地形 系統地理

火山地形(マール、溶岩堰止湖、火山島など)

火山噴火がおきると大量の火山噴出物が地表に吹き出し、様々な地形が作り出されます。
このページでは、火山地形のうち比較的小規模な地形について解説します。

火山地形

ハナウマ湾(左)とココクレーター(右)(米国ハワイ諸島中央部・オアフ島)。ココクレーター(ココヘッドタフリング)とハナウマ湾はどちらも火山砕屑物(かざんさいせつぶつ、火砕物)が火口周辺に堆積した火山砕屑丘(かざんさいせつきゅう)である。出典:Wikimedia Commons, ©Mbz1 (assumed), CC BY-SA 3.0, 2024/11/17閲覧

火山地形とは、マグマの噴出などの火山活動によって作り出された様々な地形の総称です。
火山地形には様々な種類があり、火山それ自体(楯状火山など)も火山地形であり、カルデラ湖火山島などの大規模な地形から火口湖マール溶岩堰止湖などの小規模な地形までも含みます。

このページでは、火山地形の中でも比較的小規模な地形(マール、溶岩堰止湖、火山島、火砕流台地)について解説します。
楯状火山成層火山溶岩円頂丘(溶岩ドーム)などの火山それ自体の地形、カルデラカルデラ湖火口湖については以下のページでそれぞれ解説しています。

参考火山の形の分類(楯状火山・溶岩台地・溶岩円頂丘・成層火山)

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参考カルデラとカルデラ湖・火口湖

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マール

男鹿目潟火山群の航空写真(秋田県北西部・男鹿市)。男鹿半島先端部に位置する3つのマール(一ノ目潟、二ノ目潟、三ノ目潟)の航空写真である。ちなみに北西側の戸賀湾は火山地形ではあるがマールではない。マールは水蒸気爆発(水蒸気噴火)によって形成された火口に水がたまってできた地形である。一般的な火口湖は火山噴出物が堆積してできた山の上に位置するが、マールは火山噴出物が少ない噴火によって形成されたため、周囲の火山噴出物の層はうすい。出典:Wikimedia Commons, ©国土地理院 2024/11/14閲覧

マールは、水蒸気爆発(水蒸気噴火)によってできた直径500m-1kmくらいの小さな円形の地形です。
マグマが地下水にふれて水が一気に蒸発し、急激に膨張して水蒸気爆発を起こしてできた火口です。
一般的な火山は火山噴出物が堆積して山になっていますが、マールの周囲は平らになっています。
これは、火山噴出物が少なく規模も小さい噴火によってマールが形成されたためです。
マールの火口部分はくぼみになっており、水がたまって小さな湖になっています。

マールは広い意味で火口湖の一種です。
一般的な火口湖は火山噴出物が堆積してできた山の上に火口がありますが、マールの周囲は火山由来の堆積物は少なく平らになっているという違いがあります。
一方で水深が深く比較的大きいカルデラ湖とは異なり、どちらも湖の水深が浅く直径1-2km以下の小規模な湖である点は共通しています。

マールの例としては、男鹿半島の先端部に位置する目潟(めがた、一ノ目潟、二ノ目潟、三ノ目潟の3つのマール、秋田県北西部・男鹿市)や鰻池(うなぎいけ、鹿児島県南西部・指宿市)などがあります。

マールが湖ではなく海につながって湾状になっている場合もあります。
湾の一部となっているマールとしては、山川湾(山川港、鹿児島県南西部・指宿市)や伊豆大島の波浮港(はぶみなと、東京都大島町)などがあります。
湾状のマールは外洋の波の影響を受けづらく船の退避にちょうどよいため、港として利用されている場合も多いです。

マールは大きな火山の周囲に立地している場合が多いです。
鰻池と山川港カルデラ湖である池田湖や活火山である開聞岳(かいもんだけ、924m)の近くに立地しています。
伊豆大島の波浮港の例では、伊豆大島自体が火山島です。
伊豆大島は、海底からそびえ立つ成層火山である三原山(758m)の上側部分が海面から顔を出して島になっています。

鹿児島県南西部・指宿市付近の地形図。指宿市は薩摩半島の先端部に位置する町であり、多数の火山地形が見られる。南西側(左下)には活火山である開聞岳(かいもんだけ、924m)が見られる。北側に位置する池田湖は火山噴火後の陥没により形成されたカルデラ湖である一方、東側の鰻池(うなぎいけ)は、水蒸気爆発(水蒸気爆発)により形成されたマールである。鰻池の東側の山川港(山川湾)もマールであり、こちらは海とつながっているため湾状になっている。マールは大きな火山のそばにできる側火山の一種であり、鰻池や山川港も池田湖や開聞岳といった他の大規模な火山の近隣に位置する。出典:地理院地図 ©国土地理院 2024/11/17閲覧

溶岩堰止湖

富士山とその北側に広がる富士五湖周辺の地形図(山梨南東部・静岡県東部)。富士五湖は富士山の北側(山梨側)に並ぶ溶岩堰止湖である。西側(左側)から順に本栖湖(もとすこ)、精進湖(しょうじこ)、西湖(さいこ)、河口湖と並んでおり、やや南東に離れた場所に山中湖が位置している。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/11/15閲覧
南西側の竜ヶ岳(1,485m)から望む青木ヶ原の樹海(山梨県南東部・富士河口湖町)。奥に見える湖は富士五湖の1つである西湖(さいこ)である。青木ヶ原樹海はかつては剗海(せのうみ)とよばれる大きな湖であったが、南側の富士山の度重なる噴火によりしだいに溶岩流で湖が埋めたてられ、現在では樹海が広がっている。奥に見える西湖はかつて剗海だった一部が現在も湖として残っている部分である。出典:Wikimedia Commons, ©Alpsdake, CC BY-SA 4.0, 2024/11/15閲覧

溶岩堰止湖(ようがんせきとめこ、単に堰止湖とも)とは、火山の噴火によって流れた溶岩流や泥流、火砕流などが谷の一部をせきとめた結果、水がたまって形成された湖です。
溶岩堰止湖は火山活動によって作られた天然のダムです。

溶岩堰止湖の例としては、富士山の北側に広がる富士五湖(山梨県南東部)や中禅寺湖(ちゅうぜんじこ、栃木県北西部)、阿寒湖(あかんこ、北海道釧路地方・釧路市内陸部)などがあります。

富士五湖は富士山の北側に位置する5つの湖です。
西から順に本栖湖(もとすこ)、精進湖(しょうじこ)、西湖(さいこ)、河口湖、山中湖です。
いずれも富士山の噴火により流れてきた溶岩流によってせき止められて形成されました。
富士五湖のうち西側の本栖湖・精進湖・西湖は、かつては剗海(せのうみ)とよばれる1つの大きな湖でした。
しかし、富士山の度重なる噴火により流れてきた溶岩流で埋め立てられ、現在では3つの湖に分裂しています。
かつて剗海が広がっていた場所には現在では青木ヶ原(青木ヶ原樹海)が広がっており、森の中でハイキングが楽しめる景勝地となっています。

中禅寺湖は北側の男体山(なんたいさん、2,486m)の噴火により流れた溶岩流によってせき止められた溶岩堰止湖です。
溶岩でせき止められた湖の東端部には中禅寺湖温泉の中心街が広がっています。
中禅寺湖周辺は東京からほど近く標高が高くて夏も涼しいため、明治時代から昭和時代初期には西洋人の避暑地として多くの別荘が建てられました。

磐梯山(ばんだいさん、1,816m, 福島県会津地方)の北側(裏磐梯)に広がる桧原湖(ひばらこ)は、溶岩ではなく山体崩壊によってできた堰止湖です。
1888年に磐梯山が噴火して山体崩壊をおこし、岩なだれによって谷がふさがれて桧原湖をはじめとする多数の堰止湖が形成されました。

東側上空から撮影した中禅寺湖(栃木県北西部・日光市)。中禅寺湖は北側(右手前側)に広がる男体山(なんたいさん、、2,486m)の噴火により流れた溶岩によってせき止められた溶岩堰止湖である。溶岩でせき止められた湖の東端部には中禅寺湖温泉の中心街が広がる。画像の範囲から外れたさらに手前側は崖となっており、景勝地である華厳の滝(けごんのたき)が立地する。出典:Wikimedia Commons, ©t-mizo from Japan, CC BY 2.0, 2024/11/16閲覧

火山島

噴煙を上げる薩摩硫黄島の硫黄岳(703m, 鹿児島県三島村)。南西諸島北部の薩摩硫黄島は海中に沈む鬼界カルデラの外輪山にあたる場所にある島であり、活火山である薩摩硫黄をいだく火山島である。薩南諸島の北部(トカラ列島など)は火山島が多い場所であり、南東側の琉球海溝に沿って島々が並ぶ弧状列島(島弧)を形成している出典:Wikimedia Commons, ©海上保安庁 2024/11/17閲覧

火山島は、海底火山が噴火を繰り返して火山噴出物が堆積し、山頂付近が島となったものです。
火山島の火山は陸上から見える部分だけだと思われがちですが、実際には海底から火山噴出物が積み重なっています。
山の標高は海面を基準に測定しますが、火山島は一見標高が低い山でも海底面から見ると高度が非常に高い場合もあります。
たとえば、ハワイ島(米国・ハワイ諸島南東部)最高峰のマウナ・ケアは標高4,205mですが、周辺の海底からの高さは9,330mもあります。
これは世界最高峰のエベレスト(チョモランマ、8,848m)よりも高いです。
ハワイ諸島は水深が深い太平洋中央部に位置するホットスポットであり、度重なる噴火により局所的に火山噴出物が堆積しているため、海底から見ると非常に高さがある火山となっています。

火山島が数多く見られる場所としては、沈み込み帯があります。
沈み込み帯は、狭まる境界(収束境界)で海洋プレートが大陸プレートの下側に潜りこむ場所であり、大陸側には活火山が見られます。
この活火山がある場所が海上である場合には、火山島が弧を描くように並ぶ弧状列島(島弧)が形成されます。
弧状列島は環太平洋造山帯に数多く見られます。
火山島が数多く見られる弧状列島としては、アリューシャン列島(米国アラスカ州南西部)、千島列島、伊豆諸島、小笠原諸島、マリアナ諸島(米領グアムなど)、トカラ列島(南西諸島北部)、トンガ諸島(オセアニア)、西インド諸島東部(小アンティル諸島)などがあります。

大洋上の広がる境界では、例外的に海底火山が陸上に顔を出している場所が火山島となっています。
広がる境界の火山島としては、大西洋中央海嶺上に位置するアイスランド島やアゾレス諸島(ポルトガル)などがあります。

火砕流台地

北側から見た弥陀ヶ原(みだがはら、富山県南東部・立山町)。弥陀ヶ原は立山の火山活動による火砕流の堆積物によって作られた台地状の地形である。弥陀ヶ原の両側は河川の侵食により切り立った崖になっている。出典:Wikimedia Commons, ©Alpsdake, CC BY-SA 3.0, 2024/11/17閲覧

火砕流台地は、その名の通り火砕流による堆積物が積み重なった台地状の地形です。
火砕流台地は噴火を繰り返した火山の周辺に形成されます。
火砕流が流れた後には大量の堆積物が残るため、火山噴火が繰り返される地域では、火砕流の堆積物が積み重なって台地状の地形ができあがります。

火砕流台地が広く見られる場所としては、鹿児島県周辺(シラス台地)やニュージーランド北島(北島火山台地)などがあります。

シラス台地

シラス台地の地質が露出した崖(鹿児島県中西部・日置市)。鹿児島県は桜島や霧島連峰(霧島山)などの活火山が多いため、火砕流の堆積物が積み重なった火砕流台地であるシラス台地が広がる。シラス台地は水や養分の保水力が低いため稲作に向かず、サツマイモや茶の栽培が行われている。出典:Wikimedia Commons, ©Ray_go, CC BY-SA 3.0, 2024/11/17閲覧

シラス台地は、鹿児島県や宮崎県南部などに広がる火砕流台地です。
鹿児島県周辺は桜島や霧島連峰(霧島山)などの活火山が多く、度重なる噴火により県内各地に火砕流の堆積物が積み重なった火砕流台地が形成されています。
堆積物(土壌)が白色であることから現地でシラス(白砂、白州)とよばれており、シラスが堆積していることからシラス台地とよばれています。
シラス台地は特定の1か所の台地の名称ではなく、鹿児島県一帯のシラスが堆積した火砕流台地全体の総称です。
シラス台地は特定の火山ではなく複数の火山の堆積物が積み重なって形成されています。

シラスは水はけが良く水や養分が流出してしまうため、稲作には向きません。
そのため、条件の悪い土地でも栽培できるサツマイモや水はけがよい場所に適した(鹿児島茶:知覧茶など)の栽培が盛んです。
また、温暖な気候を活かし、土壌の影響を受けない養豚肉牛の飼育なども盛んです。

シラス台地の分布。シラス台地は、鹿児島県周辺に位置する複数の火山の噴火により発生した火砕流の堆積物(シラス)が積み重なった台地状の地形(火砕流台地)である。シラス台地は1つの連続した地形ではなく、鹿児島県各地に見られるシラスが堆積した地形の総称である。シラス台地は鹿児島県本土の約半数を占め、宮崎県や熊本県の一部にも広がる。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/11/17閲覧

参考文献

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中禅寺湖 2 万年前に男体山から流れ出た溶岩が大谷川を 国土交通省 2024/11/15閲覧
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英国大使館別荘記念公園 日光自然博物館 2024/11/16閲覧
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シラス(しらす)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、改訂新版 世界大百科事典、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/11/17閲覧

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