侵食を受ける前の地形を原地形(げんちけい)といいます。
元々侵食基準面(これ以上低いと侵食を受けなくなる限界線、河食の場合は海水面)より低い場所(海底など)にあった場所が、何らかの内的営力により隆起して侵食基準面(海面)より高い場所まで上がると、隆起した地形を原地形として侵食輪廻がはじまります。
原地形は侵食基準面(海面)より高い場所に位置するため、雨水の流れによって侵食されて地面が削り取られていきます。
参考
侵食の種類と侵食基準面
侵食基準面とは、これ以上低いと侵食を受けなくなる限界線です。
侵食基準面は一般的には海水面(海中では侵食が起きない)と理解しても問題ありませんが、厳密には侵食の種類ごとに違います。
侵食の中でも最も一般的な河食(川の水の流れによる侵食)では、海に到達するとこれ以上低い場所に流れられないため、一般的には海水面が侵食基準面になります。
例外的なケースとして、内陸部で流出河川がない湖(例:カスピ海、水面標高-28m)では、湖水面が侵食基準面になります。
また、海食(波による侵食)の場合は、波が打ちつける力が強く、海水面より下(海中)であっても浅瀬は侵食されるため、海水面より若干深い場所が侵食基準面になります。
また、氷食(氷河による侵食)の場合は、氷河が溶けてしまうと侵食のしようがないため、雪線(せっせん、積雪が年中溶けない限界線)が侵食基準面になります。
原地形が河川によって盛んに削られているものの、まだまだ原地形が広く残っている状態を(侵食輪廻における)幼年期と呼び、その地形を幼年期地形といいます。
雨水は重力にしたがって低い所の集まるため、小さな溝に集まりながら標高が低い場所に流れていきます。
水は集まれば集まるほど土壌を押し流す力が強くなるため、小さな溝は削られてどんどん深くなります。
はじめは小さなへこみだった溝も深くなっていき、細長くて深い谷(峡谷)をつくるようになります。
このように川の流れによる侵食でできた険しい谷をV字谷といいます。
幼年期はまだ侵食がはじまってから時間が経っていないので、川と川の間にはまだまだ原地形が残っています。
そのため、河川による原地形の侵食が盛んに行われます。
幼年期地形の例としては、グランドキャニオン(米国西部・アリゾナ州)や木曽川中流域(長野県南西部・木曽谷)があります。
いずれも標高が高い場所が広がる地域で、川の周辺だけ深く狭いV字谷が見られます。
時間の経過とともに侵食が進み、原地形の面積よりも谷の面積の方が大きくなった状態を(侵食輪廻における)壮年期と呼び、その地形を壮年期地形と呼びます。
幼年期から時間が経過すると、河川がつくる谷は水の流れによってどんどん深くなっていく一方、川と川の間も雨水によって削られていき、原地形が断片的にしか残らなくなります。
川と川の間には侵食から残った急峻な山脈が形成され、山の起伏は最大になります。
壮年期では、侵食により原地形を削る力よりも山の斜面を削る力の方が強くなります。
そのため、侵食が進む壮年期終盤には山は次第に丸みを帯び、谷の幅は少しずつ広くなり、堆積物がたまっていきます。
壮年期地形の例としては、ヒマラヤ山脈やアルプス山脈などがあります。
日本国内では、急峻な山々が連なる飛騨山脈(北アルプス)や奥羽山脈、四国山地などが壮年期地形です。
次の写真は、壮年期地形であるアルプス山脈のマッターホルン(スイス南西部・イタリア北西部)です。
マッターホルンは、氷河による侵食で(氷食)形成されたホルン(ホーン、尖峰)です。
飛騨山脈の槍ヶ岳(3,180m, 長野県西部・岐阜県北東部)もホルンとして知られています。
長い年月を経て侵食により山が低くなだらかになり、谷底も拡大してゆるやかになった状態を(侵食輪廻における)老年期と呼び、その地形を老年期地形と呼びます。
老年期と壮年期の間に明確な境界はありません。
また、より侵食輪廻が進んだ段階である準平原も、現実の地形では老年期地形と区別がつきません。
老年期では、山地は削られて丘陵になり、谷も平坦になり、川は蛇行します。
川の両岸は洪水の際には浸水する氾濫原が広がり、川の流れから取り残された河跡湖(三日月湖)ができます。
老年期地形の例としては、比較的なだらかな山が連なる北上高地(北上山地、岩手)、阿武隈高地(阿武隈山地、福島・宮城)、中国山地などがあります。
侵食基準面(海面)近くまで侵食が進む頃には、平坦でゆるやかな起伏しか存在しない準平原とよばれる地形になります。
準平原は、老年期地形からさらに侵食輪廻が進んだ段階ですが、現実の地形を見ても老年期地形と準平原を区別することは難しいです。
準平原は侵食輪廻の最終段階であり、非常に長い間侵食を受け続けた結果できた地形です。
準平原が内的営力により隆起すると隆起準平原とよばれる台地になります。
隆起準平原が侵食基準面より高くなると、次の侵食における原地形となります。
準平原は主に安定陸塊の楯状地に見られ、先カンブリア時代に造山運動を受けた大陸地殻が直接露出している場所です。
準平原が見られる例として、カナダ東部のハドソン湾周辺(カナダ楯状地)やブラジル高原(ブラジル楯状地)などがあります。
日本のように変動帯に位置し、活発に造山運動が起きている場所では、準平原はあまり見られません。
準平原では、残丘(モナドノック)と呼ばれるかたい部分が侵食から取り残されて孤立した丘が見られます。
残丘の例として、オーストラリア楯状地(オーストラリア内陸部)に位置するウルル(エアーズロック)があります。
周辺は長年の侵食を受けて平坦になった砂漠地帯ですが、かたい岩盤部分が侵食から残って巨大な岩が突き出したような地形になっています。
ウルル(エアーズロック)は先住民族であるアボリジニの聖地となっており、世界遺産にも登録されている観光名所にもなっています。
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