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水収支と周辺環境への影響(湖沼の縮小・地下水位低下)

ある地域の水資源について考える際には、その地域への水の流入量と流出量のバランス(差)を計算する必要があります。
あるエリアへの水の流入量と流出量の差を水収支と呼び、湖や河川、地下水などの水資源の状況を理解するために重要な概念です。
このページでは、水収支について解説し、水収支のバランスが崩れた例について紹介します。

水収支

水収支とは、一定期間内の特定の地域への水の流入量と流出量のバランス(差)のことです。
「流入量>流出量」であれば水収支はプラスになり、その地域内の水の総量は増加します。
一方、「流入量<流出量」であれば水収支はマイナスになり、その地域内の水の総量は減少します。

エリア内への流入の要因として、代表的なものは降水(降雨や降雪)です。
地表では降水に加えて河川を通した流入などがあります。
地表を流れる雨水や河川水、湖水のうち一部は地下に浸透して地下水となります。
反対に、扇状地扇央を流れる地下水(伏流水)が扇端で地表に戻る湧水も見られます。

流出要因としては、蒸発散河川を通した流出が挙げられます。
地表や河川、湖面、海水面などでは、日中に太陽光で暖められて水が蒸発します。
加えて、地表に生い茂る植物は地中から吸い上げた水分を水蒸気として空気中に放出する蒸散を行います。
これら、蒸発と蒸散を合わせて蒸発散と呼びます。

水収支の模式図。降水や河川などから水が流入する。蒸発や植物からの蒸散、河川や地下水により域外へ流出する。

陸域では、降水によって流入した水量と、蒸発散で失われたり河川や地下水となってエリア外へ流出した水量の差分から水収支が計算されます。
河川の影響が大きい場合を除くと、水収支は降水と蒸発散のバランスにより決まります。
降水量と蒸発散量は地球全体で見ると等しいのでバランスがとれていますが、地域ごとでは偏っている場合があります。
熱帯収束帯(赤道低圧帯)が広がる赤道付近では「降水量>蒸発散量」となり、水収支はプラスになります。
このため、水資源が豊富で森林が広がります。
一方、亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)が広がる緯度30°付近(特に大陸西岸)では「降水量<蒸発散量」となり、水収支はマイナスになります。
水収支がマイナスになると乾燥するため植物がほとんど自生せずに砂礫や岩盤が露出して砂漠を形成します。

水収支のバランスが崩れると

水収支がマイナス(流入量<流出量)の状態が継続すると、地表では湖が縮小・消滅してしまったり、地下では地下水の水位が低下し、やがて地下水が枯渇してしまいます。
以下では、地域内の水収支のバランスが崩れたことで、環境が大きく変化してしまった例を紹介します。

湖沼の縮小・消滅

アラル海の変化(カザフスタン・ウズベキスタン)。左側は1989年、右側は2014年のアラル海の衛星画像である。25年間で大幅に面積が縮小していることがわかる。アラル海は乾燥帯に位置する塩湖であり、流入河川のアムダリア川とシルダリヤ川から灌漑目的で大量に取水されたため流入水量が大幅に減少した結果、湖の大部分が消失した。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/2/5閲覧

湖に流入する河川の水量が著しく減少すると、流入量よりも流出量が大きくなり、湖の水収支がマイナスになります。
水収支がマイナスの状態が継続すると、湖の面積は縮小していき、やがて消滅してしまいます。

中央アジアに位置する塩湖であるアラル海は、乾燥帯に位置するため降水は少なく、流入河川(アムダリア川とシルダリヤ川)の水量と蒸発する水量のバランスによって成り立っています。
しかし、ソ連時代(20世紀後半)にアムダリア川とシルダリヤ川周辺で大規模な灌漑農業綿花栽培)が行われるようになると、河川水が大量に使われてアラル海への流入量が大幅に減少しました。
その結果、アラル海は面積を大幅に縮小しました。
かつてアラル海だった場所には塩分の多い砂漠が広がります。
このため、砂嵐が発生して干上がった湖底からは塩分が飛散し、広範囲で農地への被害(塩害)や健康被害(呼吸器疾患など)をもたらしています。

同様の事例は死海(イスラエル・ヨルダン)やアフリカのチャド湖(チャド・ナイジェリアなど)でも発生しています。
チャド湖の場合は、灌漑農業に加えて湖周辺での牧畜気候変動など複合的な要因が関わっています。

1973年から2001年にかけてのチャド湖の衛星画像(チャド・ナイジェリアなど)。1973年時点では広大な範囲に広がっていた湖が縮小している。チャド湖は元々雨季と乾季の面積の変動が大きな湖であるが、近年は流入河川(シャリ川)沿いでの灌漑農業や湖周辺での牧畜、気候変動など複合的な影響により湖水が減少して面積が縮小している。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2026/4/29閲覧

地下水の水位低下・枯渇

地下水を大量にくみ上げて利用すると、地層中を浸透して地下水が涵養(補充)される水量よりも使用する水量が大きくなり、地下水が減少します。
地下水の水量が減少すると水面の位置(地下水位)も低下し、地下水を利用するためにより深い位置まで井戸を掘る必要があります。
さらに、地面の中の地下水の層が失われると地層が圧縮され、その分だけ上の地層も沈んでしまい、地表でも地盤沈下が発生します。

オガララ帯水層の分布と地下水位(米国中西部、1997年時点)。青色が濃いほど地下水位が高く、黄緑色に近いほど地下水位が低い。北部のネブラスカ州(Nebraska)周辺では地下水位が高いのに対し、南部のテキサス州(Texas)周辺では地下水位が低い。米国中西部のグレートプレーンズの地下にはオガララ帯水層が分布しているため、この地下水をくみ上げて灌漑農業を行ってきた。このため、南部を中心に帯水層の地下水位は低下傾向である。出典:Wikimedia Commons, ©Kbh3rd, CC BY-SA 3.0, 2026/4/20閲覧

アメリカ合衆国中西部のグレートプレーンズは、農業に適した土壌を持ちながら乾燥した気候で水が不足するという課題がありました。
そこで、グレートプレーンズの地下に広がる広大な帯水層(オガララ帯水層)の地下水をくみ上げてセンターピボット方式の大規模な灌漑農業が行われています。
しかし、近年ではオガララ帯水層の地下水位が低下し、一部の井戸がれて、将来的な資源の枯渇が危惧されています。
これは、灌漑農業による地下水のくみ上げ量が、自然に地下水が涵養(補充)される量を大幅に上回っているためです。
グレートプレーンズは年降水量500mm程度の比較的乾燥した気候の場所なので、地表から水が浸透してオガララ帯水層の地下水が涵養(補充)される速度が遅いですが、灌漑農業による水資源の大量消費によりオガララ帯水層の水資源は急速に失われています。

オガララ帯水層は乾燥帯の地下に位置するため特に影響が顕著ですが、日本でも都市部を中心に地下水の大量消費による影響が発生しています。

東京都東部の海抜ゼロメートル地帯。東京23区の東部(東京低地)では、満潮時の海水面よりも海抜(標高)が低い場所が多く存在し、場所によっては干潮時の海水面より低い場所もある。これらの地域では、河川氾濫や高潮などの水害に対して脆弱であり、ひとたび堤防を乗り越えて水が押し寄せた際には大きな被害を受けると予想される。出典:持続可能な地下水の保全と利用に向けて(令和4年7月) 東京都環境局 2026/4/29閲覧

1950-60年代の高度経済成長期には、工業用水として大量の地下水がくみ上げられました。
地下水くみ上げによって地層中の水分が失われると、その分だけ地層が圧縮されて下に沈み込みます。
この結果、東京や名古屋、大阪などの大都市圏を中心に、地下水のくみ上げに起因する地盤沈下が発生しました。
東京23区東部(墨田区や江戸川区など)は標高が海水面より低い場所が多く、海抜ゼロメートル地帯と呼ばれています。
海抜ゼロメートル地帯では、地下水のくみ上げによる地盤沈下が原因で地面が河川や海水面より低くなりました。
これらの地域では、標高が低いため水が流れ込みやすく、さらに一度浸水すると水が抜けづらいため、河川氾濫や高潮などの被害が大きくなりやすいです。

地下の地質構造と地下水流動の概念図。地下水は雨水が地中に浸透して地中に層状に滞留した水資源である。地下水には2種類が存在し、地表との間に水を通さない難透水層が存在しない自由地下水(不圧地下水)と難透水層を挟む被圧地下水が存在する。自由地下水を利用する井戸を浅井戸とよび、被圧地下水を利用するために掘った井戸を深井戸と呼ぶ。台地の下を流れる自由地下水は、台地の末端の崖線で地表に湧水として現れることがある。出典:持続可能な地下水の保全と利用に向けて(令和4年7月) 東京都環境局 2026/4/29閲覧東京都環境局 2026/4/29閲覧


武蔵野台地(埼玉・東京)末端の崖付近では、台地の地下を流れてきた地下水が地表に湧き出る湧水が見られ、江戸時代から水源として利用されてきました。
このような湧水としては、神田川水源の井のがしら(東京都中部・三鷹市)、善福寺川源流の善福寺池(東京都杉並区)、石神井しゃくじい川の水源だった三宝寺池(東京都練馬区)などがあります。
しかし、これらの湧水は1950-60年代の高度経済成長期に相次いで枯渇し、現在では深井戸を掘って被圧地下水をくみ上げています。
これらの湧水が枯渇した原因としては、地下水の利用に加えて、台地上がアスファルトや住宅等の建築物で覆われ、雨水が地下に浸透する量が大幅に低下したことも一因です。
台地上に降った雨水はアスファルトの上を流れ、道路脇の排水溝に流れ、そのまま下水として排水されます。
この結果、地下水の供給源となる地面に浸透する水量が減少し、地下水由来の湧水の水量も減少しました。
現在でも、大雨時などには一時的にれた場所から水が湧き出ることがあり、かつての名残を留めています。

参考文献

水収支(みずしゅうし)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、最新 地学事典 2026/4/29閲覧
Q1-1 森林での水の動きはどうなっていますか(水の循環) 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 2026/4/29閲覧
名水の地。山梨。/水収支と水循環 山梨県 2026/4/29閲覧
「漁業より綿花」ソ連が無計画な水利用 縮んだアラル海 朝日新聞 Youtube 2026/4/29閲覧
アラル海の消滅 サテナビ 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 2026/4/29閲覧
標高マイナス400メートルの塩湖と聖書の世界:死海(2009年11月25日掲載) 地球が見える 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 2026/4/29閲覧
Lake Chad, Wikipedia 2026/4/29閲覧
縮小する砂漠の湖、チャド湖 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 2026/4/29閲覧
第4章 水の星地球-美しい水を将来へ- 環境白書(平成22年度版) 環境省  2026/4/29閲覧
第31回「世界の水危機 日本にも影響」 科学技術の潮流 -日刊工業新聞連載- 国立研究開発法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター 2026/4/29閲覧
持続可能な地下水の保全と利用に向けて(令和4年7月) 東京都環境局 2026/4/29閲覧
地下水と地盤沈下 東京コンテック株式会社 2026/4/29閲覧
フィールドミュージアムガイド 石神井公園 公益財団法人 東京都公園協会 2026/4/29閲覧

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