地形 系統地理

海洋上の広がる境界と地形(海嶺・ギャオ)

広がる境界(発散境界)は2つのプレートが互いに離れるように動くプレート境界であり、主に海洋上(正確には大洋上)に位置します。
このページでは広がる境界の中でも大西洋などの大洋上に位置する広がる境界に着目してその分布と地形(海嶺・ギャオ)について解説します。

プレートテクトニクス広がる境界(海洋・大陸)・狭まる境界沈み込み帯地形)・衝突帯)・ずれる境界

大洋上の広がる境界(発散境界)

広がる境界(発散境界)は、2つのプレートが互いに離れるように動くプレート境界です。
次の図は世界のプレート境界を示したものです。
濃赤色の線(海洋リフト)が大洋上の広がる境界、ピンク色(大陸リフト)が大陸上の広がる境界です。

2022年の研究に基づく世界のプレートの分布と境界。プレート境界は種類別に色分けしている。広がる境界(発散境界)は赤系、狭まる境界(収束境界)は青系、ずれる境界(すれ違う境界)はオレンジと緑色である。ソマリアプレートはアフリカプレートの一部であり、アフリカ大地溝帯を境界としてアフリカ大陸から分裂しようとしている部分である。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©M.Bitton, CC BY-SA 3.0, 2024/8/1閲覧

上図を見ると、広がる境界は主に海洋上に分布していることがわかります。
広がる境界が存在する場所としては、大西洋中央部やインド洋西部、南極の外周部、南太平洋の南米大陸沖などがあります。
これらの大洋上の広がる境界では、海嶺とよばれる海底山脈がみられます。
地形の詳細については次の項目で取り上げます。

インド洋西部の海底地形図。地図の上側のスケールバーは水深をマイナスで表している。地図の中央部の黒線はインド洋中央海嶺(中央インド洋海嶺)であり、周辺の海域よりも水深が浅い場所(海嶺)が線状に連なっている。地図左上の紅海出口のアデン湾付近を起点にしてインド洋西部を縦断している。インド洋中央海嶺はプレートの境界上に位置する広がる境界(発散境界)であり、海嶺の北東部はアラビア/インド/オーストラリアプレートであり、南西部はアフリカ(ソマリア)プレートが広がっている。出典:Wikimedia Commons, ©NOAA, ETOPO2, CC BY-SA 3.0, 2024/8/3閲覧

大洋上の広がる境界の地形

大西洋の海底地殻を生成年代別に色分けした図(新しい順に黒→赤→黃→緑→水→青色)。大西洋中央を南北に走る黒い線が大西洋中央海嶺であり、地球内部から噴出したマグマが海水に冷やされて新しい地殻が形成されている場所である。海嶺は南北方向に広がるが、所々東西に黒い線が走っており、断裂帯とよばれる亀裂が存在している。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/8/3閲覧

大洋上の広がる境界で見られる地形として海嶺ギャオがあります。
海嶺は大洋の広がる境界のプレート境界に見られる海底山脈です。
海嶺の大部分は海の下に位置しますが、山の頂上が所々海水面より高くなり、火山島となっている場所があります。
大西洋に浮かぶアイスランド島は海嶺が地表に出ているめずらしい場所であり、地上に表れた大地の裂け目を現地の言葉(アイスランド語)でギャオとよびます。

以下では、海嶺とギャオについて順に解説します。

海嶺

大洋の海底に位置する広がる境界(発散境界)の模式図(大西洋中央海嶺)。地表は固体のリソスフェア(地殻+リソスフェア・マントル)の上にあるが、広がる境界では地球内部(上部マントルのうち流動性が高いアセノスフェア部分)から噴出したマグマが海水にふれて冷やされて固まることで新しい地殻が生み出されている。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©37ophiuchi BrucePL, CC BY-SA 4.0, 2024/7/31閲覧

大洋上に位置する広がる境界では、プレート境界に沿って海嶺(かいれい)とよばれる海底山脈が連なっています。
代表的な海嶺としては、大西洋の中央を南北に走る大西洋中央海嶺があります。
大西洋中央海嶺は、東側のユーラシアプレート・アフリカプレートと西側の北アメリカプレート・南アメリカプレートの境界上に位置します。
そのため、北極海から南半球の南緯50°付近まで海嶺が続き、総延長は7万kmにもおよびます。
その他の海嶺としては、インド洋のインド洋中央海嶺(中央インド洋海嶺)や南太平洋東部の東太平洋海嶺などがあります。

世界の主な海嶺
大西洋中央海嶺:大西洋中央部(北極海~南緯50°付近)、東側のユーラシア/アフリカプレートと西側の南/北アメリカプレートの境界
インド洋中央海嶺(中央インド洋海嶺):インド洋西部(紅海出口のアデン湾~インド南西沖~マダガスカル東沖)、北東側のアラビア/インド/オーストラリアプレートと南西側のアフリカ(ソマリア)プレートの境界
東太平洋海嶺:南太平洋東部(メキシコ西海岸~南米大陸西沖)、東側のココス/ナスカプレートと西側の太平洋プレートの境界

東太平洋のプレート境界。アメリカ合衆国西海岸(カリフォルニア州)のサンアンドレス断層はずれる境界(すれ違う境界)であるが、メキシコから南側の太平洋上を南北に伸びる部分は広がる境界(発散境界)である。この広がる境界を東太平洋海嶺とよぶ。東太平洋海嶺は、西側の太平洋プレートと東側のココスプレート/ナスカプレートの境界を形成している。出典:Wikimedia Commons, ©Siyajkak, CC BY-SA 3.0, 2024/8/10閲覧

ギャオ

アイスランド島で見られるギャオ(アイスランド南西部・レイキャネース半島)。アイスランド島は大西洋中央海嶺上に位置する火山島であり、ユーラシアプレートと北アメリカプレートの広がる境界(発散境界)上に位置している。そのため、プレートが東西方向に引っ張られて地殻に亀裂が生じ、両脇を切り立った岩場に挟まれた細長いくぼみ(ギャオ)が島内の各所で見られる。出典:Wikimedia Commons, ©Chris 73, CC BY-SA 3.0, 2024/8/3閲覧

海嶺の大部分は海の底に沈んでいますが、山の頂上が所々海水面より高くなり、島となっている場所があります。
大西洋中央海嶺では、アイスランド島(北緯63-67°)やアゾレス諸島(北緯36-40°、ポルトガル)、英領セントヘレナ島(南緯16°)などがあります。
いずれも海嶺上に位置する島であり、広がる境界から噴出したマグマが堆積してできた火山島です。

広がる境界は2つのプレートが離れる力が働いているため、地球内部からマグマが噴出しやすくなり、プレート境界に沿って火山が見られます。
しかし、広がる境界の大部分が海面下にあるため、局所的に島になっている場所に(陸上の)火山が集中的に分布します。
そのため、大西洋中央海嶺上に位置するアイスランド島などの火山島は、局所的に火山が多数分布するためホットスポットとよばれています。

通常は海の下にある海嶺が例外的に陸上にある場合、プレート境界では両脇を崖に挟まれた細長いくぼみを見ることができます。
アイスランド島ではこのようなプレート境界部分の大地の裂け目をギャオとよび、地表で間近に見ることができます。
ギャオは幅数m程度のくぼみですが、大規模なものでは幅数km、長さ10kmにもおよびます。
ギャオは細長いくぼみになっているため、水が溜まって細長い池になっていることもあります。

水没したギャオ(アイスランド南西部・シンクヴェトリル国立公園)。広がる境界(発散境界)に位置するアイスランド島では、プレート境界でギャオとよばれる細長いくぼみを地表で見ることができる。ギャオの中には、くぼみに水がたまって池や川になっている場所もある。この写真の場所では、両脇を切り立った岩場に挟まれた細長いくぼみに水がたまり、非常に水深が深いことがうかがえる。出典:Wikimedia Commons, ©Rob Young from United Kingdom, CC BY 2.0, 2024/8/3閲覧

参考

英領セントヘレナ島の位置(太赤円)。北西の薄赤色の場所はアセンション島、南側の薄赤色の場所はトリスタンダクーニャ諸島である。イギリスの海外領土であるセントヘレナは行政単位としては近隣の島と合わせて「セントヘレナ・アセンションおよびトリスタンダクーニャ」という海外領土を構成する。出典:Wikimedia Commons, ©TUBS, CC BY-SA 3.0, 2024/8/4閲覧

ナポレオンの流刑地・セントヘレナ島
大西洋中央海嶺上に位置するセントヘレナ島(南緯16°、英領セントヘレナ・アセンションおよびトリスタンダクーニャ)は、絶海の孤島という立地を活かしてナポレオン・ボナパルト(Napoléon Bonaparte, 1769-1821)の流刑地として使われました。
フランス皇帝となったナポレオンは1813年のロシア遠征での敗北後に退位して地中海のエルバ島(イタリア北西部)に追放されましたが、1815年にエルバ島を脱出してパリに戻って皇帝に復位しました。
その後、ワーテルローの戦いでフランス軍に勝利してナポレオンを捕らえたイギリスは、ナポレオンが再度戻って来れないような流刑地を探す必要がありました。
そこで、大西洋中央海嶺上に位置するため周囲に陸地がほとんど無いセントヘレナ島に目をつけました。
イギリスはセントヘレナ島にナポレオンを幽閉し、1,300km北西(ヨーロッパ側)に位置するアセンション島に海軍艦隊を駐屯させて警戒しました。
ナポレオンはその後セントヘレナ島を出ることなく1821年に没しています。

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参考プレートテクトニクス(3種類のプレート境界のしくみ)

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参考火山地形(マール、溶岩堰止湖、火山島など)

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参考文献

地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
松倉公憲「地形学」 朝倉書店(2021)
Divergent boundary, Wikipedia 2024/7/30閲覧
Somali Plate, Wikipedia 2024/8/1閲覧
Difference between spreading center vs extension zone?, reddit 2024/8/1閲覧
正断層・逆断層・横ずれ断層 地震調査研究推進本部 2024/8/1閲覧
New maps of global geological provinces and tectonic plates, Phys.org 2024/8/1閲覧
D. Hasterok et al., New Maps of Global Geological Provinces and Tectonic Plates, Earth-Sci. Rev. 231, 104069 (2022)
海嶺 地震調査研究推進本部 2024/8/3閲覧
薦田 靖志「アイスランドのギャオ」一般社団法人 東北地質調査業協会誌「大地」 14, p28-29 (1994)
Napoleon, Wikipedia 2024/8/4閲覧

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