地形 系統地理

川の下流の地形1(沖積平野の氾濫原に広がる微地形)

ここでは、川の下流にできる地形である氾濫原(はんらんげん)について解説します。

川の上流から谷口にかけて広がる地形については、以下の記事で解説しています。

参考川の上流・中流の地形(V字谷と谷底平野・扇状地)

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河口にできる地形については、以下で取り上げています。

川の下流の地形2(三角州とその分類)

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下流部の地形(氾濫原・自然堤防・後背湿地・三日月湖)

川の下流部の様子。天塩川下流域(北海道・道北地方・幌延町~天塩町)の地形を描いている。出典:下流部のようす ©国土地理院 一部を加工して掲載 2021/1/14閲覧

川の下流部は、傾斜がゆるやかなため侵食や運搬の作用よりも堆積の作用が強くはたらきます。
高低差が小さい平野が広がるため、川は蛇行して洪水のたびに周囲に土砂を堆積して地形を形成します。

ここでは、沖積平野の河口に近い部分にできる氾濫原と氾濫原に見られる地形(自然堤防後背湿地三日月湖)について解説します。

氾濫原

洪水時に冠水した氾濫原(英国イングランド南部・ワイト島)。出典:Wikimedia Commons, ©Oikos-team, CC BY-SA 3.0, 2021/1/15閲覧

河口付近では、川は堆積の作用が強くなり、洪水のたびに周囲の土地を平らにならしながら土砂を堆積します。
このため、河口付近には川を中心とした比較的規模の大きい沖積平野ができます。

洪水のときに川の水があふれて浸水するため、土砂が堆積して平坦になっている地形を氾濫原(はんらんげん、氾濫平野)といいます。
氾濫原は沖積平野とほぼ同じ意味で使われます。

氾濫原に形成される地形として、自然堤防後背湿地三日月湖河跡湖)があります。
これらに加えて、人の手が加わった地形である天井川についてもまとめます。

自然堤防

会の川(旧利根川)の自然堤防(埼玉県北東部・羽生市)。高さ2.5 mと自然堤防としては大規模である。出典:Wikimedia Commons, ©京浜にけ, CC BY-SA 3.0, 2021/1/15閲覧

氾濫原を流れる川の両側に、川に沿うように数メートルの高さの堤防のような小高い地形が自然にできることがあります。
これを自然堤防といいます。

自然堤防は川からあふれた土砂が堆積してできた地形です。

川を流れる水が川の外にあふれると、一気に水深が浅くなるため、水の流速が急激に落ちてしまいます。
その際、運んできた土砂を川のすぐそばに積み上げてしまいます。

氾濫原全体が浸水するのは大規模な洪水のときです。
そして、大規模な洪水よりも小規模な洪水の方が圧倒的に多いです。
このため、小規模な洪水では川が運んできた土砂は遠くまで運べずに自然堤防にどんどん堆積されてしまうので、自然堤防の外側の後背湿地よりも堆積する土砂の量が多くなり、堤防のように高くなります。

このようにしてできた自然堤防は、周囲より数メートル高いために水はけがよく、古くから集落として利用されてきました。

岩木川(青森)流域の自然堤防。川に沿う緑色の部分は人工堤防で、宅地部分が自然堤防に相当する。自然堤防は集落として、後背湿地は水田として利用されている。出典:自然堤防 ©国土地理院 2021/1/15閲覧

自然堤防の模式図。川の両岸に自然堤防が広がり、その奥は後背湿地となっている、川の本流から切り離された旧河道は三日月湖(河跡湖)を形成する。出典:自然堤防 ©国土地理院 2021/1/15閲覧

後背湿地

氾濫原において、自然堤防の外側に広がる低地を後背湿地といいます。

自然堤防は後背湿地よりも数メートル高いため、後背湿地が一度浸水すると水は自然堤防を越えて川に戻ることができません。
そのため、後背湿地は水はけが悪く、湿地・沼・三日月湖が点在します。

水はけが悪い後背湿地は、主に水田として利用されてきました。

参考

北海道スコットランド(イギリス)などの寒冷地では、低温のため微生物による腐敗分解が十分に進まず、川からの定期的な土砂供給により堆積速度が速いため、やわらかく湿った土で肉眼で見えるような植物の残骸を含む泥炭が堆積します。
泥炭が堆積した場所を泥炭地といいます。

「低温」がポイントで、高温の後背湿地では堆積物の供給量も多いが分解速度も速いため、泥炭は形成されません。

石狩平野(北海道)は泥炭地が広がる平野で、明治時代以降に泥炭地を土地改良により水田として開発していきました。

スコットランド北部では、ウィスキーをつくるために原料の麦芽を乾燥させる際の燃料として泥炭を利用していました。
他の地域では木炭を利用していたのですが、森林資源が少ないスコットランドでは、豊富に存在する泥炭で代用していました。
そのため、スコッチウイスキーは、泥炭(ピート)に由来する独特の香りがすることで知られていて、燻製のようなにおいからスモーキーフレーバーといいます。

三日月湖(河跡湖)

無数の三日月湖(河跡湖)をつくりながら流れる川(ロシア・シベリア北西部のヤマル半島)。河川改修などを行っていない自然に形成された三日月湖である。出典:Wikimedia Commons, ©katorisi, CC BY-SA 3.0, 2021/1/15閲覧

沖積平野は平坦なため、川は少しでも低い所を目指して氾濫原を蛇行しながら流れます。
しかし、ひとたび洪水がおきると、水の勢いでカーブを突き破って川の流れを短絡(ショートカット)し、新しくできたショートカットの方が本流になることがあります。
遠回りしていた元の河道は、もはや上流から水が流れてこなくなり、川の本流との境目には土砂が堆積して本流と切り離されてしまいます。
このようにして、川から切り離されて湖と化した旧河道を河跡湖といいます。

河跡湖の中で三日月状の形をしているものを三日月湖といいます。
河跡湖の多くは三日月状の形をしているため、三日月湖は河跡湖と同じものとして扱われることもあります。

三日月湖は、石狩川(北海道)やミシシッピ川(アメリカ)など大河川が流れる平野に多く形成されます。

天井川

天井川となった旧草津川とその下をトンネルでくぐり抜ける鉄道路線(滋賀県南西部・草津市)。草津川は地表より高い場所を流れているため、東海道本線(JR琵琶湖線)は橋ではなくトンネルでくぐり抜ける構造になっていた。2002年に草津川の流路の付替えが行われたため現在は水は流れておらず、草津川跡地公園として整備されている。出典:Wikimedia Commons, ©Haruno Akiha, CC BY-SA 3.0, 2021/1/16閲覧

防災のために川に人為的に堤防をつくると、川から周囲に土砂が流れなくなります。
行き場を失った土砂は堤防の内側に堆積するようになり、河床(川の底)が高くなります。
すると、今までの高さの堤防では氾濫を防げなくなり、さらに堤防を高くすると河床はさらに高くなるという悪循環が生まれます。
このようにして周囲の土地よりも河床が高くなった河川を天井川といいます。

天井川が氾濫をおこすと、水が川に戻りにくいので被害が大きくなります。
そのため、近年日本では河川の拡幅や付け替えなどの改修を進めています。

日本の天井川の約半数は関西地方に集中し、全体の3分の1は滋賀県に集中しています。

参考文献

山から海へ川がつくる地形 国土地理院 2021/1/13閲覧
平野(へいや)とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/13閲覧
堆積平野とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2021/1/13閲覧
氾濫原とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、世界大百科事典 第2版 2021/1/15閲覧
氾濫原 ウィキペディア 2021/1/15閲覧
自然堤防とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、世界大百科事典 第2版、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/15閲覧
後背湿地とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/15閲覧
湿原とはどんなものか 岡山理科大学 生物地球学部 生物地球学科 旧植物生態研究室(波田研) 2021/1/15閲覧
泥炭地とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、世界大百科事典内 2021/1/15閲覧
石狩平野とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/15閲覧
ウイスキーでよく聞く「ピート」の正体とは?意味と役割を解説 Liquor Page 2021/1/16閲覧
三日月湖とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2021/1/15閲覧
河跡湖とは コトバンク 世界大百科事典 第2版、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/15閲覧
天井川とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/16閲覧
天井川 ウィキペディア 2021/1/16閲覧

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