地形 系統地理

沈み込み帯(狭まる境界)の地形(海溝・トラフ・弧状列島など)

海洋上の狭まる境界(収束境界)では、重い海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込む沈み込み帯が見られます。
このページでは、沈み込み帯周辺で見られる地形(海溝、トラフ、弧状列島(島弧)、火山弧、火山フロント(火山前線))について解説します。

なお、沈み込み帯自体に関する解説は以下のページで解説しています。

参考沈み込み帯:海洋上の狭まる境界(収束境界)

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沈み込み帯の地形

狭まる境界(収束境界)の沈み込み帯付近の模式図。沈み込み帯は2つのプレートがぶつかりあう場所であり、高密度で重い海洋プレート(左)が低密度で軽い大陸プレートの下に潜り込む場所である。プレートの境目では、プレートの間に細長い溝状のくぼみができる(海溝)。地球内部に向かって潜り込んだ海洋プレートは、高温高圧環境下で融解してマグマになり、マグマの一部は絞り出されるように地上に噴出する(活火山)。この図では、沈み込み帯が大陸のすぐ沖合に位置するため、活火山は大陸上に位置している。そのため、活火山がプレート境界(海溝)と並行して点在し、それらの活火山が噴火を繰り返して巨大山脈が形成される。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/8/24閲覧

海洋上の狭まる境界(収束境界)では、海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込む沈み込み帯が見られます。
以下では、沈み込み帯周辺で見られる地形として、海溝、トラフ、弧状列島(島弧)、火山弧、火山フロント(火山前線)について順に解説します。

海溝

千島列島付近の海底地形図。北東のカムチャツカ半島から千島列島、北海道の南東沖にかけて、半島や列島に沿うように水深が深い場所が存在する(濃青色~黒色部分)。この場所を千島海溝(千島・カムチャツカ海溝)とよび、北西のユーラシアプレートの下に南東の太平洋プレートが沈み込む狭まる境界(収束境界)である。このプレート境界の大陸側(北西側)に形成された弧状列島(島弧)が千島列島であり、多数の活火山(火山島)が分布している。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/8/24閲覧

海溝(かいこう)とは、海底に見られる細長い溝状のくぼみの地形です。
最大水深が6,000m以上のものを海溝といい、それより浅いものをトラフとよびます。

海溝は主に狭まる境界(収束境界)のプレート境界(沈み込み帯)に分布しています。
沈み込み帯のプレート境界では、片方のプレートが地球内部に向かって沈み込むため、2つのプレートの間に海溝が形成されます。

海溝は海洋の中でも特に深い場所であり、世界で最も水深が深い場所はマリアナ海溝のチャレンジャー海淵(かいえん、最大水深 10,920m)です。
マリアナ海溝はフィリピン海プレートと太平洋プレートの狭まる境界に位置し、高密度で重い太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に潜り込む場所(沈み込み帯)です。

海溝は海洋上の狭まる境界に広く分布しています。
特に海溝が多いのは太平洋の外縁部であり、環太平洋造山帯に並行するように海側(太平洋側)に海溝が分布しています。
例として、ペルー・チリ海溝(南米大陸西沖)、アリューシャン海溝(米国アラスカ州・アリューシャン列島南沖)、日本海溝(北海道南東沖~関東の東沖)、マリアナ海溝(米領北マリアナ諸島東沖~グアム南東沖)、トンガ海溝(オセアニア・トンガ諸島東沖)などがあります。

ただし、場所によってはプレート境界のくぼみの水深が浅いためトラフ(次項参照)になっている場所があります。
例として、北側のユーラシアプレートと南側のフィリピン海プレートの狭まる境界である南海トラフ(静岡沖~四国沖)があります。

海溝は狭まる境界のプレート境界に位置するため、2つのプレートが互いにぶつかり合うことで強いひずみが発生しており、大規模な地震が発生しやすい場所です。
海溝の下では重い海洋プレートがもう片方のプレートの下に潜り込んでおり、その境界付近を震源とする地震を海溝型地震とよびます。
海溝型地震は海底を震源とする地震であるため、地震による揺れだけではなく津波による被害も発生します。

トラフ

フィリピン海プレート周辺の海底地形図。フィリピン海プレートは狭まる境界に囲まれており、多数の海溝を形成しており(水深が深い紫色部分)、その西側(大陸)には弧状列島(島弧)が見られる(水深が浅い緑~赤色部分、小規模離島は小さすぎてこの縮尺では見えない)。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©NOAA Photo Library, CC BY 2.0, 2024/8/18閲覧

トラフとは、海底に見られる細長い溝状のくぼみの地形です。
最大水深が6,000m未満のものをトラフといい、6,000m以上のものを海溝とよびます。
トラフは比較的浅い溝状の地形であるため様々な場所に分布しています。

狭まる境界のプレート境界にはトラフよりも深い海溝が見られますが、水深がそこまで深くないためにトラフに分類されている場所もあります(沈み込み帯)。
このような場所では、海溝と同様に津波を伴う海溝型地震が発生しやすいです。

たとえば、日本の静岡沖~四国沖に位置する南海トラフは、北側のユーラシアプレートと南側のフィリピン海プレート境界(狭まる境界)に位置しています。
南海トラフは水深が浅いだけで海溝と同様に海溝型地震が発生しやすい場所です。
近年では100-200年周期で巨大地震(南海地震、東南海地震、東海地震)が発生しており、次の巨大地震への警戒が行われています。

弧状列島(島弧)

南西諸島(鹿児島~沖縄)と琉球海溝(南西諸島海溝)周辺の海底地形図。赤三角は活火山、水色の線は海溝の位置を示し、海洋上の黒い線は水深の等高線である。琉球海溝は北西側のユーラシアプレートの下に南東側のフィリピン海プレートが潜り込む沈み込み帯に位置している。海溝の大陸側には、海溝と並行するように弧状列島(島弧)である南西諸島が位置しており、複数の火山や火山島が点在している。さらに大陸側を見ると、中国沿岸部から沖縄トラフの手前までは浅い海が続き、広大な大陸棚を形成している。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©Matt.chw, CC BY-SA 4.0, 2024/8/24閲覧

弧状列島(こじょうれっとう)または島弧(とうこ)とは、狭まる境界(海溝)の大陸プレート側に円弧を描くように点在する島々です。

狭まる境界では、プレート境界の大陸側に円弧状に火山が形成されます。
プレート境界が大陸から離れた場所にあると、火山が海洋上(大陸の沖合)にできるため、各火山は噴火を繰り返して火山島を形成します。
これらの火山島はプレート境界(海溝)に沿って円弧状に点在するため、弧状列島(島弧)とよばれます。

弧状列島は、海底からそびえ立つ巨大山脈の頂上付近が島となって海面から顔を出し、それが連なっているという見方もできます。
このため、弧状列島のライン上は島になっていない場所でも周辺と比べて水深が浅くなっています。
なお、プレート境界が大陸から近い場合には火山が大陸上に位置するため、大陸上で山脈が形成されます。

弧状列島は主に太平洋の北側から西側にかけて分布しており、特に日本周辺で非常に多く存在しています。
環太平洋造山帯西部(アジア・オセアニア側)には多数の火山島が存在していますが、これらの島々は弧状列島を形成しています。

主な弧状列島と海溝の組み合わせを以下にまとめます。

世界の主な弧状列島(島弧)と海溝・トラフ
アリューシャン列島(米国アラスカ州):南側にアリューシャン海溝が並行(北側のユーラシアプレートの下に南側の太平洋プレートが沈み込み)
千島列島(ロシア・カムチャツカ半島先端部~北海道):南東側に千島海溝(千島・カムチャツカ海溝)が並行(北側のユーラシアプレートの下に南側の太平洋プレートが沈み込み)
日本列島(北海道~関東):東側に日本海溝が並行(西側の北アメリカプレートの下に東側の太平洋プレートが沈み込み)
日本列島(関東~四国):南側に南海トラフが並行(北側のユーラシアプレートの下に南側のフィリピン海プレートが沈み込み)
南西諸島(鹿児島~沖縄):南東側に琉球海溝(南西諸島海溝)が並行(北西側のユーラシアプレートの下に南東側のフィリピン海プレートが沈み込み)
伊豆諸島小笠原諸島:東側に伊豆・小笠原海溝が並行(西側のフィリピン海プレートの下に東側の太平洋プレートが沈み込み)
マリアナ諸島(米領北マリアナ諸島~グアム):東側にマリアナ海溝が並行(西側のフィリピン海プレートの下に東側の太平洋プレートが沈み込み)
フィリピン諸島:東側にフィリピン海溝が並行(西側のユーラシアプレートの下に東側のフィリピン海プレートが沈み込み)
西インド諸島東部(小アンティル諸島):北側にプエルトリコ海溝が並行(南西側のカリブプレートの下に北東側の北/南アメリカプレートが沈み込み)

火山弧・火山フロント(火山前線)

沈み込み帯(狭まる境界)の大陸側には火山が弧を描くように並びます。

火山弧とは、沈み込み帯(狭まる境界)の大陸側で弧を描くように火山が分布している場所一帯のことです。
これらの火山はプレート境界(海溝)に並行するように並んでいます。
狭まる境界の大陸側に火山が並ぶ理由は、海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込んだ後に高温高圧環境下で岩石が融解してマグマになり、そのマグマの一部が絞り出されるように吹き出して噴出するためです。

火山フロント(火山前線)とは、火山弧において最も海溝側の火山を結んだ火山弧のプレート境界側の境界線です。
火山弧はある程度幅をもった辺り一帯のことを指しますが、火山フロントは火山弧の中でも海溝に最も近い場所を結んだ(火山弧とそれ以外の場所の)境界線です。
火山はプレート境界(海溝)から近い場所にはほとんど存在せず、海溝から一定の距離まで離れると急に火山が増え、さらに海溝から離れると次第に火山の数が少なくなります。
海溝側から見ると、一定の距離の場所に火山が横一線に並ぶように見えるため、海溝に最も近い場所の火山を結んだ線を火山フロント(火山前線)とよびます。

火山フロントは火山弧の中でも特に火山が多い場所です。
火山フロントより海溝側には火山がほとんど存在せず、反対側では火山フロントから離れるにしたがって火山の数が少なくなっていきます。

火山の位置の違い

プレート境界(海溝)と大陸との距離によって、火山弧(火山フロント)の位置が大陸上または海洋上に位置します。

火山の分布(南アメリカ大陸周辺拡大)。南アメリカ大陸の西海岸には、海岸線に並行するようにアンデス山脈が位置し、多数の火山が分布する。南アメリカ大陸西海岸の沖合には西側のナスカプレート(海洋プレート)が東側の南アメリカプレート(大陸プレート)の下に潜り込む沈み込み帯(狭まる境界)が存在する。沈み込み帯が大陸に近いため、沈み込み帯から上昇してきたマグマが噴出する活火山が大陸上に分布し、噴火を繰り返すことでアンデス山脈のような大規模な山脈が形成された。火山が弧を描くように分布していることから火山弧という。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©Eric Gaba, CC BY-SA 2.5, 2024/8/27閲覧

プレート境界が大陸から近いと火山弧が大陸上に位置します。
このような場所では、大陸の海岸線に沿うように多数の火山が分布する山脈が走っています。

一例として、南米のアンデス山脈があります。
南アメリカ大陸西海岸の沖合には、西側のナスカプレート(海洋プレート)が東側の南アメリカプレート(大陸プレート)の下に潜り込む沈み込み帯(狭まる境界)が存在します(ペルー・チリ海溝)。
このプレート境界は大陸から近い位置にあるため、南アメリカ大陸の西海岸にはプレート境界に並行するようにアンデス山脈が走り、多数の活火山が分布しています。

他に大陸上に火山弧が並ぶ例としては、北米西海岸のカスケード山脈(米国西部・カリフォルニア州北部~カナダ西部・ブリティッシュコロンビア州)があります。

火山の分布(アリューシャン列島・千島列島周辺拡大)。北太平洋~西太平洋の大陸沿岸には、多数の火山が分布する半島や島々が見られる。火山は太平洋プレート(海洋プレート)と大陸プレートの境界の大陸側に位置し、火山が噴火を繰り返すことで多数の火山島が弧を描くように点在する弧状列島(島弧)形成された。火山は弧状列島だけではなくその延長線上に位置する半島(アラスカ半島やカムチャツカ半島)にも伸びており、火山が弧を描くように分布していることから火山弧という。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©Eric Gaba, CC BY-SA 2.5, 2024/8/27閲覧

一方、プレート境界が大陸から離れた位置にあると、火山弧が大陸沖合の海洋上に位置します。
このような場所では、プレート境界に沿うように火山島が分布します。

一例として、アリューシャン列島(米国アラスカ州南西部)があります。
アリューシャン列島は、南側の太平洋プレート(海洋プレート)が北側の北アメリカプレート(大陸プレート)の下に潜り込む沈み込み帯(狭まる境界)が存在します(アリューシャン海溝)。
このプレート境界は大陸から離れているため、すぐ北側の海洋上に多数の火山島が弧を描くように並びんでいます。
この島々がアリューシャン列島です。
このようにプレート境界の大陸側に並ぶ島々を弧状列島(島弧)とよびます。

アリューシャン列島の場合、弧状列島は大陸に向かって伸びており、弧状列島の延長線上にある半島であるアラスカ半島(米国・アラスカ州南西部)にも多数の火山が分布します。
同様の例として、弧状列島である千島列島(ロシア・カムチャツカ半島先端部~北海道東部)とその延長線上に立地するカムチャツカ半島があります。

また、弧状列島であるアリューシャン列島によって太平洋から切り離された北側の海域がベーリング海です。
ベーリング海のように列島や半島によって大洋(この場合は太平洋)から部分的に切り離された海を縁海(えんかい)といいます。

弧状列島に火山が多数並ぶ例としては、日本列島、フィリピン諸島、マリアナ諸島(米国北マリアナ諸島~グアム)、西インド諸島東部(小アンティル諸島)トンガ諸島(オセアニア・トンガ)などがあります。

参考文献

地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
Convergent boundary, Wikipedia 2024/8/28閲覧
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高橋 雅紀「東西日本の地質学的境界【第七話】 火山フロントのずれ」GSJ 地質ニュース 6 (5), p149-157 (2017)
火山前線(カザンゼンセン)とは? コトバンク デジタル大辞泉、精選版 日本国語大辞典 2024/9/7閲覧

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