気候 系統地理

高山気候と森林限界

標高が高い場所では、標高に応じて気温が低下する高山気候(H)になります。

ここでは、高山気候について解説します。

他の気候区については、以下のリンク先をご覧ください。
ケッペンの気候区分熱帯乾燥帯温帯亜寒帯(冷帯)寒帯・高山・植生土壌

高山気候(H)

標高が100 m上がるごとに気温はおよそ0.6℃下がります(気温の低減率)。
加えて気圧も低下するため、空気中に含むことができる水分量(飽和水蒸気量)が低下します。
このため(相対)湿度が高くても空気中に含む水分の絶対量(絶対湿度)は低く、乾燥しやすくなります。

標高が高い場所では以上のような特性から、低地とは異なる高山気候(H)という気候になります。

高山気候はケッペンの気候区分には含まれておらず、のちにトレワーサ(Glenn Thomas Trewartha, 1896-1984)によって加えられた気候区分です。
このため、高山気候を考慮しない分類もあります。

高山の気候は麓から標高が高くなるについれて徐々に変化していきます。
樹木気候の低地では森林が広がりますが、標高が高くなると気温の低下に合わせて樹木の種類が変化していき、標高が一定を越えると森林がなくなります。
このように森林が広がることのできる限界線を森林限界といいます。
森林限界は高山に限らず、乾燥や低温により森林が生育できる限界線も同様に森林限界といいます。

高山において、森林限界よりも標高が高い場所の気候を指して高山気候といいます。
森林限界を超えるため日射が強く、遮るものが少ないため風が強くなります。

森林限界となる標高は場所により異なり、熱帯では3,000 m以上、温帯では1,000~2,000 m程度になり、亜寒帯(冷帯)の北海道では1,000 m程度まで下がります。

森林限界となる場所は高山に限らず、乾燥による森林限界(乾燥帯の境界)や極地での低温による森林限界(寒帯の境界)があります。

サンモリッツの森林限界(スイス)。町の背後の山では一定以上の高さで森林が途絶え、それより上には樹木が生育していない。樹木が生育できない限界を樹木限界とよび、森林が広がる限界とは区別することもある。 出典:Wikimedia Commons, ©Dolph Kohnstamm, CC BY-SA 3.0, 2021/2/20閲覧

 

緯度による違い

高山気候の場所でも低地と同じように緯度による影響をうけた気候になります。

高山気候では一日の中での気温の変動(日較差)は低地よりも大きいですが、一年間の気温の変動(年較差)は緯度の影響を大きくうけます。
高山では標高の分だけ気温が下がりますが、年較差は低地と同様です。
そのため、低地が熱帯になる低緯度地域では年較差よりも日較差の方が大きく、低地が温帯になる中緯度地域では日較差よりも年較差のほうが大きくなります。

熱帯では年較差が小さい特性をもったまま気温が低下するので、年間通して気温が10℃~20℃前後の温暖で過ごしやすい春がずっと続くような気候になり、常春(とこはる)とよばれます。
ボゴタ(コロンビア)、キト(エクアドル)、昆明(中国雲南省)などの気候が常春とよばれます。

なお、日本でも富士山など高山気候の特色がみられる高山もありますが、範囲が狭いためふつう高山気候とはいいません。

標高による植生の推移

Alexander Keith Johnston (1804–1871)による様々な山の植生の垂直分布を描いたイラスト。左から順にアンデス山脈、テネリフェ(スペインのカナリア諸島)、ヒマラヤ山脈、アルプス山脈・ピレネー山脈、ラップランド(スカンジナビア半島北部)を描いている。 出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/2/20閲覧

アフリカ最高峰のキリマンジャロ(5,895 m、タンザニア)のような低緯度地域に位置する高山では、低地の熱帯気候から頂上の寒帯に近い高山気候までの気候の推移をみることができます。

低地ではサバナ熱帯雨林が広がり、標高が上がるについれて温帯のような落葉広葉樹林、亜寒帯のような針葉樹林がみられます。
森林限界より上では寒帯のようなツンドラがみられます。
山頂付近では雪線を超えるため年中雪が溶けずに万年雪になり、山岳氷河が広がります。

高山気候の植生

奥秩父・金峰山(山梨・長野)の森林限界。写真中央付近で亜高山帯林からハイマツ林に入れ替わっている。出典:Wikimedia Commons, ©Σ64, CC BY-SA 3.0, 2022/7/9閲覧

高山では気温の低下により高緯度側に類似した植生になります。
加えて、森林限界を越える場所では日差しや風が強いことから、そのような環境に適応した低木のハイマツや低地では見かけない高山植物の固有種などがみられます。
高山植物の花は大きくて派手なものが多く、短い夏に一斉に花を咲かせて一面のお花畑を形成します。

7月中旬の大雪山(北海道)のお花畑(白と黄色の花はチングルマ、赤い花はエゾノツガザクラ)。高山帯では過酷な環境に適応した固有種が、短い夏に一斉に花を咲かせる。出典:Wikimedia Commons, ©Miya.m, CC BY-SA 3.0, 2022/7/9閲覧

大雪山旭岳(標高2,291m, 北海道)周辺に生育する高山植物であるエゾノツガザクラ。強い日差しや低温から身を守るために、光沢のある葉や白い毛をもつ。出典:Wikimedia Commons, © Miya.m, CC BY-SA 3.0, 2022/7/9閲覧

偏形樹

常に一定方向に強い風が吹く場所では、ハイマツなどの樹木が風下に向かって傾いて成長し、このような樹木を偏形樹とよばれます。
偏形樹は高山だけではなく、海沿いや山頂など周囲に遮るものがない地形で卓越風が吹くような場所でもみられます。

Hoad Monument周辺(イングランド)の偏形樹。一定方向に強風が吹く場所では樹木は風下側に曲がって生長する。出典:Wikimedia Commons, ©Yohan euan o4, CC BY-SA 3.0, 2022/7/9閲覧

高山気候がみられる地域

ラパス中心部のライカコタ公園からの風景(ボリビア)。ラパスの街はすり鉢状に広がる。標高が高いため、酸素濃度が高い中央の低地にダウンタウンや高級住宅地が立地し、スラムはすり鉢の外の高台(エル・アルト)に位置する。 出典:Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0, 2021/2/20閲覧

15世紀のインカ帝国の遺跡であるマチュピチュ(ペルー)。アンデス山脈山中の標高2,430mの山の尾根に位置する。 出典:Wikimedia Commons, ©Martin St-Amant, CC BY-SA 3.0, 2021/2/20閲覧

高山気候は、新期造山帯など標高が高い山脈が広がる地域にみられます。
南米のアンデス山脈や北米のロッキー山脈エチオピア高原ヒマラヤ山脈などに広がります。
南極大陸にも標高が高い地域がありますが、低地であっても氷雪気候(EF)であり標高による気候の変化がないため、高山気候とはみなしません。

主な都市としては、キト(エクアドル)、ラパス(ボリビア)、クスコ(ペルー)、メキシコシティ(メキシコ)、アディスアベバ(エチオピア)、ラサ(中国チベット自治区)などがあります。

参考文献

気候区分とは コトバンク 世界大百科事典 第2版、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/2/20閲覧
ケッペンの気候区分 ウィキペディア 2021/2/20閲覧
高山気候 ウィキペディア 2021/2/20閲覧
高山気候とは コトバンク デジタル大辞泉、百科事典マイペディア、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/2/20閲覧
森林限界とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、デジタル大辞泉、世界大百科事典 第2版 2021/2/20閲覧
地理用語研究会編 「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社
高山植物 ウィキペディア 2022/7/9閲覧
常春 ウィキペディア 2021/2/20閲覧
キリマンジャロ ウィキペディア 2021/2/20閲覧

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