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GISと地理空間情報の活用(位置情報・WebGIS・ビッグデータ)

スマートフォンの地図アプリや天気予報など、様々な情報を地図上に重ね合わせて表示するサービスが普及しています。
このようなしくみを地理情報システム(GIS)といい、現代の生活には欠かせない存在です。
このページでは、地理空間情報とGISの活用事例、WebGISについて説明します。

地理空間情報の活用とGIS

ホテル「碧き島の宿 熊野別邸 中の島」の露天風呂「紀州潮聞之湯」(和歌山県南東部・東牟婁郡那智勝浦町・中ノ島)。この写真は何も付加情報(メタデータ)がなければ地理空間情報ではないが、「那智勝浦」や「中ノ島」という地名を与えることで地理空間情報としての価値が生じる。さらに、スマートフォンでこのような写真を撮影する際に、位置情報を付与すること(ジオタグ)で、地理空間情報としての活用しやすさ(有用性)がより高くなる。一方、位置情報は個人のプライバシーの観点から取り扱いに注意が必要な情報でもある。自宅で撮影した写真を位置情報(ジオタグ)がついたままインターネット上に公開すると、個人情報を意図せず公開してしまうことになる。出典:Wikimedia Commons, ©Chris 73, CC BY-SA 3.0, 2024/4/25閲覧

地名や住所、経緯度など人や物の位置に関する情報を位置情報といいます。
位置情報は通常、緯度と経度を組み合わせた座標として表現されます。
現代では、人工衛星(測位衛星)を活用したGNSS(GPSなど)のしくみによって、現在位置を正確に特定することができます。

このような位置情報に何らかの関連情報がひもづけられたものを地理空間情報(地理情報)といいます。
たとえば、地図上のある地点の経緯度そのものはただの位置情報ですが、その場所で撮影された写真に経緯度を付加情報(メタデータ)として与えることで地理空間情報になります。
他にも、住所(位置情報)に住人の氏名(付加情報)を加えると地理空間情報になります。
また、地図上に描かれた1本の線(位置情報)もそれがJR中央線(鉄道路線)であるという説明(付加情報)があれば地理空間情報になります。
地理空間情報は膨大な量のデータが収集され、人間の目で1つ1つ見るのでは全容を把握できないほど量が多いビッグデータとなっています。

地理情報システム(GIS)

GISにおける地理情報の重ね合わせの例。GIS(地理情報システム)では、ベースとなる地図の上に様々な情報を重ね合わせて視覚的にわかりやすい形で表示する。重ね合わせをする1つ1つの情報の層をレイヤという。この例では、行政の災害対策に必要な情報を載せたレイヤを地図上に重ね合わせることで、災害対策に必要な情報をわかりやすく表示している。このようなGISを活用することで災害対策に必要な意思決定に役立てている。出典:「GIS」とは GIS HP ©国土交通省 2024/4/26閲覧

コンピュータを活用して膨大な地理空間情報のデータを加工・分析・可視化するしくみや技術を地理情報システムGIS, Geographic Information System)といいます。
GISでは、コンピュータ上に表示した地図に様々な情報を重ね合わせて表示することで、情報をわかりやすく伝えます。

重ね合わせをする1つ1つの情報の層をレイヤといいます。
GISでは、様々な情報の種類ごとにレイヤとして保持し、見たい情報のレイヤだけを重ね合わせて表示します。
このようなデータの持ち方をすることで、必要最低限の情報のみを表示し、情報が多すぎて見たい情報がわかりづらくなることを防いでいます。
上の図の例では、行政の災害対策に必要な情報を載せたレイヤを地図上に重ね合わせることで、災害対策に必要な情報をわかりやすく表示しています。

GISは生活に深く根ざしたしくみであり、身近なところではスマートフォンの地図アプリ(Google Mapなど)もGISの一種です。
Google Map上では、お店をクリック(タップ)すると営業時間や口コミなどの情報が表示され、位置情報と関連する情報がわかりやすく結びついています。
さらに、地図上で経路検索をして次に来る電車の時刻を表示したり、距離を測定するなど様々な機能を提供するGISです。

GISは様々なサービスで使われていますが、地図作成とは無関係な民間企業が一から地図を作成するのは現実的ではありません。
そこで、ベースとなる地図の上に自社の情報を重ね合わせて必要なサービスを提供しています。
Google Mapなどの他社サービスの地図も使われますが、商用利用が有料であったり、サービスの自由度に制約が出ることがあります。
そのような場合には、公的機関である国土地理院が作成した電子国土基本図地理院地図など)を使用したり、自由度が高いライセンス(規約)で使用できるオープンストリートマップ(OpenStreetMap, OSM)が使用されることもあります。

地理院地図:https://maps.gsi.go.jp/
OpenStreetMap:https://www.openstreetmap.org/

参考

地理空間活用推進基本法
地理空間情報活用推進基本法は、地理空間情報の活用を推進するために、GISと測位衛星システムを連携・活用するための基本方針や役割分担を定めた法律です。

以前は官公庁や地方自治体がばらばらに地理空間情報を所有し、独自のGISを構築していたため、効率が悪く相互利用もできませんでした。
そのような中、1995年に阪神・淡路大震災が発生しましたが、各組織がもつデータの相互利用ができず、被災状況の把握や救援活動支援をすばやく行うことができませんでした。
そこで、各官公庁や地方自治体がもつ地理空間情報の相互利用ができるGISを構築するという施策を進めるために、基本方針や役割分担などを定めた地理空間情報活用推進基本法が2008年に制定されました。

地理空間情報活用推進基本法では、GISと測位衛星システム(GPSなど)の連携をかかげ、より正確な位置情報を取得し、様々な官公庁がもつ地理空間情報と合わせて統合的なGISで活用することを目指しています。
測位衛星システムに関しては、測位衛星を高めるために既存のGPSに加えて新たに準天頂衛星「みちびき」を打ち上げて運用を開始しています(2010年に初号機打ち上げ)。
GISに関しては、災害現場の様子を無人航空機(ドローン)で上空から撮影して救援活動に役立てたり、農業においてはトラクターやドローンを遠隔操作でコントロールして作業時間短縮につながっています(スマートアグリ)。

ビッグデータの活用とGIS

コレラの感染者の分布を示した疫学地図(1855年、英国イングランド・ロンドン)。イギリスの医師であるジョン・スノウは、1854年のコレラの大流行において、感染者の住所を地図上に落とし込むことでクラスターの発生を示した。この結果から、感染源として汚染された井戸を特定し、コレラ流行の収束につながった。この疫学調査は最も早い時期に行われた地理空間情報の分析事例である。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/4/25閲覧

地理空間情報は単に地図上に表示するだけではなく、集めたデータを分析して様々な意思決定に使用されます。

地理空間情報を活用した最も早い事例として、1854年のコレラ流行の疫学調査があります。
スノウ(John Snow, 1813-1858)は、感染者の分布を地図上にプロットしました。
この地図を元に汚染された水源(井戸)を特定し、コレラの流行の収束につなげました。
これは、最も早い疫学調査の事例であるとともに、地理空間情報を活用した分析でもあります。
当時はコンピュータが存在しなかったため全て手作業で行われていましたが、現代ではGISを活用してより大規模なデータを簡単に集計・可視化・分析を行うことができるようになっています。

登山道の位置の修正例(長野県中信地方・安曇野市)。飛騨山脈南東部・上高地エリアの蝶ヶ岳(2,677m)東側の登山道である三股ルートは、以前は黒破線のルートが地形図(地理院地図)に記載されていた。しかし、GPSによる登山者の大量の位置情報をプロットすると緑色のような分布になった。そこで、現実に合わせるために赤紫色の経路に変更した(2018年3月)。これはGNSS(GPS)により収集されたビッグデータをGISで可視化・分析した活用事例である。出典:大塚 孝治「ビッグデータを活用した登山道修正の取組」 ©国土地理院 2024/4/27閲覧

現代では、GNSS(GPSなど)により収集された大量のデータ(ビッグデータ)を活用して、行政や企業の意思決定に使われています。
上の画像は、国土地理院が発行している地形図(地理院地図)に表示されていた登山道(上図・黒破線)と実際の登山者の位置情報(緑色の点)を重ね合わせたものです。
黒破線の登山道が登山者が実際に歩いている位置とずれており、現実に即していないことがわかります。
そこで、国土地理院は2018年3月に地理院地図を改定し、現況に合わせて赤紫色のルートに修正しました。
このように、GNSSを活用して収集されたビッグデータをGISで可視化・分析することで、今まで気づかなかったような有益な情報を得ることができ、企業や行政サービスの向上につなげることができます。

WebGISと地理空間情報の利用

インターネットを通して利用できるGISをWebGISといいます。
特定のソフトウェアをパソコンにインストールして使用する従来型のGISに対し、WebGISはインターネットを通して様々なデバイス(PC、スマートフォン等)から利用できます。
WebGISの例を以下にまとめます。

表 代表的なWebGISサービス(リンク先は各サービス)

名称 運営者 特徴
Googleマップ Google Inc. 一般消費者向け地図閲覧サービス
地理院地図 国土地理院 地形図の閲覧サービス
RESAS(地域経済分析システム) 経済産業省・内閣府 人口などの統計データと産業や消費に関わる様々な統計データを地図に重ね合わせられるサービス
地図で見る統計(jSTAT MAP) 総務省 統計局 政府統計データを利用したWebGISサービス

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参考文献

位置情報(イチジョウホウ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2024/4/25閲覧
地理空間情報 ウィキペディア 2024/4/25閲覧
柴崎 亮介 監修「地理空間情報活用推進基本法入門」日本加除出版(2008)
地理空間情報 宇宙航空研究開発機構(JAXA)第一宇宙技術部門 Earth-graphy 2024/4/25閲覧
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
「GIS」とは 国土交通省 国土政策局 国土情報課 GIS HP 2024/4/26閲覧
Geographic information system, Wikipedia 2024/4/25閲覧
GIS (地理情報システム)とは ESRIジャパン 2024/4/25閲覧
GISとは?メリットや活用例をわかりやすく解説 株式会社ゼンリン 2024/4/25閲覧
地理空間情報活用推進基本法・基本計画とは 国土地理院 2024/4/25閲覧
地理空間情報活用推進基本法 ウィキペディア 2024/4/26閲覧
橋本雄一 編「地理空間情報の基本と活用」古今書院 (2009)
地理空間情報活用推進基本法(NSDI法)の概要 国土交通省 2024/4/26閲覧
丸田 哲也 他 「地理空間情報」の流通促進のあり方 地理空間情報活用推進基本法の成立を受けて 知的資産創造 8, p40-53 (2009)
地理空間情報活用推進基本計画(令和4年3月18日) 内閣官房 2024/4/26閲覧
大塚 孝治「ビッグデータを活用した登山道修正の取組」 国土地理院 2024/4/27閲覧
地球情報学 ウィキペディア 2024/4/25閲覧

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