分析・考察

「フルリモートで住みたい1位は関東」は本当?

2022年8月14日

コロナ禍で在宅勤務の機会が増えると地方移住が進むと言われていますが、実際にはどうでしょうか。
今回はほぼ全員がフルリモートで勤務している会社が社員に「移住したいエリア」のアンケートを実施した結果を考察していきます。

「フルリモート・住む場所自由」でも、住みたい1位は関東。完全在宅で働く社員の本音(横山耕太郎  2022年8月10日)

この記事では、社員の移住したいエリア1位が関東(27.6%)であることから「地方移住を希望している人が、特段多くはない」と解釈しています。
しかし、わかる範囲でデータを考察すると違った結論が見えてきます。

・この会社は地方への移住希望者が多い

・社員は関東に集中しているが、近場よりもむしろ遠方(北海道・四国・九州・沖縄)へ移住希望者が多い

課題設定

今回は「地方移住を希望している人が、特段多くはない」と言えるのかについて考えていきます。
この記事では親切にもアンケート結果の数値を記載しているので、この数字を使って考察してきます。

まずこの記事を読んで思ったことは、単に関東居住者が多いから関東内の移住希望者が多くなるだけではということです。

自分の住んでいる地域から遠い地域のことをよく知らないので、移住するにしても聞いたこと・行ったことがある場所に移住するはずです。
そのため、関東在住者にアンケートをとったら必然的に移住先に近場(=関東)を選ぶ人が増えるはずです。
日本在住の日本人に海外移住したいかアンケートを取れば、移住希望者が過半数を上回ることはないでしょう。
同様に北海道在住者、石垣市(石垣島)在住者に道外・市外(島外)へ移住したいかと聞けば、移住希望者の方が多いということはまずおきないはずです。

そこで、実際のデータを確認してみます。

記事では「社員の約4割は関東在住」で移住先に関東を希望する人は27.6%です。
この数字だけを見ると、関東在住者よりも、関東を移住先に選ぶ人が少ないので、むしろ関東が選ばれていないようにも見えます。

しかし、選択肢には「移住しない」が23.3%あり、関東移住希望者と合わせると約5割になります。
もちろん、移住しない人の全員が関東在住ではないはずです。
移住しない人の中での関東在住者の内訳はわからないので、社員の比率と同じと仮定すると23.3%の4割(関東在住社員比率)は9.32%です。

そこで関東移住希望者+移住しない人(関東在住)は23.3%+9.3%=32.6%となります。
この結果を見る限りでは、むしろ居住者が多いわりに関東に住みたい人が少ないような気がします。

他の地域についても確認したいところですが、社員の居住地域の比率に関しては「関東が約4割」以外の情報がありません。
そこで、人口比を代用します。
日本における関東の人口比35%に対して、関東在住社員の比率約4割なので、人口比で見ると比率が同等~若干少なめになります。
この点に注意しながら、「各地域の移住希望者の比率が人口比と比べて同じ」であるかどうかを確かめます。

データの俯瞰と統計検定

まず、データを表にまとめました。
回答者総数442人に回答比率をかけて各選択肢の回答者数を算出し、人口はウィキペディアの各地方のページから2022/7/1時点の推計人口を取得しました(北海道のみ6/30時点の住民基本台帳人口)。
複数回答可なので、回答者数の合計(647)は442人を上回ります(1.5倍)。
また、人口比と回答比率が等しいという帰無仮説で母比率の検定を実施しました(有意水準5%の両側検定)。

選択肢(地方)回答者数(人)回答比率人口(万人)人口比p値検定結果
北海道439.7%5164.1%0.000人口比より移住希望者が多い
東北173.8%8446.7%0.007人口比より移住希望者が少ない
関東12227.6%4,35634.7%0.001人口比より移住希望者が少ない
中部419.3%2,26618.1%0.000人口比より移住希望者が少ない
近畿5612.7%2,21217.6%0.003人口比より移住希望者が少ない
中国173.8%7145.7%0.042有意差なし
四国337.5%3632.9%0.000人口比より移住希望者が多い
九州7717.4%1,1188.9%0.000人口比より移住希望者が多い
沖縄8819.9%1461.2%0.000人口比より移住希望者が多い
海外4510.2%------------
その他51.1%------------
移住しない10323.3%------------

東北・関東・中部・近畿で人口のわりに移住希望者が少なく、
北海道・四国・九州・沖縄で移住希望者が多いという結果になりました。

ここで問題が生じるのは、複数回答可なのに人口(重複カウントなし)と比較していいのかということです。
これに関しては、移住希望者比率が人口比よりも「少ない場合」と「1.5倍以上多い場合」については信じても良さそうです(合計回答数は回答者数の約1.5倍なので)。

人口が集中しているのは関東~近畿なのですが人口比で見た移住希望者は少なく、そこから外れた日本の両端への移住希望者がかなり多いようです。
この会社の関東在住比率は人口比よりも多いので大都市圏に集中していると考えられます。
にもかかわらず、北海道や四国・九州・沖縄の移住希望者が多いので案外遠方の地方へ移住希望者が多そうです。

ここまでは個別の地方ごとに見ていきましたが、「地方移住」を希望している人の割合について考えていきます。
「地方」の定義はあいまいですが、東京から大阪への移住を「地方移住」とよぶのは一般的ではないので、ここでは関東と近畿以外への移住と考えます。
関東でも日光(栃木)や房総半島の館山(千葉)などは「地方」と言って良いような気がしますが、アンケートの項目が地方別なので今回は地方別にくくりました。

選択肢(地方)回答者数(人)回答比率人口(万人)人口比p値検定結果
関東+近畿17840.3%656852.40.000人口比より移住希望者が少ない
関東+近畿+移住しない28163.6%656852.40.000人口比より移住希望者が多い
地方(上記以外国内)31671.4%596947.60.000人口比より移住希望者が多い

この結果を見ると関東と近畿への移住希望者は人口比で見ると少なく、地方への移住希望者が多い結果になりました。
関東+近畿にさらに移住しない人を加えると人口比よりも多くなりますが、移住しない人の中にも地方在住者(=関東に住み続けたいわけではない)がいるはずです。
しかし、アンケートを回答した社員の居住地の情報がわからないので、関東+近畿でも人口比より多いとは言えません。
これ以上の考察には、アンケートに回答した社員の居住地の情報が必要です。

記事に載っている情報だけで考察を続けます。

絶対的な比率で見ても回答者の7割が地方移住を希望しています。
しかし、この中には一人の人が複数の地方を希望した数も含まれています。

平均すると1.5項目を選んでいることを考慮すると、
71.4%/1.5 = 47.6%
となり、人口比とほぼ同じ比率の社員が地方移住を希望していることになります。

この会社は関東在住者が多いため、人口比と同等かそれ以上に地方移住したい人が多いと解釈できます。

結論

・この会社は地方への移住希望者が多い

・社員は関東に集中しているが、近場よりもむしろ遠方(北海道・四国・九州・沖縄)へ移住希望者が多い

単に移住先に「関東」を答えた人が多いからといって、地方移住を希望している人が少ないとは言えません。
見かけの比率の大小は「地方」をどこまで分割するかによって、いくらでも操作できます。
今回は「地方」の切り分け方に依存しない尺度として「人口」を利用することで、その地方への移住希望者の大小を調べました。

今回はあくまで記事からわかるデータのみでの考察でしたが、アンケートに回答した社員の現在の居住地がわかるとより詳細な考察をすることができます。

参考文献

横山耕太郎『「フルリモート・住む場所自由」でも、住みたい1位は関東。完全在宅で働く社員の本音』 Business Insider Japan 2022/8/13閲覧
【Python】母比率の検定 Ninth Code 2022/8/13閲覧

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