針葉樹は木材として有用な樹木が多いため、日本では林業目的で大量に植林される樹木です。
天然林では高山やタイガなど広葉樹が生育できない環境で生育しますが、本州ではスギ(杉)、北海道ではエゾマツやトドマツの人工林が見られます。
このページでは、針葉樹林の分布や林業、代表的な針葉樹(スギ、ヒノキ、モミ、カラマツ、エゾマツ、トドマツ)について解説します。
目次
針葉樹林とは

針葉樹林は針葉樹が主体の森林です。
針葉樹は裸子植物の樹木の総称であり、葉が針のようにとがっているため針葉樹とよばれます。
針葉樹は広葉樹と比べて、低温・乾燥・やせた土地などでも生育できる樹木が多く、広葉樹が生育できない特殊な環境の場所で針葉樹林が形成されます。
広葉樹が十分に生育できる場所では、針葉樹は徐々に淘汰(とうた)されていき、最終的には広葉樹林になります。
このため、温暖な低緯度地域では広葉樹林が主体となるため針葉樹林は少なく、寒冷な高緯度地域では針葉樹の割合が増えてきます。
温帯の天然林では、熱帯林に次いで広葉樹が優勢であり、主に広葉樹林が形成されます。
温帯針葉樹林は、山岳地帯など広葉樹が生育できない特殊な環境の場所に形成されます。
一方、温帯であっても既存の森林を伐採して針葉樹が植林された人工林が見られます。
針葉樹は木材としての価値が高い樹木が多いため、成長が早く木材としての価値が高いスギ(杉)やヒノキ(檜)などが一斉に植林されます。
日本では、第二次世界大戦後にスギを中心に針葉樹が大量に植樹されたため、現在では針葉樹林の人工林が多数見られます。
針葉樹林の分布

針葉樹林の天然林は、主に広葉樹が生育できない厳しい環境の場所に分布します。
広葉樹が生育できる気候では、針葉樹は競争に負けて最終的には広葉樹が主体の森林になります。
亜寒帯(冷帯)の中でも特に寒冷な針葉樹林気候の地域では、タイガとよばれる広大な針葉樹林が広がります。
タイガは1種類の針葉樹で構成され、他の種類の樹木が存在しない純林です(数種類の針葉樹が生育する場合でも針葉樹のみから構成される場合はタイガとよびます)。
また、亜寒帯の中でも比較的温暖な大陸性混合林気候の地域では、落葉広葉樹との混交林を形成します。
針葉樹と落葉広葉樹の混交林は冷温帯(温帯のうち比較的寒冷な地域)でも見られますが、温暖な地域ほど針葉樹の割合は少なくなっていきます。
しかし、熱帯や温帯であっても高山気候などで環境が厳しい場所では広葉樹が生育できないため、針葉樹林が形成されます。
たとえば、ヒマラヤ山脈中腹やアルプス山脈、日本の中央高地(長野など)の温帯林では針葉樹林が見られます。
熱帯林であっても、フィリピンやインドネシアの山岳地帯などでは、熱帯林にも関わらず針葉樹林が見られます(森林全体に占める割合としてはごく一部)。

針葉樹林の林業

針葉樹の天然林は高緯度地域ほど多く見られるため、主に亜寒帯(冷帯)で針葉樹林(タイガ)の伐採が行われています。
タイガは1種類または数種類の針葉樹から構成される単純な森林であるため、伐採や樹木の選別が容易であり、林業に適した森林です。
タイガはロシアやカナダなどの寒冷な地域に広がるため、過去に人間の開発を受けていない広大な針葉樹林が広がります。
このため、ロシアやカナダでは広大なタイガの針葉樹を伐採し、木材として海外に輸出しています。
タイガの林業が盛んな地域は、ロシアでは東部のシベリアや極東(沿海州など)であり、カナダでは西海岸のブリティッシュコロンビア州です。
いずれも太平洋側の地域であり、日本への木材の輸出が行われている地域です。
日本では、ロシアからの輸入材を北洋材、北米(米国+カナダ)からの輸入材を米材(べいざい)と呼びます。
かつては東南アジアから安価な南洋材を輸入していましたが、森林資源の減少により1970年代頃から輸出が規制されたため、その代わりにロシアのタイガを伐採した北洋材の輸入量が増加しました。
しかし、2007-2008年にかけてロシアからの丸太の輸出関税が引き上げられました。
このため、その後は北米からの米材の輸入量が増え、さらに国産の木材の自給率も増加しました。

日本の多くの地域では、天然林では広葉樹林(照葉樹林や落葉広葉樹林)が広がる気候ですが、人工林としては針葉樹林が数多く見られます。
この理由は、戦後に成長が早く木材として価値が高いスギ(杉)やヒノキ(檜)などの針葉樹を大量に植林したためです。
しかし、その後に海外の安価な木材が輸入されるようになり、せっかく植林したにも関わらずコストが高い国産の木材は価格競争に負けて需要が低下していきました。
このため、日本では針葉樹の人工林が数多く見られるにも関わらず、木材の自給率は低いです。
日本の木材の自給率は1955年には94.5%でしたが、2000年には18.2%まで低下し、その後は回復傾向で2022年には35.8%まで回復しています(出典:我が国(日本)の木材自給率と供給量 森林・林業学習館 2025/2/28閲覧)。
近年自給率が回復した要因としては、2007-2008年にロシアが輸出関税を引き上げたことで、北洋材の輸入量が減少し、その代わりに国産材の利用が増えたことが大きな要因です。
丸太の輸入量が減少したため、国産の間伐材を合板の材料として積極的に利用しています。
針葉樹林の木材
針葉樹林を構成する樹木としては、温帯林ではマツ(松)、スギ(杉)、ヒノキ(檜)、モミ(樅)などがあります。
亜寒帯林(冷帯林)では、エゾマツ(蝦夷松)やカラマツ(唐松)、トドマツ(椴松)などがあります。
スギ(杉)

スギ(杉)はスギ科の常緑針葉樹であり、日本では本州から屋久島にかけての温帯林に分布します。
スギは日本の林業で最も多く利用されている(日本の人工林の面積の40%を占める)樹木であり、スギ材(木材としてのスギ)は様々な用途に使用され、建築材や家具材、道具類などに使われます。
特に、第二次世界大戦後には、既存の森林を伐採した跡地に、成長が早く木材として有用なスギが大量に植林されました(現在のスギ花粉症の遠因)。
スギ材には地域名を冠したブランド名がつけられており、秋田県の秋田杉、奈良県中南部の吉野杉、宮崎県南東部の飫肥杉(おびすぎ)などがあります。
日本でスギの生産量が多い地域は、九州山地周辺(宮崎・大分・熊本)と東北地方(秋田・岩手など)です。
寒冷な北海道では道南地方以外ではスギが生育しませんが、本州以南の林業が盛んな地域では、だいたいスギの生産量が多いです。

ヒノキ(檜)

ヒノキ(檜)はヒノキ科の常緑針葉樹であり、関東以西の暖温帯(温帯の中でも特に暖かい地域≒亜熱帯)に分布します。
スギは東北地方や日本海側にも分布するのに対し、積雪に弱いヒノキは暖温帯の中でも瀬戸内海沿岸や太平洋側を中心に分布します。
スギ(杉)とともに木材として利用するために各地で植林されてきた樹木であり、分布域にはヒノキの人工林が各地で見られます。
ヒノキ材は、耐久性・耐水性が高く、特有の光沢と香り(芳香)があるため、古くから宮殿や神社の高級建築材として利用されてきました。
参考

伊勢神宮の式年遷宮とヒノキ
ヒノキ(檜)は古くから神社の高級建築材として利用されてきた樹木です。
伊勢神宮(三重県南東部・伊勢市)では建築材として主にヒノキ材が利用されています。
伊勢神宮では、20年おきに神社の建物を建て替える式年遷宮を行っているため、20年ごとに1万3,000本ものヒノキが切り倒されて利用されてきました。
式年遷宮は690年から行われています(途中中断あり)が、伊勢神宮周辺の山のヒノキを利用していたのは鎌倉時代までであり、式年遷宮による木材の消費量が多すぎて木材が枯渇したため、次第に遠くの山からヒノキを運んでくるようになりました。
江戸時代中期からは木曽川流域(長野県中信地方)のヒノキ材を使うようになりました。
大正時代には伊勢神宮周辺の山にヒノキの植林が行われましたが、このヒノキの間伐材がはじめて利用されたのは2013年の式年遷宮であり(それでも神宮林の木材の利用は700年ぶり)、建物の構造材として本格的に利用できるのは22世紀になる予定です。
モミ(樅)

モミ(樅)はマツ科の常緑針葉樹であり、日本の温帯林に分布します。
ヒノキ(檜)と同様に主に太平洋側や瀬戸内海沿岸に分布しますが、ヒノキの分布が暖温帯が北限(関東平野~福島)であるのに対し、モミは東北地方の太平洋側(岩手)にも分布します。
一方、モミはヒノキと同様に日本海側にはあまり分布せず、人工林としてはスギ(杉)が植えられています。
木材としてのモミは耐久性が低く腐食しやすいため、建築材としてはあまり利用されていません。
その代わりに、白く美しい見た目から冠婚葬祭の道具などに利用され、特に棺(ひつぎ)や卒塔婆(そとば、お墓のお供え用の細長い木板)にはモミ材がよく利用されます。
また、パルプの原料としても使われます。
近縁種のヨーロッパモミは、ヨーロッパではクリスマスツリーの木として知られています。
カラマツ(唐松)

カラマツ(唐松)はマツ科の針葉樹であり、日本では中部地方の山岳地帯などの冷温帯(温帯の中で寒冷な地域)に分布します。
元々北海道には分布していませんでしたが、第二次世界大戦後に林業目的で大量に植樹されたため現在ではカラマツの人工林が広がっています。
カラマツは樹木が幹がねじれながら育つため、木材としての利用価値は低い樹木ですが、一方で成長が早く丈夫な木材が取れます。
このため、木製電柱や炭鉱で地面に打つ杭としての用途を見込んで、第二次世界大戦後に大量に植林されました。
しかし、その後に炭鉱は閉山し、電柱もコンクリート製に置き換わったため、木材としての用途が失われてしまいました。
現在では、耐久性の強さから合板に加工され、強度を活かして梱包材(製品を輸出する際の木枠)などに利用されます。
また、カラマツ材は腐食しづらいため、尾瀬国立公園(群馬・福島)の湿原の木道としても利用されています。

エゾマツ(蝦夷松)・トウヒ(唐檜)

エゾマツ(蝦夷松)はマツ科の常緑針葉樹であり、北海道や樺太、中国・東北部~ロシア・沿海州に分布する亜寒帯林(冷帯林)の樹木です。
本州の林業ではスギ(杉)やヒノキ(檜)が利用されますが、北海道では生育しないため、代わりにエゾマツやトドマツが植林されます。
木材としてのエゾマツは、主に生産が盛んな北海道で使用され、住宅の建築材や家具材、パルプ材などに利用されます。
また、エゾマツの木材は音響性能が良いことから、ピアノやヴァイオリンの板材として利用されます。
ちなみに、本州の中部地方の山岳地帯に生育するトウヒ(唐檜)はエゾマツの変種です。
トウヒは中部地方の標高が高い場所に生育し、木材としては建築材やパルプ材として利用されます。
トドマツ(椴松)

トドマツ(椴松)はマツ科の常緑針葉樹であり、北海道や樺太で生育する亜寒帯林(冷帯林)の樹木です。
エゾマツとともに北海道の林業を代表する樹木であり、道内の針葉樹の人工林の5割はトドマツです。
木材としては、主に建築材やパルプ材として利用されます。
参考文献
Temperate coniferous forest, Wikipedia 2025/2/24閲覧
Western Himalayan subalpine conifer forests, Wikipedia 2025/2/24閲覧
針葉樹林(シンヨウジュリン)とは? コトバンク デジタル大辞泉、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/2/22閲覧
針葉樹(シンヨウジュ)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/2/22閲覧
タイガ(たいが)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/2/28閲覧
2カナダ BC 州の⽊材⽣産・流通の特徴 林野庁 2025/2/26閲覧
南洋材 環境用語集 一般財団法人環境イノベーション情報機構 2025/2/6閲覧
木材貿易(もくざいぼうえき)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、百科事典マイペディア 2025/2/6閲覧
北洋材(ほくようざい)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/2/28閲覧
第1部 第3章 第3節 木材産業の動向(5) 林野庁 2025/2/28閲覧
米材(べいざい)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/2/28閲覧
日本における木材利用の歴史~森林の荒廃と再生 森林・林業学習館 2025/2/28閲覧
我が国(日本)の木材自給率と供給量 森林・林業学習館 2025/2/28閲覧
北山杉story - 北山杉のはじまりと歴史 京都北山丸太生産協同組合 2025/2/26閲覧
数寄屋造り 建築用語辞書 東建コーポレーション株式会社 2025/3/2閲覧
帝国書院編集部「新詳地理資料 COMPLETE 2023」帝国書院(2023)
秋田県林業の現状と課題 秋田経済研究所 2025/2/28閲覧
スギとは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ)、百科事典マイペディア、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/3/2閲覧
スギ| 林産試験場 北海道立総合研究機構 2025/3/2閲覧
スギの分布図 森林研究・整備機構 2025/3/2閲覧
第1部 特集 第3節 花粉発生源対策の加速化と課題(3) 林野庁 2025/3/2閲覧
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
第1部 第3章 第1節 林業の動向(1) 林野庁 2025/3/2閲覧
ヒノキとは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ)、百科事典マイペディア、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、リフォーム用語集、事典 日本の地域ブランド・名産品 2025/3/4閲覧
ヒノキの分布図 森林研究・整備機構 2025/3/4閲覧
ヒノキ林と雪について 株式会社中島工務店 2025/3/5閲覧
桧 木材加工.com 藤井ハウス産業株式会社 2025/3/4閲覧
伊勢神宮の鳥居 株式会社オオコーチ 2025/3/4閲覧
矢野 憲一「伊勢神宮の文化史 第5回 神の森は200年計画」 日本建築家協会東海支部 2025/3/4閲覧
式年遷宮の歴史 伊勢神宮 2025/3/4閲覧
永遠の森 伊勢神宮 2025/3/4閲覧
もみ(モミ)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/3/5閲覧
モミの分布図 森林研究・整備機構 2025/3/5閲覧
木材の一覧と検索「もみ、モミ」 日本木材情報総合センター 2025/3/5閲覧
モミの木について 有限会社 山下工務店 2025/3/5閲覧
中禅寺 涼、林 宇一「棺・卒塔婆における原料の変遷」宇都宮大学農学部演習林報告 53 p43-53(2017)
カラマツとは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/3/5閲覧
カラマツ〔唐松・落葉松〕~時代に取り残された木 森林・林業学習館 2025/3/5閲覧
カラマツの分布図 森林研究・整備機構 2025/3/5閲覧
木禽岳アカエゾマツ希少個体群保護林 北海道森林管理局 林野庁 2025/3/6閲覧
アカエゾマツ| 林産試験場 北海道立総合研究機構 2025/3/6閲覧
エゾマツ| 林産試験場 北海道立総合研究機構 2025/3/6閲覧
木材の一覧と検索「エゾマツ、蝦夷松」 日本木材情報総合センター 2025/3/6閲覧
トウヒとは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/3/6閲覧
トドマツ| 林産試験場 北海道立総合研究機構 2025/3/6閲覧