陸地で水を入手できるのは、水が絶えず地球上を循環しているからです。
ここでは、地球上の水の大循環と陸地の保水力を表す水収支について解説し、水収支がマイナスになる砂漠の分類についてまとめます。
地球上の水
次の表は、地球上の水がどこにあるのかを示したものです。
表 地球上の水の量とその割合(×106 km3)
出典:データブックオブ・ザ・ワールド2020年版 p4 二宮書店
(原典:水資源便覧)
貯水空間 | 貯水量 | うち淡水 |
地球全体 | 1386 | 35 |
海洋 | 1338 | --- |
氷河・雪 | 24 | 24 |
地下水 | 23 | 11 |
湖沼 | 0.19 | 0.10 |
土壌中 | 0.016 | 0.016 |
大気中 | 0.013 | 0.013 |
河川 | 0.0021 | 0.0021 |
生体内 | 0.0011 | 0.0011 |
地球上の水の大部分(96.5%)は海洋に存在します。
海洋の水は塩分濃度が高いため、ヒトなどの陸棲生物が飲むと逆に水分が奪われてしまいます。
生体内よりも海水の方が塩分濃度が高いため、水が濃度の高い海水を薄めようと体内から海水の方へ移動するためです(浸透圧)。
陸棲生物が利用できる塩分濃度が低い淡水はわずかに2.5%ですが、この中にも氷河や地下水、大気中など生物が直接利用できない淡水も含まれていて、生物が利用できる水は地球上の水のうちごくわずかな割合しかありません。
水の大循環
水は同じ場所にとどまっているのではなく、地球上を形を変えながら循環しています。
上の図は、地球上の水の循環をイラスト化したものです。
地表に存在するの水は、太陽光により温められて一部が蒸発します。
蒸発は海洋と陸地両方でおきますが、地表からの蒸発の86%は海洋からです。
のこり14%が陸地の湖沼や土壌表面からの蒸発と植物が行う蒸散によりものです。
水が蒸発する際に周囲のエネルギーを奪うため温度が下がり、地表の気温を下げる効果があります。
蒸発による気温低下がないと、地表の温度は67℃まで上がるという予測もあります。
蒸発した水は上空で雲をつくり、雨になって地表に降り注ぎます。
雨の大部分(約80%)は海洋上に降りますが、およそ20%が陸地上に降ります。
この20%の水が、地表にたどり着き、氷雪として地上に積もったり、地表を流れて河川や湖沼をつくったり、土壌に吸収されて地下水になったりします。
生物が直接利用できる水は、地表へ降った水の中でも河川や湖沼などごく一部です。
陸地上の水は海へ流出したり地表から蒸発して失われます。
湖沼は地表に長時間淡水をとどめておくことができる希少な場所です。
湖沼の少ない小規模な離島(特に人口が多く平坦な島の場合)では、降水によってもたらされた淡水がすぐに海へ流出するため、水不足に悩まされています。
そのため、人為的に水をせき止めたため池(溜池)を作って農業用の水を確保することが行われてきました。
参考
小規模な離島に人口が集中するシンガポールでは、マレーシアから水道管を通して水を輸入しています。
価格等でしばしば二国間の国際問題にもなるため、シンガポールでは海水の淡水化プラントを建設・運用しています。
水は通すが塩分は通さない逆浸透膜を利用し、水に圧力をかけて逆浸透膜を通すことで海水から淡水をつくりだす方法で、ろ過後の淡水はRO水ともよばれます。
このような海水淡水化は、砂漠が広がる中東のサウジアラビアなどでも行われています。
水収支
陸上の水の多くは雨や雪などの降水(降雨や降雪)によりもたらされます。
しかし、地表や水面、植物などから水は絶えず蒸発散(蒸発と植物の蒸散)して失われます。
降水と蒸発散のバランスで地表の水の量が決まり、このバランスを水収支といいます。
降水量と蒸発散量は地球全体でみると等しいのでバランスがとれていますが、地域ごとにみると偏っていることがあります。
次の図は水収支の模式図です。
地表の水は、降雨や降雪などの降水によりもたらされます。
地表の水はすべて降水によるものですが、河川により遠く離れた地域から運ばれたこともあります。
降水した水は地表の窪地にたまり(湖沼を形成し)、水が地表に蓄えられます。
地表に蓄えられた水は、地表や海水面からの蒸発や植物の蒸散により空気中に放出されます。
あるいは、河川や地下水によって遠く離れた地域に流出します。
河川の影響が大きい域外からの流出入をのぞけば、降水と蒸発散のバランスにより、その地域の水収支が決まります。
蒸発散量よりも降水量が多ければ、その地域の水収支はプラスになり、水が地表に蓄えられて湿潤な気候になります。
反対に、降水量よりも蒸発散量が多ければ、その地域の水収支はマイナスになり、水が地表から失われて乾燥した気候になります。
水収支がマイナスのため乾燥して植物がほとんど自生せずに砂礫や岩盤が露出している地域を砂漠といいます。
砂漠の分類
砂漠は降水量よりも蒸発散量が多いため乾燥し、植物がほとんど生育しない地域です。
降水量が少ない原因にはいくつかのパターンがあり、成因別に分類できます。
ここでは、亜熱帯砂漠、雨陰砂漠(あまかげさばく)、内陸砂漠、海岸砂漠について解説します。
亜熱帯砂漠(中緯度砂漠)
一年を通して亜熱帯高圧帯の影響をうける地域では下降気流が常に発生するため、大陸東岸以外は乾燥気候になり砂漠が広がります。
大陸東岸は貿易風とモンスーンの影響で、海側から湿った風が吹きこむ雨季があるため、乾燥気候にはなりません。
気圧帯の影響によってできた砂漠なので、広範囲にわたる大規模な砂漠ができやすいことが特徴です。
亜熱帯高圧帯は季節によって南北に移るため、亜熱帯砂漠が形成されるのは一年中亜熱帯高圧帯の影響をうける地域のみです。
亜熱帯砂漠の熱帯側には乾季と雨季がはっきり分かれるサバナ気候やステップ気候、温帯側には夏に乾燥する地中海性気候が広がります。
雨陰砂漠
海洋から山脈を越えて吹く卓越風が存在すると、山脈の風上側(上図山脈の左側)では、海からの湿った空気の上昇気流が発生し、雲ができて雨が降ります(地形性降雨)。
卓越風は山脈の風上側での地形性降雨により水分を失い、乾燥した状態で山脈の風下側(’上図山脈の右側)に吹きこみます。
このため、山脈の風下側では、卓越風により乾燥した空気が流れこみ、降水量が少なくなります。
山脈を超える卓越風が一年を通して吹く場合(恒常風)、山脈の風下側は一年中降水量が少なくなるため、植生に乏しい砂漠が形成されます。
このように山脈を越える恒常風の風下側に位置するため雨雲の陰となり、形成された砂漠を雨陰砂漠(あまかげさばく)といいます。
雨陰砂漠の例として、アルゼンチン南部・アンデス山脈の東側(風下側)に位置するパタゴニア砂漠があります。
この緯度では年間を通して西から偏西風が吹きます。
そのため、アンデス山脈の風上側にあたるチリ南部では地形性降雨により年間を通して雨が多い一方、水分を失った偏西風が吹くパタゴニア側では雨が少なくなり、植生が乏しい砂漠が広がります。
内陸砂漠
隔海度が大きい(=海から遠く離れた)大陸の内陸部では、風上に大規模な山脈が存在していなくても水蒸気の供給量が少なく、内陸砂漠が形成されます。
内陸砂漠の例として、中国西部のタクラマカン砂漠やゴビ砂漠があります。
内陸砂漠は隔海度の大きさが成因ですが、ゴビ砂漠やタクラマカン砂漠はヒマラヤ山脈の北側に位置し、南側からの湿った風がヒマラヤ山脈で遮られるため雨陰砂漠としての側面もあります。
海岸砂漠
大陸沿岸の沖合を寒流が流れていると、海面付近の空気が冷やされてます、
このため、上空が暖かく地表付近が冷たい空気になるため上昇気流が発生せず、雨が少なくなります。
この結果、寒流の沿岸は乾燥して海岸砂漠が形成されます。
海岸砂漠は大陸西岸の中緯度地域に形成されるため、西岸砂漠ともよばれます。
大陸西岸の中緯度地域では、偏西風によって寒流上の乾いた空気が大陸側に運ばれる条件が整っているためです。
海岸砂漠の例として、南半球のアフリカ大陸西岸のナミブ砂漠(ナミビア西部、ベンゲラ海流に起因)やアタカマ砂漠(チリ北部、ペルー海流に起因)があります。
他にも、カリフォルニア海流が流れる北アメリカ大陸西岸(米国西部・カリフォルニア州からメキシコ西岸)やオーストラリア西部も乾燥し、砂漠が広がります。
参考文献
水循環 ウィキペディア 2021/1/31閲覧
データブックオブ・ザ・ワールド 2020年版 二宮書店
(b). The Hydrologic Cycle PhysicalGeography.net | FUNDAMENTALS eBOOK 2021/1/31閲覧
水収支とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/26閲覧
砂漠とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/26閲覧
砂漠 ウィキペディア 2021/1/26閲覧
雨陰砂漠とは コトバンク 世界大百科事典内の雨陰砂漠の言及 2022/7/5閲覧
砂漠のできかた 鳥取大学乾燥地研究センター 2022/7/5閲覧
内陸砂漠とは コトバンク 世界大百科事典内の内陸砂漠の言及 2021/1/28閲覧
海岸砂漠気候とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/28閲覧
西岸砂漠 ウィキペディア 2021/1/28閲覧