地形 系統地理

砂浜の地形(砂嘴と砂州、トンボロと陸繋島など)

ここでは、海岸の地形の中でも砂浜の地形についてまとめます。
以下の地形について取り上げています。

砂浜(さひん)、砂浜(さひん)海岸、干潟、浜堤(ひんてい)、砂嘴(さし)、砂州(さす)、沿岸州(えんがんす)、潟湖(せきこ、ラグーン)、トンボロ(陸繋砂州)と陸繋島(りくけいとう)、海岸砂丘。

砂浜と砂浜海岸

座間味島の砂浜(沖縄・慶良間諸島)。出典:Wikimedia Commons, ©Hashi photo, CC BY 3.0, 2021/1/18閲覧

波や風で砂が運ばれてできた海岸を砂浜(さひん)といいます。
「砂浜」はふつう訓読みで「すなはま」と読みますが、地理用語としては音読みで「さひん」と読みます。
砂浜が発達した海岸のことを砂浜海岸といいます。

砂浜の形成メカニズムは次のとおりです。
まず、波による海岸の侵食や河川のはたらきによって運ばれた砂礫(されき)が、海岸線と平行に一定方向にに流れる沿岸流という潮の流れによって運ばれます。
次に沿岸流によって運ばれた砂が海岸に堆積することで砂浜が形成されます。

以下では、海岸付近に砂が堆積して形成された地形について取り上げていきます。

干潟

ドイツの干潟。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/1/18閲覧

砂は小さい粒子なので波によって流されやすいです。
そのため、外海に面して波が強い場所では砂は侵食されてなくなるため岩が露出した岩石海岸になり、反対に内海の場合は砂より粒の細かい粘土・泥がたまって干潟になりやすいです。

干潟は、砂や泥がたまった平坦な部分で、潮の満ち引きによって満潮時には海に沈み、干潮時には水が引きます。
干潟は砂泥が供給されやすく(河口や潟湖など)、湾の内側など波がおだやかで侵食が少ない場所(湾の内側など)に形成されます。

浜堤

サーレマー島の浜堤(エストニア)。出典:Wikimedia Commons, Public domain,  2021/1/16閲覧

浜堤(ひんてい)は、海岸付近に高さ数メートル、幅数十から100 m程度の大きさで海岸と平行に砂礫が積み上がった堤防のような地形です。
沿岸州(えんがんす)と共に海岸平野によくみられる地形です。

海の波が砂礫を陸地の奥の方へ押し上げた結果、砂礫が積み上がって堤防のような地形が形成されました。
台風などで暴風時でも波が到達しない陸地側に形成されます。
波だけではなく風の作用でも砂が集まることも多く、海岸砂丘とよく似た地形です。

海岸線が変化しても浜堤は元の場所に残り続けるので、海岸と平行にいくつもの浜堤列が残る場所もあり、浜堤は過去の海岸線の変化を知る手がかりにもなります。

土地利用としては、日本では道路などへ活用されています(例:仙台バイパス)。

砂嘴

根室海峡に突き出た典型的な砂嘴である野付半島(北海道・道東地方)。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/1/18閲覧

沿岸流によって運ばれた砂礫が、陸をはみ出して海に突き出る形で堆積した地形を砂嘴(さし)といいます。
砂の嘴(くちばし)と書いて砂嘴(さし)と読みます。

砂嘴の先端は陸地側に曲がる傾向にあり、写真の野付半島(北海道)は先端が鉤爪(がぎづめ)状になっています。
一方、複数の沿岸流の流れがある場所では、三角形状の砂嘴ができる場合があります
東京湾の富津岬(ふっつみさき、千葉)が三角形状の砂嘴です。

東京湾の富津岬の砂嘴(千葉県南部・富津市)。別方向からの沿岸流により三角形状の砂嘴になっている。出典:Wikimedia Commons ⓒ国土画像情報(カラー空中写真) 国土交通省 2021/1/18閲覧

砂州

宮津湾に広がる砂州である天橋立(京都府北部・宮津市)。北側(傘松公園)から撮影された。左側が日本海につながる宮津湾、右側が砂州によって海から隔てられた内海(阿蘇海)である。出典:Wikimedia Commons, ©663highland, CC BY-SA 3.0, 2021/1/18閲覧

沿岸流によって運ばれた砂礫が湾の入口で細長く堆積し、湾の入口をほぼふさぐような形になった地形を砂州といいます。

砂州の内側の内海は完全に外海から隔離されているとは限らず、砂州の一部で陸地が途切れて、内海と外海で水が行き来できる潮流口が存在することが多いです。
砂州に隔てられて内海が湖沼化したものを潟湖(ラグーン)といいます。

砂州の形成には諸説あり、湾の入口の砂嘴が伸長してできたという説と沿岸州が湾をふさぐようにできたという説があります。

日本で砂州がみられる例として、天橋立(潟湖は阿蘇海、京都)と弓ヶ浜(潟湖は中海、鳥取)があります。

沿岸州

CulbinForest(スコットランド)の沿岸州(えんがんす)。沿岸州は海岸と平行に発達した砂州であり、途中で途切れているため、外海と内海は海水が行き来できる。出典:Wikimedia Commons, ©Anne Burgess, CC BY-SA 2.0, 2022/7/12閲覧

海岸と平行に発達した細長い陸地のことを沿岸州(えんがんす、沿岸砂州)といいます。
沿岸州も砂州同様、砂礫が積み上がった地形です。
1つ上の「砂州」の項目で紹介した宮津湾では、天橋立が湾の中と外を完全に切り離しています。
一方で沿岸州は途中で途切れている箇所があるため、陸地との間にできた内海は外海から完全には切り離されずに海水が行き来できます。

沿岸州は遠浅の海に発達します。
遠浅の海の沖合で波が海中の砂を巻き上げ、前方に盛り上げることで発達します。
沿岸州は、砂でつくられているので海の侵食をうけやすく、形は変化しやすいです。

日本ではあまり見られず、アメリカ東海岸によく発達しています。
浜堤(ひんてい)とともに海岸平野によくみられる地形です。

参考

沿岸州と沿岸砂州は厳密には別の地形です。
沿岸州はバリア(barrier)ともよばれ、常に海面上に顔を出しています。
一方、沿岸砂州はバー(longshore bar)ともよばれ、潮の満ち引きによって海面上に顔を出したり海面下に沈んだりを繰り返すものや常に海面下に沈んでいるバーがあります。

潟湖

潟湖(ラグーン)であるグレンロック・ラグーンと砂州を隔てて奥に広がるタスマン海(オーストラリア南東部)。出典:Wikimedia Commons, ©Athol Mullen, CC BY-SA 3.0, 2021/1/19閲覧

砂州によって外海から仕切られた湾の内側が浅い湖沼と化したものを潟湖(せきこ)または(かた)といいます。

ラグーンともいわれますが、ラグーンは潟湖に加えてサンゴ礁でできた礁湖のことを指す場合もあるので注意が必要です。

潟湖は砂州で外海と隔てられていますが、砂州に潮流口とよばれる外界との水の通り道がある場合もあります。
外海との海水の行き来がある汽水湖の場合は真水よりも塩分濃度が高いですが、河川からの淡水の流入や外海と隔てられていることから海水よりも塩分濃度は低いことが多いです。

日本の潟湖としては、サロマ湖(北海道)、霞ケ浦(茨城)、浜名湖(静岡)、中海(鳥取・島根)などがあります。

トンボロ(陸繋砂州)と陸繋島

上空から眺めた函館市街(北海道・道南地方)。左手の海に突き出た緑色の函館山がある陸地が陸繋島で、函館山から右側に向けて広がる市街地がトンボロ(陸繋砂州)上に立地する。出典:Wikimedia Commons, ©Furiko7e, CC BY-SA 3.0, 2021/1/19閲覧

沖合の離島との間に砂州が発達し、島と本土が陸続きになることがあります。
沖合の離島との間を結ぶ砂州を陸繋砂州(りくけいさす、トンボロ)といい、トンボロによって陸続きになった島を陸繋島(りくけいとう)といいます。

陸地近くに離島があることで沿岸流に乱れが生じ、島と本土の間に砂礫が堆積して島と本土が陸続きになりることで形成される地形です。

陸繋島とトンボロの例として、海外ではモン・サン=ミシェル(フランス)、ジブラルタル(スペイン・イギリス)、マカオ半島(中国)があります。
日本では函館山函館市街地(北海道)、潮岬串本市街地(和歌山)、男鹿半島八郎潟(秋田)があります。

男鹿半島は二本のトンボロがつながった複式陸繋島で、ふたつのトンボロの間は八郎潟が広がっています。
八郎潟はかつて日本で2番目に大きい湖でしたが、戦後に食糧増産のために大部分が干拓されて水田となりました。

男鹿半島と八郎潟(秋田県西部)。右下の湖が八郎潟で干拓されなかった部分である八郎潟調整池である。八郎潟調整池の上にある周囲を水路で囲まれた陸地が干拓地(大潟村)である。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/1/19閲覧

海岸砂丘

海岸砂丘の広がる鳥取砂丘(鳥取市)と観光用のラクダ。出典:Wikimedia Commons, ©User:Geofrog, CC BY-SA 2.5, 2021/1/20閲覧

風によって砂が運ばれて丘状に積もった地形を砂丘といいます。
砂丘の中でも砂浜海岸の砂礫が風によって内陸に運ばれて形成された砂丘を海岸砂丘といいます。

海岸砂丘は海から陸に向けて卓越風(一定方向に吹く風)が強い海岸にできやすい地形です。

鳥取砂丘は観光地として活用されていますが、砂丘は周囲の住民にとって迷惑な存在でもあります。

砂丘の砂が風に吹かれて周囲の農地に飛び散ったり、砂丘が河口にできることで河川が氾濫するなどの被害が出ることがあります。
そのため、砂丘からの砂を防ぐために防砂林を設置したり、植林して砂丘を緑地化するなどの対策が、古くからおこなわれてきました。

関連する地形

関連する海岸の地形として、海岸平野と海岸段丘、海食崖、波食棚については、次の記事で取り上げています。

参考離水海岸の地形(海岸平野と海岸段丘)

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リアス式海岸、溺れ谷、多島海、フィヨルド、エスチュアリー(三角江)については、次の記事で解説しています。

参考沈水海岸の地形(リアス式海岸と多島海・フィヨルド・エスチェアリー)

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三角州については、次の記事で解説しています。

参考川の下流の地形2(三角州とその分類)

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参考文献

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砂浜海岸とは コトバンク 百科事典マイペディア 2021/1/18閲覧
砂浜 ウィキペディア 2021/1/18閲覧
砂浜海岸 ウィキペディア 2021/1/18閲覧
沿岸流とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、百科事典マイペディア 2021/1/18閲覧
干潟 ウィキペディア 2021/1/18閲覧
5.海の作用による地形 国土地理院 2021/1/18閲覧
浜堤とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、日本大百科全書(ニッポニカ)、世界大百科事典 2022/7/12閲覧
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砂嘴とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、百科事典マイペディア、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/18閲覧
野付半島とは コトバンク 百科事典マイペディア 2021/1/18閲覧
砂州とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、百科事典マイペディア、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/19閲覧
世古春香、武田一郎「砂州と砂嘴の用語の混乱京都教育大学環境教育研究年報 27 1-11 (2019)
武田一郎「砂州地形に関する用語と湾口砂州の形成プロセス京都教育大学紀要 111 79-89 (2007)
砂村継夫「えんがんす 沿岸州」地形の辞典 日本地形学連合編 朝倉書店(2017)
砂村継夫「えんがんさす 沿岸砂州」地形の辞典 日本地形学連合編 朝倉書店(2017)
沿岸州とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、日本大百科全書(ニッポニカ)、世界大百科事典 2022/7/12閲覧
Cikgu Geography "FORMATION OF OFFSHORE BAR" GoLearnGeography 2021/1/19閲覧
潟湖とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/19閲覧
霞ヶ浦とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2021/1/19閲覧
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トンボロとは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/19閲覧
陸繋島とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/19閲覧
陸繋島 ウィキペディア 2021/1/19閲覧
砂丘とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/20閲覧
海岸砂丘とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、百科事典マイペディア 2021/1/20閲覧

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