クラゲの仲間である刺胞(しほう)動物の中には、石灰質(炭酸カルシウム)の骨格をつくるサンゴという生物がいます。
このサンゴがつくる、石灰質の地形をサンゴ礁といいます。
ここでは、サンゴとサンゴ礁の違いにふれたあとに、地形(裾礁・堡礁・環礁・礁湖)とその形成について解説します。
サンゴとサンゴ礁の違い
サンゴ(サンゴ虫)は水温18-30℃の温暖で浅くて透明度の高い海に生息する生物で、石灰質の骨格をつくるため、鮮やかな岩石のような姿をしています。
サンゴが死ぬと、石灰質の骨格だけが残ります。
長い時間をかけて石灰質の骨格が積み重なって、海底が隆起した地形をサンゴ礁といいます。
サンゴは生物ですが、サンゴ礁はサンゴの死骸が積み重なってできた地形という違いがあります。
参考
刺胞動物の中で骨格をもち、一箇所に定着するものをサンゴといいます。
サンゴ礁をつくるのはサンゴの中でも一部であり、サンゴ礁をつくるサンゴを造礁サンゴといいます。
造礁サンゴは褐虫藻とよばれる藻と共生していて、褐虫藻から石灰質の骨格をつくるのに必要なカルシウムなどの栄養をもらっています。
この褐虫藻が光合成をするために、サンゴは太陽光が届く浅くて透明度の高いきれいな海にしか生息できません。
褐虫藻はサンゴが生きるために必要な栄養をつくりだしていますが、赤土が海に流出したり海水温の上昇などで環境が悪化すると褐虫藻がサンゴから逃げてしまいます。
褐虫藻がいなくなってしばらくすると、サンゴは栄養不足で死んでしまい、白い石灰質の骨格だけが残ります。
色鮮やかなサンゴが白くなることから、褐虫藻が抜けてサンゴが死ぬ現象を白化現象といいます。
様々なサンゴ礁の地形
ここからは、サンゴ礁が作り出す地形について解説します。
サンゴは浅い海に生育するため、サンゴ礁の地形は海岸や島の周りに発達します。
以下では、サンゴ礁の地形である、裾礁(きょしょう)、堡礁(ほしょう)、環礁(かんしょう)、礁湖(しょうこ)について順に紹介します。
裾礁
島や陸地の周りの海岸線を取り巻くように広がるサンゴ礁を裾礁(きょしょう)といいます。
サンゴ礁の発達の初期段階と考えられていています。
沖縄や小笠原諸島でみられるサンゴ礁はすべて裾礁です。
堡礁
海岸からやや離れた位置に広がるサンゴ礁を堡礁(ほしょう)といいます。
堡礁と陸地の間の海は堡礁によって囲われた浅い礁湖(しょうこ)を形成します。
礁湖はラグーンともよばれます。
堡礁は裾礁が変化したものと考えられています。
裾礁がある島や陸地が沈降すると、裾礁がある場所が海岸線から遠くなります。
しかし、サンゴは上方向にしか成長しないので、場所を変えずにサンゴ礁が発達していきます。
このようにして堡礁が形成されたと考えられています。
堡礁は英語でBarrier reef(バリアリーフ)といいます。
世界最大の堡礁であるグレート・バリア・リーフは直訳して大堡礁ともよばれます。
グレート・バリア・リーフはオーストラリア大陸の北東岸に2,000 kmにわたって広がる堡礁で、生物がつくりだした単一の構造物としては世界最大のものです。
環礁
サンゴ礁が環状に広がり、内側に島がない地形を環礁(かんしょう)といいます。
環礁の陸地の内部は礁湖が広がり、サンゴ礁の内側に島が存在しないのが堡礁との違いです。
中央の礁湖は浅く、サンゴ礁の切れ目にできた水道(水の通り道)を通して外界とつながっていることも多いです。
環礁は、堡礁の中央部に存在した島が海面下に沈降してできたと考えられています。
環礁は太平洋南部とインド洋に分布し、大きなものは幅60 kmを越えるものもあります。
沖ノ鳥島のサンゴ礁地形
日本最南端の沖ノ鳥島(東京都小笠原村)もサンゴ礁からなる島です。
沖ノ鳥島は環礁と説明されることも多いですが、環状というよりも平面上にサンゴ礁が発達し、内側の水深も浅いため礁湖がみられません。
このようなサンゴ礁の地形を卓礁とよび、環礁と区別することがあります。
卓礁は陸地から離れた風やうねりの激しい海域にみられ、直径数 km以下の小型のものが多いです。
礁湖
サンゴ礁の地形によって囲まれて外界と隔てられた内海を礁湖(しょうこ)といいます。
礁湖はラグーンともよばれますが、ラグーンは厳密には潟湖(せきこ)と礁湖を合わせたものを指すので注意してください。
礁湖は浅い内海の地形で、堡礁と環礁にみられます。
堡礁では内側の陸地と沖合のサンゴ礁の間に広がり、環礁では環状のサンゴ礁地形の内側全体が礁湖です。
また、礁湖は完全に陸地に包囲されているとは限らず、外海との水の通り道である水道が所々に存在することが多いです。
サンゴ礁地形の形成と変遷
サンゴ礁の地形の形成について、1842年にダーウィン(Charles Robert Darwin, 1809-1882)が提唱した説について紹介します。
サンゴ礁が広がる島は元々、火山噴火によって形成された火山島でした(上図①)。
火山島は次第に火山活動を停止し、その一方で島の周りの海岸線にはサンゴ礁が広がり、裾礁が発達します(上図②)。
火山活動を停止した島が次第に沈降すると、裾礁のある場所から海岸線が離れてしまいます。
しかし、サンゴは上方向にのみ成長するので、サンゴ礁は元いた場所で発達をつづけます。
その結果、サンゴ礁と島の間に浅い礁湖が形成され、堡礁になります(上図③)。
島が沈降をつづけて海面下に沈むと、環状のサンゴ礁の陸地のみが残り、環礁とよばれる地形になります(上図④)。
参考文献
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