地殻変動などの地形をつくる動きが活発に行われる造山帯では、大規模な山脈をつくる造山運動がおきます。
ここでは造山帯の分類(新期造山帯・古期造山帯、安定陸塊)とそれぞれの分布について解説していきます。
変動帯と造山運動、造山帯の概念については、次のページで解説しています。
参考変動帯と安定地域・造山運動と造山帯
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新期造山帯・古期造山帯の分布
造山帯は現在または過去にプレート境界(狭まる境界=変動帯)であった場所です。
そのため、同じ造山帯であっても造山運動をうけた(プレート境界であった)時期によって分類できます。
次の地図は世界の造山帯の分布を示したものです。
比較的新しい時代(中生代~新生代、2億5000万年前以降)に造山運動をうけた(プレート境界があった)場所を新期造山帯といいます(上図うすだいだい色)。
新期造山帯は現在もプレートの境界となっているため、地図上では線状に分布しています。
新期造山帯にはアルプス=ヒマラヤ造山帯と環太平洋造山帯の2つがあります。
一方、古生代(5億4000万~2億5000万年前)に造山運動をうけ、現在は変動帯ではない場所にある造山帯を古期造山帯といいます(上図黄褐色)。
古期造山帯は現在のプレート境界とは異なる場所に分散して分布しています。
新期造山帯は造山運動をうけてから日が浅いので侵食が進んでおらず険しい山脈が多いのに対し、古期造山帯は造山運動をうけてから時間がたっているので雨水の侵食で削られてなだらかな山地である場合が多いです。
だだし、古期造山帯であっても標高が高く険しい山脈もあります。
断層運動で再隆起した天山(テンシャン)山脈(中国北西部~カザフスタン・キルギス)やアルタイ山脈(中国北西部・ロシア・モンゴル)が一例です。
更に古い先カンブリア時代(5億4000万年前以前)に造山運動をうけ、その後は造山運動をうけていない場所を安定陸塊といいます(上図緑色)。
安定陸塊は古期造山帯よりさらに古い時代に造山運動をうけたため、山は侵食されて消滅し、比較的平坦な平原が広がります。
ここからは主な造山帯について個別にみていきます。
アルプス=ヒマラヤ造山帯
アルプス=ヒマラヤ造山帯は、ヨーロッパのアルプス山脈周辺からアナトリア半島(トルコ)、イラン高原、ヒマラヤ山脈を通り、インドネシアまで続く新期造山帯です。
西はピレネー山脈(フランス・スペイン)やアフリカ北部のアトラス山脈(モロッコ・アルジェリア・チュニジア)、イタリア半島を縦貫するアペニン山脈(イタリア)も含みます。
一方、東はヒマラヤ山脈(インド・中国ほか)を通り、インドネシアで環太平洋造山帯に達します。
地形的な特徴としては、造山帯に沿って伸びる山脈の北側に標高が高い高原があり(イラン高原やチベット高原)、南側は平野や浅い海になっています(地中海やペルシャ湾、インド北部のヒンドスタン平原)。
アルプス=ヒマラヤ造山帯は、北方のユーラシアプレートと南側のプレートの境界に沿って伸びています。
このプレート境界の多くは大陸上にあり、狭まる境界(収束境界)の中でも大陸プレート同士が衝突する衝突帯となっています。
このため、アルプス=ヒマラヤ造山帯は火山が少なく、衝突帯に典型的な褶曲(しゅうきょく)が多くみられます。
一方、アルプス=ヒマラヤ造山帯の中でも例外的に沈み込み帯になっている場所では、火山も見られます。
沈み込み帯付近に位置して火山が見られる場所としては、イタリア半島周辺やアナトリア半島(トルコ)、インドネシアなどがあります。
アルプス=ヒマラヤ造山帯に属する地域をまとめます。
アトラス山脈(モロッコ・アルジェリア・チュニジア)
ピレネー山脈(フランス・スペイン)
アルプス山脈(フランス・イタリア・スイス・オーストリア)
ディナルアルプス山脈(スロベニア~マケドニア)
アペニン山脈(イタリア)
カルパチア山脈(ポーランド、ウクライナ、ルーマニア他)
バルカン半島(ギリシャ・ルーマニア他)
アナトリア半島(アナトリア高原、トルコ)
カフカス山脈(コーカサス山脈、ロシア、ジョージア、アゼルバイジャン)
エルブールズ山脈(イラン北部)
イラン高原(イラン)
ザグロス山脈(イラン南西部)
ヒンドゥークシ山脈(ヒンドゥークシュ山脈、アフガニスタン北東部~パキスタン北東部)
パミール高原(中国・タジキスタン・アフガニスタン他)
カラコルム山脈(インド・パキスタン・中国)
ヒマラヤ山脈(中国・インド・ネパール・ブータン)
チベット高原(中国)
大スンダ列島(インドネシア西部)
環太平洋造山帯
環太平洋造山帯は、太平洋を取り囲むように存在する新期造山帯です。
ニュージーランドから時計回りにニューギニア島(インドネシア・パプアニューギニア)、インドネシア、フィリピン諸島、日本列島、アラスカのアリューシャン列島、北アメリカのロッキー山脈を経由して南アメリカのアンデス山脈まで伸びています。
環太平洋造山帯は太平洋の沿岸を沿うように広がり、太平洋プレートと周囲のプレートの境界に位置しています。
プレート境界は、海洋プレートである太平洋プレートが周辺の大陸プレートの下に沈みこむ沈み込み帯となっています。
環太平洋造山帯は沈み込み帯の集合であり、弧状列島(島弧)が多数見られ、火山も多数存在します。
衝突帯が多いアルプス=ヒマラヤ造山帯と比べて火山が多い造山帯です。
そのため、英語では火の輪(Ring of Fire)とよばれています。
環太平洋造山帯に属する地域をまとめます。
ニュージーランド列島(ニュージーランド)
ニューギニア島(インドネシア・パプアニューギニア)
インドネシア東部
フィリピン諸島(フィリピン)
日本列島
カムチャッカ半島(ロシア)
アリューシャン列島(米国アラスカ州)
アラスカ半島(米国アラスカ州・カナダ)
ロッキー山脈(アメリカ・カナダ)
シエラネバダ山脈(米国カリフォルニア州)
バハ・カリフォルニア半島(メキシコ)
メキシコ高原(メキシコ内陸部)
中央アメリカ諸国(パナマ・ニカラグア他)
アンデス山脈(エクアドル・ペルー・チリ他)
それ以外の造山帯(古期造山帯)
現在は変動帯ではない場所でも、かつて変動帯であった場所には現在でも大規模な山脈が残っています。
古生代(5億4000万~2億5000万年前)に造山運動をうけ、現在は変動帯ではない(=造山運動が終わっている)造山帯を古期造山帯といいます。
新期造山帯は現在の変動帯に一致して地図上では線状に分布するのに対し、古期造山帯は現在はプレートの境界(変動)ではない場所に分散して分布します。
ウラル山脈(ロシア)、アパラチア山脈(アメリカ東部)、グレートディバイディング山脈(オーストラリア東部)などが古期造山帯です。
なお、古期造山帯であるからといって標高が低いとは限りません。
たとえば、中国西部の天山(テンシャン)山脈や崑崙(クンルン)山脈は標高6,000m以上におよびます。
この理由は、造山運動が終わった後に南側から衝突したインド亜大陸(インドプレート)の影響で再び隆起したためです(参考)。
古期造山帯に分類される山脈を以下にまとめます。
アパラチア山脈(アメリカ東部)
スカンジナビア山脈(スカンディナヴィア山脈、ノルウェー・スウェーデン)
ペニン山脈(英国イングランド~スコットランド)
ウラル山脈(ロシア中部、アジアとヨーロッパの境界)
グレートディバイディング山脈(大分水嶺山脈、オーストラリア東部)
ドラケンスバーグ山脈(南アフリカ東部・レソト)
天山山脈(テンシャン山脈、中国西部・カザフスタン・キルギス)
崑崙山脈(クンルン山脈、中国西部のチベット高原とタリム盆地の間)
安定陸塊の分布
プレートの境界付近が変動帯とよばれるのに対し、変動帯から離れたプレートの内側(大陸内部)はプレート間のひずみの影響も少なく、地震や火山活動もほとんどないため安定陸塊(クラトン)とよばれています。
安定陸塊は、先カンブリア時代(5-6億年以上前)に造山運動をうけ、その後は造山運動をうけていない場所です。
造山運動をうけてから非常に長い年月が経っているので、かつての山脈は侵食されて平坦な地形が広範囲に広がっています。
安定陸塊は楯状地と卓状地の2種類に分けられます。
楯状地と卓状地の違いとしては、楯状地では先カンブリア時代の古い岩盤が直接露出しているのに対し、卓状地では古い岩盤の上に水平に堆積物の層が見られるという差があります。
安定陸塊は主にプレート境界から離れた大陸内陸部で見られます。
例として、ユーラシア大陸ではシベリア地方(ロシア東部)や東ヨーロッパなどで見られます。
安定陸塊に分類される場所(楯状地や卓状地)を以下にまとめます。
カナダ楯状地(ローレンシア台地、カナダ東部)
ブラジル楯状地(ブラジル)
アフリカ楯状地(アフリカ卓状地、サハラ砂漠以南のアフリカ大陸の大部分)
アラブ楯状地(アラビア半島西部)
バルト楯状地(スカンジナビア半島~フィンランド)
オーストラリア楯状地(オーストラリア卓状地、オーストラリア西部)
ロシア卓状地(東ヨーロッパ平原、ロシア西部~東ヨーロッパ)
シベリア卓状地(ロシア東部)
安定陸塊は造山帯に対比する概念です。
しかし、現在の変動帯(プレートの境界)から離れているという観点では、安定陸塊と古期造山帯は類似しています。
また、造山帯も安定陸塊も地形ではなく地質構造のことなので注意してください。
まとめ
最後に、新期造山帯と古期造山帯、安定陸塊の違いを表にまとめます。
地質区分 | 新期造山帯 | 古期造山帯 | 安定陸塊 |
造山運動をうけた時期 | 新生代(6,600万年前~現代) | 古生代~中生代(5.5億年前~6,600万年前) | 先カンブリア時代(5.5億年以上前) |
プレート上での位置 | 狭まる境界(変動帯) | 現在のプレート境界から離れた場所 | プレート(大陸)中央部 |
起伏 | 険しい山脈 | 比較的なだらかな山地 | 平坦な平野・高原 |
特徴的な地質構造(大地形) | 褶曲山脈、弧状列島 | 山地 | 楯状地、卓状地 |
場所の例 | ヒマラヤ山脈、日本列島 | アパラチア山脈(アメリカ東部)、ウラル山脈(ロシア) | カナダ楯状地(カナダ東部)、シベリア卓状地(ロシア) |
鉱物資源 | 鉄鉱石 | 石炭 | 銅、石油 |
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参考沈み込み帯:海洋上の狭まる境界(収束境界)
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参考文献
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造山運動とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/9閲覧
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テンシャン(天山)山脈 コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2021/1/10閲覧
アルタイ山地 コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2021/1/10閲覧
先カンブリア時代 コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/10閲覧
安定陸塊 コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/10閲覧