地形 系統地理

広がる境界(発散境界)とその地形

広がる境界(発散境界)は2つのプレートが互いに離れるように動くプレート境界であり、主に大洋上に位置します。
このページでは広がる境界とその地形について解説していきます。

広がる境界(発散境界)とは

大洋の海底に位置する広がる境界(発散境界)の模式図(大西洋中央海嶺)。地表は固体のリソスフェア(地殻+リソスフェア・マントル)の上にあるが、広がる境界では地球内部(上部マントルのうち流動性が高いアセノスフェア部分)から噴出したマグマが海水にふれて冷やされて固まることで新しい地殻が生み出されている。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©37ophiuchi BrucePL, CC BY-SA 4.0, 2024/7/31閲覧

広がる境界(発散境界)は、2つのプレートが互いに離れるように動くプレート境界です。

地球内部には高温高圧のマグマが存在します(上図のアセノスフェア)が、普通の場所では上にかたい岩盤の層(リソスフェア)が存在するため、地表にマグマが吹き出すことはありません。
しかし、広がる境界では地表のかたい岩盤部分にあたるプレートが互いに遠ざかるように動くため、空いた隙間から地球内部のマグマが噴出します。

地表に吹き出したマグマは冷やされて固まります。
固まったマグマは、地表をはうように境界から両側に広がっていき新しい地殻となります。
そのため、境界付近が最も新しく形成された地殻であり、境界から離れるにしたがって形成された年代が古くなります。

広がる境界の分布

2022年の研究に基づく世界のプレートの分布と境界。プレート境界は種類別に色分けしている。広がる境界(発散境界)は赤系、狭まる境界(収束境界)は青系、ずれる境界(すれ違う境界)はオレンジと緑色である。ソマリアプレートはアフリカプレートの一部であり、アフリカ大地溝帯を境界としてアフリカ大陸から分裂しようとしている部分である。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©M.Bitton, CC BY-SA 3.0, 2024/8/1閲覧

上の世界地図は、世界のプレートの分布と境界について示したものです。
濃赤色やピンク色の部分が広がる境界(発散境界)です。

広がる境界は主に大洋の中央部に分布しています。
大西洋では北極から南極まで伸びる大規模な広がる境界が存在し、南極大陸の周囲を360°囲むように広がる境界が存在します。

一方、大陸上にも広がる境界が存在します。
上の世界地図において、アフリカプレートとソマリアプレートの境界にあるピンク色の線が大陸上に位置する広がる境界です。
ソマリアプレートは実は独立したプレートではなく、あくまでアフリカプレートの一部です。
しかし、ピンク色の広がる境界の部分には亀裂が走り、1つだったアフリカプレートが2つに分裂しようとしています。
数十万~数百万年後には、アフリカプレートはこの亀裂を境界に2つのプレートに完全に分裂してしまうと考えられています。

以上のように、広がる境界は主に大洋のプレート境界上に存在しますが、大陸上でプレートが分裂しようとする場所にも見られます。

広がる境界の地形

大西洋の海底地殻を生成年代別に色分けした図(新しい順に黒→赤→黃→緑→水→青色)。大西洋中央を南北に走る黒い線が大西洋中央海嶺であり、地球内部から噴出したマグマが海水に冷やされて新しい地殻が形成されている場所である。海嶺は南北方向に広がるが、所々東西に黒い線が走っており、断裂帯とよばれる亀裂が存在している。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/8/3閲覧

広がる境界では、海洋と大陸それぞれに特徴的な地形が形成されます。

広がる境界が海洋(大西洋などの大洋上)に存在すると、境界付近は海底地形がプレート境界に沿うように伸びる海底山脈である海嶺(かいれい)という地形がみられます。
海嶺の大部分は海の下にありますが、一部は山の頂上が海水面より高くなり火山島となっている場所もあります。
海嶺が地表で見られるアイスランド島では、プレート境界の大地の裂け目をギャオとよびます。

広がる境界が大陸上に存在する場合は、プレート境界に沿って両脇を山に挟まれた細長い谷の地形(地溝(ちこう))を形成します。
アフリカ東部のアフリカ大地溝帯では、プレート境界に沿うように多数の地溝が並ぶ地溝帯が見られます。
アフリカ大地溝帯では、地溝に水が溜まった断層湖(地溝湖)や活火山が見られます。

海洋(大洋)と大陸上の広がる境界とその地形については、次のページで解説しています。

参考海洋上の広がる境界と地形(海嶺・ギャオ)

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参考大陸上の広がる境界と地形(アフリカ大地溝帯・断層湖)

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広がる境界の模式図

次の図は、広がる境界が時間の経過とともに拡大していく様子の模式図です。
元々1つだったプレートが両側に引っ張られることで亀裂が入り、やがて2つに分裂していく過程を示しています。

広がる境界(発散境界)の模式図。地中から出てきたプレートが地表で離れるように移動している。①2つのプレートの間のすき間が小さいときは、大陸上ではプレート境界に沿って細長い地溝帯が形成される。地溝帯は両脇を山に挟まれた細長いくぼみの地形であり、水が溜まって断層湖(地溝湖)が形成される場所もある。②プレートの間が広がっていくと大陸が分裂して間に海水がたまった細長い海洋が形成される。③海洋の幅が拡大してくと、中央付近に海嶺とよばれる海底山脈が形成された大洋に成長する。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©Hannes Grobe (アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所), CC BY-SA 2.5, 2024/7/31閲覧

上図①は元々1つだったプレートが両側に引っ張られることで亀裂が入っている状態です。
大陸上に位置する広がる境界は①状態であり、まだプレート間の隙間は小さいです。
プレート間の隙間が小さいときは、1つのプレートが両側へ引っ張られることで大地に亀裂が入り、間に細長い谷状の地形(地溝)を形成します。
この時点では地溝はまだ大陸上に位置しています。
地溝の低い場所に水がたまって断層湖(地溝湖)になることもありますが、海から離れたあくまで大陸上の湖です。
①の状態の例としては、アフリカ東部のアフリカ大地溝帯があります。

元々の地殻部分(プレート)が完全に2つに分かれて互いに遠ざかっていくと、幅が広がった地溝は海とつながって海水が流入し、細長い内海を形成します(上図②)。
海に沈んだ地溝では、地球内部(アセノスフェア)からのマグマが堆積してできた海底山脈である海嶺が形成されます。
②の状態の例としては、紅海(アフリカプレートとアラビアプレートの境界)があります。
紅海はアフリカ大陸(エジプト~ソマリア)とアラビア半島(サウジアラビア~イエメン)の間に位置する細長い内海です。
紅海は元々地溝でしたが、地溝の拡大とともにインド洋とつながって海になった場所です。
そのため、細長くて幅が狭い海(最大でも幅350km程度)ですが、水深が深いという特徴があります(最大水深3,040m)。
紅海の幅は現在でも拡大をつづけており、いずれ③の状態に進むと考えられています。

③は元々の地殻部分が時間の経過とともに数千kmも離れ、間に大洋が形成された状態です。
大洋の中央部のプレート境界では海嶺が連なっています。
③の状態の例としては、大西洋があります。
大西洋の中央部には、東側のユーラシア/アフリカプレートと西側の北/南アメリカプレートの境界が南北に走ります。
プレートの境界には大西洋中央海嶺が存在しています。
大西洋中央海嶺で形成された地殻は数億年の時間をかけて地表を移動し、やがて海溝に達すると地球内部に戻っていきます。

以上のように、広がる境界では場所によって地溝や海嶺といった地形が存在しますが、いずれも地球の内部から噴出したマグマが固まり、新しい地殻を形成する場所です。

参考文献

地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
松倉公憲「地形学」 朝倉書店(2021)
Divergent boundary, Wikipedia 2024/7/30閲覧
Somali Plate, Wikipedia 2024/8/1閲覧
Difference between spreading center vs extension zone?, reddit 2024/8/1閲覧
正断層・逆断層・横ずれ断層 地震調査研究推進本部事務局(地震本部) 2024/8/1閲覧
New maps of global geological provinces and tectonic plates, Phys.org 2024/8/1閲覧
D. Hasterok et al., New Maps of Global Geological Provinces and Tectonic Plates, Earth-Sci. Rev. 231, 104069 (2022)
吉田 英一 他「第12回名古屋大学博物館特別展記録「大陸アフリカ─名大の研究軌跡─」」名古屋大学博物館報告 25, p183-200 (2009)

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