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地震による災害(震災:火災・断水/停電・河道閉塞・液状化現象・地盤隆起/沈降など)

地震が発生すると、地震のゆれそのもの以外にも様々な災害が副次的に発生します。
このページでは、地震により発生する様々な災害(震災)についてまとめます。

地震による災害

地震によって直接的・間接的に引き起こされる様々な災害をまとめて震災とよびます。
地震が発生すると、ゆれによる被害だけではなく副次的に様々な災害が発生します。
ここでは、地震による災害(震災)の具体例として家屋倒壊、火災、インフラ破壊(断水・停電など)、土砂崩れ(地すべり)、河道閉塞による堰止湖の形成、液状化現象、地盤の隆起と沈降、津波の順に紹介します。

家屋倒壊

1995年の兵庫県南部地震(Mj 7.3)により倒壊した建物(兵庫県南東部・神戸市兵庫区湊川町)。倒壊した建物のガレキが道路にまではみ出して道の一部を塞いでいる。兵庫県南部地震では震源域にあたる淡路島や兵庫県南東部(阪神地域)で家屋倒壊や火災などで甚大な被害が発生しため、その震災を阪神淡路大震災と命名された。出典:Wikimedia Commons, ©松岡明芳, CC BY-SA 3.0, 2025/1/12閲覧

地震のゆれにより耐震性の低いビルや家屋が倒壊することがあり、場合によっては倒壊した建物につぶされて圧死することがあります。
たとえ助かったとしても住居が倒壊したり損傷すると家に住み続けることができなくなり、避難所や遠方での避難生活を余儀なくされます。
特に沖積平野や埋立地など地盤が弱くゆれが大きくなりやすい地域で被害が大きくなりやすいです。
また、最新の耐震基準を満たしていない古い家屋一度地震の被害を受けた後に補修を行っていないなど、耐震性が低下した建物で損壊が発生しやすいです。

一例として、1995年の兵庫県南部地震(Mj 7.3)では、神戸市などの都市部でも家屋倒壊や高架道路の倒壊などで大きな被害が発生したことから、その震災が阪神淡路大震災と命名されています。
この地震では高架道路やビル、家屋の倒壊が多発し、早朝に発生したため就寝中の人が家屋倒壊で圧死する事例が多発しました。

火災

2024年の能登半島地震(Mj 7.6)により発生した火災により消失した輪島朝市(石川県能登半島北部・輪島市)。地震により損傷した電気設備が原因で発生した電気火災が延焼し、輪島朝市一帯が焼失した。出典:Wikimedia Commons, ©航空自衛隊, CC BY 4.0, 2025/1/12閲覧

地震のゆれによりビルや家屋が破損・倒壊すると、電気設備が損傷して漏電により火災が発生することがあります。
特に道路が狭く木造家屋が密集する場所では、倒壊した家屋が道を塞いだり、火災が発生しやすく延焼しやすいため、被害が大きくなりやすいです。

地震後の火災は、複数箇所で同時多発的に発生し、現場までの道路が破壊されていたり避難する車や人々で緊急車両が通れなくなるなどの影響で、消火・救助活動が遅れやすくなります。
人口が集中する都市部で直下型地震が発生すると特に被害が大きくなります。

また、2024年の能登半島地震(Mj 7.6)では、地震により電気設備が損傷した発生した火災により大規模な火災が発生しました。
この結果、輪島市中心部(石川県・能登半島北部)の輪島朝市一帯が焼失しました。
輪島では西暦800年頃(奈良時代~平安時代)から朝市が開かれてきた歴史があり、現在では観光地として知られている場所でした。

インフラ破壊(断水・停電・道路寸断)

2004年の新潟県中越地震(Mj 6.8)では13万戸以上が断水したため、自衛隊の給水車による支援が行われた(新潟県中越地方・小千谷市)。大規模な地震が発生すると、電気や都市ガス、水道などのライフラインが寸断され、日常生活に著しい支障が出る。出典:Wikimedia Commons, ©Tubbi assumed , CC BY-SA 3.0, 2025/1/12閲覧

大きな地震が発生すると普段の生活を支えているインフラも寸断されます。

たとえば、電気や都市ガス、水道などのライフラインは、物理的な「線」がつながることで機能するため、地震により寸断されると使えなくなります。
また、道路や鉄道路線では、路肩や橋が崩落したり、安全確認のために一時的に使えなくなります。
道路が寸断されると物流が滞り、生きるために必要な物資が手に入らなくなります。
現代では地震が発生しても外部からの支援が行われますが、都市部で被災者数が多い場合(例:兵庫県南部地震)や、山間部など救援隊が到達困難な場所では、インフラ寸断の影響がより顕著になります。

インフラへの影響が特に大きく出たのが2018年の北海道胆振東部地震(Mj 6.7)です。
北海道胆振東部地震では、震源に近い苫東厚真火力発電所(とまとうあつま-、北海道胆振地方東部・厚真町)が地震により機能停止し、電力の需給バランスが崩壊して北海道全域で停電が発生しました(ブラックアウト)。

土砂崩れ(地すべり)

2007年の新潟県中越沖地震(Mj 6.8)により発生した地すべり(土砂崩れ)で塞がれた線路(新潟県中越地方・柏崎市・JR信越本線青海川駅付近)。海と急斜面に囲まれた立地であるため、地震の揺れで斜面が崩れて線路を塞いでしまっている。手前側の跨線橋が青海川駅であり、奥にトンネルの入口があるが大半が土砂で埋まって見えなくなっている。出典:Wikimedia Commons, ©Kropsoq, CC BY-SA 3.0, 2025/1/12閲覧

山間部では、地震のゆれにより土砂崩れが発生します。
土砂崩れ(地すべり)に家屋が巻き込まれて被害が発生したり、道路が寸断されて山間部の集落が孤立します。

2008年の岩手・宮城内陸地震(Mj 7.2)では、震源域の地盤が火山噴出物が堆積した崩れやすい土壌である上に、場所が傾斜が多い山間部であったため、大規模な土石流(地すべり)や落石が多発しました。
駒ノ湯温泉(宮城県北部・栗原市)では発生した土石流に宿泊客と従業員が巻き込まれ,7人が死亡しました(地震全体では死者・行方不明者23名)。

河道閉塞による堰止湖の形成

1984年の長野県西部地震(Mj 6.8)により発生した土砂崩れ(地すべり)により王滝川がせき止められできた自然湖(長野県中信地方・王滝村)。地震による堰止湖はほどなく崩壊してしまうものも多いが、自然湖は20年以上も安定して湖のまま残っている。出典:Wikimedia Commons, ©Qurren, CC BY-SA 3.0, 2025/1/12閲覧

土砂崩れが川の流れを塞ぐように発生すると、川が一時的にせき止められて堰止湖(せきとめこ)が形成されることもあります(河道閉塞、かどうへいそく)。
地震による堰止湖の例として、1923年の大正関東地震(Mj 7.9)により形成した震生湖(しんせいこ、神奈川県西部・秦野市~中井町)や1984年の長野県西部地震(Mj 6.8)により形成した自然湖(長野県中信地方・王滝村)があります。
震生湖は現在も湖として残っていますが、地震による堰止湖は程なくして崩壊してしまうこともあります。

1874年に現在の長野市付近で発生した善光寺地震では、土砂崩れによっていくつもの河川が塞がれて一時的に堰止湖が形成されましたが、その後水圧により積み上がった土砂が崩落してたまった水が一気に流れました。
善光寺地震では、一時的に堰止湖が形成されたことで上流の農村が水没し、その後に堰止湖が崩落して下流に一気に水が流れたことで下流域に水害をもたらすなど、地震のゆれそのもの以外でも副次的に被害が発生しています。

液状化現象

2018年の北海道胆振東部地震(Mj 6.7)の被災地を視察する安倍晋三首相と高橋はるみ北海道知事(北海道札幌市清田区)。住宅地で発生した液状化現象により住宅が倒れたり道路が陥没して水たまりができるなどの被害が出ている。液状化現象は地震のゆれにより地盤が液体状に流動化する現象であり、沖積平野や埋立地等の地盤が弱い場所で発生しやすい。清田区は札幌市の中でも内陸に位置するが、液状化現象が発生した里塚地区は山を切り崩して谷を埋めて造成した宅地が広がり、液状化の被害も元々河川だった(=谷を埋めて造成した)場所に集中している。出典:Wikimedia Commons, ©首相官邸 内閣官房内閣広報室, CC BY 4.0, 2025/1/12閲覧

地震が発生して地盤が強い衝撃を受けると、今まで互いに接して支えあっていた土の粒子がバラバラになり、地盤全体がドロドロの液体のような状態になる現象を液状化現象といいます。
液状化現象が発生すると、地面から水が吹き出したり、地盤が建物のを支えきれずに沈み込んで傾いてしまったり、地中に埋まっていたマンホールが飛び出すなどの被害が発生します。
液状化現象そのものが人命に関わることは稀ですが、住宅や道路、水道などのライフラインへ大きな被害をおよぼすため、その後の生活に与える影響は大きいです。

液状化現象が発生しやすい場所は、昔は海や川など水がたまっていた場所です。たとえば、沿岸部の埋立地沖積平野氾濫原など)、かつて川が流れていた場所などがあげられます。
液状化現象は沿岸部で発生するイメージが強いですが、内陸部でも発生します。
2018年の北海道胆振東部地震(Mj 6.7)で液状化現象が発生した札幌市清田区(上図)は海から離れた内陸部に位置しますが、元々河川だった場所を埋め立てて造成した場所で液状化現象が発生しました。

日本では沖積平野に多くの都市が広がるため、都市部で液状化現象が発生すると水道などのライフラインをはじめ日常生活に大きな影響を与えます。

2011年の東北地方太平洋沖地震(Mj 8.4, Mw 9.1)では、震源から遠く離れた東京湾沿岸の埋立地(東京・千葉)や利根川流域(茨城・千葉)などでも地震のゆれによる液状化現象が発生しました。

2011年の東北地方太平洋沖地震(Mj 8.4, Mw 9.1)により液状化現象が発生した道路(東京都江東区新木場)。地震のゆれにより道路が流動化し、アスファルトで舗装されていた道路に車が沈み込んで傾いてしまった上に、道路が波打っているのがわかる。この地震では、新木場を含む東京湾沿いの埋立地で液状化現象が発生した。出典:Wikimedia Commons, ©Morio, CC BY-SA 3.0, 2025/1/13閲覧

地盤の隆起・沈降

2024年の能登半島地震(Mj 7.6)による地盤の隆起(石川県能登半島北西部・輪島市鹿磯漁港付近)。左は地震前、右は地震後の空中写真である。地震前と比べて地震後には砂浜の幅が大きくなっており、地震により海面下であった場所が地震後には隆起して陸地になっていることがわかる。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons(左:地震前右:地震後), ©国土地理院 2025/1/13閲覧

地震が発生すると地面が大きく動くため、地盤が数mも隆起したり沈降することがあります。
特に海岸では海の下であった場所が地震後には陸地になったり、海岸の陸地が沈んで海水が侵入して海とつながったりします。
内陸部でも地震による地盤の沈降で凹地ができて、そこに水がたまって池になることもあります。

2011年の東北地方太平洋沖地震(Mj 8.4, Mw 9.1)により地盤が沈降し、海に沈んだ建物(宮城県北東部・気仙沼市・南三陸シーサイドパレスホテル跡)。東北地方太平洋沖地震で地盤が沈降し、さらに20m級の津波に襲われたことで周囲の松原と海水浴場が消滅し、建物が立っていた場所も海面下に沈んだ。出典:Wikimedia Commons, ©YO-5351, CC BY-SA 3.0, 2025/1/13閲覧

津波

2011年の東北地方太平洋沖地震(Mj 8.4, Mw 9.1)により津波に襲われて破壊された駅と電車(福島県浜通り北部・新地町・JR常磐線新地駅)。駅舎は消滅して跨線橋が形を残し、中央と右側には津波に流されて脱線・大破した列車(E721系電車)の残骸が残されている。出典:Wikimedia Commons, ©Kuha455405, CC BY-SA 3.0, 2025/1/13閲覧

沈み込み帯狭まる境界で発生する海溝型地震では、海洋の下で地面が急激に上下するため真上の海水が持ち上げられて津波が発生することがあります。
マグニチュードが大きな巨大地震の場合には、津波は大洋全域レベルの非常に広範囲に到達します。

海溝型地震以外であっても、震源域が海洋であれば津波が発生することがあります。
沈み込み帯(海洋プレートと大陸プレートのプレート境界)以外の海底下で発生した地震としては、1993年の北海道南西沖地震(Mj 7.8)や2024年の能登半島地震(Mj 7.6)があります。
いずれも沈み込み帯から離れた日本海側を震源とする地震ですが、津波が発生しました。

津波については次のページで詳細に解説しています。

参考津波のしくみと被害(インド洋大津波・チリ地震津波など)

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参考文献

震災(シンサイ)とは? コトバンク デジタル大辞泉 2025/1/14閲覧
兵庫県南部地震 ウィキペディア 2024/12/22閲覧
令和6年能登半島地震において発生した輪島市大規模火災における消防庁長官の火災原因調査 総務省消防庁消防研究センター 2025/1/12閲覧
能登半島地震 (2024年) ウィキペディア 2025/1/12閲覧
輪島朝市の歴史 輪島朝市 2025/1/12閲覧
200404:2004年(平成16年) 新潟県中越地震・新潟県 内閣府防災情報 2025/1/12閲覧
2018 年(平成 30 年) 北海道胆振東部地震 内閣府防災情報 2025/1/1閲覧
日本初の“ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか 資源エネルギー庁 2025/1/1閲覧
自然湖とは 自然湖ネイチャーカヌーツアー 2025/1/12閲覧
震生湖 ウィキペディア 2025/1/1閲覧
山崩れなどの被害と堰止め湖の崩落 長野市デジタルミュージアム ながの好奇心の森 ADEAC 2025/1/1閲覧
盛土・宅地防災:液状化現象について 国土交通省 2025/1/12閲覧
液状化現象 地震調査研究推進本部 2025/1/12閲覧
北海道胆振東部地震での札幌の液状化 防災リテラシー研究所 2025/1/14閲覧
北海道胆振東部地震による液状化被害 公益社団法人 土木学会 委員会サイト 2025/1/14閲覧
東北地方太平洋沖地震による関東地方の地盤液状化現象の実態調査結果 国土交通省関東地方整備局 2025/1/13閲覧
地震(ジシン)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典 2025/1/13閲覧
南三陸シーサイドパレス ウィキペディア 2025/1/13閲覧

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