気候 系統地理

季節風(モンスーン)と熱帯低気圧(台風・ハリケーン・サイクロンと災害)

ある地域で一定期間に同じ方向に吹く頻度が最も多い風を卓越風といいます。
卓越風には、恒常風、季節風(モンスーン)、熱帯低気圧、局地風(地方風)などがあります。

ここでは季節風(モンスーン)、熱帯低気圧について紹介します。

季節風(モンスーン)

雨季に冠水した住宅街(フィリピン) 出典:Wikimedia Commons, ©Judgefloro, CC0 1.0, 2021/1/23閲覧

季節によって吹く方向が変わる風を季節風といいます。

季節風は東アジア~東南アジア~南アジアでよくみられ、モンスーンともよばれます。
これらの季節風の影響を大きくうける地域をモンスーンアジアとよびます。
南アジア~東南アジアの亜熱帯地域(温帯の熱帯隣接地域)では、夏と冬で風向きがほぼ反対になる季節風により雨季と乾季がつくられます。

水は空気よりも比熱(物質の温度を1℃上げるのに必要なエネルギー)が大きいので、海洋は大陸よりも気温の年較差が小さくなります。
そのため、夏は大陸の方が気温が高くなり、冬は海洋の方が気温が高くなります。

は気温が相対的に高くなる海洋側で上昇気流が発生し、上空の大気は気温がより低い大陸側に移動し、大陸側で下降気流が発生します。
このため、大陸側で地表に降りた空気は、地表を海洋側に向けて移動し、大陸側から海洋側に向けて風が吹きます
大陸の乾燥した空気が南アジアや東南アジアに流れ込むため、乾季をもたらします。

反対には気温が高くなる大陸側で上昇気流が発生し、上空の大気は気温が相対的に低い海洋側に移動し、海洋側で下降気流が発生します。
このため、海洋側で地表に降りた空気は、地表を大陸側に向けて移動し、海洋側から大陸側に向けて風が吹きます
海洋の水蒸気を陸地にもたらすため、南アジアや東南アジアに雨季をもたらします。

季節風(モンスーン)は雨季をもたらすため、雨季に降る雨のこともモンスーンとよぶこともあります。
季節風による雨季の大雨は、大量の水を必要とする稲作にとって必要なものですが、その一方で洪水の原因にもなります。

南アジア・東南アジアの季節風と北東貿易風

インドにおけるモンスーン(季節風)の風向き。冬は北東からの風(黄緑)が吹き、夏は南西からの風(赤色)が吹く。 出典:Wikimedia Commons, ©Saravask based on work by Planemad and Nichalp, CC BY-SA 3.0, 2021/1/23閲覧

上の図はインドの季節風(モンスーン)の風向きを示したものです。

南アジア東南アジアでは、冬(12-2月頃)は北東貿易風季節風が同じ北東から南西に向かって吹きます。
この冬の季節風は風向きから北東モンスーンといい、大陸内部から乾燥した空気を運び、乾季をもたらします。

一方、夏(6-9月)は季節風が南西から北東に向かって吹き、南西からの季節風が北東から吹くはず北東貿易風を抑えてしまいます。
この夏の季節風を南西モンスーンといい、インド洋から湿った空気を運び、雨季をもたらします。

この季節風はインド東部に豊富な降水をもたらし、この水を利用してインド東部では稲作が盛んです。

熱帯低気圧

2006年に太平洋で発生したハリケーンの衛星画像 出典:Wikimedia Commons, by NASA-GSFC data from NOAA GOES, Public domain, 2021/1/23閲覧

熱帯低気圧は、熱帯から亜熱帯の海洋上で発生する低気圧です。

熱帯低気圧は、気温が高く空気の飽和水蒸気量が増える夏に緯度10°-15°付近の水温が高い海上で発生し、赤道付近ではほとんど発生しません。
これは、緯度により地球を一周する移動距離が異なるため、自転速度に差があることが影響しています。

赤道から少し離れた場所では、ある地点の南北で地球の自転速度に差があります(南ほど速く北ほど遅い)。
南側からその地点に吹き込む風は、真北に力がはたらいているにもかかわらず、自転速度が速いので東に曲がりながら吹きこみます。
反対に、北側からその地点に吹き込む風は、真南に力がはたらいているにもかかわらず、自転速度が遅いので西に曲がりながら吹きこみます。

このように、地球の自転の力の影響ででS字型に風が吹きこむことで熱帯低気圧ができます。
しかし、赤道付近では南北の自転速度の差が小さいため、S字に吹きこむ力がはたらかず、熱帯低気圧は発生しません。

発達した熱帯低気圧は猛烈な暴風雨を伴い、大雨や強風、高潮など多くの災害をもたらします。
発達した低気圧は気圧が非常に低いため、海面を上から抑えつける圧力が低くなるため潮位(海面の高さ)が高くなり、強風により海水が沿岸に引き寄せられて陸地が浸水することで高潮の被害が発生します。

各海域の熱帯低気圧の呼称。南大西洋は熱帯低気圧がほどんど観測されないため呼称が定まっていない。これは、アフリカ南部西岸を北上する寒流であるベンゲラ海流の影響で水温が低く、熱帯低気圧ができるほどの上昇気流がおきづらいためである。 出典:Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0, 2021/1/23閲覧

発達した熱帯低気圧は大きな被害をもたらすため、その動きは各国の気象庁によって監視され、海域ごとに名前がつけられています。

北太平洋西部に存在するものを台風インド洋や南太平洋に存在するものをサイクロン北大西洋東部から北大西洋にかけてに存在するものをハリケーンとよびます。
これらは風速の定義など若干の定義の差はあるものの、海域以外同じものです。
そのため、北太平洋を経度180°線を超えて西から東に動く熱帯低気圧は、ハリケーンから台風に変わります。

ガンジス川の三角州(ベンガルデルタ)に広がるバングラデシュでは、国土の大部分が人口密度の高い低地であり、サイクロンによりたびたび大きな被害をうけています。

熱帯低気圧 海域 主な熱帯低気圧と災害
台風 経度180°以西の北太平洋,南シナ海 洞爺丸台風(1954):青函連絡船5隻が沈没し、青函トンネル建設の契機
伊勢湾台風(1959):高潮による伊勢湾沿岸の低地の大規模な浸水
サイクロン インド洋、南太平洋 ボーラ・サイクロン(1970):東パキスタン(現バングラデシュ)で20-50万人の死者
ハリケーン 経度180°以東の北太平洋、北大西洋、カリブ海 カトリーナ(2005):ニューオリンズ(米ルイジアナ州)を中心にアメリカ南部に被害(死者1,836人)

 

参考文献

卓越風とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/23閲覧
季節風とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/23閲覧
モンスーンとは コトバンク デジタル大辞泉の解説、世界大百科事典 第2版の解説 2021/1/23閲覧
インドの季節風とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 2021/1/23閲覧
熱帯低気圧とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、百科事典マイペディアの解説 2021/1/23閲覧
熱帯低気圧 ウィキペディア 2021/1/23閲覧
高潮とは コトバンク 知恵蔵の解説、朝日新聞掲載「キーワード」の解説、海の事典の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/23閲覧
1970年のボーラ・サイクロン ウィキペディア 2021/1/23閲覧
ハリケーン・カタリーナ ウィキペディア 2021/1/23閲覧
ハリケーン・カトリーナ ウィキペディア 2021/1/23閲覧
地理用語研究会編 「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社
洞爺丸台風 ウィキペディア 2021/1/23閲覧
伊勢湾台風とは ウィキペディア 2021/1/24閲覧

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