海洋上の狭まる境界(収束境界)である沈み込み帯付近では、津波を伴う海溝型地震が繰り返し発生してきました。
海溝型地震はマグニチュードが大きい地震が発生する上に、海面下を震源とするため津波が発生して甚大な被害が発生しやすい地震です。
このページでは、海溝型地震について解説した上で、繰り返し発生する海溝型地震として、三陸沖地震、関東地震(相模トラフ巨大地震)、東海地震・東南海地震・南海地震(南海トラフ巨大地震)について紹介します。
海溝型地震とは
海溝型地震とは、沈み込み帯のプレート境界(厳密には境界の大陸側)を震源とする地震です。
沈み込み帯では、高密度で重い海洋プレートの下に低密度で軽い大陸プレートが沈み込んでいきます。
この際にプレート同士に摩擦が発生し、ひずみが蓄積していきます。
ひずみが限界に達すると、プレートがずれ動いてひずみが一気に解消され、同時に地震が発生します。
このようなメカニズムの地震は、沈み込み帯の地形である海溝(かいこう)やトラフ(浅い海溝)付近(厳密には海溝のすぐ大陸側が震源)で発生するため、海溝型地震とよばれます。
海溝型地震は海溝やトラフを震源とするため、陸地と震源の距離がある場合も多いです。
しかし、あくまでプレート境界の沈み込み帯で発生する地震であるため、陸地に近い場所でも発生することがあります(例:1923年の大正関東地震(Mj 7.9)は相模湾(さがみわん、神奈川県南沖)が震源)。
海溝型地震はマグニチュードが大きい地震も発生しやすく、海底地形を変形させるため津波が発生することもあります。
このため、震源から離れた地域であっても地震・津波による被害を受けやすいという特徴があります。
1960年のチリ地震(Mw 9.5)では、南米のチリ沖で発生した津波が22時間かけて太平洋を横断し、日本沿岸でも津波の被害が発生しました。
海溝型地震は、沈み込み帯が集中する環太平洋造山帯で多く発生します。
海溝型地震の例としては、2011年の東北地方太平洋沖地震(日本海溝で発生、震災は東日本大震災)、1923年の関東地震(相模トラフ、関東大震災)、1960年のチリ地震(ペルー・チリ海溝(アタカマ海溝)、チリ地震津波が発生)、2004年のスマトラ沖地震(スンダ海溝、インド洋大津波が発生)などがあります。
日本周辺の海溝型地震
日本は環太平洋造山帯上に位置するため、沈み込み帯(上図の海溝やトラフ)で海溝型地震が多発します。
具体的な場所としては、北海道南東沖の千島海溝、東北地方東沖の日本海溝、関東地方南沖の相模トラフ、静岡~四国沖の南海トラフなどがあります。
これらのプレート境界では歴史的に大規模な海溝型地震がたびたび発生し、地震のゆれや津波によりで大きな被害が発生してきました。
以下では、代表的な海溝型地震として、三陸沖地震、関東地震(相模トラフ巨大地震)、東海地震・東南海地震・南海地震(南海トラフ巨大地震)について解説します。
三陸沖地震
三陸沖地震は、東北地方の三陸海岸(青森南東部~宮城北東部)の沖合を震源域とする海溝型地震です。
三陸海岸の沖合には日本海溝が南北に伸びており、日本海溝に沿うように震源域が広がります。
このため、三陸沖では昔から大規模な海溝型地震が度々発生してきました。
震源が海の下にあるため津波が発生する場合が多く、さらに三陸海岸がリアス海岸(リアス式海岸)なので津波の被害が大きくなりやすいという特徴があります。
三陸沖を震源とする地震の例としては、1896年の明治三陸地震(Mj 8.2-8.5)、1933年の昭和三陸地震(Mj 8.1)、2011年の東北地方太平洋沖地震(Mj 8.4, Mw 9.1)などがあります。
これらの地震では、いずれも数十mの津波が三陸海岸沿岸を襲い、沿岸部で甚大な被害が発生しました。
関東地震(相模トラフ巨大地震)
関東地震は、相模トラフの北側(関東南部の神奈川~房総半島)を震源域とする巨大地震です。
相模トラフは、南側のフィリピン海プレートが北側の北アメリカプレートの下に沈み込む場所です。
相模トラフは、神奈川県の相模湾沖の陸地に近い部分に位置しているため、関東地震は海溝型地震としては非常に陸地に近い場所を震源としています。
1923年の大正関東地震(Mj 7.9, いわゆる関東地震)では、沿岸部を津波が襲い、さらに震源が東京に近いため地震のゆれでも大きな被害が発生しました(関東大震災)。
関東大震災は日本史上最悪の自然災害ですが、特に火災での死者が目立ちます。
これは、地震が午前11時58分という昼前に発生したため昼食の準備に火を使っている人が多く、東京では火災により甚大な被害が発生したことも影響しています。
全体の死者・行方不明者10万5千人のうち、9万2千人が火災で亡くなり、1万1千人が家屋倒壊により死亡し、それ以外は2千人でした。
東海・東南海・南海地震(南海トラフ巨大地震)
静岡の南沖から宮崎の南東沖にかけて伸びる南海トラフでは、歴史的に巨大地震を繰り返してきました。
南海トラフ沿いで周期的に発生してきた巨大地震を南海トラフ巨大地震といいます。
南海トラフ巨大地震は震源のエリアによって東海地震(静岡沖)、東南海地震(愛知~三重沖)、南海地震(和歌山~四国沖)と命名されてきました。
これらの地震は単独で発生することもあれば、複数の地震が連動して(同時または時間差で)発生することもあります。
過去の南海トラフ巨大地震は、おおむね100-200年周期で発生してきました。
直近では、1854年の安政東海地震と安政南海地震(ともにM 8.4)、1944年の昭和東南海地震(Mj 7.9)と1946年の昭和南海地震(Mj 8.0)のように周期的に連動して海溝型地震が発生してきました。
このため、将来的な南海トラフ巨大地震の発生に備えて、政府や自治体による対策検討が進められています。
参考
行政施設の高台移転
町が津波に襲われた際に町役場や消防本部などの行政施設が被災してしまうと、その後の被災者支援や復興に多大な支障が出てしまいます。
このため、津波による被災リスクが高い地域では、行政施設の高台移転などの対策が進められています。
たとえば、串本町(和歌山県南部)では、町役場や消防本部などのインフラの高台移転を進めています。
串本市街は両側が太平洋に面する陸繋砂州(トンボロ、陸繋島は潮岬)に位置するため、想定される南海トラフ巨大地震(南海地震や東南海地震など)の際には巨大津波に襲われるリスクがあります。
そこで、公共施設を高台に移設することで津波の際にも機能を維持するとともに、避難所としての活用が見込まれます。
同様の事例は、過去に津波の被害を受けた他の地域でも見られます。
2011年の東北地方太平洋沖地震で甚大な被害を受けた三陸海岸沿岸部や1960年のチリ地震津波で市街地が広がる陸繋砂州の両側から津波が襲った浜中町(北海道釧路地方)などで公共施設の高台移転が進められています。
参考文献
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
プレートテクトニクスとは、地球の様々な変動の 原動力を 地震調査研究推進本部 2024/12/7閲覧
海溝型地震 地震調査研究推進本部 2024/12/7閲覧
三陸沖地震(サンリクオキジシン)とは? コトバンク デジタル大辞泉、百科事典マイペディア、日本大百科全書(ニッポニカ)、改訂新版 世界大百科事典 2024/12/12閲覧
相模トラフ巨大地震とは?過去の記録やこれからの可能性を知っておこう 株式会社トキワシステム 2024/12/7閲覧
「関東大震災100年」 特設ページ 内閣府防災情報 2024/12/15閲覧
武村 雅之「過去の災害に学ぶ(第13回)1923(大正12)年関東大震災‐揺れと津波による被害」広報ぼうさい 第13回 p20-21
南海トラフ地震で想定される震度や津波の高さ 気象庁 2024/12/7閲覧
南海トラフで発生する地震 地震調査研究推進本部 2024/12/7閲覧
南海トラフ地震対策 内閣府防災情報 2024/12/7閲覧
串本町国土強靭化地域計画 串本町 2024/12/15閲覧
南三陸町庁舎が高台へ移転 津波で被災、職員犠牲に 日本経済新聞 2024/12/17閲覧
浜中町役場新庁舎完成までの経過 浜中町 2024/12/17閲覧
霧多布島(きりたつぷとう)とは? コトバンク 日本歴史地名大系 2024/12/17閲覧
チリ地震津波: 海を渡った津波と支援 | 歴史 ライオン誌日本語版 2024/12/17閲覧