地形 系統地理

氾濫原に広がる微地形(自然堤防・後背湿地など、河川の下流部の地形)

河川の下流部には、氾濫原(はんらんげん)と呼ばれる広大な低地が広がります。
氾濫原では、川の両岸に自然堤防が形成され、その後ろには後背湿地とよばれる水はけが悪い低地が見られます。
ここでは、氾濫原に広がる地形について解説します。

河口にできる地形(三角州)については、以下で取り上げています。

川の下流の地形2(三角州とその分類)

続きを見る

下流部の地形

河川の下流部の地形の例(北海道宗谷地方幌延町/留萌地方天塩町・天塩川下流部)。西側から天塩川下流域を見た模式図であり、左側が北である。川の下流部では、上流から運ばれてきた土砂が堆積した沖積平野が広がる。沖積平野には、川が氾濫した際に運ばれた土砂が堆積した氾濫原が広がる。出典のうちの図の中心部分を抜粋して作成。出典:下流部のようす 国土地理院 2025/8/11閲覧

河川の下流部では、高低差が小さい平坦な場所を流れるため、侵食運搬の作用よりも堆積作用が強くはたらきます。
川の水は少しでも低い場所を流れようとするため、平野では川の流れは蛇行(だこう)し、大雨が降れば洪水を起こし、周囲の低地が冠水します。
このように、洪水の際に川の水があふれて冠水する低地を氾濫原(はんらんげん)とよびます。
氾濫原では、洪水のたびに上流から運ばれてきた土砂が堆積し、川の周囲に沖積平野(ちゅうせき-)とよばれる平坦地が形成されます。
氾濫原と沖積平野はほぼ同じ意味で使われます。

以下では、氾濫原と氾濫原で見られる地形(自然堤防、後背湿地、三日月湖、天井川)について解説します。

上空から撮影した石狩平野の氾濫原(北海道空知地方・新十津川町/滝川市)。石狩平野は石狩川とその支流が氾濫を繰り返して土砂が堆積して形成された沖積平野である。画像は徳富川(左)と石狩川(右)の合流地点である。洪水時に冠水するような場所は河川敷を中心に緑地になっている。河川の両岸には人工堤防が築かれ、堤防の向こう側に住宅地が広がる。奥側には水田が広がり、水はけが悪い低地という氾濫原の特徴に適した土地利用が行われている。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2025/9/9閲覧

氾濫原

洪水で冠水した氾濫原(英国イングランド南部・ワイト島)。河川下流部には、大雨の際にしばしば河川が氾濫して冠水する氾濫原と呼ばれる低地が広がる。氾濫原では、過去の洪水時に上流から運ばれてきた土砂が堆積した沖積平野が広がる。近年では防災目的で河川に人工堤防を建設したり、上流にダムを設置して河川流量をコントロールしているため、実際に氾濫する頻度や冠水する範囲は小さくなっている。出典:Wikimedia Commons, ©Oikos-team, CC BY-SA 3.0, 2025/9/9閲覧

氾濫原(はんらんげん、氾濫平野)とは、洪水時に河川の水があふれて冠水する低地のことです。
洪水のたびに上流から運ばれてきた土砂が氾濫原一帯に堆積するため、表層は河川の堆積物に覆われ、起伏が小さい平坦地です。
氾濫原に河川の堆積物が堆積して形成された平野を沖積平野(ちゅうせき-)とよび、氾濫原とほぼ同じ意味で使われます。
このため、氾濫原と言うと一般的には下流部の沖積平野における氾濫原を指しますが、河川中流部においては谷底平野が(洪水時に冠水するという意味で)氾濫原に相当します。

氾濫原は起伏が小さい平坦地なので、氾濫原を流れる河川は少しでも低い場所へめがけて蛇行(だこう)します。
洪水で流路が変わることもあり、河川の一部が取り残されて湖となった三日月湖(河跡湖)が点在します。
氾濫原の中で見られる地形としては、河川の両岸に沿う小高い丘である自然堤防、自然堤防の外側に広がる水はけが悪い低地である後背湿地が見られます。

岩木川に形成された自然堤防と後背湿地(青森県西部・五所川原市/つがる市)。河川の両岸には人工堤防が築かれ(両岸の緑色の部分)ている。川沿いの集落は水害に比較的強い自然堤防の小高い丘の上に立地しており、水はけの悪い後背湿地は水田として活用されている。出典から抜粋して作成。出典:自然堤防 ©国土地理院 2025/9/9閲覧
岩木川に形成された自然堤防と後背湿地(青森県西部・五所川原市/つがる市)。河川の両岸には人工堤防が築かれ(両岸の緑色の部分)ている。川沿いの集落は水害に比較的強い自然堤防の小高い丘の上に立地しており、水はけの悪い後背湿地は水田として活用されている。出典から抜粋して作成。出典:自然堤防 ©国土地理院 2025/9/9閲覧

以下では、氾濫原に形成される地形として自然堤防、後背湿地、三日月湖(河跡湖)、天井川について順に取り上げます。

自然堤防

会の川(旧利根川)の自然堤防(埼玉県北東部・羽生市)。自然堤防は河川の両岸に沿うように形成された小高い地形である。この自然堤防は高さ約2.5mであり、自然堤防としては比較的大規模なものである。出典:Wikimedia Commons, ©京浜にけ, CC BY-SA 3.0, 2025/9/9閲覧

自然堤防とは、氾濫原を流れる河川に沿うように形成された高さ数十cm~数m程度の小高い堤防上の地形です。
人工的に建設された「人工」堤防に対し、人間の手によらず自然に形成されたことから「自然」堤防と呼ばれます。

大雨による洪水時に河川が氾濫すると、土砂を含んだ大量の水が周囲に広がります。
しかし、洪水の水が河川から離れると、水が拡散して急速に水深が浅くなり、川が土砂を運びきれなくなりその場に堆積していきます。
このため、川のすぐ両側には重い砂礫が堆積し、離れた場所には軽い粘土などが堆積します。
洪水のたびに堆積が繰り返されると、川の両岸にはどんどん砂礫が積みあがっていき、やがて堤防上の地形が形成されます。

自然堤防は、周囲より数メートル高いために水はけがよく、古くから集落として利用されてきました。
氾濫原自体が水害に弱い地形ですが、その中でも標高が低く水がたまりやすい後背湿地と比べ、高台のため水害に比較的強く水はけも良い自然堤防上は集落として利用されてきました。

後背湿地

平成27年9月関東・東北豪雨で鬼怒川が決壊し、浸水した後背湿地(2015年、茨城県南西部・常総市)。堤防が決壊したのは奥を流れる鬼怒川であり、写真右奥の範囲外(上流側)で決壊した。手前側を流れる河川は小貝川であり、川沿いの自然堤防の高台に宅地が立地している。出典:後背湿地 ©国土地理院 2025/9/10閲覧
小貝川の堤防と後背湿地の模式図(2015年、茨城県南西部・常総市)。図に示された後背湿地は周囲を自然堤防の高台に囲まれた低地になっており、水はけが悪く洪水時に浸水しやすく排水が進まない場所である。出典:後背湿地 ©国土地理院 2025/9/10閲覧

後背湿地とは、氾濫原自然堤防の背後にできる水はけが悪い低地のことです。
自然堤防は後背湿地よりも数十cm~数メートル高いため、洪水時に後背湿地が一度浸水すると、水は自然堤防を越えて川に戻ることはできません。
そのため、後背湿地は水はけが悪く、湿地が広がり、沼地が点在します。
水はけが悪い後背湿地は、主に水田として利用されてきました。

現在では、農業用水路や排水設備の整備が進み、後背湿地でも新興住宅地が立地したり、自然堤防上でも水田として利用される例もあります。

信濃川下流域に見られる自然堤防と後背湿地(新潟県新潟市)。左手前から右奥に向かって流れる中ノ口川の両岸には、川沿いの自然堤防上に古くから発達した集落(宅地)が並んでいる。川から離れた場所は水はけが悪い低日である後背湿地となっており、主に水田として利用されている。しかし、近年になると、後背湿地の一部が新興住宅地として開発される場所も出てきた(右手前側の区画)。出典:Wikimedia Commons, ©新潟市, CC BY 2.1, 2025/9/10閲覧
信濃川下流域の地形図(新潟県新潟市)。信濃川の河口直前にあたる場所であり、西側(左手前側)の中ノ口川が信濃川本流(右中央から上側)に合流する場所である。中ノ口川の両岸(金巻、中塩俵など)には宅地が立ち並び、地形図の等高線からは読み取れないものの、この場所が自然堤防の高台であることがわかる。川から離れた場所は後背湿地であり、主に水田として利用されている。右上には住宅地が細長く並んでおり、間が水田になっている場所がある(天野)。この場所は信濃川の旧河道であり、旧河道沿いの自然堤防には現在でも住宅が並んでいるのに対し、旧河道だった場所は水はけが悪いため水田として利用されている。さらに、手前中央側(大通南)では後背湿地の中に新興住宅地が開発されている。出典を加工して作成。出典:地理院地図 ©国土地理院 2025/9/10閲覧

三日月湖

石狩川の支流・雨竜川の三日月湖の航空写真(北海道空知地方・雨竜町)。画像右側を南北に流れるのが雨竜川である。この三日月湖はかつては氾濫原を蛇行する河川の本流であったが、河川改修により直線的な経路になったため、堤防で本流から切り離されて旧河道が河跡湖(元々は河川の一部だった湖)となった。三日月湖周辺は後背湿地に位置するため、水田として利用されている。出典:Wikimedia Commons, ©国土交通省国土画像情報(カラー空中写真) 2025/9/12閲覧
無数の三日月湖(河跡湖)をつくり、蛇行しながら流れる河川(ロシア中北部のヤマロ・ネネツ自治管区・ヤマル半島)。河川下流部の氾濫原(沖積平野)では、洪水の際に流路が変わり、流れから切り離された三日月状の元河川の湖(三日月湖、河跡湖の一種)が見られる。河川改修などを行っていない自然に形成された三日月湖である。出典:Wikimedia Commons, ©katorisi, CC BY-SA 3.0, 2025/9/11閲覧

三日月湖(みかづきこ)とは、氾濫原で蛇行した河川が洪水などで流れが変わり、元の河道が本流と切り離されて形成された三日月状の湖です。
三日月湖は河跡湖(かせきこ、昔は河川の一部であった湖)の一種です。

沖積平野は平坦なため、川は少しでも低い所を目指して氾濫原を蛇行しながら流れます。
しかし、ひとたび洪水がおきると、水の勢いでカーブを突き破って川の流れを短絡(ショートカット)し、新しくできたショートカットの方が本流になることがあります。
遠回りしていた元の河道は、もはや上流から水が流れてこなくなり、川の本流との境目には土砂が堆積して本流と切り離されてしまいます。
このようにして、川から切り離されて湖と化した旧河道を河跡湖といいます。

河跡湖の中で三日月状の形をしているものを三日月湖といいます。
河跡湖の多くは三日月状の形をしているため、三日月湖は河跡湖と同じものとして扱われることもあります。

三日月湖は、石狩川(北海道)やミシシッピ川(米国中央部)など大河川が流れる平野に多く形成されます。
石狩川が流れる石狩平野では、治水(水害防止)のために蛇行した河川を直線状に改修してきたため、直線状に流れる河川(本流)と人工堤防で切り離された三日月湖(旧河道)が多数見られます。

南北に流れる石狩川と堤防で切り離された三日月湖である雁里沼(北海道空知地方・月形町/岩見沢市)。氾濫原を蛇行する河川の一部が本流から切り離されて形成された湖を三日月湖(河跡湖の一種)と呼ぶ。石狩川が流れる石狩平野では、治水(水害防止)目的で河川改修が行われてきた。このため、人工堤防で切り離された三日月湖が多数存在し、直線的に流れる河川や用水路が多数見られる。この場所では石狩川が市町村の境界となっている(左が月形町、右が岩見沢市北村)が、河川改修前の旧河道に沿って境界が引かれている。このため、新河道(石狩川本流)と旧河道(三日月湖である雁里沼)に挟まれた月形町雁里地区が事実上の飛び地となっており、岩見沢市を経由しないと月形町の他地域にたどり着けない。出典を加工して作成。出典:地理院地図 ©国土地理院 2025/9/12閲覧

天井川

天井川が形成されるしくみ。①洪水を防ぐために川の両側に堤防を作ることで洪水を防ぐことができる。②しかし、上流から運ばれてきたた土砂が周囲にあふれないため、川底に集中的に堆積してしまい、川底が高くなる。川底が高くなると川底からの堤防の高さ低下するため、洪水が起きやすくなる。③このため、堤防を高くすることで洪水を防ぐ。④川底への土砂の堆積と堤防のかさ上げを繰り返すことで、⑤川底の高さが周囲の平地よりも高い位置を流れる天井川となる。⑥天井川はひとたび洪水がおきると、川の水が低い陸地側に流れてしまい、浸水が長引くため、洪水の被害が大きくなる。出典:~天井川と洪水1~ ©大阪府柏原市 2025/9/12閲覧

天井川とは、川底が周囲の平地よりも高い位置にある河川のことをいいます。

氾濫原ではたびたび洪水が発生するため、水害を防ぐために河川の両側に堤防を建設すると、川から周囲に土砂が流れなくなります。
行き場を失った土砂は堤防の内側に堆積するようになり、河床(かしょう、川底)が高くなります。
すると、今までの高さの堤防では氾濫を防げなくなり、さらに堤防を高くすると河床はさらに高くなるという悪循環が生まれます。
このようにして周囲の土地よりも河床が高くなった河川を天井川といいます。

天井川が氾濫をおこすと、川の水が低い陸地側に流れてしまうため、浸水が長引き被害が大きくなります。
そのため、近年日本では河川の拡幅や付け替えなどの改修を進めています。

日本の天井川の約半数は関西地方に集中し、全体の3分の1は滋賀県に集中しています。

天井川となった旧草津川とその下をトンネルでくぐり抜ける鉄道路線(滋賀県南西部・草津市)。草津川は地表より高い場所を流れているため、東海道本線(JR琵琶湖線)は橋ではなくトンネルでくぐり抜ける構造になっていた。2002年に草津川の流路の付替えが行われたため現在は水は流れておらず、草津川跡地公園として整備されている。出典:Wikimedia Commons, ©Haruno Akiha, CC BY-SA 3.0, 2025/9/12閲覧

参考文献

川の地形とは 国土地理院 2025/8/11閲覧
山から海へ川がつくる地形 国土地理院 2025/8/11閲覧
氾濫原(ハンランゲン)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/9/8閲覧
沖積平野(チュウセキヘイヤ)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/9/8閲覧
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
石狩平野(イシカリヘイヤ)とは? コトバンク 精選版 日本国語大辞典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/9/9閲覧
自然堤防(シゼンテイボウ)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/9/9閲覧
後背湿地(コウハイシッチ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/9/11閲覧
三日月湖(ミカヅキコ)とは? コトバンク 百科事典マイペディア、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/9/12閲覧
河跡湖(カセキコ)とは?  コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/9/12閲覧
~天井川と洪水1~ 大阪府柏原市 2025/9/12閲覧
天井川(テンジョウガワ)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、百科事典マイペディア、日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/9/12閲覧
天井川 ウィキペディア 2025/9/12閲覧
危険な「天井川」 全国に240 (2014年9月16日) NHK NEWS WEB 2014年9月16日時点のオリジナルよりアーカイブ 2025/9/13閲覧

-地形, 系統地理
-, , ,