気候 系統地理

土壌の分布と分類(成帯土壌と間帯土壌)

地球表面に露出している岩石や堆積物は、長い時間をかけて雨風や動植物の影響をうけてたえず変化しています。
このようにして形成された地殻表層の生成物を土壌といいます。
土壌は気候や構成物質、動植物の影響などによって様々な性質をもちます。

ここでは、土壌を気候や植生の観点から着目して世界に分布する土壌についてみていきます。

各気候区の詳細については、以下のリンク先をご覧ください。
ケッペンの気候区分熱帯乾燥帯温帯亜寒帯(冷帯)寒帯高山植生・土壌】

気候と土壌

掘り出された泥炭(フランス東部・フラーヌ=ブヴラン湿原自然保護区 (Réserve naturelle régionale des tourbières de Frasne-Bouverans) )。寒冷のため植物が十分に分解されずに堆積した有機物を泥炭とよぶ。泥炭はよく燃えるため燃料として使用される。出典:Wikimedia Commons, ©Werner Schellmann, CC BY-SA 3.0, 2022/7/13閲覧

土壌の中には気候の影響をうけて生成されるものがあります。
熱帯雨林などの降水が多い地域では、雨により土壌内の水溶性の成分が流されてやせた(栄養分が少ない)土壌ができます。
温帯など適度に温暖で降水がある地域では、植物の落ち葉や枯れ葉が分解されて蓄積した腐植土とよばれる肥沃(ひよく、栄養分となる有機物を多く含んだ)な土壌ができます。
一方、水はけの悪い湿地や亜寒帯(冷帯)などの寒冷地では、植物の分解が進まないうちに堆積が進み泥炭となります。

また、河川によって上流から運ばれた下流で堆積した土壌を沖積土壌といいます。
沖積土壌は、沖積平野などで発達する肥沃な土壌です。

参考

泥炭は肉眼で植物の形が確認できるほど分解が進んでおらず、土にも関わらず乾燥させるとよく燃えるので掘り出して燃料として使われます。
また、スコッチウイスキーの香りづけにも使われており、原料となる麦芽を乾燥させる燃料として使うことで、ウィスキーにピート香とよばれる独特の香りがつきます(ピートは泥炭のこと)。

土壌の分布と分類(成帯土壌と間帯土壌)

高校地理では土壌を気候や植生の観点から分類しています。
世界の土壌の分布については次のリンクをご覧ください。
世界の土壌
出典:地理おた部 ~高校地理お助け部~ 2022/7/9閲覧

土壌の分布を見ると、同じ緯度の地域に分布している土壌がみられます。
赤道付近の熱帯ではラトソルや赤黄色土が広がり、北半球の高緯度地域にはポトゾルが広がります。
これらの土壌は気候の影響をうけて形成した成帯土壌(成帯性土壌)であり、気候帯や植生の分布と一致します。

一方、気候や植生とは無関係に地形・岩石・地下水などの影響により生成した土壌のことを間帯土壌(成帯内性土壌)といいます。
上のリンク先の地図には間帯土壌は載っていませんが、地中海沿岸のテラロッサ(図中ではラトソルと同色)やインドのレグール(図中では黒土に内包)などがあります。

ここから先は「気候」という切り口で成帯土壌について整理していきます。
間帯土壌については、以下のページで解説しています。

間帯土壌(テラロッサ・テラローシャ・レグール等)

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参考

1883年に世界ではじめて土壌を分類したのはロシアのドクチャーエフ(Vasily Vasili'evich Dokuchaev, 1846-1903)です。
ドクチャーエフは、ロシア国内の観察研究の結果から、気候や植生を元に土壌を分類しました。
高校地理ではドクチャーエフの考え方に近い方法で土壌を分類しているため、このサイトでも気候や植生の観点から土壌を分類しています。

しかし、研究が進むにつれて異なる岩石や気候の地域でも似たような土壌ができる事例が見つかりました。
そのため、気候が土壌に与える影響は、植生の場合より小さいことがわかりました。

現在使われている国際的な土壌分類として、世界土壌資源照合基準があります。
世界土壌資源照合基準では、土壌の層、物理的・化学的性質、岩石などの材質に基づいて世界の土壌を32種類に分類しています。
高校地理の分類は現在使われている分類方法とは必ずしも対応しておらず、高校地理での土壌分類方法に対して問題提起がなされています。

成帯土壌と気候

その地域の気候や植生の影響をうけて生成した土壌を成帯土壌といいます。
下図の右側は、気候と土壌の関係を表した模式図です。

気候と植生・土壌の関係。片平博文他「新詳地理B」帝国書院(2020)を参考にして作成。

上の図から気候や植生とそれに起因する成帯土壌の対応がわかります。

比較の軸としては、降水量(乾燥か湿潤か)と気温(寒冷か温暖か)です。

1つ目の軸は降水量です。
降水量によって腐植土が生成するかが変わります。
砂漠のように極端に乾燥した気候では植生がわずかであるため、腐食土はできません。
ステップでは、降水量が増えるに従って腐植土層が厚くなります。
降水量が多いため樹林帯を形成する温帯~亜寒帯(冷帯)南部は厚い腐植土層が形成されます。
温帯と同等かそれ以上に雨が多い熱帯雨林やサバナでは、スコールや雨季の大雨などの影響で腐植土が流出するため腐植土層の栄養分は流出してしまいます。

2つ目の軸としては気温です。
これによって微生物が植物を分解できるかが変わります。

寒冷地に広がるツンドラ土では寒すぎて植物の分解が進みません。
ポトゾルが広がるタイガ(針葉樹林帯)も低温のため分解が不十分なまま堆積して泥炭ができます。
より温暖な温帯~亜寒帯南部では微生物による分解が適度に進み、豊かな土壌ができあがります。
さらに気温の高い熱帯~亜熱帯(熱帯隣接地域)では、微生物による分解速度が速すぎて腐植土層が蓄積しません。

以上のような降水量と気温の違いは土壌の性質や色にも影響します。

高温多雨の環境では土壌から水溶性の物質が洗い流され、水に溶けにくい鉄やアルミニウムなどの成分が残るためこれら金属の影響で酸性のやせた土壌になります。
一方、低温環境では蓄積した有機酸の影響で土壌中から鉄やアルミニウムが溶脱(溶けて水に流れる)して失われるため、酸性のやせた土壌になります。
中間的な気温では土壌のpHは中性に近くなり、肥沃な土壌になります。

砂漠などの水が少なく蒸発散量の多い気候では、雨水や湧水などが流れる際に地中の塩分が水に溶けます。
しかし、水分はすぐに蒸発して地表には溶けていた塩類に残されます。
これを繰り返すことで土壌は塩分を多く含んだ状態になり、塩性(アルカリ性)の強く農業に向かない土壌ができあがります。

土壌の色に関しては、高温になるほど酸化・分解が進んで赤色になり、低温では鉄やアルミニウムの溶脱により土壌が漂白されて白色になる傾向があります。

成帯土壌の分類

下の表は世界の主な成帯土壌をまとめたものです。

名称 気候 植生 説明
ラトソル 赤色 熱帯 熱帯雨林、熱帯季節林、サバナ 土壌中の有機物が失われて酸化した鉄やアルミニウムが集積した酸性のやせた土壌
赤黄色土 赤黄色 サバナ気候、温暖冬季少雨気候、温暖湿潤気候の照葉樹林帯 常緑広葉樹林、サバナ 酸性のやせた土壌
砂漠土 淡赤色 砂漠気候 砂漠 腐植土をもたない塩分の多いの土壌
栗色土 栗色 ステップ気候 ステップ 若干の腐植土をもつ弱アルカリ性の土壌
黒色土(黒土) 黒色 ステップ気候、温帯の一部 湿潤ステップ、温帯の長草草原 比較的降水がある草原地帯に広がる中性の肥沃な土壌。チェルノーゼム、プレーリー、パンパなど各地で穀倉地帯が広がる。
褐色森林土 褐色 温帯から亜寒帯(冷帯)の落葉広葉樹林帯 落葉広葉樹林 腐植土をもつ肥沃な土壌
ポドゾル 灰白色 亜寒帯湿潤気候 タイガ(針葉樹林帯) 低温のため腐植土の分解が進まず蓄積した有機酸の影響で鉄やアルミニウムが溶脱したやせた酸性土壌
ツンドラ土 灰褐色 ツンドラ気候 ツンドラ 永久凍土の表層のやせた酸性の土壌

それぞれの土壌の分布や性質については次の記事で解説しています。

成帯土壌(ラトソル・黒色土・褐色森林土・ポドゾル・ツンドラ土)

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参考文献

片平博文他 「新詳地理B」帝国書院(2020)
泥炭 ウィキペディア 2022/7/13閲覧
土壌分類 ウィキペディア 2022/7/13閲覧
ドクチャーエフとは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2022/7/13閲覧
ヴァシーリー・ドクチャーエフ ウィキペディア 2022/7/15閲覧
World Reference Base for Soil Resources Wikipedia 2022/7/16閲覧
世界土壌資源照合基準 ウィキペディア 2022/7/16閲覧
藤井 一至他「高等学校地理科目における土壌教育内容の更新の必要性」ペドロジスト 63(2) 73-81 (2019)
世界の土壌 地理おた部 ~高校地理お助け部~ 2022/7/9閲覧
井上弦「どじょうのせいたいせい 土壌の成帯性」地形の辞典 日本地形学連合編 朝倉書店(2017)
成帯土壌 ウィキペディア 2022/7/9閲覧
成帯土壌とは ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2022/7/9閲覧
間帯土壌 ウィキペディア 2022/7/9閲覧
間帯土壌とは ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2022/7/9閲覧
土って何だろう(世界の土壌分布と気候) 未来ecoシェアリング 2022/7/12閲覧
関祐二「これなら分かる「土と肥料」の実践講座-世界の土を知る」農業経営者 11 61-63 (1995) 農業ビジネス
地理用語研究会編 「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社

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