地形 系統地理

楯状地と卓状地の違い(地質構造と地形の対応)

先カンブリア時代(5-6億年以上前)よりも後に造山運動がおきていない安定陸塊(クラトン)には、大規模な平坦地が広がっています。
安定陸塊に広がる平坦地は、その地質構造から楯状地卓状地に分類されます。
ここでは、楯状地と卓状地について解説します。

楯状地とその地形(準平原・残丘)

カナダ楯状地の風景(カナダ・マニトバ州)。長年にわたる侵食のため、山地はほとんどみられない。出典:Wikimedia Commons, ©Green slash, CC BY-SA 3.0, 2021/1/12閲覧

先カンブリア時代の古い岩盤が地表に露出し、その上にほとんど堆積していないような地質構造の地域を楯状地といいます。

楯状地はその名の通り、盾を伏せたようななだらかな地形が広がります。
楯状地は大陸の中核部を形成する地質的に安定した場所です。
造山運動をうけない長い間に侵食によって山が削られて地形的には準平原となり、ゆるやかな起伏しかみられません。
準平原には、かたい部分が侵食から取り残されて孤立した丘をつくる残丘(モナドノック)という地形が点在しています。

楯状地としては、カナダ楯状地(カナダ東部)やバルト楯状地(スウェーデン・フィンランド)、オーストラリア楯状地(オーストラリア西部)があります。

以下の図は世界の地質構造の分布で、楯状地はオレンジ色の場所です。

世界の地質区の分布。火山地形は巨大火成岩岩石区を指す。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, Public domain,  2021/1/10閲覧

卓状地とその地形(構造平野・メサ・ビュート・ケスタ)

先カンブリア時代の古い岩盤の上に水平に堆積物が堆積している地質構造の地域を卓状地(プラットフォーム)といいます。

卓状地楯状地の周囲に広がる平坦な場所で、上の地質の分布の地図でピンク色の地域です。
楯状地との違いは、古い岩盤の上に水平な堆積物の地層が堆積していることです。

古い岩盤の平地が海面上昇で一度海に沈んで土砂が堆積した後に、海面低下で再び陸地になったものが卓状地です。
卓状地表面は海底で堆積した堆積層そのものではなく、侵食によって削られて水平になったものです。

卓状地の例としては、ロシア卓状地(東ヨーロッパ平原、ロシア西部~東ヨーロッパ諸国)とシベリア卓状地(ロシア)がありあます。

卓状地の地形

卓状地には構造平野とよばれる地形が広がっています。
構造平野は平坦である理由が主に地質構造(卓状地であること)に起因する平野で、かたい岩石が侵食から取り残された地形がみられます。
構造平野で見られる小地形として、以下ではメサ、ビュート、ケスタについて紹介します。

メサ

モニュメントバレー(米アリゾナ州)のメサ地形。出典:Wikimedia Commons, ©J Brew, CC BY-SA 3.0, 2021/1/13閲覧

地層のかたい部分が侵食から取り残されて台状に残っている地形をメサといいます。

メサは頂上部が崖で囲まれた広い平坦地となっているのが特徴で、その形からテーブルマウンテンとよばれることもあります。
メサ自体もスペイン語でテーブルを意味するので、メサとテーブルマウンテンはほとんど同じ意味です。
ケープタウン(南アフリカ)にあるテーブルマウンテンが有名です。

ケープタウン(南アフリカ南部)のテーブルマウンテン。出典:Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0, 2021/1/13閲覧

ビュート

ビュート地形であるデビルスタワー(米ワイオミング州)。出典:Wikimedia Commons, ©B D, CC BY 2.0, 2021/1/13閲覧

メサが侵食されて塔状になった地形をビュートといいます。

メサとビュートの違いは、頂上の平坦部の幅と台の高さのどちらが大きいかによります。
平坦部の幅の方が大きい場合はメサ台の高さの方が大きい場合はビュートです。

ケスタ

マガリスバーグ山脈(南アフリカ北部)のケスタ地形。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/1/13閲覧

かたい地層とやわらかい地層が交互に堆積している地層がゆるやかに傾斜していると、やわらかい地層だけが侵食により削られて丘になります。
このような丘が連続して分布している地形をケスタといいます。

ケスタは、かたい層側の斜面はゆるやかな傾斜になっているのに対し、やわらかい地層側の斜面は削られて急斜面になっているのが特徴です。

ケスタ地形の模式図。濃い色がかたい地層で、薄い色がやわらかい地層である。濃い色の地層が地表に出ている場所はゆるやかな斜面であるのに対し、薄い色が地表に出ている場所は侵食により削られて急斜面になっている。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/1/13閲覧

ケスタ地形の急斜面は日当たりがよく、またやわらかい地層のため水はけがよく、ブドウをはじめとする果樹園に適しています。
パリ盆地(フランス)では、水はけがよいケスタ地形の急斜面を利用してワイン用のブドウ栽培がおこなわれています。
パリ盆地東部のシャンパーニュ地方はシャンパンの語源にもなり、ワインの産地として有名です。

ケスタ地形を利用して栽培されるブドウ畑(フランス東部・ブルゴーニュ地方)。出典:Wikimedia Commons, ©Arnaud 25, CC BY-SA 3.0, 2021/4/23閲覧

いくつもの丘が線状に並ぶ地形は、戦争における防衛線としても活用されます。
第二次世界大戦でフランスはドイツに対する防衛のため、パリ盆地のケスタ地形を使ってマジノ線とよばれる要塞線をつくりました。

ケスタ地形は他にロンドン盆地(イギリス)や五大湖(アメリカ・カナダ)周辺にもみられます。

ナイアガラの滝(米ニューヨーク州・カナダオンタリオ州)は、ケスタ地形の急斜面の部分にできた滝です。
やわらかい地層が露出している場所のため、滝の裏側は大きくえぐられています。
現在も侵食が進んでいる場所なので、滝としての景観を保つために流水量を減らして余分な水を使って水力発電を行っています。

ケスタ地形の急斜面が滝になったナイアガラの滝(米ニューヨーク州~カナダ・オンタリオ州)。出典:Wikimedia Commons, ©ErwinMeier, CC BY-SA 3.0, 2021/1/13閲覧

楯状地と卓状地の違い

最後に安定陸塊を構成する平坦な地質構造である楯状地卓状地の違いを表にまとめます。

楯状地 卓状地(プラットフォーム)
地質構造 大陸地殻が露出 大陸地殻の上に水平な堆積層
典型的な地形 準平原 構造平野
メサ、ビュート、ケスタ
分布する地域 カナダ楯状地(カナダ東部)、バルト楯状地(スウェーデン・フィンランド)、オーストラリア楯状地(オーストラリア西部) ロシア卓状地(東ヨーロッパ平原、ロシア西部~東ヨーロッパ諸国)、シベリア卓状地(ロシア)

参考文献

先カンブリア時代とは コトバンク 2021/1/12閲覧
安定陸塊とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/12閲覧
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3.地質を反映した地形 国土地理院 2021/1/17閲覧
カナダ楯状地とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/12閲覧
卓状地とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、デジタル大辞泉の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/12閲覧
プラットフォーム(地質) ウィキペディア 2021/1/12閲覧
片平博文他 「新詳地理B」帝国書院(2020)
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メサとは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、デジタル大辞泉の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/13閲覧
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テーブルマウンテンとは コトバンク デジタル大辞泉の解説 2021/1/13閲覧
ビュートとは ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、デジタル大辞泉の解説、世界大百科事典 第2版の解説 2021/1/13閲覧
ビュート(地形) ウィキペディア 2021/1/13閲覧
ケスタとは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、デジタル大辞泉の解説、百科事典マイペディアの解説 2021/1/13閲覧
恩田匠「シャンパーニュ地方におけるブドウの栽培」 醸協 110(5) 306-317 (2015)
シャンパーニュとは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 2021/1/13閲覧
マジノ線とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、世界大百科事典 第2版の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/13閲覧
ナイアガラ滝とは コトバンク 世界大百科事典 第2版の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/13閲覧

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