球は一日で一回転(360°)し、一日は24時間なので、360÷24よりおおむね経度15°ごとに1時間ずらした(1時間の時差がある)時刻を標準時とすることが多いです。
標準時を決める基準とする経線を標準時子午線といいます。
日本では兵庫県明石市に東経135°の経線が通っているため、これを標準時子午線として日本標準時(JST, Japan Standard Time)を決めています。
JSTは135÷15より、UTCよりも9時間進んだ時刻であり、日本のタイムゾーンはUTC+9です。
ロシアは国土が東西に広大に広がるため、UTC+2からUTC+12まで11もの標準時があります。
北極や南極に近いと短い距離で経度が変化することも標準時の多さを後押ししています。
国土が東西に広いにもかかわらず一つの標準時を使っているのが中国(UTC+8)です。
しかも、標準時子午線は北京に合わせた東経120°の経線なので、南中時刻は中国東端で午前11時ごろ、西端に至っては午後3時半ごろになります。
西端部で国境を接するアフガニスタン(UTC+4:30)とは国境で3時間半の時差があります。
西端部では日の出前の暗闇のうちからに学校がはじまります。
タイムゾーンは他国との時差を計算しやすくするために、UTCからの時差を1時間単位で設定している国・地域が多数派です。
しかし、イラン(UTC+3:30)やインド(UTC+5:30)のように地域の事情に合わせて30分単位の時差がある国・地域もあります。
このようにUTCからの時差が1時間単位にならないタイムゾーンを独立時間帯とよびます。
自国の位置から大きくずれた標準時を採用している国もあります。
シンガポールは東経103°に位置する都市国家ですが、標準子午線は東経105°ではなく、120°を使用したUTC+8です。
これは、隣国のマレーシアが国内の時差解消のために標準時を変更した際に、マレーシアとの時差をなくすためにシンガポールが追随したためです。
サマータイム
欧米諸国の風習として、夏季に時計の針を一時間進めるサマータイム(夏時間)という制度があります。
サマータイムは夏の日中の時間を有効活用することを目的としたもので、一時間早めた時刻を夏時間といいます。
サマータイムは欧米諸国を中心に四季がある中高緯度地域で採用されています。
サマータイムを実施している地域の多くでは、本来の標準時(冬時間)よりも夏時間を使っている期間の方が長いです。
たとえば、アメリカ合衆国では、3月の第2日曜日午前2時から11月第1日曜日午前2時までがサマータイムです。
国によってサマータイムの開始日と終了日がバラバラなので、切り替え時期の移動はややこしいです。
さらに、南半球に位置するオーストラリアは北半球とは季節が逆転するため、サマータイムは10月第1日曜日から翌年の4月第1日曜日までになります。
日本でも第二次世界大戦後の連合国(GHQ)占領下の1948年にサマータイムが導入されましたが、日本の生活習慣に合わずに4年で廃止されています。
時差の計算
標準時が異なる地域を移動する際には、時計の針を動かす必要があります。
特に影響が大きいのは短時間で長距離を移動する航空機で、出発地と到着地の間の時差が半日以上あることも珍しくありません。
ここでは日本航空の時刻表を例に、時差の計算について解説します。
例題1
2021年の1月1日の11:20に東京(羽田)を出発し、同日16:20にバンコク(スワンナプーム)に到着する飛行機の飛行時間を計算します。
日本とタイの間には時差があるため、飛行時間は5時間ではありません。
日本はUTC+9に対し、バンコクは東経105°を標準子午線としたUTC+7であり、9-7=2時間の時差があります。
ここでの鉄則は、飛行機に乗った瞬間から、時計の針を到着地の時刻に合わせることです。
これは、実際に飛行機に乗るときに時差ボケを少しでもマシにするためのノウハウです。
まずは、飛行機が東京を出発したときにバンコクの時間を考えます。
バンコクは日本よりも西にある(東経の経度が小さい)ので日本の方が2時間時刻は進んでいます。
そのため、飛行機が東京を出たとき、バンコクの時間では09:20です。
バンコクの到着時刻は16:20なので、実際の飛行時間は7時間になります。
例題2
2020年9月1日の18:30に東京(羽田)を出発し、12時間55分後にニューヨーク(JFK)に到着したときの現地時刻を計算します。
ニューヨークは西経75°の経線を標準子午線としているUTC-5です。
まず、東京を飛行機が出発したときのニューヨークの時刻を計算します。
東京は東経、ニューヨークは西経であるため、まずは東京と本初子午線のあるロンドンの時刻を考えます。
飛行機を出発したとき、UTC+9の東京が18:30なので、UTCのロンドンは9時間遅れで、同日の9:30と求められます。
次にロンドンの時刻からニューヨークの時刻を計算します。
ニューヨークはUTC-5なので、ロンドンよりさらに5時間遅れます。
ロンドンが9:30のとき、ニューヨークは同日の4:30です。
次にニューヨーク時間の9月1日4:30に東京を出発した飛行機は、12時間55分後にニューヨークに到着します。
そのため、飛行機が到着したときのニューヨークの時間は17:25と求まりました。
しかし、これは誤りです。
ニューヨークはサマータイムを実施しているため、時刻は1時間進んで18:25が正解です。
ちなみに、ロンドンもサマータイムを実施しているので、飛行機が出発したときのロンドンの本当の時刻は9:30ではなく10:30でした。
12時間以上も飛行機に乗っていたのに、出発時刻と到着時刻がほぼ同じです。
日付変更線をまたいだ路線では、出発日の前日に到着したり(例:未明に日本を出発しハワイへ行く場合)、出発日の翌々日に到着する(夜遅くにアメリカ大陸を出発し日本へ行く長距離路線の場合)こともあります。
参考文献
鉄道時間 ウィキペディア 2021/1/7閲覧
時計の知識 シチズンサポート 2021/1/7閲覧
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
シンガポールと日本の時差はなぜ1時間だけなのか あじあ 2021/1/7閲覧
サマータイムとは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/7閲覧
夏時間 ウィキペディア 2021/1/7閲覧
アメリカの時差と現在時刻 Time-j,net 世界時計 - 世界の時間と時差 2021/1/7閲覧
夏はオーストラリアがサマータイム期間に!日本との時差は? JTB 2021/1/7閲覧
時刻表 日本航空 2021/1/7閲覧