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レベニューマネジメントとは何か(陳腐化商品の販売戦略)

2023年11月16日

航空券や新幹線のきっぷ(指定席券)は飛行機や列車が出発してしまうと無価値になります。
これは、家具や文房具といった次の日も販売できる商品とは大きく異なる性質です。
このような在庫を繰り越せない特性をもつ商品では、レベニューマネジメントとよばれる価格戦略を用いることで利益の最大化が試みられています。
このページでは、前提知識となる陳腐化という概念の説明からはじめ、レベニューマネジメントの概要について説明します。

陳腐化商品:航空券やきっぷの商品特性

航空券や新幹線のきっぷ(指定席券)は、飛行機や列車が出発すると商品としての価値が消滅します(陳腐化)。
このように、ある時点(期日)を過ぎると商品価値がなくなる商品を陳腐化商品といいます。
陳腐化商品の売上を最大化するためには価値が失われる前に売り切る必要があります。
陳腐化商品の例として、ホテルの部屋(特定の日に泊まる権利)や新聞(時間が経つと速報性やニュース価値が失われる)などがあります。

航空券や新幹線のきっぷのような陳腐化商品の特徴として、固定費が高く変動費が低いという特徴があります。
航空や鉄道は事前にダイヤが固定され、乗客の有無に関わらず運行します。
そのため、乗客の有無に関わらず膨大な運行費用がかかります。
一方で乗客が1人増えたときに追加でかかるコストは相対的に小さく、きっぷの発券費用や重量が増えたことによる追加燃料費くらいです。

このように変動費が無視できるほど小さいため、多少値下げしてでも販売できる座席数(枠)を売り切った方が利益が出ます。
しかし、一律に販売価格を下げてしまうと、本来高い値段でも買ってくれた人にまで安い価格で売ってしまうため、その分が逸失利益になってしまいます。

たとえ人によって価格を分けて販売できたとしても、安いチケットを買った人だけで満席になってしまうと、本来もっと高くても売れたはずの分が逸失利益になっていまします。
そのため、座席数に限りがある場合は高くても買う人に優先的に販売した方が売上が増えます。

以上のように、陳腐化商品である航空券やきっぷは通常の商品とは異なる性質をもつため、商品の販売戦略が変わってきます。

ポイント

航空券や特急列車のきっぷ(指定席券)の商品特性
・陳腐化商品である(出発時刻を過ぎると商品が無価値になる)
・固定費(運行費用)が高く、変動費(人数増による追加コスト)が低い
・消費者を価格に対する反応性によっていくつかのタイプに分割可能(ビジネス客と旅行客)
・供給枠数(座席数)が固定
・需要が季節や日時によって大きく変動する

陳腐化商品の販売戦略:レベニューマネジメント

航空券や特急列車のきっぷ(指定席券)の販売戦略は、同じ商品を別の価格で売るというものです。
ビジネス客など高い価格でも買ってくれる人には高価格で売り、旅行客など安くないと買ってくれない人には低価格で売ることで売上や利益を最大化することが出来ます。
このように、需要と供給、顧客の価格感応度などに合わせて販売価格を分けて座席を売ることで一便(一列車)あたりの売上を最大化しようとすることをレベニューマネジメント(収益管理、RM, Revenue Management)といいます。

レベニューマネジメントの広がり

レベニューマネジメントは元々航空業界で生まれた言葉です。
第二次世界大戦以降、移動手段として航空機の利用が広がりましたが、当初は航空運賃が各国政府によって統制されており、航空運賃は飛行距離に応じて決められていました。
しかし、1978年以降の規制緩和により自由な価格設定が認められていったため、航空券の販売価格をコントロールすることで飛行機一便あたりの売上を最大化する試みが行われるようになりました。
このような価格戦略は今日では一般的なものとなり、航空機のレベニューマネジメントと呼ばれています。

今日ではレベニューマネジメントの手法は他業界にも適用されており、陳腐化商品であるホテルやレンタカー、新幹線、高速バスなどで同一座席(部屋、車等)を違う価格で売る試みが行われています(例:早期購入割引)。

前提条件

レベニューマネジメントはどのような商品・サービスにも適用できるわけではありません。
レベニューマネジメントを効果的に適用できるのは、商品・サービスが以下のような商品特性をもつ場合です。

1.顧客を価格への反応性の違いによって複数のグループに分割可能である
例:航空機の利用客は、「数ヶ月前に購入するが価格に敏感な旅行客」と「直前に購入するが高くても利用するビジネス客」に分割できる
当てはまらない例:病院の保険診療は価格が統制されているため分割不可能である

2.供給量が固定されている
例:航空機1便の座席数やホテルの部屋数は一定であり、繁忙期でも閑散期でも供給量が一定である
当てはまらない例:オフィス街の飲食店は平日のお昼に営業する一方、土日は営業時間を短縮したり店を閉めて供給量をコントロールしている

3.固定費が高く、変動費(限界生産費)が低い
例:航空機1便の運行費用の大部分は固定費であり、乗客数が1人でも100人でも運行費用の差は小さい(人数が増えると燃料代がわずかに増える程度であり、固定費と比べてわずかである)
当てはまらない例:マッサージ店の接客コスト(人件費)は、1人と100人では大きな差がある(固定に比べて変動費が大きく無視できない)

4.陳腐化商品である
例:新幹線や特急列車の指定席券(発車時刻を過ぎると無価値)
当てはまらない例:家電量販店で売られている家電やPC、文房具など(売れ残っても翌日に販売可能)

5.事前販売が可能である
例:コンサートのチケット(前売り券の存在)
当てはまらない例:病院の診察代(予約可能なのはあくまで診察を受けられる「時間枠」であって事前に医療費が確定しておらず前払い不可能)

6.需要が日時や季節によって大きく変動する
例:航空券は年末年始やGWのような大型連休に需要が増大
当てはまらない例:スーパーマーケットにおける生鮮食料品の需要(食事は毎日とる必要がある)

以上のような特性に当てはまる商品・サービスはレベニューマネジメントと相性が良いです。
代表的なサービスとしては、ホテル、航空券、新幹線などがあります。

航空券のレベニューマネジメントの例

表 レベニューマネジメントを取り入れた価格設定の例。同一路線の日付別の航空券の早期割引を想定して作成している。基本的に早く購入するほど安く購入できるが、需要が見込まれる繁忙期 (1/3, 5/3) は高く、閑散期 (2/3) は安い価格設定になっている。

最後に航空券の価格設定を例にレベニューマネジメントの考え方について説明します。
上の表はレベニューマネジメントを取り入れた航空券の価格設定の例です。

航空券は公共交通機関なので正規運賃(通常料金)が定められており、正規運賃は日時によらず一定です。
しかし、航空券の需要は年末年始などの繁忙期には大きな需要がある一方、2月などの閑散期には需要が少なくなります。
このため、繁忙期には価格を高く、閑散期には価格を安くなるように価格を設定しています。
上の表を縦方向に見ると、同じ早期割引でも日付によって価格が大きく異なります。

また、同じ日であっても、ビジネス客のように高くても利用する乗客と旅行客のように価格次第で利用を決める乗客がいます。
そのため、売上・利益を最大化するためにはビジネス客には高く、旅行客には安く売る必要があります。
そこで、早期割引を設定することで数ヶ月前に購入する旅行客には割引運賃を設定する一方、直前に購入するビジネス客には高い運賃を設定しています。
上の表を横方向に見ると、直前になるほど販売価格が上昇しています。

以上のように、陳腐化商品の価格設定を工夫することで売上や利益の最大化を行うことをレベニューマネジメントとよびます。

参考文献

佐藤 公俊, 澤木 勝茂「レベニューマネジメント 収益管理の基礎からダイナミックプライシングまで」共立出版 (2020)
竹内 健蔵「交通経済学入門」有斐閣(2008)
Revenue management, Wikipedia 2023/10/26閲覧
独占企業の価格差別戦略(第1種・第2種・第3種) 道産子北国の経済教室 2023/10/26閲覧
マーケティング用語集 価格差別化  J-marketing.net 株式会社ジェイ・エム・アール生活総合研究所 2023/10/26閲覧

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