林業 系統地理

熱帯林と林業(ラワン・チークなど)

熱帯林では様々な樹木が生育し、ラワンやチークなどの木材資源の供給源となる場所です。
このページでは、熱帯林の分布と林業、木材として使われる代表的な樹木(ラワン、チーク、ユーカリなど)について紹介します。

熱帯林

フタバガキ科の高木が生い茂るボルネオ島の熱帯林(マレーシア東部・ボルネオ島北東部・サバ州)。フタバガキ科の樹木は、加工のしやすさからラワン材として伐採されている。大木からベニア板を切り出して合板を作ったり、建築資材として利用されている。出典:Wikimedia Commons, ©T. R. Shankar Raman, CC BY-SA 4.0, 2025/2/8閲覧

熱帯気候で見られる森林を熱帯林といいます。
サバナ気候(Aw)で見られる疎林であるサバナ林も熱帯林の一種ですが、木材資源の供給源となるのは主に熱帯雨林(熱帯多雨林)熱帯季節林(熱帯モンスーン林)です。
温暖で降水量が豊富な熱帯林(主に熱帯雨林)では、30mを超える非常に背が高い樹木が生い茂り、その下には亜高木や低木、草本(いわゆる草)が生える階層構造になっています。
熱帯林では非常に背が高い樹木が太陽光の多くを吸収するため、それより下の階層では太陽光が届く量が急減し、そのような環境に適応した植物が階層的に分布しています。

熱帯林の分布

熱帯における森林(熱帯林)の分布。熱帯林では、熱帯雨林(熱帯多雨林)を中心に様々な種類の広葉樹が生い茂り、森林資源も豊富である。弱い乾季がある熱帯モンスーン気候(弱い乾季がある熱帯雨林気候, Am)では熱帯モンスーン林(熱帯季節林)、明確な乾季があるサバナ気候(As)にはサバナ林が分布する。熱帯林では広葉樹が優占するが、山岳部など特殊な環境の場所では、熱帯林であっても局所的に針葉樹林が広がる。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©Mark Marathon, CC BY-SA 4.0, 2025/2/9閲覧

上の地図は、世界の熱帯林の分布を示したものです。
一年を通して雨が降る場所では熱帯雨林(熱帯多雨林)が広がり、多種多様な広葉樹が混在した森林が広がります。
弱い乾季がある場所では、チークやサラソウジュ(沙羅双樹)などの熱帯モンスーン林(熱帯季節林)が広がります。
明確な乾季がある場所では、サバナ林とよばれる樹木の間隔が広い疎林が広がります。
熱帯雨林が常緑広葉樹林であるのに対し、熱帯モンスーン林やサバナ林では、乾季に落葉する落葉広葉樹林(雨緑林)です。

熱帯林では、広葉樹の割合が高く、針葉樹の割合は低いです。
ただし、熱帯の中でも山岳部など特殊な環境では、局所的に針葉樹林が広がる場所もあります。
たとえば、ヒマラヤ山脈の山麓やフィリピン・インドネシアの山岳部の標高が高い場所では、熱帯気候にも関わらず針葉樹林が広がっています。

熱帯林の林業

熱帯林から切り出された樹木が丸太となって集積されている風景(マレーシア東部・ボルネオ島北東部・サバ州)。東南アジアではフタバガキ科の樹木がラワン材として伐採されており、加工のしやすさから合板や建築資材として使われている。出典:Wikimedia Commons, ©T. R. Shankar Raman, CC BY-SA 4.0, 2025/2/8閲覧

気温が高く降水量が多い熱帯林(主に熱帯雨林)は、生物多様性の宝庫とよばれ、多様な樹木が生育します。
熱帯林では特定の種類の樹木だけが集まることは少なく、様々な種類の広葉樹が入り混じっています。
亜寒帯林や温帯林と比較すると、熱帯林では広葉樹の割合が高く、針葉樹の割合は低いです。

熱帯林では様々な種類の樹木が混在するため、特定の樹木だけを伐採する場合でも、伐採した樹木を持ち出す道路を作るために周辺の無関係な樹木も伐採する必要があります。
このため、必要以上に森林が伐採されてしまう上に、伐採用の道から土砂崩れが起きたり、熱帯林本来の生物多様性が失われるなどの問題があります。

日本では、東南アジアの熱帯林の木材を南洋材と呼んで1960年代から輸入していましたが、やがて東南アジアで伐採のし過ぎによる森林資源の枯渇が問題となり、1970年代後半以降は各国が輸出規制を行い輸入量が減少していきました。
このため、次第にロシア(北洋材)や北米(米材)などから亜寒帯林(冷帯林)の木材を輸入するようになりました。

熱帯林の樹種と木材

黒檀(コクタン)の食器棚。17世紀のオランダの家具職人ドゥーマー(Herman Doomer, 1595-1650)によって作られた。コクタンは東南アジア~南アジア~アフリカに分布する樹木であり、耐久性の高さと重厚な色合い・質感から高級家具の材料として利用されている。出典:Wikimedia Commons, CC0, 2025/2/8閲覧

熱帯林で木材として伐採される樹木としては、ラワンやチーク、マホガニー、コクタン(黒檀)、シタン(紫檀)、ケブラチョなどがあります。
ラワンは加工がしやすい木材であり、薄く切ってベニア板を切り出して合板にしたり、建築資材として使われます。
チークやマホガニー、コクタン、シタンは高級な木材(銘木)として知られており、耐久性や質感を活かして高級家具などに使われています。
ケブラチョからは、革なめしに使われるタンニンを抽出できます。

天然林の樹種には上記のようなものがありますが、伐採後に有用な樹木を新たに植える場合もあります。
たとえば、熱帯林では天然林の伐採後にパルプ(紙)の原料となるアカシアが植林された人工林が見られます。
また、オーストラリアの温帯から熱帯地域に自生するユーカリは、利用用途の多さからオーストラリア以外の熱帯林(ブラジルなど)で、天然林の伐採後に植林されています。

材木用途ではありませんが、天然ゴムを採取できるパラゴムノキパーム油を採取できるアブラヤシも熱帯林の重要な樹木作物です。

ラワン

ラワンはフタバガキ科の広葉樹の総称であり、東南アジアで木材として利用される代表的な樹木です。
ラワンは木の半径が大きくなるため、薄く切って大きなベニア板を切り出すことができます。
このため、薄いベニア板を接着剤で貼り合わせた合板の材料としてよく使われています。
ラワン材は加工しやすく建築資材や家具などに使われますが、耐久性が低く虫がつきやすいという欠点がある木材です。

東南アジアでは輸出目的の商業伐採やプランテーション建設のための伐採により、天然林が減少しています。
しかし、フタバガキ科の樹木は開花・結実に明確な周期がなく(1-8年)、伐採後の森林の人工的な再生が難しいという問題があります。

チーク

装飾が施されたチークの机(米国)。アメリカ合衆国第15代大統領ジェームズ・ブキャナン(任1857-1861)がホワイトハウスで愛用したデスクである。インドのチークを材料として作られている。チークは耐久性の高さから高級な木材として重量物を載せる机などの材料として利用されている。出典:Wikimedia Commons, ©Found5dollar, CC BY-SA 4.0, 2025/2/9閲覧

チークは、南アジア~東南アジアの熱帯モンスーン気候(弱い乾季のある熱帯雨林気候, Am)で生育する落葉広葉樹です。
主な原産国は、インド、ミャンマー、タイ、ラオスです。
チーク材は硬くゆがみが少ない木材で、耐久性・耐水性も高く、殺虫成分を含む油を出すため虫害にも強いです。
このため、高級な木材として建物や客車の内装として利用したり、耐久性・耐水性を活かして船舶の建材や重量物を載せる机・テーブルとして利用されてきました。
天然のチーク林は減少しており、伐採や輸出入の規制があるため高価で希少な木材です。
このため、薄く切って内装の表面だけをチーク材で仕上げるといった使われ方もします。

ユーカリ

紙パルプの原料として使うために、ユーカリを伐採している様子(オーストラリア南東部・ビクトリア州)。ユーカリはオーストラリアの温帯~熱帯域に自生する樹木であり、木材資源としての用途が幅広い。ユーカリは紙パルプの原料になるほか、薪炭材や合板、建築材など木材としての用途も多く、さらには油成分が塗料や香油、化粧品の原料としても使われる。オーストラリア原産であるが、ブラジル(東北部・南東部)など他の熱帯地域で天然林を伐採した後に木材資源として有用なユーカリが植林される例も多い。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2025/2/9閲覧

ユーカリは、オーストラリア周辺の温帯熱帯で自生する常緑樹(硬葉樹)です。
ユーカリは紙パルプの原料になるほか、薪炭材や合板、建築材など木材としての用途も多く、さらには油成分が塗料や香油、化粧品の原料となるなど、木材資源としての用途が幅広いです。
このため、ブラジル東北部・南東部のように本来の分布域とは離れた熱帯地域でも、天然林の伐採後にユーカリが植林されています。
このため、現在では熱帯の人工林ではユーカリが広く見られます。

参考

硬木と軟木
樹木の材質の分類として、硬木(こうぼく、かたぎ、堅木とも)と軟木(なんぼく、やわぎ)があります。
硬木は一般に材質が硬い広葉樹の木材を指し、軟木は一般に材質がやわらかい針葉樹の木材を指します。

熱帯林ではチークやコクタン(黒檀)のように重くて硬く丈夫な木材が取れるため、これらの樹木・木材を指して硬木とよばれています。
重くて硬く丈夫な硬木は耐久性が高いため、重量物を載せる机などに利用されます。
一方で、中の繊維が密に詰まった木材は加工が大変なので、木材を細かく分解する必要がある紙パルプの原料にはあまり使われません。

一方、亜寒帯林(冷帯林)の針葉樹からは材質がやわらかい木材が取れるため、これらの樹木・木材を指して軟木とよばれています。
軟木と言えども一定の強度はあるため、建築材として利用されるほか、紙パルプの原料としても利用されます。

硬木と軟木という用語の注意点としては、厳密には樹木の材質の硬さと硬木・軟木の分類は無関係であり、単に広葉樹の木材=硬木、針葉樹の木材=軟木と分類される点です。
このため、硬木=広葉樹であってもユーカリのように比較的やわらかい樹木もありますし、逆に軟木=針葉樹であっても、環境が厳しい場所で育ったスギ(例:屋久島のスギ)は年輪の幅が狭く高密度で硬くなります(通常のスギは低密度でやわらかい)。
以上のように、硬木と軟木は字面から意味を誤解されて使われている用語である点に留意が必要です。

参考文献

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帝国書院編集部「新詳地理資料 COMPLETE 2023」帝国書院(2023)
コラム「熱帯林の機能」 その2 国立環境研究所 2025/2/6閲覧
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ラワン 木材辞典 村上木材株式会社 2025/2/6閲覧
竹内やよい「ボルネオ熱帯雨林の 一斉開花の要因を探る」 JT生命誌研究館  2025/2/6閲覧
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
チーク 建築用語辞書 東建コーポレーション株式会社 2025/2/6閲覧
チークとは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/2/6閲覧
ユーカリ ウィキペディア 2025/2/9閲覧
ユーカリとは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典 2025/2/9閲覧
桜井 敏浩「ユーカリ植林と環境問題 -ブラジルでの議論を中心にして」 アンデス-アマゾンーアメリカラティーナ 2025/2/9閲覧
加藤 隆 ほか「林産業の急成長を支えるブラジルの人工林資源」熱帯雨林 41 p 2-14 (1998)
軟木 住まいの反対語・対称語辞書 東建コーポレーション株式会社 2025/2/9閲覧
硬木・軟木と気候との関係について  みんなのひろば 日本植物生理学会 2025/2/9閲覧
屋久島スギ原始林 鹿児島県教育委員会 2025/2/9閲覧

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