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アンケート設計における課題設定の重要性

ビジネスにおいてマーケティング目的で特定の属性の人々に対してアンケートを実施することはよくあります。
一方でせっかくアンケートをとっても、ありきたりな一般論しかわからず、「で、どうしたらいいの?」という疑問に答えられない事態に陥りがちです。
このページでは、アンケート調査における課題設定について解説します。

簡単に実施できるWEBアンケート

ビジネスにおいては特定の属性の人々にアンケートを取り、その回答を分析することでビジネスの意思決定に活用する試みが広く行われています。
個々の企業が不特定多数の人々を集めてアンケートを実施することは大変ですが、マクロミルや楽天インサイトといったアンケート調査会社を利用することで、(お金さえ払えば)簡単にアンケートを実施できます。

アンケートの実施方法には、大きく分けてセルフ実施型とリサーチャーサポート型があります。
セルフ実施型は、アンケートフォームの作成とアンケートの実施のみを調査会社に依頼する形式で、アンケートの設問作成やアンケート結果の分析は依頼者側が行います。
コストが抑えられる一方でアンケート設計が適切に行えていないとアンケートを実施したにも関わらず、必要な情報が得られないというリスクがあります。

リサーチャーサポート型は、調査会社にアンケート設計からアンケート実施・分析レポート作成までを依頼する方式です。
コストが高い一方で、調査会社のサポートを利用できるためアンケートが無駄になるリスクを低下させることができます。

しかし、たとえリサーチャーサポート型でアンケートを実施する場合でも、アンケートのコストパフォマンスを最大化するためには、依頼者側がきちんとアンケート設計を行うことが重要です。
アンケートの設計では、課題設定(調査仮説の設定)や設問の具体的内容、実施後の集計・分析内容といった一連の構成を事前に整理してからアンケートを実施します。
その際に課題設定が適切でないとアンケートは取ったけれど一般論のような示唆しか得られないと行った事態に陥るリスクがあります。

以下では、アンケート設計の鍵となる課題設定について触れていきます。

課題設定

アンケートを設計する際に重要なのは、アンケートの課題設定です。
単に「〇〇について意見を聞く」といったざっくりしたものではダメです。
具体的な仮説をもとにアンケートで明らかにする課題を設定し、アンケートの結果をどのように分析し、そこからどのような意思決定を行うかまでを具現化して考える必要があります。

具体的な課題が定まっていない状態でアンケートを実施すると、結果を分析してもありきたりな一般論(事前想定可能な内容)に終始してしまい、その後の意思決定につながらないリスクがあります。
そのため、「検証すべき仮説は何か」を考える課題設定がアンケート実施の鍵と重要になります。

以下では、アンケートの課題設定についてステップに分けて説明します。

マーケティング課題の設定

アンケート設計の最初のステップは、ビジネス上の課題(マーケティング課題)の設定です。
「売上を上げたい」といったざっくりしたものをマーケティング課題にすると、そのままでは答えを出すことが難しいです。
そのため、適切な粒度まで問題を分解する必要があります。

マーケティング課題の例として以下のようなものがあります。
・自社商品の売上不振の原因特定
・商品開発のために消費者ニーズを知りたい
・キャンペーンの効果測定

このようなマーケティング課題の中で、アンケートによって解決できる部分を探し、リサーチ課題として設定します。

リサーチ課題とは

リサーチ課題とは、アンケート調査で解決する課題のことです。
その課題を解決することでビジネス上の意思決定につながり、ビジネス上の目的達成(マーケティング課題の解決)につながるものである必要があります。

加えて、リサーチ課題はアンケート調査によって達成可能である必要もあります。
たとえば、10年前のことをアンケートで聞いても正確に覚えている人はほとんどおらず、不正確な回答しか得られません。
そのため、「過去10年間の消費者ニーズの変化」といったものはビジネス上の重要であってもリサーチ課題としては不適切です。

具体的なリサーチ課題の例を示します。
自社商品の継続使用をやめてしまった人に対して、離反理由を明らかにする目的でアンケートをとる場合があります。
この場合のリサーチ課題は、「顧客離反防止のために必要なアクションは何か」であす。
離反顧客へのアンケートから離反理由を探り、離反防止の為の施策選定という意思決定につなげ、離反顧客を減らして売上を維持するというビジネス上の目的達成につなげることを意図しています。

リサーチ課題はアンケートとビジネス課題をつなぐ橋渡しをするものであり、リサーチ課題を適切に設定できないとアンケートが無駄になってしまうリスクが高くなります。

リサーチ課題の明確化

ここからは、リサーチ課題を明確化するために考える必要があることについて触れていきます。
具体的な項目としては、調査背景、調査目的、調査仮説の3つがあります。

調査背景

調査背景とは、調査を行う理由や経緯のことです。

調査背景を整理するにあたっては、現状(アンケート実施前)と未来(アンケート実施後)のギャップを明確化することが重要です。
つまり、現状や課題と同時にアンケート実施後に結果をどのように活用し、意思決定や課題解決につなげていくかということまでを考えます。
現状では〇〇という問題について原因がわかっておらず改善策を選定できていないが、アンケートの結果をふまえて改善策を選定・実行するといった具合です。

調査結果の活用シーンについては、5W1H(誰が、いつ、どこで、どのような目的で)を意識して深堀りしていきます。
たとえば、売上不振の原因特定がリサーチ課題であったとしても、事業の撤退可否の判断材料として役員へ報告するのか、店舗の現場責任者へ品揃えの改善方法立案に使うのかでは必要な情報の粒度も変わってきます。

この際のポイントは、できるだけ疑問形の形で考えることです。
たとえば、「売上不振の原因は何か?」や「商品Aを値上げして顧客が離反しないか」といった形です。
疑問形で考えることで、アンケートで何を出そうとしているかが明確になります。

以上のようにアンケート実施後の活用シーンまで想定することで、アンケートをどのように深堀りしていく必要があるかが明確になります。

調査目的

調査目的とは、アンケート調査で明らかにすべき事項のことです。
調査背景の項目で解説した、現状(As is)とあるべき未来(To be)のギャップを解消するために必要な情報を得ることが調査目的になります。
言い換えれば、「今後のアクションに必要であるが、現在足りていない情報」を明らかにすることです。
アンケート実施後にどのような状態でいたいか(To be)をふまえ、現状(As is)とのギャップを埋めるために何が不足しているかを考えます。

調査目的を考えるにあたっては、何がわかっていて何がわかっていないかを整理することが必要です。

現状とあるべき未来のギャップの中には、以下の3つの要素があります。
・既に決まっていて、変えられないこと(例:日本の少子高齢化)
・調査する前からわかっていること(例:自社商品に対するクレーム)
・わかっていないこと(例:消費者ニーズ、顧客の離反理由)

この3要素のうち、重要であるがわかっていないことを調査目的として設定します。

調査仮説

調査仮説は、調査目的として設定した不明点(わかっていないこと)に対する仮説です。
調査仮説を設定することで、単に「〇〇の原因を明らかにする」といったざっくりしたものから、「〇〇の原因は××であることを確かめる」といったように具体化することができます。
具体的な調査仮説を立てることで、アンケート対象者のしぼりこみや、アンケートの設問内容・選択肢の設計指針が明確になります。

良い調査仮説は、ビジネス上の意思決定につながる仮説です。
これまでの経験や分析を元に想定される仮説であり、内容が具体的な原因・理由まで掘り下げられているといいです。
アンケートを通して調査仮説を検証することで、具体的な行動に結びつけられるのが理想的です。

以上のように調査仮説を設定することで、リサーチ課題を明確化できるだけではなく、アンケートの対象者選定や設問設計の指針にもなります。

結論:アンケートにおいて課題設定は重要

アンケート自体は簡単に実施できますが、結果がビジネス上の課題解決つながるかは事前の課題設定が鍵を握っています。
マーケティング課題とリサーチ課題を区別した上で調査後の活用シーンをイメージしながら調査目的と調査仮説を設定することが重要です。
綿密に設計された調査仮説を元にアンケートの構成を整理することで、アンケートの効果を最大限引き出すことができます。

参考文献

渋谷 智之「Webアンケート調査 設計・分析の教科書 第一線のコンサルタントがマクロミルで培った実践方法」翔泳社(2023)
セルフ型アンケートとは?格安な理由やメリット・デメリットを解説 ネットリサーチ会社比較サポーター tactics株式会社 2023/3/30閲覧
アンケート調査票の作り方は?良い例・悪い例 GMOリサーチ株式会社 2023/3/30閲覧

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