巨大山脈のような大地系を作る造山運動は、プレート境界付近の変動帯で発生します。
このページでは、変動帯と安定地域の違いや造山運動と造山帯について解説します。
目次
プレートと大地形を作る動き
プレートテクトニクス理論では、地球表面を十数枚のプレートに分割して考えます。
プレートは地球表面を覆う一体となった岩盤であり、プレート同士が互いにぶつかったり離れることで大地形が作られます。
次の図は、世界の主要なプレートの分布を示したものです。
プレートのうち大地形が作られるのはプレートの境界付近です。
上図ではプレート境界は黒線で表され、プレート境界で力が働く方向を赤矢印で表されています。
プレート境界付近は隣のプレートとの作用によって大地形が作られます。
たとえば、2つのプレートが互いにぶつかりあう狭まる境界(収束境界)では、プレートが地球内部に沈み込んで海溝ができます。
また、2つのプレートが離れる広がる境界(発散境界)では、境界付近の海底に海嶺ができます。
このように、プレート境界では地殻変動(火山活動や地震)などの内的営力によって大地形が作られるので変動帯とよびます。
変動帯はプレート境界に沿って帯状に分布し、巨大山脈や海溝、海嶺などの大規模な地形が形成されます。
一方、プレートの境界付近以外の大部分では、内的営力による大地形を作る動きが少なく地質が安定しているため安定地域(安定大陸)とよびます。
安定地域はプレート境界から離れた場所(主に大陸内陸部)に分布しています。
オーストリア大陸と南極大陸はプレート境界から離れている(=変動帯が通らない)ため、大陸全体が安定地域です。
変動帯に該当するのは新期造山帯であり、安定地域に該当するのは安定陸塊と古期造山帯が安定地域に該当します。
造山運動と造山帯
変動帯の中でも、狭まる境界ではプレート同士がぶつかり合うことで巨大山脈が形成されたり、火山活動により弧状列島が形成されるなど大規模な地形を作る力がはたらきます。
このように、狭まる境界において内的営力がはたらいて大地形が作られる作用を造山運動とよびます。
造山運動が活発な場所は、狭まる境界のプレート境界に沿って帯状に分布するため造山帯とよびます。
参考
造山運動の分類
造山運動は大きく2種類(衝突帯型造山運動と沈み込み帯型造山運動)に分けられます。
衝突帯型造山運動
衝突型造山運動は、衝突帯での大陸同士の衝突による大規模山脈の形成です。
たとえば、ヒマラヤ山脈(インド・中国など)は、南側のインドプレート(インド亜大陸)と北側のユーラシアプレート(ユーラシア大陸本体)が衝突した狭まる境界(衝突帯)であり、2つのプレート(大陸)が衝突したことによって巨大山脈が形成されました。
沈み込み帯型造山運動
沈み込み帯型造山運動は、沈み込み帯での海洋プレートの沈み込みに伴う火山活動が原因でできる造山運動です。
沈み込み帯では、海洋プレートが地球内部に沈み込む過程で高温高圧下で岩石が溶けてマグマになり、そのマグマの一部が地上に噴出します(活火山)。
その結果、プレート境界の大陸側では弧状列島(島弧)や大規模山脈が形成されます。
沈み込み帯型造山運動により形成された地形としては、南米のアンデス山脈や弧状列島である日本列島があります。
造山運動の年代による分類
造山帯では大地形を作る力が活発に働くため、巨大山脈や弧状列島(島弧)などの大規模な地形が作られます。
造山運動によって作られた巨大山脈は長い年月をかけて山が削られていき、しだいになだらかな山脈になり、やがては平坦な地形になります。
このように、造山運動をうけた時期(=変動帯であった時代)の違いによって現在の地形の状況は大きく異なります。
新期造山帯
比較的新しい時代(中生代~新生代、2億5000万年前以降)に造山運動をうけた場所を新期造山帯といいます。
新期造山帯は造山運動をうけた時代が新しいため、侵食が進んでおらず標高が高く急峻な山脈が多いです。
新期造山帯は現在のプレート境界(変動帯のうち狭まる境界)に沿って帯状に分布しています。
新期造山帯には、アルプス=ヒマラヤ造山帯と環太平洋造山帯の2つがあります。
古期造山帯
一方、古生代(5億4000万~2億5000万年前)に造山運動をうけ、現在は変動帯ではない場所にある造山帯を古期造山帯といいます。
古期造山帯は「造山帯」という名前ですが、現在は造山運動が行われていない安定地域です。
古期造山帯は造山運動をうけてから時間が経っているため、侵食が進んでなだらかな山脈が多いです。
また、長い時代を経てプレート境界(変動帯)の場所も変わっているため、古期造山帯は現在のプレート境界とは離れた場所に分散して分布しています。
古期造山帯の例としては、ウラル山脈(ロシア)、アパラチア山脈(アメリカ東部)、グレートディバイディング山脈(オーストラリア東部)などがあります。
参考
新期造山帯と古期造山帯
新期造山帯と古期造山帯という区別は、プレートテクトニクス論登場以前の古い時代の分類方法で、現在では高校地理以外に使われていません。
2013年には、高校地理の教科書における造山帯の説明について批判する論文が学会誌に投稿されています(岩田修二「高校地理教科書の「造山帯」を改訂するための提案」)。
そのため、当サイトでたびたび参考文献に挙げているインターネット百科事典の「コトバンク」でも「造山帯」や「環太平洋造山帯」、「褶曲山脈」という単語はあっても「新期造山帯」や「古期造山帯」という単語はありません。
ウィキペディアでは、日本語版のページには「新期造山帯」と「古期造山帯」のページがありますが、日本語以外の言語では対応するページが一切ありません。
一方、「造山運動」のページは英語を含む複数の言語で対応するページが存在し、英語版ページでは日本語版以上に詳細に説明されています。
安定陸塊
古生代よりさらに前の先カンブリア時代(5億5000万年以上前)に造山運動をうけ、その後は造山帯ではない場所を安定陸塊(クラトン)といいます。
安定陸塊は造山運動をうけてから非常に長い年月を経ているため、侵食が進んで平坦な地形になります。
世界の大陸の約3分の2の面積を占めており、大陸の中央部は多くの場合安定陸塊です。
安定陸塊の例としては、カナダ楯状地(ローレンシア台地、カナダ東部)やロシア卓状地(東ヨーロッパ平原、ロシア西部~東ヨーロッパ)、シベリア卓状地(ロシア東部)などがあります。
安定陸塊は造山帯に対比する概念です。
しかし、現在の変動帯(プレートの境界)から離れているという観点では、安定陸塊と古期造山帯は類似しています。
また、造山帯も安定陸塊も地形ではなく地質構造のことなので注意してください。
造山帯の分布
造山帯の分布については、次のページで解説しています。
参考造山帯の分布と分類
続きを見る
まとめ
最後に、新期造山帯と古期造山帯、安定陸塊の違いを表にまとめます。
地質区分 | 新期造山帯 | 古期造山帯 | 安定陸塊 |
造山運動をうけた時期 | 新生代(6,600万年前~現代) | 古生代~中生代(5.5億年前~6,600万年前) | 先カンブリア時代(5.5億年以上前) |
プレート上での位置 | 狭まる境界(変動帯) | 現在のプレート境界から離れた場所 | プレート(大陸)中央部 |
起伏 | 険しい山脈 | 比較的なだらかな山地 | 平坦な平野・高原 |
特徴的な地質構造(大地形) | 褶曲山脈、弧状列島 | 山地 | 楯状地、卓状地 |
場所の例 | ヒマラヤ山脈、日本列島 | アパラチア山脈(アメリカ東部)、ウラル山脈(ロシア) | カナダ楯状地(カナダ東部)、シベリア卓状地(ロシア) |
鉱物資源 | 鉄鉱石 | 石炭 | 銅、石油 |
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参考火山と地震の分布(狭まる境界に集中)
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参考沈み込み帯:海洋上の狭まる境界(収束境界)
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参考文献
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
安定大陸(アンテイタイリク)とは? デジタル大辞泉、精選版 日本国語大辞典 コトバンク 2024/10/13閲覧
「変動帯」と「造山帯」の違いは何ですか。 株式会社帝国書院 2024/10/13閲覧
造山運動(ゾウザンウンドウ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2024/10/13閲覧
造山帯(ゾウザンタイ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、改訂新版 世界大百科事典 2024/10/13閲覧
造山運動と変成作用 北海道大学 大学院理学院 宇宙理学専攻 地球惑星科学Ⅰ 2024/10/13閲覧
岩田修二「高校地理教科書の造山帯の説明は誤り」Proceedings of the General Meeting of the Association of Japanese Geographers 100053 (Spring 2013)
岩田修二「高校地理教科書の「造山帯」を改訂するための提案」E-journal GEO 地理教育解説記事 8(1) 153-164 (2013)
Orogeny Wikipedia 2021/1/10閲覧
中央ロシア高地(ちゅうおうロシアこうち)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/10/22閲覧
安定陸塊(アンテイリクカイ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2024/10/14閲覧