地形 系統地理

川の下流の地形2(三角州とその分類)

以下の記事では、川の上流から順に河川がつくる地形をみてきました。


参考川の下流の地形1(沖積平野の氾濫原に広がる微地形)

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ここでは、最後に河口にできる地形である三角州について解説します。

三角州

ナイル川の河口にできた大規模な三角州であるナイルデルタ(エジプト)。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/1/15閲覧

三角州沖積平野の河口に形成される大規模に砂礫が堆積した地形です。
形がギリシャ文字のデルタ(Δ)に似ていることから、英語ではデルタ(delta)とよばれます。

三角州は海面すれすれにある低湿地で、川は蛇行しながら無数に分岐し、海へ向かいます。
三角州も一種の氾濫原なので、自然堤防後背湿地三日月湖ができます。

三角州の形成

次の図は、三角州が形成されるまでの過程についてまとめたものです。

三角州の形成。①流れが緩やかな河口付近に土砂が堆積 ②堆積物をさけて川が放射状に流れる ③土砂が放射状に堆積 ④放射状の三角州を形成 出典:三角州 ©国土地理院 一部を切り出して加工して作成 2021/1/16閲覧

河口付近は平坦で川の流れはゆるやかなので、運搬よりも堆積作用が強くはたらき、河口付近に土砂が堆積します(図中①)。
水は低い方へ流れるため、堆積した場所をさけて放射状に分岐して新しい場所を流れはじめます(図中②)。
分岐した先でも同じように土砂を堆積し、土砂は放射状に積み上げられます(図中③)。
堆積した土砂によって新しい陸地がつくられ、三角州が形成されます(図中④)。

三角州の形状による分類

三角州の形は、川から運ばれてくる砂礫の量海が侵食する強さによって決まります。
川が運ぶ砂礫の量が多いほど、大量の土砂をより沖合まで堆積します。
また、河口が面している海が周囲を陸に囲まれた内海である場合には、波による侵食が弱くなり、海に飛び出た大きな三角州が形成されやすくなります。
反対に波が強い外洋に面している場合には、波が削る力が強く、三角州は削られて小さくなります。

ここでは、特徴的な形の三角州である円弧状三角州鳥趾状三角州カスプ状(尖状)三角州について紹介します。
なお、河口にできた堆積物が少ない地形である三角江(エスチェアリー)も三角江三角州として三角州に含む場合がありますが、ここでは除外します。

円弧状三角州

スペースシャトルから撮影したニジェール川河口の三角州であるニジェールデルタ(ナイジェリア)。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/1/16閲覧

川の堆積作用と海の侵食作用が中程度でつりあうと、円を描くような形をした円弧状三角州ができます。

円弧状三角州の例として、ナイルデルタ(エジプト)やニジェールデルタ(ナイジェリア)があります。
日本では多摩川の三角州が円弧状三角州です。
羽田空港(東京国際空港)はこの三角州の干潟をうめたててできた空港です。

鳥趾状三角州

鳥趾状三角州を形成するミシシッピ川河口(米国・ルイジアナ州)。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/1/16閲覧

川の堆積作用と海の侵食作用のどちらも強いと、川が堆積した堆積物がほとんど動かず、鳥趾状三角州ができます。
鳥趾状三角州は、川が海の上に自然堤防をつくったような形をしていて、三角州が海へ突き出ています。

アメリカのミシシッピ川の河口にできたミシシッピ川デルタは、大陸を流れる大河川がメキシコ湾という波が弱い内海に流れ出るため、川の堆積作用が強く表れてできた三角州です。

カスプ状(尖状)三角州

テヴェレ川河口付近の地図(イタリア)。出典:ⓒOpenStreetMap licenced 2021/1/16閲覧

海の侵食作用の強いと、三角州で堆積した土砂は海岸からどんどん削られ、三角州は河口が尖った形になります。
このような三角州をカスプ状三角州(尖状三角州)といいます。

イタリアのローマ近郊にあるテヴェレ川の河口の三角州がカスプ状三角州です。

三角州の土地利用

広島平野を流れる太田川とその支流に広がる広島市中心部(広島)。出典:太田川 ©国土交通省 2021/1/16閲覧

三角州は古くから農業が盛んでした。
農業は同じ場所で同じ作物を作り続けると、その植物に必要な栄養が土壌から失われて、収穫量が悪くなります。
しかし、三角州では上流から栄養を含んだ土砂が定期的に堆積して土壌が定期的に更新されるため、優れた農業地帯になります。

また、平坦で水を確保しやすい土地が広がり、川と海の交通・物流の結節点にもなるため、三角州には都市が発展します。
明治時代以降には三角州をうめたてて、陸上や海上の交通機関が集まる都市として整備され、発展している場所が多くあります。

太田川がつくる三角州に広がる広島市広島平野)が一例です。
日本の沿岸部の都市の多くが三角州に広がっています。

一方、三角州は川の下流にできるため、粒の大きさが小さい泥や粘土からできています。
地盤が軟弱で水はけが悪いため、地下水のくみ上げによる地盤沈下がおきたり、地震のゆれが大きくなりやすい場所です。
また、海や川に近いため洪水や高潮、津波の被害もうけやすく、三角州は災害に弱い場所です。
そのような場所に立地する日本の多くの都市では、防災のために河川改修や防波堤、防潮堤の建設など多額の費用をかけて災害を減らす努力をしています。

参考

三角州の肥沃(ひよく)な土は文明の発展にも大きな影響があり、エジプト文明ナイル川の三角州に誕生し、メソポタミア文明ティグリス川とユーフラテス川の三角州(イラク)に誕生しました。
これらの地域は乾燥帯に位置しますが、川が上流の自然豊かな地域の土砂を定期的に運んでくるため、農業が盛んでした。
エジプトでは、川が氾濫する季節が決まっていたので、氾濫を予測するために天文学が発展しました。

参考文献

山から海へ川がつくる地形 国土地理院 2021/1/13閲覧
平野(へいや)とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/13閲覧
三角州とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/16閲覧
三角州 ウィキペディア 2021/1/16閲覧
堀和明、斎藤文紀「大河川デルタの地形 と堆積物地学雑誌 112(3) 337-359 (2003)
円弧状三角州 コトバンク 世界大百科事典内 2021/1/15閲覧
鳥趾状三角州 コトバンク 世界大百科事典内 2021/1/15閲覧
カスプ状三角州 コトバンク 世界大百科事典内 2021/1/15閲覧

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