火山が噴火すると地球内部からマグマが吹き上がり、地表に様々な物質が放出されます(火山噴出物)。
このページでは、火山噴出物の種類(火山ガス、溶岩、火山砕屑物など)と噴火により発生する火砕流・火山泥流について解説します。
火山噴出物(火山ガス・溶岩・火山砕屑物)
火山活動(噴火など)に伴って地上に噴出されたものを総称して火山噴出物といいます。
火山噴出物は物質の状態によって分類され、気体状(ガス状)の火山ガス、ドロドロして流動性のある溶岩、固形物の火山砕屑物(かざんさいせつぶつ、火砕物、噴石や火山灰など)などがあります。
以下では、それぞれについて順番に見ていきます。
火山ガス
火山噴出物のうち、気体状のものは火山ガスとよばれます。
火山付近で硫黄のにおいがするのは、この火山ガスの成分が原因です。
火山ガスの成分は9割以上が水蒸気ですが、硫化水素(H2S)や亜硫酸ガス(SO2, 二酸化硫黄)などの有毒成分も一部含みます。
硫黄は重い原子なので、硫化水素や亜硫酸ガスは空気より重い物質です。
そのため凹地にたまりやすく、火山の火口にできる凹地であるカルデラには目に見えない有毒ガスがたまっていることもあり、カルデラ内部に動物の死骸が残されていることがあります。
上の写真は登別温泉(北海道胆振地方)の観光名所である地獄谷です。
地獄谷では無数の火口から火山ガスが吹き出す様子が常に見られ、火山ガスに含まれる成分により地面が赤茶色に変色しています。
火山ガスは腐食性成分を含むので、火口周囲に草木が生えない場所が広がります。
溶岩
火山噴出物のうち、ドロドロとした流動性のある液体状のものを溶岩といいます。
溶岩が冷えて固まった後に残る固形物も同じく溶岩といいます。
溶岩が流れるさまを溶岩流といい、溶岩流が固まった後もやはり溶岩流といいます。
溶岩は含まれている物質の組成や温度によって粘性(ねばり気)が異なります。
マグマに含まれるケイ酸(SiO2, 二酸化ケイ素)含有率が少ないと(玄武岩質だと)、高温で粘性が低い溶岩となり、水飴状に遠くまで流れて楯状火山を形成します。
一方、マグマのケイ酸含有率が高いと(デイサイト質だと)、低温で粘性が高い溶岩となり、溶岩は火口からあまり動かずに固まり溶岩円頂丘(溶岩ドーム)を形成します。
火山砕屑物
火山噴出物のうち、固形物のものを火山砕屑物(かざんさいせつぶつ、火砕物)といいます。
火山砕屑物には、粉状の火山灰や塊状の噴石(軽石やスコリア等の岩石)など様々な物質が含まれます。
これらの火山砕屑物が火山噴火によって噴出し、火山周囲に降り積もります。
噴火の際には様々な大きさの火山砕屑物が噴出しますが、重さによって届く範囲が異なります。
重量の重い火山礫(かざんれき)は火口近くに堆積し、比較的軽い軽石や火山灰は遠くまで到達して堆積します。
噴火により噴出された火山砕屑物は、火山ガスと一緒に空から降り積もる降下火砕物と斜面を下って堆積する火砕流に分かれます。
溶岩流は液体のみであるのに対し、火砕流は固体の火山砕屑物や気体の火山ガスが流れるという違いがあります。
また、火山活動により山の一部が崩壊して、土砂が流れ落ちる土石流(火山泥流など)もあります。
火山灰
火山噴出物のうち、直径2mm以下の固形物(火山砕屑物)を火山灰といいます。
火山灰は噴火の際に勢いよく吹き出され、噴火の規模が大きい場合は成層圏(上空10-50km)にも達します。
大規模な噴火では、大量の火山灰が吹き上がり上空の広範囲を覆うため、世界規模で日射量(地表に届く太陽光の量)が減少します(日傘効果)。
1815年のタンボラ山(インドネシア中南部・スンバワ島)の噴火では、日傘効果により世界的な気温低下が発生しました。
翌1816年には欧米を中心に大規模な温度低下(世界平均1.7℃、欧米では4℃)が発生しました。
アメリカ北東部では6月まで雪や霜が見られ、ヨーロッパでは5月から10月まで続く長雨で農作物が不作になり、食糧不足が発生しました(夏のない年)。
火山の噴火が発生すると大量の火山灰が空気中に放出されて飛行中の航空機のエンジンを損傷するため、航空機は運航を停止します。
2010年にはアイスランドの火山(エイヤフィヤトラヨークトル)が噴火して大量の火山灰が偏西風に乗って東に流されたことで、ヨーロッパの大部分で航空機の運航が停止しました。
そこまで規模が大きくない噴火でも、火山周辺に住んでいる人々の生活には大きな影響を与えます。
火山灰が降灰すると目や肺に入って健康被害が発生したり、電子回路のショートにより精密機器が壊れたり発火するなどの問題が発生します。
火山灰は水を含むと重くドロドロした泥状になるため、電線に積もった火山灰が雨水を含んで重くなり電線が切れて停電が起きます。
日常的に火山灰が降り積もる地域では、自治体がゴミと同様に火山灰を収集しています(桜島がある鹿児島市など)。
火砕流
火砕流とは、噴火の際に固形物(火山砕屑物)と高温のガス(火山ガス)が入り混じった高温の土石流が山の斜面を下る現象です。
主な成分は軽石や火山灰などです。
火砕流が流れた後には、火山砕屑物が大量に堆積します。
活火山の周囲では度重なる噴火により火砕流の堆積物が積み重なり、火砕流台地とよばれる台地状の地形が形成されます。
火砕流は非常に高速で、時には10km以上も先まで到達するため、大きな被害をもたらす場合があります。
1902年には、西インド諸島の仏領マルティニーク島のプレー山(1,397m)で火砕流が発生し、8km離れた都市(サン・ピエール)を時速100kmで直撃し、当時の人口3万人が全滅しました。
1991年には、雲仙普賢岳(1,483m, 長崎県東部・島原半島)で火砕流が発生し、避難勧告地域に立ち入った報道関係者や地元住民などが火砕流に巻き込まれて43名の死者・行方不明者を出しました。
この火砕流では、観測所や地元市長の度重なる要請にも関わらず報道関係者が避難勧告地域内での撮影を続け、さらに無人となった民家に侵入して電気や電話の無断使用を行ったことが問題となりました(注:当時は携帯電話普及前)。
このため、地元住民で組織された消防団が監視のために区域内に滞在することとなり、多くの消防団員が火砕流に巻き込まれて死傷しました。
火山泥流
火山泥流(かざんでいりゅう、ラハール)とは、大量の火山噴出物が大量の水と混ざって山の斜面を下っていく土石流です。
堆積した火山灰は水を通しにくいため、火山噴火時に火口周辺に大量に水が存在すると、水が地面に浸透せずに土砂を巻き込みながら表面を流れる火山泥流が発生します。
火山泥流の原因となる水の供給源は様々であり、噴火時の豪雨や積雪・氷河、噴火により火口湖が決壊したことなどが挙げられます。
大規模な火山泥流の例としては、1924年の十勝岳(2,077m, 北海道上川地方・十勝地方)の噴火があります。
噴火が残雪が残る5月であったため、積雪を巻き込んだ火山泥流が発生し、北西側の美瑛川と富良野川の川筋を下り、わずか20分で25km先の上富良野(かみふらの)の市街地まで到達しました。
この火山泥流では死者・行方不明者144名という甚大な被害を出しました。
参考文献
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誰も理解していなかった火砕流の恐怖! 図解『雲仙普賢岳 大火砕流』Mount Unzen 1991 eruption pyroclastic flow Krafft, WILDLANDS, Youtubre 2024/11/2閲覧
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