住居表示の方法の一つに道路方式(土地が面している通りの名前を住所に使う)があります。
道路方式が採用されている事例は非常に少ないです。
前回(街区方式と道路方式について紹介)は、道路方式として取り上げられる事が多い山形県東根市と北海道浦河町の事例について紹介しました。
しかし、他にも道路方式と思われる場所があります。
この項目では、札幌市白石区、京都市中心市街地、北海道の条丁目制の3つについて取り上げ、それぞれが本当に道路方式と言えるのかについて見ていきます。
札幌市白石区
札幌市白石区には、道路方式と思われる住居表示実施地区があります。
JR函館本線のすぐ南側から豊平区との区境にかけてです。
北から順に以下の通りに沿って、通りの名前を冠した細長い町名が存在します。
・平和通
・本通
・本郷通
・南郷通
・栄通
次の地図は、北から4番目の「白石区南郷通」の場所を示したものです。
町名も西から順に南郷通通1丁目、2丁目・・・と続いています。
地下鉄東西線の「南郷○丁目駅」は地名としては、「南郷通○丁目」となっています。
東根市の道路方式と異なるのは、南郷通に直接面している場所だけではなく、少し離れた場所も「白石区南郷通」に含まれる点です。
そのため栄通以外は、町名に使われている通りよりも北側を「○丁目北」、南側を「○丁目南」と命名しています。
大きな通りの両側に区域が広がっている一方、東西に細い道が並行して走っており、その細い道が区域の境界になっているため、街区方式にも見えます。
このように道路方式にも街区方式にも見えるような区域の区切り方なので、道路方式の例として取り上げられることが無いのだと思われます。
しかし、面的に広がる人口密集地を道路に沿って規則的に区切って住所としているのは東根市や浦河町には無い特徴です。
東根市は人口密度が低い路村という特殊な場所で住居表示がなされており、浦河町も海と丘に挟まれた細長いエリアという特殊な条件をもつ場所です。
そのため、統一的に道路方式で通りの名前を住所に採用している札幌市白石区の事例は、東根市や浦河町以上に欧米の住所表記に近い住所表記といえます。
京都市中心市街地
京都市の中心市街地では、通りの名前を使って住所が次のように表記されますが、これは道路方式と言えるのでしょうか。
・京都市中京区寺町通御池上る上本能寺前町488番地(京都市役所)
表記を分解すると次のような構成になっています。
京都市中京区+<通り名1:寺町通>+<通り名2:御池>+<方向:上る>+<町名:上本能寺前町>+<地番:488番地>
京都市役所の地図も示しておきます。
答えは、住居表示未実施なので道路方式とは言えません。
大都市の中心市街地は住居表示が実施されている場合が多いのですが、京都市は住居表示未実施のため住所は地番で表記されます。
さらに、京都の場合は地番の前に東西と南北の通りの名前を入れるという独自のルールがあります。
これは、京都のように碁盤の目状に広大な市街地が広がる場合は、東西と南北の通りの名前を使って場所を表すのがわかりやすいためです。
丸竹夷(まるたけえびす)の唄に古くから歌われているように、京都では古くから通り名による住所表記がなされていました。
そのため、住民票に記載される住所にも通り名と町名を合わせた表記が使われています。
京都が住居表示未実施なのは、単に歴史ある町名を残したいだけではなく、通り名による表記があれば住居表示を行わなくても場所の特定に不自由しないという側面があります。
参考
京都が道路方式ではない理由として住居表示未実施であることを理由にあげました。
しかし、その一方で「欧米では道路方式が一般的」という説明が各所でなされています(国交省でも)。
欧米では当然「(日本の法律に基づく)住居表示」がなされていないので、「住居表示未実施だから京都は道路方式ではない」のに「欧米では道路方式が一般的」というのは矛盾しています。
そこで京都の通り名による住所表記が道路方式とは言い難い理由について追加で説明します。
京都の通り名による表記は同一地点を複数パターンで表現できるため、住所がひとつに定まらないという問題点があります(住民票の住所として使用する場合は転入時に選ぶそうです)。
たとえば、先述の京都市役所の例であれば、南側で隣接する御池通を使って「寺町通御池上る」としていますが、北側で隣接する押小路通を使って「寺町通押小路下る」としてもいいはずです。
実際には、押小路通よりも御池通の方が大きい通りなので御池通を使う方が一般的ですが、場所によっては通りの大きさに大差ない場合もあります。
その場合、地点を特定しても住所が一つに定まらないため、これを東根市や欧米の道路方式と同一視するのは難しいです。
逆に「上本能寺前町488番地」といった地番以降だけで住所を特定しようと思っても市内・区内に同一町名が複数存在するため、通り名を併記しないと場所の特定が困難な地区もあります。
以上から、京都市は他の町の道路方式とも地番による表記とも異なる京都独自方式と見なした方が良さそうです。
北海道の条丁目制
最後に北海道の市街地で採用されている条丁目制が道路方式と言えるのかについて見ていきます。
条丁目制は北海道の内陸都市の市街地で見られ、○条○丁目(○は数字)という地名です。
住所の表記は次のようになります。
・札幌市中央区南4条西4番1号(地下鉄すすきの駅)
中心市街地を外れたエリアでは、以下のように町名+○条○丁目というパターンもあります。
・札幌市白石区東札幌6条1丁目1番1号(札幌コンベンションセンター)
このような町名は、道路方式と言えるのでしょうか。
答えは、同じ条丁目制の地名でも、街区方式と道路方式の二通りが存在します。
同じ「○条○丁目」という表記でも、その区域が四方を道路に囲われた場合(街区方式)と道路を挟んで両側に広がる場合(道路方式)の2パターンが存在します。
街区方式(○条通が街区の境界):札幌、美唄、砂川、深川
道路方式(○条通の両側が領域):旭川、北見、帯広、岩見沢
街区方式の事例(札幌市)
まず一つ目の街区方式の事例について紹介します。
次の地図は、札幌市北区北12条西4丁目(住居表示実施地区)の区域を示しています
住所は「北12条」ですが、南端を「北12条通」、北端を「北13条・北郷通」という大きな通りに挟まれて街区を形成しています。
東西についても住所が「西4丁目」であるのに対し、東端を「西4丁目通」、西端を「西5丁目・樽川通」という大きな通りを境界にしています。
中央を横切る通りは南北の通りと比べて非常に細い道であることに注意して下さい。
このように札幌の中心部は一見すると通りの名前と住所が対応しているように見えますが、実際には住所が北12条なのに北13条通に面していたり、住所が西4丁目なのに西5丁目通りに面している場所があり、道路方式とは言えません。
一見道路方式のように見えますが、街区方式です。
道路方式の事例(旭川市ほか)
次に道路方式の事例について紹介します。
次の地図は、旭川市4条通(住居表示実施地区)です。
旭川市では、「○条○丁目」ではなく「○条通○丁目」という住所表記になっており、名前のとおり道路方式となっています。
近隣の旭川駅の住所は「宮下通8丁目」であり、こちらも道路方式が採用されています。
同様の事例は北見市や岩見沢市にも見られます。
この2市の中心部の条丁目制の地域は、旭川市同様に道路に沿って両側の建物が同じ住所になっています。
旭川市とは異なり、住所は「○条○丁目」で「通」は入りません。
ただし、この2市の中心部は旭川市とは異なり住居表示未実施であり、法律に基づく厳密な意味での道路方式ではありません。
ただし、欧米同様の住所の振り方なので、広い意味では「道路方式」と言って良いと思います。
ちなみに、岩見沢市ではJR函館本線の南側の「○条○丁目」の地域は道路方式(地番)ですが、北側の「北○条○丁目」は住居表示実施済みで街区方式で町名が割り振られています。
次の地図は「岩見沢市1条西○丁目」で、1条通の両側が同じ住所です(住居表示は未実施)。
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一方、すぐ北側の「岩見沢市北3条西○丁目」は、北3条通と北4条通に挟まれた地域であり、街区方式の住居表示がなされています。
先ほど紹介した1条通とは異なり、住居表示実施地区です。
このように、同じ市内の隣接地域でも、住居表示実施済みの地区では街区方式であるのに対し、地番を住所に使う地域では道路方式と同じやり方で住所が決められている事例も見られます。
以上のように、北海道や東根市のように内陸部に計画的に入植した地区に通り名を町名に採用する道路方式が多く採用されています。
ただし、人口密集地以外では住居表示を導入するメリットが小さいため地番表記の住所がそのまま残ります。
そのため、道路方式は江戸時代以前からの市街地が存在しない北海道の内陸都市に集中して見られます。
北海道では原野を開拓する際に地名が命名されたため「○条通」や「東○線」といったように数字を機械的に割り振る方式にで通りの名前が命名され、それがそのまま地名になりました。
参考文献
住居表示 ウィキペディア 2023/3/18閲覧
住居表示に関する法律(昭和三十七年法律第百十九号) e-Gov法令検索 2023/3/18閲覧
「通り名で道案内」のねらい 国土交通省 2023/3/18閲覧
住居表示実施地区一覧 札幌市 2023/3/19閲覧
京都の住所表示のルール 京都仁丹樂會 2023/3/19閲覧
難解な京都の住所表記。3パターンを抑えればとても分かりやすいです! 京都テナントプラス 株式会社大陽リアルティ 2023/3/20閲覧
戸籍・住民票における地番の表示方法について 京都市 2023/3/19閲覧
京都市内の通り ウィキペディア 2023/3/19閲覧
独特の住所表示「条丁目」街区が北海道にこんなにある理由 北海道ファンマガジン 2023/3/19閲覧
丁目 ウィキペディア 2023/3/19閲覧
住居表示等実施状況 旭川市 2023/3/20閲覧
住居表示について 岩見沢市 2023/3/20閲覧