気候 系統地理

恒常風のしくみ(貿易風・偏西風・極偏東風)

ある地域で一定期間に同じ方向に吹く頻度が最も多い風を卓越風といいます。
卓越風には、恒常風、季節風(モンスーン)、熱帯低気圧、局地風(地方風)などがあります。

ここでは、大気の大循環によって引きおこされる、年間通して一定方向に風が吹く恒常風について解説します。

恒常風

年間通して決まった方向に吹く風を恒常風(こうじょうふう)といいます。

恒常風は大気の大循環によって引きおこされます。
恒常風は大気の循環によって地表を南北に吹く風ですが、真北から真南(やその逆)に吹くのではなく、東西に曲がりながら吹きます。

地表では高気圧から低気圧に向かって風が吹きます(上空では低気圧から高気圧に向かって風が吹きます)。
しかし、風は高気圧から低気圧に向かってまっすぐ吹くのではなく、地球の自転の影響をうけて曲がります。

南北に吹く風が曲がる方向は、地球の自転と南北の温度差によって決まります。
地球の自転が風の方向を曲げる力を転向力(コリオリの力)といいます。
具体的にはたらく力については、以下で説明します。

貿易風

地球上の偏西風と貿易風の分布。青色が偏西風、黄色が北東貿易風、茶色が南東貿易風である。出典を加工して作成。 出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/1/23閲覧

亜熱帯高圧帯から赤道に向けて吹く風を貿易風といいます。
貿易風はその名の通り、蒸気船登場前の風で動く帆船の時代にインド洋の交易に使われていました。

赤道付近の熱帯収束帯から亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)にかけては南北の温度差が少ないため、貿易風は地球の自転の影響を大きくうけます。
南北の温度差が少ない理由は、北回帰線と南回帰線の間であり、季節によっては太陽が自分の真上に来る場所だからです。

地球は西から東に自転するため、地球上にいると見かけ上は太陽が東から西に動くように見えます。
地表の空気も単にその場に留まっているだけで、東から西に風が移動しているように見えます(=東から西に風が吹くように感じます)。

このため、亜熱帯高圧帯から赤道に吹く貿易風には西向きに力がはたらきます。
北半球では北東から南西に風が吹くため北東貿易風といい、南半球では南東から北西に向かって風が吹くため南東貿易風といいます。

貿易風は太平洋東部のように開けた海洋では一年中一定方向に吹きますが、陸地が近いインド洋北部や太平洋西部では季節風(モンスーン)によって乱されます。
インド洋では季節風の影響で(恒常風に分類されるが局所的に)季節変動があるため、船の往路と復路を別の季節にすることで帆船での航海に利用していました。

偏西風

亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)から亜寒帯低圧帯(高緯度低圧帯)にかけて吹く風を偏西風といいます。
偏西風はその名の通り、西から東に向けて吹く風です。

中緯度の亜熱帯高圧帯から高緯度の亜寒帯低圧帯にかけては、南北の温度差と地球の自転の両方の影響をうけます。

緯度30°から60°にかけての地表では、北向きに空気が移動しようとします。
暖かい空気をもち気圧の高い亜熱帯高圧帯から、冷たい空気をもった気圧の低い亜寒帯低圧帯に向かって流れるためです。
この際、北向きの風は東向きに曲がります。

東向きに曲がる理由は、緯度による地球の自転速度の違いにあります。
地球は西から東に自転し、赤道でも北極・南極でも一日で一周しますが、一周の距離は赤道では4万キロメートルに対し、北極や南極では0に近い距離になります。
その結果、赤道付近は地表の回転速度が速く高緯度地域では地表の回転速度が遅くなります。

亜熱帯高圧帯から北向きに吹く偏西風は、地表の回転速度がより遅い高緯度地域に向けて吹くため、見かけ上地表より速い速度で西から東に移動(=回転)しているようにみえます。
このため、偏西風は北半球では南西から北東に向けて吹くようにみえ、南半球では北西から南東に向けて吹くようにみえます。

ここで、真南から真北に吹く風は、その緯度の地球の自転速度と同じ速度で東に動いていることに注意してください。
北半球では、真南から真北に吹く風は、実際には緯度が高くなるに従って地球の自転速度に合わせて徐々に風速が遅くなっています。
地球の自転速度よりも早いと東に流され、自転速度よりも遅いと西に流されます。

山脈に遮られる陸地よりも遮るものがない海洋のほうが偏西風は強くなります。
このため、偏西風の影響は大陸西岸(西ヨーロッパ、アメリカ西海岸など)で強くなります。

たとえば西ヨーロッパ(ユーラシア大陸西岸)は、偏西風と暖流の北大西洋海流の影響で高緯度にも関わらず温暖な気候です。

クリッパールート

19世紀のクリッパー船(快速帆船)。南半球の偏西風を利用してイギリスとアジア・オーストラリア間の交易に利用された。 出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2021/1/23閲覧

南半球では、風を遮る陸地がない南緯40以南に偏西風が吹くため非常に強い風になります。
この緯度帯には「吠える40度」など緯度ごとに俗称がつけられています。
蒸気船登場前の帆船時代には、南緯40°付近の偏西風を利用してヨーロッパと東南アジア・オセアニア間の交易に利用され、クリッパールートとよばれています。

ジェット気流

ジェット気流の概略図。ジェット気流は寒帯や亜熱帯で、蛇行しながら地球を取り巻いて吹いている。 出典:Wikimedia Commons, by Lyndon State College Meteorology, Public domain, 2021/1/23閲覧

偏西風は上空ほど風が強く上空11 km付近の対流圏界面で最大になり、ジェット気流とよばれます。

ジェット気流は強い東風のため、西から東に向かう航空機はジェット気流を利用して燃料と時間を節約することができます。
反対に東から西に向かう場合は、ジェット気流を回避するようなルートをとります。
ジェット気流は季節変動があるため、季節によって航空機の所要時間が変わることも多いです。

たとえば、2021年1月の日本航空の時刻表では、東京(成田)からホノルルはジェット気流が追い風になり6時間40分で到着するのに対し、ジェット気流に逆らうホノルルから東京へは9時間30分から10時間を要しています。

参考

太平洋戦争では、日本はジェット気流を利用して風船爆弾でアメリカ本土を攻撃しています。
風船爆弾は最も遠くでは五大湖沿岸のデトロイト(米ミシガン州)まで到達し、西海岸のオレゴン州では民間人が死亡しています。

極偏東風(極東風)

地球の断面図と大気大循環の模式図。円の内側の矢印は地表の風の向きであり、円の外側の矢印は地表と上空の大気の循環を示している。 出典:Wikimedia Commons, CC BY-SA 1.0, 2021/1/22閲覧

北極や南極の極高圧帯から亜寒帯低圧帯(高緯度低圧帯)に向けて吹く風を極偏東風といいます。

極偏東風は、地表の回転速度がより速い低緯度地域に向けて吹くため、見かけ上地表より遅い速度で西から東に移動(=回転)しているようにみえます。
このため、北半球では極偏東風は北東から南西に向けて吹くようにみえ、南半球では南東から北西に向けて吹くようにみえます。

参考文献

卓越風とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/23閲覧
偏西風(へんせいふう)、偏東風(へんとうふう)って何? 気象庁 はれるんランド 2021/1/23閲覧
貿易風とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、百科事典マイペディアの解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/23閲覧
偏西風とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/23閲覧
なぜ偏西風は西から東に吹くの? 気象予報士ゴンちゃんのお天気とマラソンと・・ 2021/1/23閲覧
貿易風と偏西風とコリオリの理屈 MIN6 2021/1/23閲覧
Clipper route Wikipedia 2021/1/7閲覧
圏界面とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 2021/1/23閲覧
ジェット気流 ウィキペディア 2021/1/23閲覧
風船爆弾 ウィキペディア 2021/1/23閲覧
極偏東風とは コトバンク デジタル大辞泉の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/23閲覧

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