面積を正確に反映できる地図投影法を正積図法といい、領域の広がりを正確に表現できることから統計地図、分布図など様々な用途に利用されています。
このページでは、正積図法と代表的な地図投影法(サンソン図法、モルワイデ図法、グード図法(ホモロサイン図法)、ボンヌ図法)について解説します。
正積図法とは
正積(せいせき)図法とは、地図上のどの領域においても実際の地表での面積を正確に反映できる地図投影法です。
地図は実際の地球の大きさを何万分の1かに縮小したものであるため、厳密には面積「比」が正確に描かれています。
正積図法は主題図(分布図や統計地図など)で「広がり」を正確に示すために使われます。
たとえば、国ごとに人口の大小で色分けした統計地図を作成する場合、面積が不正確な世界地図だと面積と人口の関係(人口密度)について間違ったイメージを与えます。
メルカトル図法のように高緯度地域が引き伸ばされる地図投影法を使用した場合、高緯度に位置するロシアやカナダが実際よりも面積が大きく描かれるため、人口密度が現実よりも低い印象を与えてしまいます。
そのため、面積が正確な正積図法の地図を主題図に使用することで、見る人に誤解を与えないようにします。
正積図法の例としては、サンソン図法、モルワイデ図法、グード図法などがあります。
様々な正積図法
ここからは、正積図法の例として、サンソン図法、モルワイデ図法、グード図法(ホモロサイン図法)、ボンヌ図法について解説します。
サンソン図法
サンソン図法は、上図のように世界地図を玉ねぎのような形で表現する地図投影法です。
正積図法の一種であるとともに、円筒図法の亜種である擬円筒図法に分類されます。
1650年にフランスの地理学者サンソン(Nicolas Sanson, 1600-1667)がサンソン図法を使った地図帳を作製したことからサンソン図法と名づけられています。
サンソン図法にはいくつかの別名があります。
イギリスの天文学者であるフラムスチード(John Flamsteed, 1646-1719)がこの図法を用いて星図(天体の位置を描いた地図)を作製したことからサンソン=フラムスチード図法ともよばれます。
また、経線が正弦曲線(sinカーブ)で表現できることから、正弦曲線図法ともよばれます。
サンソン図法では、緯線の長さが正確であり、緯線は等間隔で平行に引かれます。
一方で経線は、地図中央の経線は緯線と直交しますが、それ以外の経線は面積を正確に表現するために東西方向の縮尺は歪んでおり、赤道付近で外側にふくらみます。
上の世界地図のように、低緯度地域は歪みが小さく比較的正確に陸地の形を表現できますが、高緯度地域では面積を正確に表現するために歪みが大きくなっています。
低緯度地域で歪みが小さい特性があるので、世界地図ではなく低緯度地域の地方図(特定地域の地図)に利用されます。
モルワイデ図法
モルワイデ図法は、世界地図を樽を押しつぶしたような横長の楕円状の形で表現する地図投影法です。
世界地図は東西に横長な形であり、東西方向と南北方向の長さの比は2:1になります。
サンソン図法とは見た目が異なりますが、サンソン図法と同様に正積図法であり、擬円筒図法でもあります。
1805年にドイツの天文学者モルワイデ(Karl Brandan Mollweide, 1774-1825)によって発表されたことからモルワイデ図法とよばれます。
モルワイデ図法では、高緯度地域の歪みが大きいサンソン図法の欠点を補っています。
サンソン図法では緯線の長さを正確に表現していますが、その結果本来球体である地球を平面の地図を描くことによる歪みが大きく出てしまいます。
そこで、モルワイデ図法では高緯度地域では緯線の長さが実際より長めに描き、その代わりに緯線の間隔を狭めることで面積が等しい性質を保っています。
この結果、緯線の長さは不正確になりますが、サンソン図法よりも高緯度地域での歪みが小さくなっています。
モルワイデ図法は高緯度地域でも歪みが小さい特徴を活かして世界全体の分布図、統計地図などに利用されます。
グード図法
グード図法(ホモロサイン図法)は、歪みを抑えるために2種類の地図投影法で世界地図を貼り合わせた地図投影法です。
1923年にアメリカのグード(John Paul Goode, 1862-1932)によって発表された地図投影法で、世界規模で面積を正確に表現するために考案されました。
グード図法では、緯度40°(厳密には40°44'11.8'')を境界として低緯度側をサンソン図法、高緯度側をモルワイデ図法で描いています。
低緯度側にサンソン図法を用いることで緯線を正確に表現でき、高緯度側でモルワイデ図法を使うことで歪みを抑える工夫がなされています。
グード図法では通常、海洋に断裂を入れます。
断裂を入れることで球体の地球を平面の地図に落とし込んだ際の歪みを抑え、(大陸部であれば)正確な面積の世界地図を描くことができます。
海洋ではなく大陸に断裂を入れることで、海洋について正確な面積の世界地図を描くこともできます。
グード図法は断裂を入れたことで歪みが小さく正確な面積の世界地図になっています。
一方、大陸間に断裂が入るため、大陸間をまたいだ流動(例:航空路線網)を描くのには不適切です。
また、断裂を入れた境界の前後は分裂しているという欠点もあります。
上の世界地図ではグリーンランドや南極大陸が分裂してしまっています。
ボンヌ図法
ボンヌ図法は、上図のように世界地図をハート形に表現する地図投影法です。
フランスの地理学者ボンヌ(Rigobert Bonne, 1727-1794)が使用したことからボンヌ図法とよばれています(注:手法自体はボンヌ以前から使われていた)。
ボンヌ図法では、基準となる中央経線は直線となり、緯線はハート形の上で同心円状にカーブします。
ハート形に歪んでいますが正積図法であり、中央経線上と各緯線の上では距離が正確になります。
ボンヌ図法は、中央経線から外れた場所の歪みが大きいため世界地図には向きません。
しかし、中央経線上やハート形の中央部では比較的歪みが小さいため、中緯度地域の地方図や大陸図に使用されます。
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参考文献
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
正積図法(セイセキズホウ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/6/2閲覧
正積図法 地理空間情報技術ミュージアム MoGIST 国際航業株式会社 2024/6/2閲覧
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サンソン図法(サンソンズホウ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/6/20閲覧
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ホモロサイン図法(ホモロサインズホウ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/6/20閲覧
グード図法で地図投影法のパラメーターを考える The GIS Professional Group 2024/6/20閲覧
グード ホモロサイン図法 ESRI 2024/6/20閲覧
ボンヌ図法(ボンヌズホウ)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/6/21閲覧
Bonne projection, Wikipedia 2024/6/21閲覧