コロナ禍の交通量の減少とその後の回復は区間によって大きな差があります。
ここでは、コロナ禍をはさんだ2019年から2023年4月までの期間の高速道路の交通量の推移を可視化し、区間ごとのコロナ影響を差異を考察します。
データの取得・前処理過程を含めた分析全体については次のページにまとめています。
参考コロナ前後の高速道路の交通量の推移
今回は、高速道路の交通量データの可視化を行い、コロナ禍の外出自粛による交通量激減からの回復状況の区間ごとの違いを見ていきます。 今回使用するデータは、ダウンロードや構造化データに直すまでに一手間かかる ...
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目次
データについて
高速道路の交通量は次のページで公開されているデータを使用しました。
今回使用した交通量データの取得についてはこちらのページでまとめています。
全国・主要都市圏における高速道路・主要国道の主な区間の交通量増減(国土交通省)
全国40区間における高速道路の日次交通量(通過台数)を小型車、大型車、全車の3パターンで公表しています。
このデータには前年比較としてコロナ前の2019年のデータも併記されているので、コロナ前からコロナ後にかけての高速道路の交通量の推移をたどることができます。
データ取得期間:2019年1~12月、2020年5月~2023年4月(2020年1~4月は欠損)
交通量の時系列推移
ここからは高速道路の交通量を区間別に可視化して傾向を見ていきます。
コロナ禍での人の流動の変化に着目するために、小型車(乗用車等)のみのデータを使用しました。
3年間のデータを日次で可視化すると見づらいので、一日あたりの交通量の月平均をプロットしました。
1.深川 ICー旭川鷹栖 IC(北海道・道央自動車道)
次のグラフは北海道の道央自動車道:深川ー旭川鷹栖IC間のものです。
この区間は札幌ー旭川間の最も旭川寄りの区間を見ています。
夏に交通量が増えて冬に交通量が減る周期的な季節変動が見られます。
交通量のピークは夏休みがある8月で、底は低温で積雪や路面凍結がおきる1月です。
上下動が激しいですが、2019年の5月にはゴールデンウィークに利用量の急増が見られます。
小型車の交通量は行楽に大きく影響される区間であることがわかります。
コロナの最初の感染拡大による行動自粛がピークになった2020年5月には、交通量が半分以下になる極端な交通量の減少が見られます。
その後も交通量は夏に増えて冬に減る季節変動を繰り返しながらも、所々イレギュラーな変動が見られます(例:2021年6月頃の交通量減少)。
また、コロナをきっかけに交通量が減少し、その後回復傾向になりましたが、2022年(緑破線)になってもコロナ前の2019年(赤破線)を下回る水準にあります。
以上の結果から、行楽需要中心の区間はコロナ影響を大きく受けていることがわかります。
全国旅行支援などの追い風となる政策もあったのですが、2023年になっても冬の閑散期を除いてコロナ前の水準に戻っていません。
2.川崎浮島 JCTー海ほたる PA(神奈川~千葉・東京湾アクアライン)
次のグラフは東京湾を横断する東京湾アクアライン:川崎浮島 JCTー海ほたる PA間のものです。
この区間は、東京・横浜から房総半島南部へ向かう最短ルートの東京寄りの区間を見ています。
この区間は、先程の北海道とは異なり、季節変動があまり強く出ていません。
北海道の区間同様に夏(8月)に交通量が増え、冬(1月)に交通量が減る傾向は出ていますが、傾向がはっきりしない場合も見られます。
北海道のように行楽シーズンに遠くから旅行に来る場所ではなく、東京在住者が週末に日帰りで観光に行くような流動が多い区間になります。
また、千葉県南部から東京・横浜への通勤・通学等の日常利用の流動もあります。
コロナの最初の感染拡大による行動自粛がピークになった2020年5月には、こちらの区間でも交通量の大きな現象が見られます。
北海道の区間の傾向と合わせて見ると、2020年5月は地域・距離に関わらず出かけることが自粛されていたのがわかります。
一方でその後の交通量の回復は早いです。
コロナ前の2019年(赤破線)と2021年(青破線)の交通量はほぼ同じです。
2022年(緑破線)はコロナ前よりも交通量が増えています。
2022年の時点で首都圏の自動車での近距離旅行や日常利用についてはほぼ回復していることがわかります。
3.新静岡 ICー静岡 SA(静岡・新東名高速道路)
次のグラフは新東名高速道路:新静岡 ICー静岡 SA間のものです。
この区間は、静岡市北部から名古屋寄りの区間を見ています。
東名阪を結ぶ都市間流動の主要ルートであり、並行する東名高速道路よりも山側を直線的に結び、なおかつ制限速度も高いため、静岡県内発着よりも東名阪を直通する交通流動の比率が高いと考えられます。
この区間は、8月に交通量が増えて1月に交通量が減る傾向が出ていますが、他の月はそこまで明確な季節変動が出ていません。
コロナ影響については、2021年(青破線)は減少したものの、2022年(緑破線)にはコロナ前の2019年(赤破線)の水準に回復しています。
東名阪の都市間交通の流動はコロナで一度落ち込んだものの回復し、2022年にコロナ前まで戻したことがわかります。
北海道の区間も同様に遠距離移動の交通を見ていると考えられますが、北海道は季節変動が強く夏場の行楽客中心であるのに対し、こちらの区間は季節変動が比較的弱く行楽需要以外の需要も太いと考えられます。
このような移動目的の違いが交通量がどこまで回復量の差として表れていると考えられます。
4.静岡 ICー焼津 IC(静岡・東名高速道路)
次のグラフは東京と名古屋を結ぶ東名高速道路:静岡 ICー焼津 IC間のものです。
この区間は、静岡市南部から名古屋寄りの区間を見ています。
東名阪を結ぶ都市間流動のルートですが、並行する新東名高速道路が開通したため遠回りになるこの区間は静岡県内発着の流動の比率が高いと考えられます。
この区間は季節変動が弱く、コロナ前の交通量を回復できていない区間です。
並行して走る新東名の区間はコロナ前の水準に戻っているのと対照的です。
この差は発着地の違いの表れだと考えられます。
東名高速道路は静岡県内の都市部を結びながら走っていますが、新東名高速道路は東京と名古屋を最短で結ぶために静岡県内は山間部を直線的に結び、ICの数も少ないです。
このため、東名阪の都市間流動は新東名高速道路を通ると考えられ、東名高速道路は静岡県内発着の流動の比率が高いと考えられます。
以上のような違いが、コロナによる需要減からの回復量に差が出ていると考えられます。
まとめ
高速道路の流動であっても区間によって利用目的・区間などの特徴が異なるため、コロナ影響やその後の回復も変わってきます。
最も早く回復したのは東京近郊の日常・日帰り流動が表れている東京湾アクアラインで、2021年にはすでにコロナ前の水準に戻しています。
次いで東名阪の都市間交通の流動が表れている新東名高速道路で、こちらは2022年にコロナ前の水準に戻しています。
同じ静岡でも静岡県内発着の流動が多いと考えられる東名高速道路の戻りは遅く、2022年でもコロナ前の9割の水準です。
夏場の行楽需要が大きいため季節変動が大きい北海道の道央自動車道では、2020年5月に交通量が半分以下になり、2022年の時点でもコロナ前の9割程度です。
全体的に大都市圏発着の交通量の回復が早く、地方発着の交通量の回復が遅い傾向が見られます。
参考文献
全国・主要都市圏における高速道路・主要国道の主な区間の交通量増減 国土交通省 2023/5/18閲覧