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メルカトル図法(UTM図法・ミラー図法など)

メルカトル図法は航海用の海図として歴史的に使われてきた地図投影法です。
このページでは、メルカトル図法について解説した上で、関連するユニバーサル横メルカトル図法(UTM図法)ミラー図法についてもふれます。

メルカトル図法

正角図法の一種であるメルカトル図法による世界地図。参考のため主要な緯線も描かれている。赤道(赤太線)、南北回帰線(23°26', 赤点線)、南北極線(66°33', 青点線)である。メルカトル図法では高緯度地域が南北に極端に引き伸ばされているため、グリーンランドや南極大陸が引き伸ばされて巨大になっている。メルカトル図法で北極点や南極点を描こうとすると、地図を無限に引き伸ばすことになってしまう。そのため、この地図は北緯85°から南緯85°までの範囲で描かれ、北極点/南極点周辺は切り捨てられている。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/6/4閲覧

メルカトル図法は、全ての緯線と経線が直角に交わり、角度が正確にな地図を作成できる地図投影法です。
角度が正確に表現できる正角図法であり、高緯度地域が引き伸ばされる円筒図法に分類されます。
名前の由来は、1569年にフランドル(現ベルギー北部)のメルカトル(Gerardus Mercator, 1512-1594)がメルカトル図法を用いた世界地図を作成したことに起因します( 注:発明者はメルカトルではなく、それ以前から使われていた)。

メルカトル図法の地図は航海用の海図として画期的でした。
メルカトル図法の地図を使うと、出発地と到着地の緯度と経度がわかれば、羅針盤(方位磁針)を使って船が進む方角を一定方向に保ちながら航海することで目的地にたどり着くことができます(等角航路)。
等角航路は二地点間の最短経路ではありませんが、確実に目的地に到達できます。
それまで時代の航海は遭難と隣合わせでしたので、メルカトル図法の地図は航海の安全性を高めました。
現在でも、メルカトル図法の地図は航海用の海図に使われています。

メルカトル図法の特性

メルカトル図法による世界地図。(実際の地球上では)同じ大きさの円を地図上に描くことで地図投影法による歪みが視覚的にわかるようになっている(テイソーの指示楕円)。メルカトル図法は高緯度地域が引き伸ばされているため、円が大きくなっている一方、正角図法なので円は全て歪まずに円として描かれている。出典:Wikimedia Commons, ©Stefan Kühn, CC BY-SA 3.0, 2024/6/4閲覧

上の画像は、メルカトル図法の世界地図の上に(実際の地球上では)同じ大きさの円を地図上に描いたものです。
地球上では同じ大きさになる円を並べることで、地図投影法の特性に起因する形の違いがわかります。
メルカトル図法の場合は、正角図法なので円そのものの形に歪みはありませんが、高緯度地域になるほど円が大きくなります。
これは、角度の正確性を維持するために高緯度地域ほど実際の形を大きく引き伸ばしているためです。

もう1つの特徴として、赤道付近の低緯度地域では、東西に移動しても円の大きさは変わりません。
これは、メルカトル図法は赤道付近の低緯度地域では形(面積)を正確に表現できる(誤差が無視できるほど小さい)ことに起因します。
このため、赤道付近の東西の領域に関しては、角度だけではなく実際の地球上の位置関係に近くなります。

一般的なメルカトル図法の世界地図では赤道を基準として高緯度地域が引き伸ばされていますが、必ずしも赤道を基準とする必要はありません。
赤道から離れた地域であっても、その地域を通る緯線や経線を基準として地図を作成すると、基準にした緯線・経線の周辺地域について正確な地図を作成することができます。
たとえば、赤道の代わりに日本を通る東経135°の経線を基準として地図を作成すると、日本付近について正確に表現した地図を作成できます。
このようにメルカトル図法を応用して作られた日本地図など比較的狭い地域に適した地図投影法をユニバーサル横メルカトル図法UTM図法、Universal Transverse Mercator)とよびます。

関連する地図投影法

ここからは、メルカトル図法に関連する地図投影法として、ユニバーサル横メルカトル図法(UTM図法)ミラー図法について順に紹介します。

ユニバーサル横メルカトル図法(UTM図法)

ヨーロッパ北部におけるUTMゾーン。ユニバーサル横メルカトル図法(UTM図法)では、基準となる経線付近を正確に描くことができるが、基準経線から東西に離れると誤差が大きくなる。そのため、広域図を描く際には東西に一定間隔で区切ってそれぞれの領域(UTMゾーン)について作成した地図を張り合わせて広域図を作る。ノルウェー西部で32Nが西にはみ出ているのは、境界をそのまま伸ばすと西端部のごく一部の陸地が31Nにはみ出るので、32Nにまとめてしまっているためである。これは、31Nと32Nという異なる地図を貼り合わせて境界で整合性が問題となるよりも多少の誤差の拡大を許容した方が利便性が高いからである。同様に北緯72°以北では経線の間隔が狭くなりすぎるためUTMゾーンを減らしている。出典:Wikimedia Commons, ©Kbellis, CC BY-SA 4.0, 2024/6/5閲覧

ユニバーサル横メルカトル図法UTM図法、Universal Transverse Mercator)は、メルカトル図法を応用して作られた地図投影法です。
メルカトル図法は赤道を基準として、赤道から離れた高緯度地域ほど地図が引き伸ばされます。
それに対してユニバーサル横メルカトル図法では、赤道の代わりに特定の経線を基準として、その経線から東西に離れた地域ほど地図が引き伸ばされます。
日本を通る東経135°の経線を基準にユニバーサル横メルカトル図法で地図を描くと、日本付近について正確に表現した(誤差が無視できるほど小さい)地図を作成できます。
そのため、日本地図のような狭い範囲の地図を描く目的で使われます。
国土地理院の地形図では、2万5000分の1と5万分の1の地形図でユニバーサル横メルカトル図法が使われています。

ミラー図法

ミラー図法による世界地図。ミラー図法はメルカトル図法が高緯度地域で極端に引き伸ばされる欠点を抑えた地図投影法である。高緯度地域に補正を行っているため北極点から南極点までを世界地図で描くことができる。その代わり、メルカトル図法の特徴であった角度の正確さが失われている。出典:Wikimedia Commons, ©Strebe, CC BY-SA 3.0, 2024/6/5閲覧

ミラー図法は、メルカトル図法の欠点を修正した地図投影法です。
1942年にアメリカのミラー(Osborn Maitland Miller, 1897-1979)によって考案されました。

メルカトル図法では角度を正確に描くために高緯度地域が引き伸ばされ、北極点や南極点を描こうとすると無限に引き伸ばす必要があります。
そこでミラー図法では高緯度地域を引き伸ばす割合(拡大率)を調整して、地図上に収まるように工夫しています。
この調整の結果、世界地図の見た目のおさまりは良くなりましたが、代わりにメルカトル図法の特長であった角度の正確さが失われています。
ミラー図法は正角図法でも正積図法でもありませんが、見た目のバランスの良さから世界地図に使われています。

ミラー図法による世界地図。(実際の地球上では)同じ大きさの円を地図上に描くことで地図投影法による歪みが視覚的にわかるようになっている(テイソーの指示楕円)。ミラー図法は高緯度地域が引き伸ばされすぎるメルカトル図法の欠点を補正したため、高緯度地域の円が歪んで楕円になっている。これは、東西方向と南北方向の拡大率(どのくらい引き伸ばすか)が異なるためである。出典:Wikimedia Commons, ©Justin Kunimune, CC BY-SA 4.0, 2024/6/5閲覧

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参考文献

地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
Mercator projection, Wikipedia 2024/6/4閲覧
メルカトル図法(メルカトルズホウ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/5/9閲覧
テイソーの指示楕円 ウィキペディア 2024/6/4閲覧
ユニバーサル横メルカトル図法(ユニバーサルヨコメルカトルズホウ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/6/5閲覧
Q11:国土地理院発行の地図(一般図)はどのような図法を使用しているか? 一般財団法人日本地図センター 2024/6/5閲覧
Miller cylindrical projection, Wikipedia 2024/6/5閲覧

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