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リモートセンシングのしくみと活用(スマートアグリなど)

上空から地表の状態を撮影・観測する技術をリモートセンシング(遠隔探査)といいます。
人工衛星やドローン技術の発達により、リモートセンシングを活用して地表の状況を効率的・網羅的に把握できるようになりました。
このページでは、リモートセンシングとその活用事例(スマート農業)について紹介します。

リモートセンシング

リモートセンシングによって得られたデータをに基づき地表の色を再現した画像(米国ハワイ州南東部・ハワイ島)。人工衛星「ランドサット7号」がリモートセンシングにより地表の状態を観測した結果に基づいて地表の色を再現した図である。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/4/27閲覧

リモートセンシング(遠隔探査)とは、人工衛星や航空機などで上空から地上の土地や地形の状態を測定する技術のことです。
リモート(remote)は英語で遠隔、センシング(sensing)は英語で感知・計測を意味します。
三角測量など従来の測量では地表の地点間で距離や角度を測定するのに対し、リモートセンシングでは上空で地表から反射した電磁波(可視光や赤外線など)を観測することで地表の状況を把握します。
観測する電磁波としては、太陽光が地表に当たって反射した波を検知したり、地表から放射される電磁波を検知します。
航空写真や衛星画像の撮影もリモートセンシングの一種です。
写真撮影では太陽光が地表に当たって反射した可視光(人間が目で見える電磁波)を検出しているためです。
近年では人工衛星や航空機に限らず、ドローン(無人航空機)を飛ばして数m上空から農地の状態を測定するといったことも行われています。

リモートセンシングは様々な分野で利用されています。
上空から撮影した画像を利用する例としては、土地利用状況の確認(例:森林面積を測定して森林破壊の状況を監視)や気象観測(例:天気予報における衛星画像)などがあります。
災害発生時に航空機を飛ばして上空から写真撮影を行い、被災地の被害状況の把握に役立てることもあります(例:令和6年能登半島地震被災状況マップ(国際航業株式会社))。
人間が目で見えない電磁波を観測する例としては、火山活動の監視(例:赤外線センサーによる火口温度の測定)があります。
ドローンを活用した例としては、農地の状態の管理(例:撮影画像や赤外線センサーによる生育状況把握と収穫量推定)があります。

以上のように、リモートセンシングを行うことで地表の状態を大規模に調べたり、地表では観測が難しい情報を効率的に取得することができます。
発展途上国では日本とは異なり、地形図などの国土情報を十分に調べられていない国も多くあります。
そのため、リモートセンシングによる衛星画像は、森林破壊や砂漠化などの状況把握のための貴重な情報として活用されています。

リモートセンシングのしくみ

電磁波の種類と波長域ごとに得られる地球観測データの例。人工衛星や航空機などで地表から放射された電磁波(太陽光の反射波なども含む)を検知して地表の状態に関する情報を取得する。電磁波は波長によって物質の透過性や散乱しやすさが変わるため、波長ごとに得られる情報が異なる。出典:リモートセンシングと放射伝達 ©宇宙航空研究開発機構(JAXA) 2024/4/27閲覧

リモートセンシングでは、地表から放射された電磁波を検知することで地表の状態を測定します。
目的に応じて電磁波の種類(可視光や赤外線など)や観測手段(人工衛星やドローンなど)が選択されます。

検出する電磁波の種類によって得られる情報の種類が決まります(上の画像を参照)。
たとえば、宇宙から人工衛星でリモートセンシングを行う場合、紫外線を検出することでオゾン層の状態(オゾンホールが発生していないか)に関する情報が得られます。
赤外線を検出する場合では、その波長(近赤外線・遠赤外線など)に応じて土地の表面の状態(森林/市街地/荒れ地等)や地表面/海面温度、水蒸気量などがわかります。
可視光の波長を検出する場合は普通の写真撮影であり、人間の目で見える地表の状態を確認できます(衛星画像や航空写真の撮影)。
このようにリモートセンシングでは必要な情報に合った波長の電磁波を検出することで地表の状態を調べます。

観測手段によって得られる情報の性質が変わります。
人工衛星によるリモートセンシングでは、広範囲を効率的に観測・撮影できる一方で、遠く離れた上空からの観測なので細かい違いがわからない粗いデータしか得られません。
また、雨や曇りの場合は観測できなかったり、散乱・反射によるノイズが入ります。
観測頻度の観点では、人工衛星は常に周回しているため、定期的に同じ場所の観測・撮影データを取得することができます。

一方、航空機やドローンによるリモートセンシングでは、狭い範囲しか観測・撮影できない変わりに、近距離からの観測なので細かい違いを識別できるデータを取得できます。
人工衛星よりも雨や雲の影響も受けづらく、ノイズの影響も比較的少ないです。
しかし、航空機やドローンの場合は観測・撮影データが必要な場合は都度航空機やドローンを飛ばす必要があります。
航空機とドローンを比較すると、ドローンの方が地表により近い分、ノイズの影響が少なく地表の情報を詳細に集めることができる一方、広範囲のリモートセンシングを行う際は時間がかかります。

以上のような違いがあるため、リモートセンシングの目的に応じて観測手段と観測する電磁波の種類を選択して必要なデータを取得します。

農業における活用(スマートアグリ)

NASAの航空機から撮影されたリモートセンシングによる農地の画像(アリゾナ大学マリコパ農業センター、米国南西部アリゾナ州)。一番上の画像は植生密度に基づいて色分けされており、濃青色や緑色は緑豊かな植生を示し、赤はむき出しの土壌を示す。中央の画像は水分量を表し、緑と青は湿った土壌を示し、赤は乾燥した土壌を示す。下の画像は作物の水不足ストレス度合いを表しており、赤色や黄色は作物が水不足に陥っていることを示す。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2022/12/24閲覧

リモートセンシングの農業での活用事例の一つとして、スマート農業(スマートアグリ)があります。
スマート農業とは、ICT(情報通信技術)などの先端技術を活用して農業の省力化を進めて少人数で効率的に高品質な農産物を生産する農業です。
このスマート農業の取り組みの一つとしてリモートセンシングが行われています。

具体的には、ドローンなどから撮影した画像を取得し、得られた画像から土壌や作物の状態を分析して農地管理に活用します。
リモートセンシングを行うことで、人手をかけないで広大な農地の状況を把握でき、何らかの対応が必要な箇所を迅速に発見したり収穫量を予測することができます。
このような取り組みを通して農業を省力化してより少人数で農業を行い、さらに収集したデータを分析して農産物の収穫量や品質を向上を目指しています。

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参考文献

リモートセンシングと放射伝達 宇宙航空研究開発機構(JAXA)第一宇宙技術部門 Earth-graphy 2024/4/27閲覧
リモート・センシング(りもーとせんしんぐ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2024/5/2閲覧
令和6年能登半島地震被災状況マップ 国際航業株式会社 2024/5/6閲覧
浦井 稔「衛星リモートセンシングによる火山活動評価」産総研地質調査総合センター第9回シンポジウム p23-28 (2007)
株式会社天地人「【空中からの情報革命】衛星 vs 航空機 vs ドローン リモートセンシングの比較と応用」 note 2024/5/2閲覧
地球情報学 ウィキペディア 2024/4/25閲覧
山下直樹「スマート農業の実現に向けて 」電気設備学会誌 36(10) 691-694 (2016)
スマート農業の展開について 農林水産省 2022/12/24閲覧
Precision agriculture, Wikipedia 2022/12/24閲覧

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